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吃音症がVtuberで何が悪い!!!  作者: 木山碧人
第三章 大日本帝国
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第32話 みやびフェス大阪④

 

 大阪城天守閣。八階。展望台。


 14曲目が終わりを迎える。残すはあと1曲。


 恐らく、鬼龍院みやびとしての最後を飾るフィナーレ。


「……げほっ、げほっ」


 しかし、口からは血が溢れ、石造りの床を真っ赤に染める。


 よく持ってくれた方。だけど、ここまできたら、もう少し欲張りたい。


「社長!? 大丈夫なの?」


 駆け寄るのは、桃色のワンピース姿の桃瀬桃子。


 今や急成長を遂げ、登録者は500万人を超えている。


「問題、ありません。気付けに摂取した血液が、体に合わなかったようです」


 775の未来は明るい。惜しむべきはアザミが辞めたこと。


 それでも、前に進まないといけない。止まるわけにはいかない。


 限界が近い体に鞭を打ち、なんとか起き上がって、上のステージを目指す。


「……」


 すると、背後の階段辺りから、足音が聞こえてくる。


 胸騒ぎがした。敵が城のギミックを突破してきたのかもしれない。


「え……なんで」


 先の反応するのは、桃子。唖然とした表情を浮かべている。


 見なくても分かる。すぐ後ろには、鬼道組組長が立っているはず。


 戦う余裕も気力もない。もう負けだ。あと一歩のところで負けたんだ。


「――」


 すると、足音が迫り、目の前で止まる。


 見たくない。でも、見ないわけにはいかない。


 落とした視線をなんとか上げると、そこに立っていたのは。


「……ち、血を飲んでください。ナナコさん!」


 手の平から血をしたたせるアザミだった。


「なん、で」


 感情が追いつかない。頭が追いつかない。状況が理解できない。


 それなのに、鬼としての本能が、目の前の上質な血液を欲している。


「い、いいから、飲んでください! 早く!」


 鬼気迫る様子で、アザミは強く言いつける。


 もう、無理だ。我慢できるわけがない。抑え、られない。


「……っ!!!」


 一滴も零れ落ちさせないよう、執拗に舐め取る。


 犬のように貪り続け、本能のままに血液を飲み干した。


 全身が熱い。久方ぶりに味わう、細胞が満たされていく感覚。


「……体が、痛くない」


 死滅していた細胞が蘇っているような気がする。


 アドレナリンが出ているだけかもしれない。でも、いい。


 次の曲を。最後の舞台を乗り切れるなら、理由は何でもよかった。


「あ、あの!」


 膝を押し上げ、ステージに向かおうとすると、声をかけられる。


「礼なら後で伝えます。今は早くステージに」


 動けるのは血をもらったから。


 だけど、今は礼をする時間すら惜しい。


 体が動くうちに、一秒でも早く上にいきたかった。


「わ、わたしと、コラボして、もらえませんか?」


 そこで聞こえてきたのは、まさかの申し出。


(これが恐らく最後の舞台。最初で最後のコラボ……)


 考えるまでもない。


 この言葉をずっと聞きたかった。


 彼女の意思で伝えてくれるのをずっと待っていた。


「もちろんです!!」

 

 もう、怖いものはない。後は、心置きなく最後の舞台に上がるだけだ。


 ◇◇◇

 

 大阪城天守閣頂上。曇っているせいか、辺りはすっかり暗い。


 アザミは桃子に借りたホログラムスーツを着け、ステージに上がる。


(重くて、熱い。ナナコさんはずっとこれをつけてライブを……)


 体表面に描写されるキャラは当然、伊勢神宮。


 紅白の巫女服を着た、金髪サイドテールの明るそうな女の子。


 そして、隣に立つのは、十二単を着た、長い白髪の鬼。――鬼龍院みやび。


「よいか? 演奏中、いかなことが起こっても、歌と踊りの集中を欠くな」


 マイクに声が入らないように、みやびは耳元でそっと囁く。


 ある意味で貴重な体験だった。


 ナナコとしてじゃなく、みやびとしてアドバイスをくれてるんだ。


「……」


 声が乗らないよう、無言で数度頷く。


『今宵、壱番ステージに立ったライバーは、余の目から見て、経験も実績も未熟。壱番ステージに立つ資格などないと思っておった。だからこそ、あえて聞きたい。彼女らのパフォーマンスに不満を持った者はおるか? 率直に申してみよ!』


 そうして、みやびの前振りが始まった。


 主催者として、本来なら隠したかった裏事情のはず。


 それを全て晒し、自分の意見を述べ、観客に評価をゆだねていた。


「最高だったぞ!!!!」

「不満なんかあらへんわ!!!」

「十二分に楽しませてもらったで!!!」 

「文句あるやつは、ぶっ飛ばしたんで!!!!」

「おるわけないやろそんなやつ!!!! ええ、ライブやったよ!!!」


 それこそが、彼女の魅力。


 この反応を見越していたからこその、振り。

 

 妥協せず、完璧を求め、本音で接したからこその人気。 

 

『逆境こそ余らを強くする。この声が何よりの証左。世代交代の時は近い!』


 参番ライバーが大舞台で成長すると信じた、社長としての先見の明。


 何もかもが彼女を中心に動いている。エンタメの権化。Vtuber界の女王。


『そして、次の時代をけん引するのは、775プロダクション所属、伊勢神宮! 彼女こそ、参番ステージのライバーを壱番ステージに上げた立役者。余と彼女のコラボ。生涯初めてのデュオ。心して受けるがよい。今宵、最後の曲の名は――雷鳴』


 これ以上ない紹介をもらい、最初で最後のコラボが始まった。

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