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吃音症がVtuberで何が悪い!!!  作者: 木山碧人
第三章 大日本帝国
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第44話 同門対決

 

 雨音が弾ける。鞘と刀身が雨粒を跳ね飛ばす。


 背後には、国会議事堂。権威と力を象徴する場所。


 そこで二人は火花を散らす。互いの意思と信念をかけて。


「お前が、お前さえいなければ……っ」


 上段に構え、一心は刀を振り下ろす。


 紫色にほとばしる意思が込められた一撃。


「……っ」


 受けられない。センスの量が桁違いすぎる。


 体に青い光を纏うアザミは、そう判断し、後方に回避。


「――砕けろ!!」


 ひるむことなく、一心は刃を振り下ろす。


 歩道用に加工された石材を容易く割り、砕く。


 狙いは、その余波。荒々しく砕かれた石材のつぶて。


(センスで地面を……。それなら、弾き返す!)


 迫るつぶてを前に、アザミは意思の力を弱め、鞘で打ち払う。


 センスを纏えば、石は弾く前に潰れる。威力を弱める必要があった。


「…………」

 

 確かに、石つぶてははじき返した。


 しかし、相手はもろともせず、一足で距離を詰めてくる。


(回避が、間に合わない……っ!!!)


 とっさに、弱めたセンスを体に纏い、防御の体勢を取る。


「北辰流」


 懐まで迫った一心は、腕をだらんと脱力し、切っ先を地面につける。


(この、構えは……)


 同じ流派で良かった。心の底からそう思う。


「――【薄雲】」


 瞬間。地面についていた切っ先が消える。


 人の視覚は速度の緩急と、縦方向の変化に弱い。

 

 放たれる一撃は、その両方を駆使した、ただの切り上げ。


(見えなくても、見える)


 体に叩き込まれた所作。男性恐怖症と吃音症の原点。


 師が同じであるならば、一部の狂いもなく、ここに来る。


「……」


 薄雲は、必ず相手の正中線をなぞる。


 ならば、その軌道を遮るように鞘を置くだけ。


 アザミはなんのためらいもなく、膝元で鞘を横に構えた。


「――ッ!!!」


 ガキンと、弾かれたような音が響く。


 剣速による威力が乗る手前。そこで、止めた。


 死角狙いのためか、センスが控えめだったのが功を奏した。


「……こいつ、見切ったのか!!」


 一心は糸目を見開き、事態を受け入れられていない様子。

 

(父の教えは剛の技。でも、わたしの師は二人いる)


 動転している致命的な隙。それを見逃すほど、甘くはない。


「北辰流――【雲竜柳ウンリュウヤナギ】」


 鞘で腕を固め、それを起点に相手を組み伏せる、当身。


 剛の技ではなく、柔の技。厳しい父の教えではなく、優しい母の教え。


「なっ!」


 関節を固められた腕が脱力し、刀が落ちる。


 技は次のフェイズに移行する。


 相手の脇下に鞘を滑り込ませ、背後に回り込む。


「北辰流」


 一心の体が紫色に発光する。やっぱり、桁違いの量だ。


「――【菊落とし】」


 だけど、ここまでくれば、センスの量は関係ない。


 足を払って転ばし、背中を踏んで、鞘を引っ張り、体をえびぞりにさせる。


「……う、ぐっ」


 力を込めようとすればするほど、固まる。


 一心は、苦しそうな声を上げ、関節技の沼にはまっていた。


「こ、降参してください!」


 声が震える。こんな肉薄した場所に男性がいるからだ。


 でも、これは手で触れなくていい、固め。男性が相手でも、問題ない。


「……だれ、が」


 首筋の血管が浮かび上がってきている。もうすぐで、落ちる。


「こ、このままだと、死に、ますよ」


 急な失神は、死に至る危険性がある。


 敵、とはいえ、一度は行動を共にした仲間。


 だからこそ、殺すという手段を安易に選びたくなかった。

 

「……ぐっ。…………ま、まいっ」


 すると、動きは止まり、抵抗を諦めたのか、一心は降参しようとしている。


「……ひっ」


 しかし、最悪なことが起きてしまった。


 降参の意を示す手が、頬に直接触れている。


「い、や……いやぁぁぁぁっ!!!」

 

 腰が抜ける。立てなくなる。足が震えて動けなくなる。


 虫が背中を伝ったような嫌悪感が駆け抜け、そのまま鞘を手放した。


「………っ!? はぁ、はぁっ!」


 拘束が解けた一心は、荒い呼吸をしながら、すぐさま前転。


 落ちた刀を拾い、即座に振り向き、アザミと向き合う形で、刀を構える。


「あ……あぁ……」


 戦わないと。刀を握らないと。


 武器は足元に落ちてる。拾えばいいだけ。


(動いて、動いてよ……っ!!)


 それなのに、動かない。焦る心に、体がついこない。


「くっ……くははははっ……。お前、まさか、男性恐怖症なのか」


 張り詰めた空気の中、嘲笑混じりの声が響く。


 当然、それは一心の声。今の一瞬で、見抜かれてしまっていた。


「ち、ちが……」


 自身の肩を抱き、否定するも、体の震えが止まらない。


 それは、肯定しているのと同じ。明らかに、隠し切れていなかった。


「……ふっ。だったら、試させてもらおうかっ!!!」


 勝利を誇ったような笑みをこぼし、一心は容赦なく地を蹴った。


(なにも、できない……っ!! こんな……ところで!!!)


 悔しい。あと少しで、世界を変えられたのに。


 鬼が住みやすい場所に、きっとなったはずなのに。


 彼女に託された夢を、この手で実現できそうだったのに。


「……去ねぇ!!!」


 刀身を中段後方に振りかぶり、迫るのは、一心。


 構えからして、薙ぎ。首をはねて終わりにするつもりだろう。

 

(終わりたく、ない……っ!!)


 なけなしの意思を込めて、首にセンスを集中させる。


 それが、動けない中でもできる、唯一の抵抗だった。


「――」


 真一文字に空を裂く刃が首元に迫る。


 刃が勝つか、意思が勝つか。二者択一の状況。


 ――瞬間、音が止まる。


 切り裂く音も。刃を弾く音もしない。雨音さえ止まって聞こえた。


「……え?」


 ただ、そこに現れたのは、大きな背中。


 身長が2メートル近くはある、黒スーツを着た赤髪の鬼。


「まだ殺すな。こいつには、アネさんが受けた苦痛を倍にして返してやる」


 人差し指と親指で刃を箸のようにつまむ鬼――閻衆は、淡々と理由を告げた。 

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