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吃音症がVtuberで何が悪い!!!  作者: 木山碧人
第三章 大日本帝国
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第9話 セッション②


 応接室にある革製の椅子にアザミはそっと腰かける。


「もみじ饅頭でも食べるか?」


 県知事は、机の菓子受け皿から、もみじ形の饅頭を渡してくる。


「け、結構です」


 今は何も喉を通る気がしない。


 戦々恐々としながら、丁重に断りを入れた。


「……いらんか。ほんじゃあ、早速、本題に入らしてもらおうか」


 県知事は少し寂しそうな顔を見せ、話を進める。


(きっと、いや絶対、値段交渉されるんだ……)


 耳を塞ぎたくなるけど、聞かないわけにはいかない。


「鬼を生かすか絶やすか。この場で選べるとしたらどちらを選ぶ?」


 びくびくしながら耳を澄ませ、聞こえてきたのは、想像とは違うものだった。


「……え?」


「ワイは絶やすべきじゃと考えとる。鬼はいわば、流行り病と同じよ。いっぺん広まりゃあ、際限なく増え続ける。その原因となる鬼を絶やせるのでありゃあ、絶やすべきじゃ。人のためを思やあ、特にな」


 考えが追いつく前に、県知事は間髪入れず持論を語った。

 

 身売りの話じゃなかったのは良かった。だけど、もやもやする。


「お、鬼だから悪いは、き、決めつけです」

 

 気付けば、もやもやを晴らすように口が勝手に動いていた。

 

「であれば、どう良し悪しを定める。具体的な解決策はあるのか?」


 後先考えずに話したせいか、考えがまとまらない。


 考えがあっても、県知事みたいにすらすらと話すことはできない。


 ――それでも。


「た、例えば、裁判をする、とか」


「人より強い鬼が、出頭命令に応じるとでも?」


「な、ナナコさんみたいな、人間に親交がある鬼を、公安にする」


 深く考えてもなかったのに、自然とあふれ出てくる。


 なんなの、これ。心地いいような、気持ちが悪いような変な感覚。


「鬼の食糧問題。血の確保はどうする」


「け、献血に、お、お金を払えば足りる、かも」


「……実現するためには何をクリアせねばならんかな?」


 恐らくここが重要。一番のネック。


 絶対に超えなければならない問題点。


「憲法、9条改正……」


 座敷で行われた二人の会話を思い出す。


 鬼が人権を得るためには、避けては通れない道だった。


「うむ。若者の割に、筋がいい。それをお前さんの公約としようか」


「え、えっと、どういうこと、です?」


 気持ち悪いぐらい、話がトントン拍子に進んでいた。


 この人、さっきまで鬼否定派だったのに、意味が分からない。


「一か月後、東京の衆議院選挙に出馬してもらえんか」


「……えぇ!? ……わ、わたしが、せ、せ、せ、選挙!?」


 どもりがいつもよりひどくなり、椅子から転げ落ちてしまう。


 あまりにも重すぎる提案。今置かれてる状況に、全く理解が追いつかない。


「そうじゃ。こちらが頼む立場でなんじゃが、世間に認知され、当選濃厚となるラインとして、お前さんには、鬼龍院みやびの登録者数950万人を超えてもらう。帝国における鬼と人の人種問題を解決するために、ひと肌脱いでくれんか?」


 そこで、今までのやり取りの意味がようやく分かった。


 問答の先の景色。それを実現するための課題をくれているんだ。


 答えは一つ。言わされたからやるんじゃない。アザミは自らの意思で口にする。


「……や、やります。わ、わたしに、できることなら、やらせてください!」

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