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吃音症がVtuberで何が悪い!!!  作者: 木山碧人
第三章 大日本帝国
43/72

第41話 吃音症がVtuberで何が悪い!!!


 東京都。渋谷区。THK放送センター。政見放送スタジオ。


「も、もう一度、放送を、お願いできませんか」


 逃げた事情を説明し、アザミは必死で頭を下げる。


 775のため、ツバキのため、そして、自分自身のために。


「とはいっても、こっちも面子ってもんがありますからねぇ」


 対する相手は、THKの若手男性ディレクター。


 ウェーブがかった茶髪に、スタイリッシュな丸眼鏡。


 服装はネクタイのない、カジュアルな紺のスーツを着ている。


「つ、次、逃げたら、一生、出禁でも、い、いいです!」

 

 反対されようが、とにかく頼み込む。


 今できるのは、それぐらいしかなかった。


「……まぁ、生放送だって伝わってなかったみたいですし、今回だけですよ」


 それが功を奏したのか、彼は頭をかきながら、了承してくれる。


「あ、ありがとう、ございます!!」


 何とか整った、汚名を挽回できる舞台。


 次の機会はきっとない。間違いなくここが正念場。


 心地いい緊張感と共に、アザミは前を向き、配信は始まった。


 ◇◇◇


「さ、さっきは、に、逃げてしまって、ごめんなさい」


 まずは謝罪。失った信用を取り戻すためには、必要不可欠な行為。


 ただ、それ以上に、反省していることを言葉と態度で伝えることが大事だった。


:謝罪できて偉い

:普通に見損なったわ

:謝ったら何でも許されると思ってるガキが

:社会出たことないんだろうなぁ、こういうやつって

:吃音症はVやめろ吃音症はVやめろ吃音症はVやめろ吃音症はVやめろ


 謝ったとはいえ、圧倒的にアンチコメントが多い。


 その中には、普段配信を見てくれている人もちらほら見えた。


 予想通りの反応だった。やっぱり謝罪するだけじゃ足りない。許してもらえない。


「み、皆さんに、は、話しておかないと、いけないことがあります」


 ――だから。


:どうせ虚言

:言い訳タイムきたぁ

:信者が脳死でかばうだけ

:吃音症はVやめろ吃音症はVやめろ吃音症はVやめろ吃音症はVやめろ


「わ、わたしは、一度、さ、殺人罪で、し、死刑になった、死刑囚です」


 全国民に腹を割って話す。 


 批判されるのは覚悟の上で決めたことだった。


:は?

:嘘だろ、おい……

:いやいや、さすがに冗談では?

:ちょ、あのコメントまじだったのかよ


 コメント欄は騒然。おかげで、アンチコメントはなくなった。


 正面のカメラマンの顔は引きつり、奥のディレクターは慌てていた。


 ただ、このままじゃ配信を続けることはできない。そうなる前に、先手を打つ。


「こ、これは、あくまで、バーチャル世界の話、です」


 あくまでエンタメ。仮想空間上の話だと思い込ませる。


:なーんだ嘘か

:釣られてるやつ馬鹿丸出しでワロタ

:いや、分かってたけど?

:配信分かってるな

:バーチャルジョークいいねぇ

:吃音症はVやめろ吃音症はVやめろ吃音症はVやめろ吃音症はVやめろ


 コメント欄はある程度落ち着き、ディレクターは安堵していた。


 ここからが本番。仮想の話だと前置きを挟めば、なんでも話すことができる。


「さ、さっき、逃げたのは、じ、事実を指摘されて怖くなったんです。また、し、死刑にされるんじゃないか、こ、絞首台に上がらないといけないんじゃないかって。で、でも、そうなったとしても、わたしには、やるべきことが、あります!」


:なるほど、政治的パフォーマンスだったのか

:逃げたのは興味を引かせるための演技……

:今日の脚本家だれ? やるやんけ

:V豚どもよく聞け。投票するかどうかは動機が一番重要だぞ

:吃音症はVやめろ吃音症はVやめろ吃音症はVやめろ吃音症はVやめろ

:吃音症はVやめろ吃音症はVやめろ吃音症はVやめろ吃音症はVやめろ

:吃音症はVやめろ吃音症はVやめろ吃音症はVやめろ吃音症はVやめろ

:連投うぜぇな


 コメント欄の空気は支配しつつある。


 次は、政治家にとって推されるかが決まる一番大事な動機。


「と、特定外来種『鬼』のための、憲法9条改正です」


 まずは結論から。ここから説明と理由を付け加える。


:憲法9条ってどんな内容?

:特定外来種に対する武力の行使を認め、一切の権利主張を認めない条文な

:骸人っていう、昔、帝国を支配した外来種のせいでできた法律だ

:もっと簡単に言ってくれ

:人外には人権ないよ~ってことや

:言い伝えによれば、鬼は骸人を倒した存在らしいぞ

:吃音症はVやめろ吃音症はVやめろ吃音症はVやめろ吃音症はVやめろ

:吃音症はVやめろ吃音症はVやめろ吃音症はVやめろ吃音症はVやめろ

:吃音症はVやめろ吃音症はVやめろ吃音症はVやめろ吃音症はVやめろ


 優秀な視聴者が補足してくれる。


 説明する予定だったけど、はしょってもよさそうだ。


「わ、わたしの大切な友人、鬼龍院みやびさんは『鬼』でした。そ、そのせいで、彼女には人権がなく、バーチャル帝国では、つ、常に命を狙われていました。そ、その心労がたたって、な、亡くなった、といっても、過言ではありません」


 これは嘘じゃない。彼女が病を発症した原因は、ストレスの影響が大きい。


:殿下;;

:惜しい人を亡くしたよ、ほんと

:これ、ほんとにフィクションなのか?

:どこまでが事実で、どこまでが嘘なんだ……

:コメントは削除されました

:コメントは削除されました

:コメントは削除されました


 コメント欄は、しんみりとした空気。


 アンチコメントはTHK側が対応したのか削除されている。 


「だ、だからこそ、わたしは、そんな世の中を変えたい。みやびさんのような、ぜ、善意ある鬼の居場所を作りたいと思い、立ち上がりました。り、理想を実現するには、か、課題が山積みですが、な、亡き友のためにも、最後までやり抜く自信があります! ですから、どうか、伊勢神宮に、清き一票をお願いします!」


 噛み噛みだったけど、なんとか言い切れた。


 後は見ている人がどう感じたか。そこにかかってる。


 期待半分、不安半分でカメラの横にあるモニターをチェックする。


:吃音症はVやめろ吃音症はVやめろ吃音症はVやめろ吃音症はVやめろ

:吃音症はVやめろ吃音症はVやめろ吃音症はVやめろ吃音症はVやめろ

:吃音症はVやめろ吃音症はVやめろ吃音症はVやめろ吃音症はVやめろ

:吃音症はVやめろ吃音症はVやめろ吃音症はVやめろ吃音症はVやめろ

:吃音症はVやめろ吃音症はVやめろ吃音症はVやめろ吃音症はVやめろ


 そこには、見たかった反応はなかった。


 ツールでも使ったのか、連投の荒らしが復活している。


(なんか嫌だな、これ……)


 一生懸命やってるのに、茶化されてるみたいで腹が立つ。


 もやっとした気持ちが、どんどん心の中で膨れ上がっていく。


 アンチコメントも一つの意見。普段は極力受け入れるようにしてた。


 ――だけど、これは度が過ぎている。


「吃音症がVtuberで何が悪い!!! い、嫌なら、見るな!!!!」

 

 アザミは感情のままにアンチコメントをずばっと切り捨てる。


 しんとスタジオ内は静まり返り、放送事故。と思われるような空気。


 それでもいい。相手にしてるのは、ディレクターでもカメラマンでもない。


:伊勢神宮最高! 伊勢神宮最高! 伊勢神宮最高! 伊勢神宮最高!

:伊勢神宮最高! 伊勢神宮最高! 伊勢神宮最高! 伊勢神宮最高!

:伊勢神宮最高! 伊勢神宮最高! 伊勢神宮最高! 伊勢神宮最高!

:伊勢神宮最高! 伊勢神宮最高! 伊勢神宮最高! 伊勢神宮最高!

:伊勢神宮最高! 伊勢神宮最高! 伊勢神宮最高! 伊勢神宮最高!


 その痛快な返しにより、批判は賞賛に変わり、政見放送は大成功で幕を閉じた。


【伊勢神宮公式チャンネル +74万人 チャンネル登録者数660万人】

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