第30話 みやびフェス大阪③
大阪城天守閣。六階。骸天の変図屏風の世界。
骸人と人間における最後の戦いの歴史が記された場所。
壁際には、戦時の様子が描かれた屏風や、図解が展示されている。
本来、関係者以外立ち入り禁止のフロアに、人知れず裏の歴史を残していた。
「ここは、人類が骸人に勝利した歴史を記す場所」
上階へ続く階段の前に、立ちふさがるのは、滅葬志士――千葉一心。
周りに部下の姿はなく、単身。覚悟を決めた表情で辺りを見ながら語る。
「……知っとるよ、誰よりもな」
相対するは、鬼道組組長――鬼道楓。
数十人の部下を従えながらも、苦い表情で反応する。
「ここがあんたの墓場だ。鬼道組組長――鬼道楓。栄光の歴史と共に散れ」
腰の刀を抜き、中段に構え、言い放つ。それが戦いの始まる合図だった。
◇◇◇
大阪城天守閣東側。壱番ステージ。大手前配水池。
「おい、待て。どこに行くんだ。三曲目が始まるぞ」
何も言わず移動しようとしたところに、手を掴んできたのは、ラウラだった。
「そ、それどころじゃ……っ!」
説明している暇なんてない。今すぐ向かわないと大変なことになる。
「簡潔に説明しろ。力になれるかもしんねぇだろ!」
その台詞にはっとしてしまう。
確かにそうだ。単身で乗り込んでも大した戦力にならない。
「じ、実は……」
はやる気持ちをぐっと抑え、アザミは説明を開始した。
◇◇◇
天守閣、屋根の頂上部分に位置する、大棟。
舞台に立つのは、鬼龍院みやびの衣を纏う、ナナコ。
アップテンポな二曲目とは違い、三曲目はローテンポのバラード。
(始まってしまった……。どこまで、ライブを続けられるか……)
体も心もボロボロ。ライブも続けられるか分からない状況。
それなのに、皮肉にも、歌も踊りもなんの狂いもなく進行する。
(完璧にはなれない。そう思ってた。でも、あなたの面影が私を強くする)
思い浮かぶのは鬼龍院みやびのモチーフとなる人物。かつての主。
(――椿様、見ていてください。ここが私のキャリアハイ。最後の舞台です!)
ナナコは一人、終わりに向かう。死した先にある大義を成すために。
◇◇◇
大阪城天守閣。七階。大阪城建築の歴史。
広い空間の中には、歴史を時系列ごとに分けたパネル。
その近くの壁内にはモニターがあり、当時を再現した映像があった。
『歴史とは本当にくだらんな。嘘しか書いておらんではないか』
青い制服を着たジェノの右手には、青銅色の鏡。
その中に封じ込められているツバキが、歴史の改変に嘆いていた。
「そんなことより、早くしないと……」
『分かっておる。そのパネルを剥がして、壁面を押してみよ』
ジェノがいるのは、城主の享年について書かれた場所。
死にゆく城主の映像を流すモニター横の注釈。茶色いパネルを剥がす。
「本当にこんなので――」
下階では、一心が一人で時間を稼いでいる。
焦る気持ちを抑え、半信半疑で、木製の壁を押した。
『大阪城の改築を手掛けたのはわらわじゃ。侵入者対策にぬかりはない』
そんな頼もしい声と共に、押した壁の一部がへこみ、ガコンという音が鳴る。
「……嘘、でしょ」
木製の床下が反転し、部屋の構造が見る見るうちに変化する。
『名付けて、風雲椿城! 頂上に至るには、鬼といえども至難の業よ!』
目の前に現れたのは、六角形の部屋。部屋。部屋。
蜂の巣状に部屋は繋がり、至る所に罠が張り巡らされた迷宮が完成した。
◇◇◇
風雲椿城、1階。デスアクションゾーン。
細い一本道と、底が見えない床があり、その先には階段。
しかし、行く手を遮るのは、振り子のように動く、鉄球、斧、ハンマー。
「なんだ、こりゃあ……」
「お、大阪城じゃ、ない?」
そこに足を踏み入れたのは、二人。ラウラとアザミ。
足を踏み入れるやいなや、状況を受け止められず困惑している。
――そこに。
「うわぁああぁあああっ!!」
叫び声と共に天井から落ちてきたのは、坊主頭の青い制服を着た男。
「ひぃっ」
「次はなんだ!?」
二人は落ちてきた成人男性を避け、男は頭から硬い地面に着地する。
ぐぎっ、という人体で鳴ってはいけないような音が鳴り、男は沈黙。
「うわ、死んだか……」
「あ、あのぅ……。無事、ですか?」
ようやく状況を察したアザミは、男の安否を心配した。
「……ふふっ。なるほど、なるほど、そういう仕組みか」
すると、不敵に笑う男は、首の骨を鳴らし、なんでもないように起き上がる。
「よ、良かった、生きてた……」
「あー、こういう輩は無視しろ。馬鹿がうつる」
などと、ラウラが冷たい反応を見せる中、男は口を開く。
「いいか、これから特攻隊長である俺――千葉一心の指示の下、二人には、難攻不落の風雲椿城を攻略してもらう。行く手には数々の難関が待ち受けているだろうが、全力で頑張ってほしい。いいな?」
こうして、期せずして集まった三人の、風雲椿城攻略が始まった。




