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吃音症がVtuberで何が悪い!!!  作者: 木山碧人
第三章 大日本帝国

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第48話 みやびフェス東京②


 東京都。千代田区。帝国武道館。参番ステージ。


 屋根付きのスタジアム。八角形状に展開する座席は満員。


 中央には特設ステージ。ステージ上では、バーチャルアイドルが歌って踊る。


「……実体のないアイドルに公職選挙法は関係ないってか」


 熱狂するファンをよそに、冷めた目で見つめるのは金髪の男。


 細身の白いシャツと、黒のスリムパンツを着た元衆議院議長――霧生卓郎。


『いいか、次の選挙は必ず勝てぇ。面倒なやつが来る』


 総理の声が、頭にこだまする。


「分かってますよ、総理。映像の出所を押さえたら、こっちの勝ち、なんでね」


 まだ何も終わってはいないし、まだ何も始まってもいない。


 霧生は静かに席を立ち、携帯を取り出し、一本の電話をかけた。


 ◇◇◇


 東京都。千代田区。白教大聖堂。至聖所。


 正面にある絵画扉の奥。狭い空間の中には祭壇と白鳥。


 金の燭台のろうそくには火が灯り、照らされるのは修道服の女性。


「……さて、お出番のようね」


 軽く息を吹き、ろうそくの火を消すのはシスターユリア。


 祭壇の中心に神々しく飾られる白鳥を手に取り、背を向ける。


「聖を以て邪を滅し、徳を以て怨みに報いる。

 我、この理に殉じ、神罰の代行者とならん」


 一羽の白鳥。それは、白教が所有する聖遺物レリック

 

 異能の力を秘めた、動物型の物体。詠唱により、真の力を開放する。


「…………」


 現れたのは全身を覆う白の鎧。背には白と黒の翼が備わっている。


 意思の力による聖遺物レリックとの融合。


 人の域から外れた存在は、雨が降りしきる大聖堂の外で、翼をはためかせた。


 ◇◇◇


 東京都。千代田区。白教大聖堂。地下牢内。


「ジェノ、しゃがめ!」


 ラウラの男勝りな声が響き、青藍色の爪が空を薙ぐ。


 間髪入れず放たれた容赦ない一撃。ジェノはそれを屈んで避ける。


「――ちっ!」

 

 悔しがるような声をあげたのは、一心。


 その手には刀。振るわれかけた刃をラウラの爪が止めていた。


(気配にまるで気付けなかった……。ラウラがカバーしてくれなかったら今頃)


 目の前の戦いで手一杯で、視野が狭くなっていた。


 威勢よく言ったけど、やっぱりまだラウラには遠く及ばない。


(いや、それより――)


 ただ、足りない実力を嘆くよりも、他にしないといけないことがあった。


「どうして、一心さんっ!」


 気になるのは、刃を向けてきた相手。


 広島と大阪を共に旅をした、かつての仲間のことだった。


「よそ見かい?」


 でも、返ってくるのは、拳。


 赤髪リーゼントの鬼が背後から放ったもの。


「このっ!」 

 

 単純な力比べは、小さい方が分が悪い。


 そして、相手は2メートルは超えている。


 普通なら相手にならない。― ―だけど。


「アンタ、小さい割にやるねぇ」


 センスとセンス。黒と銀の光がぶつかり合う。


 小さな拳は、一回り大きな拳と、確かに拮抗していた。


 意思の力が強ければ、体格差は不利にならない。差は埋められる。


「説得する暇なんてねぇぞ!」


「分かってる、分かってるけど……」


 背後からは剣戟音と、叱咤するラウラの声。 


 状況は理解できるけど、まだ諦めたくなかった。


「いいか、坊主。一つ、良いことを教えといてやろう」


 そこに聞こえてきたのは、一心の声。


 反応してくれるなら、まだ可能性があるのかもしれない。


「俺たちはただの囮だ。急がないと、取り返しのつかないことが起こるぞ」


 しかし、返ってきたのは、敵対を余儀なくされる説明。


(戦うしか、ないのか……っ)


 奥歯を噛みしめながら、ジェノは拳を弾き、目の前の敵に意識を割いた。


 ◇◇◇


 東京都。千代田区。江戸城本丸跡。壱番ステージ地下。

 

 洞窟のような丸い空洞。その中央には、四角い緑色のマット。


 真上にあるステージに、歌と踊りをVtuberとして提供するための舞台。


「掴みはバッチリ、か。いい感じに社長の遺伝子引き継いでるね~」


 一曲目が終わり、拳を突き出すのは桃色髪の小柄な鬼。桃瀬桃子。


 全身黒のモーションキャプチャースーツを着ていて、次の出番は彼女。


「い、いえ、まだ遠く及びませんよ」


 遠慮気味に拳を突き合わせるのは、同じスーツを着たアザミだった。


 その周りには、スタッフやライバーたち。カメラや機材が所狭しと並んでいる。


「お見事」

「すごかったです!」

「社長の生き写しかと思いましたよ」

「神宮ちゃんがうちの事務所に来てくれてよかったー」


 褒めてくれるのは、全員鬼。人は一人もいない。

 

 これは、鬼を受け入れられる世界にするためのライブ。


 現在進行形で夢が現実に進んでいる感じがして、気分がよかった。


「ま、まだ、油断はできません。き、気を引き締めていきましょう!」


 だけど、ライブが終わるまで一切、気は抜けない。


 絶対にやり遂げるんだ。参番ステージから一緒に成り上がった鬼たち共に。

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