第33話 みやびフェス大阪⑤
大阪城天守閣。八階。城内。
古風な階段を上がってきたのは、鬼。
「えらい手間ぁかけさせてくれたな。椿はん」
鬼道楓。目を血走らせ、立ち塞がる敵を睨みつける。
『ほぅ……。よく分かったの。さすがは、かつての同胞よ』
そこにいたのは、一人の少年。ジェノ。
そして、答えたのは制服の内側にいる、鏡の中のツバキだった。
「元の主と言えど、邪魔するんなら容赦せんで」
『邪魔はせぬよ。ただし、先に進むなら一つ、忠告がある』
「……すんなり通してくれるんやったら、ええよ。その忠告、聞いたるわ」
いつ戦闘になってもおかしくない張り詰めた空気の中、楓は言った。
『もし、上にいる二人の邪魔をすれば、お主は確実に死ぬ』
「はっ。そんなハッタリでワテを止められると思ったら、大間違いや」
鼻で笑う楓は、何もせずにすれ違う。
邪魔しなければ何もしない。その均衡のおかげ。
条件はこちらも同じ。彼女は今、薄い氷の上を歩いている。
◇◇◇
大阪城天守閣頂上。破風。
安全柵をよじ登り、屋根の端部分を掴む。
「何がお主は死ぬ、や。鬼がそう簡単に死ぬわけないやろ」
不快な激しい音色を聞かされながら、楓は向かう。
屋根のてっぺんでアホみたいに歌って踊る、ナナコを殺すために。
(命を救われたこともあったし、命を救ったこともあった。ワテらが手を組まんかったら、この城は落とせんかった。骸人の支配から、あの南光坊天海の手から逃れることはできんかった。でも、なんで国を救った英雄が、こんな仕打ち受けなあかんねん。なんで、こうも差がつかなあかんねや。お前とワテは同じはずやろ)
光と闇。鬼と鬼。似て非なる者。
嫉妬が憎悪に変わる。動機はそれで十分。
背中が見える。無防備な背中。アホみたいに踊る背中。
(ワテらが苦しめられた、こいつを使うことになるとは思いもせんかったよ)
茶色のブランドバッグから取り出すのは、赤色の玉。
天候を操ることができる水晶。骸人の王、南光坊天海の所有物。
――天海宝玉。
空は、曇り。ここ一週間。この日の為だけに、意図的に曇らせ続けてきた。
(これで終わりや、ナナコ。ここで死ねるなら、本望やろ)
楓は、天海宝玉を空に掲げる。
「ナウマク、ジンバラ」
呪文を唱え、宝玉は光り輝き、空が呼応する。
曇りが続き、成層圏近くまで伸びた縦長の雲。積乱雲。
そこに蓄積された水が上空で冷やされ、氷の粒となり摩擦する。
摩擦により生じるエネルギーは、不安定な状態で雲に留まり続ける。
雲が抱えきれなくなった不安定の塊は、安定を求め、地上に解き放たれる。
「受けてみい! 覇道雷鳴撃!!」
雷。抱えきれなくなった不安定の塊。その発露。
(自然現象と同じや。ワテは悪くない。この世の仕組みが悪いんや!!)
稲光と共に、黄色い閃光が走る。狙いはナナコの角。
鬼の異常な細胞分裂を補助する機能がある、言わば露出する心臓。
「「――――」」
その場にいる二人はまるで動じない。
耳でもおかしくなったんか、気にせず歌い続けとる。
(勝った! うちが、鬼の女王なんや!)
勝利を確信し、コンマ一秒、目を閉じる。瞬きする間に、ことは終わっとる。
「………………は?」
そのはずやった。
「――散った隊員の無念をこの一撃に込める」
上空にいるのは、人。刀を持った人間。
青い制服を着た滅葬志士。殺し損なった隊員。
「雷鳴返しや!!!!!」
滅葬志士大阪支部棟梁。藤堂元気。
元気よく放たれるは、雷と報復の意思を纏う斬撃。
復調を果たした渾身の一撃は、天を割り、角を割り、城を割る。
(なん、でや……なん、で、ワテだけが、こんな目に……)
因果応報。彼女が犯した罪は、今、人の手によって裁かれた。




