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吃音症がVtuberで何が悪い!!!  作者: 木山碧人
第三章 大日本帝国

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第28話 みやびフェス大阪①


 路上ライブ生活5日目。


 大阪。道頓堀。鬼道組事務所。組長室。


「なに? 話って」


 執務椅子に座り、話を切り出したのは、鬼道楓。


「こ、こちらを」


 向かい立つアザミは、白い袴の懐に手を突っ込み、差し出す。

 

 出てきたのは、白い帯に包まれた紙の束。血の滲む思いで稼いだ100万円。


「この子、不正やっとらへんやろうね?」


 楓は札束を受け取り、手際よく枚数を数えながら問う。


「間違いねぇ。こいつは正々堂々、自分の実力で100万円集めやがったよ」


 質問に答えたのは、隣に立つ黒服のラウラ。


 本来は不正を監視する目的で、そばにつけていたんだろう。


 それが成功を裏付けする証人になるなんて、思ってもいなかったはずだ。


「……具体的な内容は?」


 信じられないのか、楓は目つきを鋭くし、尋ねる。


 本人が直接語るより、第三者が語る方が説得力が上がる。


 彼女なら嘘はつかないだろうし、そばにいてくれて本当に助かった。


「1曲1000円。個人に歌をプレゼントする商法だ。活動二日目にカップルから結婚ソングをリクエストされ、歌った結果、婚約が成立した。その様子がSNSで投稿され大バズり。主に縁結びとして利用され、成立した婚約数はその札束以上だ」


 思った通り、完璧な説明をラウラはしてくれる。


 最初は辛かったけど、途中で諦めなくて本当によかった。


「社会貢献どころか、少子化対策にまでなっとる。えらい健全に稼いだんやねぇ」


 皮肉なのか、褒めているのか、どちらなのかは分からない。


 ただ、結果は出した。後はこの人が約束を守ってくれるかどうか。


「確かに、100万あるわ。アンタを見くびっていたようやね」


「……じゃ、じゃあ!」


「約束通り、鬼道組に入れたる。これからは組の一員として頑張ってや」


 返ってきたのは、一番欲しかった答え。


 気難しそうな人に努力を認められたのは、かなり嬉しい。


 ただそれ以上に、775との抗争を止められた。という事実はもっと嬉しかった。


「……仕事は果たした。僕の件はどうなる」


 そこにラウラは別の用事があったのか、口を挟んでいた。


 その表情はどことなく暗い。おめでとうの一言ぐらいあっても良かったのに。


「その件やけど、ちょいとだけ待って。今日の夜、返すわ」


「あのなぁ……」


「これ、みやびフェス大阪のSS席チケット。二枚あるから時間潰してきーや」


 文句を言わせる暇なく、楓はラウラに二枚の紙切れを手渡した。


 二人の事情はよく分からないけど、これはラッキーかもしれない。


 あの紙切れには夢が詰まってる。ぜひとも、受け取ってほしかった。


「はぁ……ったく仕方ねぇな。こいつとも今日で最後だしな」


 ラウラは、諦めたようにチケットを受け取る。


 つまり、みやびフェス大阪に、タダでいけるということ。


 テンションが上がりかけたけど、少し気になったのは、後に語った言葉。


「……きょ、今日で最後?」


 まるで、もう会えなくなるような発言。


 せっかく同じヤクザになったのに、別れないといけないような言葉。


「聞き分けのいい子は好きやで。これお駄賃な。好きなもんでも買い」


 戸惑うこちらをよそに、楓は札束から10万ほど抜き取り、ラウラに渡す。


「組長にしては気前がいいな。後で返せとか言ってくんじゃねぇぞ」


「言わへんよ。ええから、はよいってきい。急がんとそろそろ始まんで」


 壁に掛けられた振り子時計は、午後4時30分を指している。


 フェスの開始は午後5時から。開始まで30分ほど。猶予はなかった。


「もうこんな時間か。いくぞ」


「……え、えと、さっきのって」


 強引に手を掴まれながらも、さっきのことを尋ねようとする。


 でも、言葉は勢いに消され、手を引かれるがまま向かう場所は一つ。

 

 待ちに待ったみやびフェス大阪の会場だ。質問は終わってからすればいいよね。


 ◇◇◇


 大阪城天守閣東側。壱番ステージ。大手前配水池。


 周囲が木々に囲まれた、芝生広場。サッカー場のような場所。


 天気は曇りだった。でも、ステージは満員。周囲は人で埋め尽くされている。


「……どうなってんだ、ありゃあ」


 その最前列にいるラウラは困惑した様子で尋ねる。


 視線の先、天守閣の頂上には十二単を着た白く長い髪の鬼。


 スポットライトが当たり、その周囲には大量のドローンが飛び交う。


 ステージ周辺にあるモニターには、様々な角度から見える彼女を映し出した。

 

「……い、いる。き、鬼龍院みやびが、て、天守閣の上に」


 鬼の女王、鬼龍院みやび。二次元のキャラ。Vtuber。


 そのはずなのに、天守閣の上には、三次元のキャラが確かに実在していた。


『臣民共よ。余の晴れ姿、見えておるか?』


 聞こえる。近くて遠い場所にいた聞き馴染みのある声。


 マイクで拡張されているけど、確かに、彼女はここにいた。


(ナナコさん……っ)


 体を病に蝕まれながらも、ステージに立っている。


 辛いはずなのに、それを微塵も感じさせない毅然とした振る舞い。


 ライバーとしても、友人としても、観客としても、どの視点から見ても、一流。


「殿下は今日もお美しい」

「殿下は今日もお美しい」

「殿下は今日もお美しい」

「殿下は今日もお美しい」

「殿下は今日もお美しい」

「殿下は今日もお美しい」


 完璧を演じる、普段はポンコツな彼女のライブフェスが今、始まった。

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