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吃音症がVtuberで何が悪い!!!  作者: 木山碧人
第三章 大日本帝国

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第45話 収監


 東京都某所。地下牢。


 切れかけた電球が、かすかに辺りを照らす。


 鉄格子で仕切られた室内には洋式のトイレと鉄製のベッドがある。


「……っ」


 そこに放り込まれたのは、アザミだった。


 冷たい地面に顔を打ちつけ、その衝撃で目が覚める。

 

(ここ、は……)


 すぐに辺りを見て、事態を把握する。


 あの後、気絶させられて、捕まったんだ。


「……あの鬼に、閻衆に感謝することだ。お前は生かされている」


 背後からガチャンと冷たい音と、聞き覚えのある声が響く。


 千葉一心。恐らく、同じ師の下で、北辰流を叩き込まれた弟子。

 

「……ど、どうして、こんなことを」


 振り返り、鉄格子の外にいる一心に問いかける。


 その表情は暗く、眉根を寄せていて、目は血走っている。


 父親。千葉一鉄の面影が頭に浮かぶ。怒った時の顔とよく似ていた。


「教えてやるものか。俺の味わった屈辱は、俺にしか理解できない」

 

 唸るような低い声で彼はそう言うと、視線を切って去ろうとしている。


「ま、待って、ください……。あ、明日は大事な、ライブが……」


 彼の事情は分からないし、聞いてもどうせ答えてくれない。


 だったら、駄目元でも、こちらの事情を伝えてみるしかなかった。


「知ったことか! お前は二度とここから出られることはない!」


 返ってきたのは罵倒と、鉄格子を叩く音。


 予想通りの反応。怖いけど、今はまだ我慢できた。


(刀も携帯も没収されちゃったけど、わたしにはリンカーがある)


 右手には黒い腕輪。外部と連絡できる希望の装置があるからだ。


 ◇◇◇


 東京都。千代田区。喫茶店。


 カウンター内には、老年の店員が一人。


 店員はテーブルに三つのアイスコーヒーを置いていく。


「それで、新宿警察署の警部殿が僕になんの用ですん?」


 カウンターのみの店内。その左端の席に座るのは金髪の男。


 黒スーツを着こなし、ホストにいそうな見た目の青年、霧生卓郎。


「あなたには、千代田区の立候補者誘拐に関与した嫌疑がかけられています」


 霧生が座る席の隣には、警察手帳を開いている警部。


 ネイビーブルーのシャツに紺のスカートの婦人警官服を着た女性。


 長い紫髪を後ろで編んでいる、滅葬志士であるはずの彼女の名は、臥龍岡アミ。


「何か知ってることを話してくれませんか!」


 そして、その隣には、ぶかぶかの警官服を着たジェノが座り、強く頼み込む。


「えー嫌だなぁ。嫌疑ってことは、証拠不十分。任意聴取っしょ?」


 ただ、反応はすこぶる悪い。


 しかも、的確に痛いところをついてくる。


「ええ。確かに、黙秘権があなたにはございます。――ですが」


「公職選挙法違反。それを暴露できる証拠と権利がこっちにはあります!」


 でも、予想通り。その対策はきちんと用意していた。


 犯人でも、犯人じゃなくとも、協力させる、強力な手札を。


「……はぁ? いやいや、俺はちゃんと法に基づいて選挙活動を――」


 一方、目を丸くしている霧生は手を何度も横に振り、否定する素振りを見せる。


「マスターさん、例のモノを!」


 彼の行きつけで、彼の息がかかっていようと関係ない。


 将来の政治家より、現在の警察。法と秩序が、こちらの味方だ。


「……申し訳ありません、霧生殿」


 店員が取り出すのは、一枚の領収書。


 5日ほど前の日付に「霧生卓郎」と書かれた、店舗側の控え。


「誘拐されたと思わしき、彼女。千代田区の立候補者であるVtuber。伊勢神宮の中の方とあなたはここで密会し、飲食代を支払った。彼女は立候補者でありながら、千代田区に籍を置き、あなたが出馬する選挙区内の投票権を持っています」


「公職選挙法では、投票権を持つ人間に利益を供与するのは違反行為です!」


 アミが概要を説明し、ジェノが結論を告げる。


「……」


 霧生の顔から、余裕が消えていくのが目に見えて分かる。


「情報提供していただければ、目をつぶります。協力してもらえますね?」


 そこにアミはとどめの一言を添える。


 それは、法と国家権力を盾にした立派な脅し。


 加えて、条件を満たせば見逃す、ある種の司法取引だった。


「断れば逮捕。政治生命が断たれるってわけですか……」


 霧生は最悪の未来を言語化しながら、アイスコーヒーに手を伸ばす。


 それをぐびっと一気飲みして、空になったコップをテーブルに叩きつける。


「はいはい。分かりましたよ。協力すればいいんっしょ、協力すれば!」


 やけくそ気味に返ってきたのは、気持ちのいい返事。


 その顔は観念したような感じ、ではなく、どこか晴れやかだった。

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