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吃音症がVtuberで何が悪い!!!  作者: 木山碧人
第三章 大日本帝国

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第51話 みやびフェス東京⑤


 東京都。千代田区。江戸城本丸跡。壱番ステージ地下。


 将軍家の逃走用の隠し通路。地中をくり抜いたような場所。


 その天井にあるのは3Dホログラムを投影する巨大ディスプレイ。


 配線が壁沿いに垂れ下がり、小型発電機やモニターに接続されている。


 外の雨足が強まる中、ライブは順調に進行していき、終盤に差し掛かっていた。


「ど、同接600万人……。登録者数、きゅ、900万人……っ」


 アザミの目の前には、ライブ配信を映すモニター。


 そこに表示された異常な数値に、体が自ずと震えてしまう。


 それは鬼龍院みやびの引退配信や、今までのライブを軽く超えていた。


『ナナコが死んだおかげ、じゃろうな……』


 地面に置かれた青銅色の鏡。


 その中に閉じ込められたツバキは呟く。


 登録者数が1000万人に到達すれば、鏡から出られる。


 目標達成はもうすぐなのに、ツバキの声色はすごく悲しそうだった。


「か、彼女とどういう関係だったんですか?」


 二人の間に何があったのかは知らない。


 知っているのは、彼女の死を看取ったのはツバキということだけ。


『聞いてどうする。お主は、ライブに集中せえ』


 しかし、返ってきたのは正論だった。


 確かに、今は過去を気にしてる場合じゃない。


 彼女が望んでいた世界を創るためにも、未来に進まないと。


「……?」


 すると、ツバキの真横に置いていた携帯の着信音が鳴る。


 すぐに携帯を手に取り、確認すると、そこには音楽ファイルが添付されていた。


「き、キクさん……っ! こ、この曲があれば、い、1000万人も、夢じゃない!」


 届いたのは、切り札。中身を確認するまでもない。


 みやびフェスを締めくくるには、きっとこれ以上ない曲だ。


『そうすんなりいくといいが……』


 一方、ツバキは楽観視しないタイプなのか、不穏な一言をこぼしている。


(ここまでずっと妨害されてきたんだ。今日ぐらい何も起きないで、お願い)


 だけど、それを振り払うように、アザミは願う。


 無事に、何事もなく、ライブフェスが成功することを。


「神宮さん、少し、よろしいですか?」


 そこに駆け込んできたのは、セミロングヘアの水色髪の鬼。


 黒のTシャツとズボンに透明なレインコートを着たスタッフだった。 


 地上まで出ていたのか、髪とレインコートは雨でびちゃびちゃに濡れている。


「な、なんです?」


 嫌な予感しかしないけど、話を聞かないわけにもいかない。


 スタッフが立っている人気のない舞台袖の方へ駆け寄り、尋ねる。


「……ライブは一時中止した方がいいかもしれません。雨が強すぎます」


 返ってきたのは、案の定、悪い知らせだった。


 ただ、想定できる範囲のもの。まだ慌てる時間じゃない。


「あ、雨が弱まれば再開できるんですよね?」


 彼女が言ったのは、中止じゃなく、一時中止。


 その提案を前向きに受け止めつつ、議論を進めた。


「はい。素直に弱まってくれれば、ですが……」


 そこまで言われて気付く。


 中止の可能性も十分あることに。


「さ、三十分様子を見ましょう。か、観客には、何か温まるものを」


 でも、今は観客の安全が最優先。


 無理して聞いてもらっても、心には届かない。


 ここは様子を見る。無理なら、中止も視野に入れるしかなさそうだ。


「そう、伝えます」


 やり取りはそこで終わり、スタッフはすぐさま去っていった。


(今度は雨、か。つくづく運がないな、わたしって……)


 アザミは不運を嘆きつつ、他にやるべきことを考える。


 そこで目に入ったのは、手元にある携帯の画面に表示されたもの。


(でも、完成した楽曲を聞き込む時間ができた。そう考えたら、まだいいかも)


 すぐにネガティブな考えを切り替え、キクから送られてきた曲を再生した。


 ◇◇◇


 東京都。千代田区。内閣総理大臣官邸。二階。会議室。


 白い長テーブルに、複数の背もたれが直立した椅子が置かれた部屋。


「……」


 北側は一面ガラス張りの窓。江戸城跡方面を一望できる。


 窓の手前に立つのは険しい顔を作る黒スーツ姿の男。千葉一鉄。


 左手には杖、右手には赤い水晶が握られ、ぶつぶつと呪文を唱えている。


「私の予想を超えてみろ。超えられる、ものならなぁ」


 唱え終わったのか一鉄は天を見上げ、力強くそう言い放つ。


 すると、水晶は赤く光り出し、窓に打ち付ける雨は強まっていった。


 ◇◇◇


 東京メトロ東西線。竹橋駅。ホーム。


 地下に作られた構内に、二車線の線路がある。


 江戸城本丸跡から、約1キロメートルほど離れた場所。


「ここで、鬼の出入りがあったってのはマジ?」


 狭いホームの端。空調装置の隣にある白い壁。

 

 そこで、緑のレインコート姿の霧生卓郎が問いかける。


 周りには、数十人規模の白いレインコートを着た警官たちがいた。


「間違いありません。数分前、本官がこの目で確認したのであります」


 一人の精悍な顔立ちの警官が淀みない動きで敬礼し、答える。


 真面目で正義感が強い人間が、そのまま警官になったような男。


 この手の輩は例外なく使い勝手がいい。警官Bと呼ぶことにしよう。


「報告ごくろうさん。……俺の予想じゃ、ここに鬼の巣と『ヤツ』がいる」


 事前情報を周知の事実にしたことで、周りの警官どもの顔つきが変わる。

 

 本気で犯人を拘束する時に見せるような真剣な表情。マジモードってやつだ。


「またまたぁ、そんなわけないでしょ。ここ公共施設だよ?」

 

 ただ、その中で一人、反論する者がいた。


 こいつは警官A。皇居周辺にいた鈍い警官だ。


「空調設備のせいでここは死角になってる。可能性はありのよりのありだから」


 構う時間すら惜しいが、この衆目の下で雑には扱えない。


 できるだけ簡潔に、かつ、納得できる理由を教えてやった。


「なしのよりのなしでしょ~。こんなのただの壁に決まって――」


 すると、警官Aは馬鹿にしたように、壁を強く二度叩く。


 それが、起動する鍵だったのか、壁は回転し、警官Aは消えた。


「「「…………っ!!?」」」


 警官たちのはっと息を吞むような音が聞こえる。


 雨か、冷や汗か、背中にすぅっと冷たいものが伝っていく。


「ビンゴ……。見ての通りだから、全員死ぬ気でついてきなね」


 興味と不安がごちゃまぜになったような感覚だった。


 ただ、進むしかない。霧生はそう言い放ち、二番手を買って出た。

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