表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
吃音症がVtuberで何が悪い!!!  作者: 木山碧人
第三章 大日本帝国
21/72

第19話 みやびフェス広島③

 

 壱番ステージ。弐番ステージ。参番ステージ。


『も、モニターが壊れたのは、え、演出でした! すぐ、代わりが来ます!』


 歌い終わった後、アザミは間髪入れずアナウンスした。


 先の騒動が、あたかもライブパフォーマンスであったかのように。


 ◇◇◇


 モーションキャプチャースタジオ。地下一階。


 壱番ステージに出演する、ライバーが集まる場所。


「社長……今のアドリブで、全ステージの暴動が止まりました」


 声をかけてきたのは、セミロングヘアの水色髪の鬼。

 

 片耳には、通信用のインカムを装着しており。


 みやびフェススタッフと背に白く書かれた黒のTシャツを着ている。


「至急、予備のモニターを配送してください。力を使っても構いません」


 そう指示を飛ばすのは、キャプチャースーツを着たナナコ。


 スタッフは、インカムで連絡を取り合い、慌ただしく部屋を出ていく。


「……まったく、とんでもないことをやってくれますね!!」


 その背を見届けたナナコは、溢れ出る興奮と称賛の声を漏らしていった。


 ◇◇◇


 モーションキャプチャースタジオ。地下三階。


 防音されたこの部屋でも、バタバタと騒がしい足音が伝わってくる。


「これ全部、君の思い描いたシナリオだったってわけ?」


 問いかけるのは、桃瀬桃子。


 彼女の手腕を一番身近で体験した、鬼。

 

「……い、伊勢神宮ちゃんは、3Dモデルがありません、でした」


 配信用の2Dモデルは、絵があれば動かすことができる。


 でも、ライブ用の3Dモデルは別。手間もお金もかなりかかる。


 事務所に所属しない個人のライバーが用意できる代物じゃなかった。


「それで?」


「……そ、それに、桃子さんみたいに、う、歌も踊りも、上手くありません」


「そだね。だから?」


「そ、そんな、わ、わたしが、足を引っ張らない方法を考えたら、これ、でした」


 775プロダクションに所属するライバーは全員3Dモデルを持っている。


 そんなライバーたちがいる中、2Dモデルのキャラが出れば見劣りする。


 というより、ライブとしての質が落ちる。だから、視覚障害を利用した。


「理屈は分かるけどさぁ、それ襲撃を予期してたってこと?」


 気になるのは、決め打ちだったのかどうか。


 もし、予期した程度なら、あまりにも博打すぎる。


 トラブルがなければ、この子は出演できる枠がなかった。


「め、滅葬志士を、モニターに誘導したのは、わ、わたし、です」


 違う。いや、違った。


 これは必然的に起こした事故だったんだ。


「……」


 ライバーとしての才能の片鱗をまざまざと感じる。


 これが、嫉妬、なのかもしんない。


 歌も、踊りも、喋りも、何もかも上をいってるはずなのに。


「ぶ、舞台は今、独壇場。も、桃子さん。会場を温めてくれませんか?」 


 そう複雑な気持ちでいると、回ってきたのは最高のパス。


 これ以上ない活躍の場。一生に一度、あるかないかの大一番。


 嬉しくて体が震える。抱いてしまいたいぐらい、この子が愛おしい。


「……君、名前は?」


 気付けば、そんなことを口走っていた。


 一流と認めた相手にしか聞かないようにしてるのに。


「い、伊勢、神宮……」


 聞かれた当の本人の顔色は、お通夜みたいに暗い。


 名前を忘れられたと思ったのか、筋違いなことを言ってくる。


「違うよ、そっちじゃない。本名」


「ち、千葉薊。千葉県の、千葉に、は、花の薊です」


「うん、覚えた。ライブが成功したら、抱いてあげるから覚悟してね」


 ぼんと爆弾が破裂する前みたいに顔が赤くなってる。


 今すぐ、ここで食べちゃいたくなるほどのかわいい反応だった。


 でも、今は我慢。この感情は、歌に、観客に、最高の舞台にぶつけてやるんだ。


 ◇◇◇


 弐番ステージ。中央公園。最前列。


 そこにあるのは、モニターの残骸と、大量のゴミ袋。


 そして、各所のスピーカーからは、高音域が気持ちいいポップな歌声。


「いい? この残骸おさめたら、撤退するよ」


 広島は、自らが招いた行いの後処理を率先して行っていた。


「ですが、姐さん。待っていれば、今度こそ鬼が……」


 反論するのは、渋々ながら残骸を拾い集める一心だった。


「周りのお客さん見てみい。これ以上、わやできる?」


「……だとしても、滅葬志士の使命は鬼を葬ること。違いますか?」


「そら鬼は敵よ。……じゃけど、広島の皆をここまで楽しませる鬼は敵に思えん」


 郷土愛。広島県を愛するがゆえの変化。心変わり。


 与えられた使命を曲げてしまうほどのことが起きているんだ。


「……棟梁がそうおっしゃるなら、致し方ありません。ですが、いつか、俺が」


 と何かを言いかけながらも、一心はゴミ拾いを進めていった。


 ◇◇◇


 モーションキャプチャースタジオ。地下一階。


「モニターの再設置、完了しました。いつでも、いけます!」


 入ってきたのは、水色髪のスタッフ。


 時間は押しに押しまくり、22時を回っていた。


「よくやってくれました。後は、この私にお任せください!!」


 その言葉に、ライバーや、スタッフが外に出ていく。


 中に残ったのは、一人。今、やるべきことは一つしかない。


『臣民共よ。空を見上げよ! 月がよう見えておろう』


 ここは聖域。誰にも穢されることのない神聖な場所。


『これこそが余が見せたかったもの。そして、余が用意した舞台』


 かつての主人を思い浮かべながら、言の葉に魂を乗せる。


『さぁ、心して聞くがよい。余が歌う最後の曲の名は――――――月光』


 これは戦い。鬼の暗い未来を光で満たすための、優しい戦争だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ