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吃音症がVtuberで何が悪い!!!  作者: 木山碧人
第三章 大日本帝国
24/72

第22話 大阪に鬼道組あり


 大阪府。道頓堀。鬼道組事務所。組長室。


 最奥には、ショーケースに飾られている赤い水晶玉。


 上座には、黒い執務机に、黒いオフィスチェアがあった。


「ほんで、どの子が一番金になりそうなん?」


 椅子に腰かけるのは、銀髪の大人びた女性。


 後ろ髪は丸く結われ、金のかんざしで彩られている。


 瞳は赤く、灰色の着物に袖を通し、右手にはキセルを持つ。


 そして、その額には、鬼の象徴である、二本の黒い角が生えていた。


「伊勢神宮ってふざけた名前のやつだな。将来性込みなら、こいつが一番伸びる」


 それに答えるのは、黒スーツを着た長い青髪の女性。


 凛とした顔で、中性的な声。ボーイッシュな雰囲気の人物。


 背は高く、すらっとしていて、モデルのような出で立ちをしている。


「アンタが断言するなんて相当やね。……ただ、この子、無所属ちゃうの?」


 手元には、資料。みやびフェス広島に参加したライバーの詳細が書かれている。


「その情報もう古ぃよ。さっき、正式に775プロダクション所属ライバーになった。引き抜くなら染まり切ってない今だろうな。他は親の息がかかりすぎてる。アイドルとはいえ、金を積んでも動かないぐらいの仁義はあるんじゃねぇか」


 つらつらと、仕入れてきたであろう最新の情報を伝えてくる。


 ほんま使える子や。頼んだら、頼んだもの以上のものを持ってきてくれる。


「……やったら、決まりやね。交渉してきてもらえる?」


 コン、とキセルの先に溜まった灰を、ガラス製の灰皿に落とす。


 まずは、ご挨拶や。大阪で興行をする意味を教えてやらんとあかん。


「お安いご用だけどよ、断られたらどうする」


「そんなん言わんでも分かるやろ。はよ行ってきて」


 青髪の女性は「へいへい」と面倒そうに部屋をあとにする。


 その背を見届けると、手元にある鬼龍院みやびの資料がふと目に入る。


「――鬼の女王は二人もいらん。ここで潰させてもらうで」

 

 それを豪快に破り捨てた銀髪の女性――鬼道組組長は秘めた野心を口にした。

 

 ◇◇◇


 大阪府。道頓堀。お好み焼き店。日が陰り出した頃。


 目の前には、大きな鉄板とお好み焼きとコテを持つ男の店員。


 広島に訪れた店より狭く、席はカウンターしかなく、他に客は見えない。


「いいか、坊主。鬼道組には絶対に近づくんじゃないぞ」


 青い制服を着た一心は、広島の時と同じように、そう切り出した。


「……あの、その話、あんまり聞きたくないんですけど」


 正直、嫌な予感がした。この人が話すことは毎回裏目に出ているからだ。


「まぁ聞け。鬼道組は、大阪を中心に活動する指定暴力団。いわゆるヤクザだ。鬼がバックについていると言われているが、真相は不明。というより、真相を知ろうとした隊員の大半はやられた。だから、首を突っ込むんじゃあないぞ」


 でも、聞いてしまった。


 今日の夜道は気をつけないとな。


「……大阪に鬼なんかおらんよ。どこにもな」


 なんて考えていると、黒髪の店員はぽつりと言った。


 髪はボサボサで天然パーマが相まり、わかめのようにうねっている。


 十代後半ぐらいの顔立ちなのに、表情は暗く、疲労感と悲壮感が漂っていた。


(暗い。お店もこの人も暗すぎる。お客さんが来ないわけだ。味は美味しいのに)


 取り分けられた豚肉抜きのお好み焼きを口に入れ、しみじみ思う。


 比較対象は、以前立ち寄った、広島の毛利広島が営むお好み焼き店。


 人気店をこの身で体感しているからこそ、その違いがすぐに理解できた。


「彼は、滅葬志士大阪支部の棟梁、藤堂元気さんだ。鬼道組との抗争で、隊員の大半を失い、この通り、元気がなくなってしまっている。こう見えても、棟梁の中では五本の指に入るほどの実力者だったんだがな」


「ええて、お世辞なんか。それより、必要なもんあったら遠慮なく言うてな」


 完全に自信を失ってしまっている。


 この調子だと、一緒に動いてもらうのは厳しいかもしれない。


「必要なもの、あります!」


 ただ、頭にはあるひらめきが走り、思いつくまま口走る。


「なにが欲しい? 武器か? 宿か?」


「いいえ。お客さんです。お手伝いするのでもっと人を集めましょう!!」


 もう一度、彼に元気になってもらいたい。


 お節介かもしれないけど、それが、今一番欲しいものだった。

 

 ◇◇◇


 大阪白十字病院。地下一階。放射線治療科。診察室。


 奥にはデスクとパソコンがあるカルテ室。そこにアザミはいた。


 服は潜伏するため、白いナース服を着ており、腰には刀を差している。


「も、もっと人を集めないと……」


 電子カルテを管理するパソコンを使い、自身のチャンネルを確認する。

 

【伊勢神宮公式チャンネル チャンネル登録者数221万人】


 775プロダクションに所属したおかげで、かなり増えた。


 でも、足りない。政治に介入するためにも、ツバキさんを元に戻すのにも。


「……?」


 すると、トントントンと小気味のいい音が背後から響く。


「放射線治療科の森田だ。今日の診察が終わったから入ってもいい?」


 律儀で、礼儀正しい人だった。


 お邪魔する立場なのに、断りを入れてくる。


「ど、どうぞ」


 当然、断るもなく、後ろを振り返り、ぎこちない返事をする。


 すると、「失礼するよ」と一言挟み、扉を横にスライドさせ入ってくる。


「やあ。……って、まだやってたのか。インターネットサーフィン」


 片手にはマグカップ。中身は匂いからしてコーヒー。


 仕事終わりの一服。といった雰囲気。服は白衣を着ている。


 身長は高く、おっとりとした顔立ち。髪は茶。男の人にしては襟足が長い。


「……い、いけませんか?」


「ううん。感心しただけだよ。勉強熱心なんだね」


 隣にやってきた森田はマグカップを机に置く。


 近い。近い。近い。もっと距離を取ってほしかった。


「べ、別に、ふ、普通です……」


 緊張する。こんな時、なんて話せばいいか分からない。


 場を和ませるジョークを言えればいいんだけど、とっさには無理だ。


「おっと、嫌われちゃったかな。別に何もしないよ」


 わざとらしく手を上げ、森田は一歩距離を取る。


「じゃ、じゃあ、何しにきたんですか」


 反射的に出てきたのは、冷たい言葉。


(わたしの馬鹿。もっと、他に言い方があったのに)


 言ったことを後悔しつつも、今は反応を待つしかなかった。


「本題か……。もう少し前置きを挟みたかったんだけどな」


「……?」


「これから伝えることは、誰にも言わないって約束してくれる?」


 脳裏によぎるのは一つ。


(このシチュエーションって、まさか、告白?)


 自意識過剰かもしれない。


 でも、この状況でこの台詞はそうに違いなかった。


「は、はい……」


 断るの少し面倒だな。なんて思いながら、覚悟を決める。


「――実は、ナナコさんの寿命はあまり長くないんだ」


「え……」


 しかし、返ってきたのは、愛の告白ではなく、死の宣告だった。

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