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吃音症がVtuberで何が悪い!!!  作者: 木山碧人
第三章 大日本帝国
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第23話 共同作業


 大阪白十字病院。地下一階。特別室。


 そこは、ナナコのために用意された、完全個室。


 ベッドに加え、バスルームや冷蔵庫、テレビがある部屋だった。


「あ、あの……っ!」


 勢い余って、部屋を訪れ、声をかける。


 目の前には、ベッドに横たわるナナコの姿。


 その顔は、あまり血色がいいようには見えなかった。


「なんでしょう? こんな夜更けに」


 なんでもないように、ナナコは返事をする。


 その姿を見ただけで、ぐっと目頭が熱くなってくる。


 全部、打ち明けたい。話したい。理解者になってあげたい。


『本人に悟られたら駄目だよ。余計に、寿命を縮めるだけだから』


 だけど、言えない。情報を共有することはできない。彼女の負担になる。


「ふ、不安で眠れなくて……」


 とっさに出てきたのは、嘘臭い嘘。自分でも、下手だなって思う。


「じゃあ、一緒に作詞でもしませんか? 眠くなるまで」


 ただ、ナナコは気にする素振りを見せず、両手を叩き、微笑みながら言った。


「で、でも……」


 その優しい心遣いが、逆に心を苦しめる。


 生き長らえる時間が伸びるなら、すぐにでも帰りたかった。


「心配無用です。こう見えても、夜型の鬼ですから!」


 でも、そんなことを言われたら、断るわけにはいかなくなった。


 ◇◇◇


 ボールペンの音が広い特別室の中に響く。


 メモ用紙に歌詞を書き殴っていた音だった。


「――ここまでにしておきましょうか」


 しかし、それは急に終わりを告げられる。


「え? こ、ここからが、いいところなんじゃ……」


 歌詞の一番は、すでに完成している。

 

 しかも、メロディがつく前から鳥肌が止まらないデキだ。


「二番はあなたが完成させてください。そうすれば、もっといい曲になります」


 それなのに、彼女は無理難題を押し付けくれる。


 もう一度、作詞をできる機会なんかないかもしれないのに。


「で、できる気がしません。さ、作詞、やったこと、ないんですよ……?」

 

 声がいつもより震える。不安で仕方がなかった。


 この続きを書けだなんて、いくらなんでもハードルが高すぎる。


「心に……意思に従ってください。自分の中にしかないものを書けばいいんです」


 だけど、会話はそこで終わり、ナナコはそれ以上、何も語らなかった。


 ◇◇◇


 大阪白十字病院。地下一階。通路。


「自分の中に、あるもの……」


 とぼとぼと歩きながら、ナナコに言われたことを反芻する。


 思考に没頭しようと、うつむいたまま、曲がり角に差し掛かった瞬間。


「……っ!」


 ドンと肩に衝撃が走り、


「ちっ、いってぇな」


 恐らく、曲がってきた人にぶつかってしまう。


「ご、ごめんなさい!」


 反射的に頭を下げる。目の前には、長い青髪に黒いスーツを着た人。


 顔はボーイッシュだったけど、まつげと髪が長いところから見て、女性だろう。


「くぅ……肩の骨、折れたかもしんねぇな。今のでよぉ」


 すると、女性は痛々しそうに肩を押さえながら、脅してくる。


 どう考えても折れてるようには見えないし、あの程度で折れるとは思えない。


「だ、だったら、診察、受けますか……?」


 ここは病院。しかも、今はナース服を着ている。


 病院関係者になりきること。それが、ベストの反応のはず。


「生憎だけどよ、診察、終わったみたいなんだわ。どうしてくれんの?」


 だけど、相手も一筋縄ではいかず、反論してくる。


「わ、わたしが、頼んでみます」


 実際、森田医師に頼めば、診てもらえるはず。


 専門外だろうけど、レントゲン撮影ぐらいはできると思う。


「……ふーん。ちなみに、お前、何科だ?」

  

 やばい。専門的な質問だ。


 でも、焦るな。ひよるな。堂々としろ。


「わ、わたしは、薬剤師、です。科とかありません」


 あらかじめ考えていた言い訳を伝える。


 普通の人なら、ここで諦めてくれるはずだ。


「なら、アドレナリンの過量投与は体に毒だが、何を投与すれば毒を中和できる」


 まずいまずいまずい。もう一歩踏み込んだ質問。


(わたしは薬剤師。誰が何と言おうと薬剤師なんだ……)


 心を落ち着けるため、自分にそう言い聞かせ、必死に答えを考える。


「……ケタ、ミン?」


 思い出したのは、昔観た殺し屋が主人公のアクション映画の知識。


 アドレナリンの過量投与で暗殺を企てるも、標的が麻薬ケタミンを常用。


 そのせいで、アドレナリンが中和され、標的を殺せず、トラブルになったはず。


「正解だ。千葉薊死刑囚。茶番はいいから、とっとと面貸せ」


 しかし、返ってきたのは、こちらの素性を知る反応。


「ふぇ!? な、なんで……。合ってたのに」


 正解に喜ぶ間もなく、地獄に叩き落とされた気分だった。


 名前と顔が割れている以上、もう誤魔化すことなんてできない。


「はぁ……。薬剤師が腰に刀なんか差してるわけねぇだろ。馬鹿がよ」


 すると、呆れながら返してきた回答は、反論のしようがないほどの正論だった。

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