第31話 風雲椿城攻略
風雲椿城。二階。クイズの壁。
目の前にはA、B、C、Dと書かれた四つの壁。
『三大栄養素で仲間外れはどれじゃ。A炭水化物。B糖質。C脂肪。Dたんぱく質』
「間違いないBだ。俺の祖母は糖質の摂り過ぎで死んだからな」
自信満々に答えたのは一心だった。
「「……」」
重たい空気が流れながらも、三人はCの壁に向かい、扉をぶち破った。
◇◇◇
風雲椿城。三階。ミュージックボックス。
三人はソファとテーブルとモニターとカラオケ機器。
それに加えて、上下左右の矢印が地面に表示された部屋にいた。
『歌と踊りの精密採点で95点以上を取るのじゃ』
「ま、まかせてください」
マイクを取ったのは、アザミ。持ち歌で97点を獲得し、難なく突破。
◇◇◇
風雲椿城。四階。スモウエリア。
丸い土俵の外に、黒服を着た鬼たちが待っている。
『三対三の団体戦。土俵から外に出せば、勝ちとなる』
「てめぇら下っ端のヤクザなんざ、僕一人で十分だ」
肩をならし、土俵に立つのは、ラウラ。
『のこった!』『のこった!』『のこった!』
押し出し。押し出し。押し出し。団体戦はラウラたちの勝利に終わった。
◇◇◇
風雲椿城。五階。イライラスパイダー。
二枚の平行に配置された透明な板がコースを作り。
上下左右に動くパイプが進行を妨害しているように見える。
『高圧電流のパイプを避けつつ、壁を伝ってゴールを目指すのじゃ!』
「体を張るのは俺の役目だ。任せてくれ」
率先して申し出た一心は、手をこすりながら、壁に張りついていった。
「しまっ――ぎぎぎぐぐぐッ!!!」
明らかにパイプに触れ、感電していた。
でも、根性で耐え抜き、ゴール。次の階段への扉が開いた。
◇◇◇
風雲椿城。六階。バッティングアウト。
あるのは金属バットとピッチングマシーンと防球ネットと9つのパネル。
『投球されたボールをバットで打ち、15球以内に9つのパネルを抜くのじゃ!』
「ここは鬼門だぞ。失敗したせいで、俺は一階に落とされた」
予想通りのルール説明に、一心の最悪の補足が加わる。
「だ、だったら、責任、三等分に、しませんか?」
そこでアザミが作戦を切り出し、三人が5球ずつ担当することになる。
「負担は三分の一か、それなら!」「しゃあ、二枚抜きぃ!」
一番手は一心。二番手はラウラ。二人の健闘もあり、パネルは残り一枚。
「あ、あと、一球」
しかし、アザミは見事に四振し、追い込まれていた。
「あーもう、こうなりゃあ腰の刀使え! 峰打ちとかあんだろ!?」
そこでラウラは野次を飛ばすように、めちゃくちゃなことを言ってくる。
「……っ! や、やってみます」
それがヒントになり、ある打法を思いつく。
バットを捨て、腰の刀を納刀したまま真一文字に構える。
「――北辰流【不知火】」
左足を軸に、円を描く。放たれたのは、足払いと鞘払い。
下段を避けた敵に、遅れて鞘の中段を浴びせる二手詰めの攻撃。
それをバッティングに利用するという型破りな打法。剣術打法だった。
「……ッ!!」
鞘に手応えアリ。狙うはど真ん中。5番のパネル。
そのまま振り切り、カコンという鈍い音と共に、射貫く。
「しゃあああ!! やればできるじゃねぇか!!!」
5番。ラウラは、すぐさま喜びの声を上げ、
「……」
一心は、鋭い目つきでこちらを見つめ、黙り込んでいた。
◇◇◇
風雲椿城。七階。スゴロクの館。
六角形の部屋。扉は六つ。それが蜂の巣状に繋がる。
そこから、出たサイコロの目だけ扉を開け、ゴールを目指していく館。
「アネさん。扉を壊せば、先に進めるんじゃありませんかい?」
そこに迷い込んだのは、赤髪リーゼントで黒服の男。
赤い瞳に、頬骨は出っ張り、ガタイが良く、額には二本の黒い角。
背丈は2メートルを優に超える、いかにも鬼らしい鬼。鬼道組若頭――閻衆。
「やめとき。城主に逆らったら、えらいことになる。さっきの悲鳴聞いたやろ」
そして、その鬼、閻衆を従える組長――鬼道楓。
灰色の着物は血で汚れる中、片手に持つ茶色のバックには染み一つない。
「ですがねぇ、ここで立ち往生して、かれこれ1、2時間は……」
「黙っとき。次のお題が来るで。ミスったら恐らく、一からやり直しや」
見るのは部屋の天井。
大きなサイコロが映る、液晶が埋まっていた。
『ここは暴露マス。他人に言えない秘密を互いに一つずつ暴露してもらうぞ』
すると、覚えのある声が聞こえてくる。
けったいな場所や。何のために作ったんかよう分からん。
「……最近、おねしょするようになってしもうた」
「アネさんが大事にしていた壺を割ったのは、俺です……」
恥を忍びながら、秘密を暴露する。
それと同時に閻衆も聞き捨てならないことを漏らした。
「「は?」」
剣呑な空気と共に、天井に表示されるサイコロが動き出す。
「……話は後や。こことの決着がついたら覚悟しい」
数字は1を示し、楓は震える拳をぐっと堪え、次なる扉を開いた。