表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
吃音症がVtuberで何が悪い!!!  作者: 木山碧人
第三章 大日本帝国
13/72

第11話 意思の力②


 地下闘技場。


「くそっ、くそっ、くそっ!!」


 右フック、左ストレート、右アッパーカット。

 

 型なんてない。がむしゃらに、ジェノは拳を振るっていく。


「……」


 決して、空振っても、避けられているわけでもない。


 アミの腹に、腕に、顎に命中している。それなのに怯みもしない。


(あの頃と、何も変わらないのか、俺は……俺は……っ!!!)


 修羅場を自分の力で何度も潜り抜けた自信はある。


 だけど、強くなってない。あの頃からまるで変わってない。


 強くなった気でいただけなんだ。武器の力を自分の力だと勘違いして。


「あぁ、人はなんと愚かなのでしょう。動物でさえ強者を避けるというのに」


 拳からは血が滴り、痛みを通り越して、痛みを感じない。


 アミはそれを涼しい顔をして嘆いている。本気を出すと言った癖に。


(がむしゃらに殴っても駄目だ。考えろ。考えろ。それしか能がないんだから)


 相手とその周囲は十分観察した。


 透明の壁みたいな初見殺しの手品じゃない。


 鎧対裸ぐらいの絶望的な差。何かが明らかに欠けている。


(相手と周囲を見ても解決できないなら……)


 自分を見る。赤く腫れ、血が滴る拳。


 そして、その次に目に入ったのは、黒い腕輪。


 リンカー。思念を使い、外部との連絡が取れる代物。


(これだ。これしかない。問題は誰に連絡を取るか……)


「おや? もう折れましたか?」


 こちらの考えも知らず、アミは煽り立ててくる。


 その間に、連絡を取る相手は決まった。上手く保証はない。


「一つだけ、約束してもらえませんか」


「うかがいます。私はこう見えて慈悲深いので」


「そこから一歩でも動かせたら、俺の勝ちにしてください」


 だけど、試す価値はあるんだ。


 この条件はなんとしてでも、通したい。


「いいでしょう。その代わり、動かなればそちらの負けでよろしいですか?」


「構いません」


 よし、通った。だったら、後の行動は決まっている。

 

『神父さん。聞こえているなら、返事をしてください』


 神父。所属する組織『ブラックスワン』にいる直属の上司。


 彼は誓約を交わし、貸しを作った相手にとある能力を行使できる。


『なんだ』


 その能力とは。


『俺を操って、目の前にいる人を一歩だけ、動かしてくれませんか?』


 人体の遠隔操作能力。


 可能だと聞いただけで見たことはない。


 だけど、今ある手札の中で、最も勝率が高い切り札だった。


『貸し一つだぞ』


『はい。くれぐれも殺さないでくださいね』


 その言葉を最後に、立ち眩みが起きたように、体の力がふっと抜けた。


 ◇◇◇


 二度、瞬きをする。それだけで状況は飲み込めた。


「滅葬志士。それも棟梁クラスが相手か。こいつが敵わんわけだ」


 ジェノの体を支配する神父は、冷静に状況を分析し、告げる。


「ペルソナ……。内に秘めた強いあなたを呼び出した」


「不服か?」


「率直に申しますと、底が見えて、少し興醒めといったところですね」


 意思力を多少使える程度で舐められているらしい。


 しかも、反撃するための拳もひどく痛んでしまっている。


 ――だが。


「死なないことを神に祈るといい」


 こいつの体の期待値は神話級だ。


「何を、いっ、て……っ!!!??」


 体の奥底にある導火線に火をつける感覚。


 内に秘められた思いの強さが、力に変わっていき。


 桁外れな生命エネルギー。銀色の光が体から大量に溢れ出した。


「底が……見えない……っ!!?」


 相手は驚愕した顔で、たたらを踏み、一歩後退している。


「お前の負けだ」


 役目は終えた。これで貸しの一つ得られるなら、安いものだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ