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吃音症がVtuberで何が悪い!!!  作者: 木山碧人
第三章 大日本帝国

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第20話 打ち上げ


 フェス翌日の夜。広島県知事公舎一階、リビング。


 長テーブルの上には、赤い液体が入った大量のワイングラス。


 そして、輸血パックと、桶に入った寿司が、所狭しと並べられている。 


「みやびフェス広島の成功を祝し、乾杯せよ、皆の衆!」


 鬼龍院みやびモードに入っているナナコは、そう音頭をとる。 


「「「乾杯!!」」」


 それに従い、全員が手に持つグラスを持ち、心地いい音を鳴らす。


 洋風の室内には、フェスの関係者。少数精鋭の鬼と人が集まっていた。


「こ、これ、血なんじゃ……」


 顔を真っ青にして、グラスを持つのはアザミ。

 

「ワインだ。血は別にあるだろ」


 それを補足するように説明するのは、キクだった。


「で、でも……」


「安心せい。ワインはワイが用意したもの。毒も血も入っとらんよ」


 どうしても気が引ける中、現れたのは、臥龍岡県知事。


 安心させるためか、手に持ったグラスの液体をぐいっと口に流し込んでいた。


「…………そ、そういうことなら」


 お酒は正直言って、あんまり得意じゃない。

 

 でも、せっかくの機会。ちょっとだけなら、大丈夫だよね。


 そう自分に言い聞かせ、ゆっくりとグラスを傾け、赤い液体をすすった。


「味はどうじゃ? 結構いけるじゃろ?」


 何か変な声が聞こえると、天と地が逆転する。


 頭がぐわんぐわんして、地面がぐにゃぐにゃに見えた。


「……へへ。うへへへへへへへへへへへ」


 でも、すごく気分がよい。なんだか、笑いが止まらない。


「母さんっ!!?」


 バタンとかパリンとか音がして、目の前が真っ暗になっていく。


 聞き逃しちゃいけない声が聞こえた気がしたけど、たぶん気のせいだ。


 ◇◇◇


 ずきんと頭が痛む。と同時に少し吐き気がした。


「……うっ」


 重い瞼が開く。視界がぼやける中、目をこすって辺りを見る。


 そこは、宴終わりのリビング。鬼や人は所構わずに床寝をしていた。


「そ、そっか。わたし、あの後……」


 もやがかかったような頭から記憶を手繰り寄せる。


 すぐに思い出した。ワインを口にした瞬間倒れたんだ。


「大丈夫そうか?」


 声をかけてきたのはキク。まだ起きていたみたいだった。


「は、はい。……あの、今、何時ですか?」


「深夜の三時を回ったところだ。水でも飲むか?」


 キクはなぜか、変に優しい。


 普段はもっと冷たい感じなのに。


「い、いいです。でも、少し、風に当たってきますね」


 ともかく、今は一人になりたい。


 あの最高のライブの余韻に浸りたかった。


 ◇◇◇


 広島県知事公舎。中庭。


 そこには、松や庭木がたくさん見える。


 観賞するためか、近くには石造りのベンチがあった。


「空を見上げよ……か。すごかったな。ナナコさん」


 ベンチに腰掛け、ライブを思い出しながら、空を見上げる。


 そこには、半分ほど欠けた月が見えた。余韻に浸るにはバッチリの環境。


「認めとうないけど、同感じゃ」


「……っ!?」


 ぞわっと鳥肌が立った。体が硬直する。


 隣から聞こえたのは、聞き覚えのない女性の声。


「いい? 動いたり、声出したら、外にいる隊員、突入させるけぇな」


 一気に酔いが冷め、血の気が引いていくのが分かった。


(……どうしよう、どうしよう、どうしようっ!)


 滅葬志士。ライブ襲撃が失敗した腹いせに、お礼参りにきたんだ。


「質問。あんたがジェノ君に嘘を吹き込んだ相手ってことでええ?」


 心臓がばくんばくんと脈打つ音が聞こえる。


 誤魔化そうと思えば、誤魔化せるはず。――だけど。


「……」


 無言のまま、首をゆっくり縦に振る。


 誰かが傷つく可能性がある嘘はつけない。


 自分のためでも誤魔化していいわけがなかった。


「ふーん。じゃったら、席外してくれる? 中の鬼には危害加えんけぇ」


 今は従うしかない。もう一度首を縦に振り、深夜の散歩が始まった。

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