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吃音症がVtuberで何が悪い!!!  作者: 木山碧人
第三章 大日本帝国
20/72

第18話 みやびフェス広島②

 

 広島市内。中央公園。弐番ステージ。最前列SS席。


 サッカーグラウンドほどある公園は満員。現在三曲目の準備中。


 目の前には、巨大な四角いモニターがあり、それを大勢の人が囲んでいる。


「なかなかの歌唱力だ。心にずしんと響くものがある」


「楽しんどる場合? ここに来た目的、忘れたわけやないよね?」


 そこには、制服を着た一心と、セーラー服を着た広島。


 そして、滅葬志士の隊員、十二名が固まり、モニターを包囲している。


「もちろんです、姐さん。……ただ、この中に本当に鬼がいるんですかね」


「何を言いよるの。この子がそうじゃ言ったら、そうに決まっとるじゃろ」


 そう言って、広島に、頭をわしゃわしゃと撫でられるのは、ジェノだった。


「……い、痛いです」


 この一週間何もしなかったわけじゃない。


 広島との信頼関係の構築。それに心血を注いだ。


「だったら、今すぐにでも――」


「待ち。叩くなら、徹底的にせんと意味ない」


「……かもしれませんが、具体的には、いつでしょう?」


「そんなん決まっとる。ぶちまわすんは最後の曲。ピークの時じゃ」


 後は、鬼が出るか蛇が出るか。事態が動いた時に全てが決まる。


 ◇◇◇


 ライブフェスのセットリストは全部で15曲。


 現在、曲は順調に進行し、14曲目が終わりを迎える。


 壱番ステージ。同時接続数424万人

 

 弐番ステージ。同時接続数223万人。


 参番ステージ。同時接続数72万人。


 15曲目はみやびのターン。これ以上、数字を稼ぎようがない。

 

 全員が死力を尽くして、策を講じて失敗したなら、諦めもついた。


 ――それなのに。


「……君さぁ、あーしたちのこと舐めてるの?」


「な、なんのこと、です?」


「フェスは次の社長で終わり。いつ歌うのさ。この作戦の立案者様は」


 これまでは、この子がどうにかすると思って耐えてきた。


 でも、もう、我慢できない。敗北は濃厚。空気なんて読めない。


「も、もうすぐです。たぶん……」


「いや、だから、あーしたちの出番は終わりだって――」


 心に募ったイライラを吐き出しかけた時、異変が起きる。


 ◇◇◇


 壱番ステージ。弐番ステージ。参番ステージ。


 時刻は、20時を回り、日は陰り、辺りはライトアップされる頃。


『次が最後の曲となる。心して聞くとよい――』


 と、みやびが曲名を言いかけた時、全ての巨大モニターの映像が停止した。


 ◇◇◇


 壱番ステージ。広島城。本丸御殿広間跡。


 そこに作られた城に見立てた土台。その上には巨大モニター。


 広島城内のどこにいても、モニターが確認できるように、考えられた設計。


「……斬り捨て御免」


 しかし、それは滅葬志士の一人。


 青い制服を着た陰気そうな男が刀を振るい、両断。


 エンタメを提供するための機材が、ガラクタと化してしまっている。


 ◇◇◇


 弐番ステージ。中央公園。最前列。 


「あー、手が滑ってしもうた」


 振るわれたのは、拳。広島が放った一撃。


 それにより、モニターが割れ、辺りは騒然としていた。


 ◇◇◇


 参番ステージ。広島市民球場跡地。

 

 中央には、巨大なモニター。辺りには観客で埋まっている。


「成敗、成敗、成敗!」


 その中で一人、青い制服を着た様子のおかしい男が、跳ぶ。


「鬼は成敗!!!」


 そして、男は、モニターの頂点に到達すると、踵を落とした。


 ガシャンと音を立て、モニターは割れ、中身が露わとなっていく。


 ◇◇◇


 6日前。広島県知事公舎、二階、和室。


 九畳ほどの部屋。近くには敷布団が置かれている。


『ぜ、全ステージのモニターを、ど、同時に破壊するよう誘導してください』


 右手にはまる黒い腕輪――リンカー。


 それを使い、連絡するのは、青いジャージを着たアザミ。


『でも、中に鬼の皆さんがいるんじゃ?』


 応答するのは、ジェノ。


 ガンズオブインフェルノを共に生き抜いた仲間。

 

『か、構いません。後は、こ、こっちで、なんとか、します』


 彼の長所と短所は、見ず知らずの人よりは理解してるつもりだ。


 ◇◇◇


 弐番ステージ。中央公園。巨大モニター残骸跡。


 観客は距離を取りながら、ブーイングの声が聞こえてくる。


「おらんね。どこにも」


 ぽつりとこぼすのは、拳を振るった広島。


 そこには、機械の山と、モニターの破片だけが残る。


「姐さん……壱番ステージも、参番ステージも、もぬけの殻のようです」


 携帯の画面を見つめ、報告するのは一心。


「よかった……」


 そして、ぽろりと本音をこぼしたのはジェノだった。


「坊主、お前……裏切ったのか!」


 すると、一心は胸倉をつかみ、怒りをぶつけてくる。


「やめたり。この子が嘘をつけん性格なのは分かるじゃろ」


「で、ですが!」


「問題は、この子に嘘を吹き込んだやつがおる、ちゅうことじゃ」


 広島は動じない。


 向き合うべき敵をただ一人、見据えていた。


 ◇◇◇

 

 モーションキャプチャースタジオ。


 広島市内にあるビルの地下に作られた空間。


 その地下三階。参番ステージのライバーたちはそこにいた。


「全ステージのモニターが観客に壊されたぁ!?」


 携帯に耳を当て、怒号を浴びせるのは、桃子だった。

 

 その反応を傍らで見守っているアザミもまた、携帯を耳に当てている。 


「き、キクさん、聞こえますか。て、手筈通りにお願いします」


 ◇◇◇


 ナナコスタジオ。コントロールルーム。


 辺りには、複数のデスクトップパソコンとモニター。


 それらは全て、フェスと配信を電子的に制御するために使われている。


「了解した」


 そこにいたのは、黒服にサングラスをつけた、キク。


 デスクに腰かけ、キーボードを叩きつつ、携帯の通話を終了する。


「さて、ここからが腕の見せどころ」


 モニターは映像を伝えるもの。


 観客に音を届ける手段は別にある。


「――音響機器は俺の領域だ。目にもの見せてやる」


 カターンと心地のいい音色と共に、キクはエンターキーを押した。


 ◇◇◇


 弐番ステージ。最前列。


 モニターの残骸の上には、広島がいた。


「みんな、聞いて! 775プロダクションに属するやつらは全員、鬼! 人類の敵なんじゃ! こいつらに金を落とすことは、鬼の増殖に加担することになる! もう、このグループに二度と関わらんといて!!!」


 行われるのはヘイトスピーチ。


 真偽はどうであれ、信用を失わせるための行為。


「知らねーよ! クソアンチが!!」


「そうじゃそうじゃ!! 邪魔すんなカス!!」


「俺たちはライブを見に来たんだ!! 鬼なんて知るか!!!」


 しかし、観客の不満は止まらない。


 むしろ、明確な敵が現れ、さらに悪化しようとしていた。


「……あーもう、文句あるやつはかかってきい! うちが相手したる!!」


 広島は治めるどころか、火に油を注ぐような言葉を発し。


「上等だぁ、ゴラァ!!」


「しばいたるから覚悟しとけよ、われ!!!」


「おーい!! こいつがモニター割りおった大たわけらしいぞ!!」


 本格的な暴動が始まろうとしていた。そんな時。

 

『――――――――――――――――――――――――』


 響いたのは、歌声。一切の淀みなく紡がれる音色。


 心に染み込んでくるようなウィスパーボイス。間違いない。この声は。


「アザミさんっ!!」


 そのおかげだったのかは、分からない。


「「「……」」」」

 

 場はしんと静まり返り。確かに、暴動は止まった。

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