第21話 打ち明かす
広島市内。線路沿いにある、駐車場。
背後にはフェンス。目の前にはセーラー服を着た茶髪の女性。
「あ、あの、ここで何を……」
頭に浮かぶのは、最悪の妄想。
ボコられて、車で運ばれて、海に沈められる。
可能性としてなくはない。むしろ、それ以外考えられなかった。
「手合わせ、してもらえる? そっちは武器使ってもええけぇ」
女性の視線は腰にある刀に向けられる。
やっぱりそうだ。ここで殺されちゃうんだ。
「……分かり、ました」
だとしたら余計に、殺されるわけにはいかない。
柄と鞘を握り、納刀されたまま中段に構え、意思を込める。
――こんなところで、死にたくない。
その思うことで、体から青い光が溢れ出し、活力と自信を与えてくれる。
「へぇ……センスも悪うない。ええよ。かかってきい」
対する女性は、拳を構え、赤い光を発している。
自分より明らかに光の量が多い。たぶん、格上だ。
「……ま、参ります!!」
でも、今度は動ける。生きるためには、倒すしかない。
◇◇◇
「もうええ。やめにしよ」
ボコられた。とにかくボコボコにされた。
「はぁ……はぁ……ど、どうして」
でも、死ななかった。生き残った。
車で運ばれてないし、海に沈められてもない。
そうなってもおかしくないほどの、実力差があったのに。
「ここで先日、鬼に襲われた子がおった」
女性は構えを解くと、丸くえぐれた地面に指を差し、語り出す。
「……え?」
関係ない、とは言えない。他人事では済まない話。
まだ気は抜けないのに、不思議と聞き入る態勢に入っていた。
「襲ってきた鬼は土下座してこう言うた『危害は加えません。どうか血を恵んでくれませんか』ってな。ウケるじゃろ。そんで襲われた子が血をあげたらその鬼、何しよったと思う? お礼を言って帰りよったんよ。あり得んじゃろ、そがいな鬼」
彼女はそう続け、ここに呼び出された理由が少し見えてきた。
「……」
ただ、何も言えない。口なんか挟めるわけがない。
滅葬志士は、鬼を殺すことが使命。その前提が崩れかけた。
そんな繊細な問題を、赤の他人が安易に触れていいわけがなかった。
「うちは信じられんかった。じゃから、自分の目で確認するために、ライブに行った。嘘を吹き込まれたと分かった上でな。そこで、目にしたんがトラブルを利用して、ライブを成功させよるあんたと、皆を最後まで楽しませよる鬼の姿じゃ」
これで疑問だった部分が全て繋がった。
モニター破壊後の対応の良さと、引き際の早さ。
最初から分かってたんだ。モニター中に鬼がいないことは。
「で、でも、あ、会いに来たのは、なぜです?」
ただ、わざわざ脅迫めいたことをしてまで会いに来た理由が分からなかった。
「あんた、鬼が受け入れられる世界に変えたいんじゃろ」
心を見透かされているみたいだった。
この人は初めから、全部、分かっていたのかもしれない。
「……は、はい」
だとしたら、嘘なんて無駄だ。ただ、認める。認めて前を向く。
それしかできない。もう、大きな一歩は踏み出してしまったのだから。
「……そうか。変えられるとええね。うちは応援しとるよ」
彼女はなんとも言えない表情で語り、去っていく。
こうして、激動の広島での活動は、無事に終わりを迎えた。
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