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Aの学校の噂

作者: 村嶋


自分が小学校の時の話なんですけど。

校内で流行ってる怪談があって。

うちはいわゆる七不思議なんていうものはなくて、自分の知っている限りでは学校の怪談はそれ一つだけでした。

それは、「異世界に行く方法」っていうやつで。

ほら、インターネットでもあるでしょ、エレベーターとか色々操作したりして…。あれの類です。

異世界ってなんなんだって話ですよね、今ほど異世界転生とか流行ってなかったし、みんなどういうのを想像してたんだろう。


話がずれました。

それの詳細ですが、「職員室に後ろから入ると異世界に行ってしまう」という内容でした。

…笑ってません? いやいいですけど。小学生なんてそんなもんなんじゃないですか。

簡単だから肝試し的に流行ってました。結構実行する子も多くて。

どうなったかって…そりゃ先生にめちゃくちゃ怒られてましたよ。しょうもない怪談だし、職員室に勝手に入ってるし、というか後ろ向きだし。

実際何回も「しょうもない怪談を流すな、職員室に後ろ向きで入室するな」って周知されてました。

それでも皆止めないんですよね。


これで終わってくれたらまあ、子供の時の可愛い笑い話って感じでしょ。

自分はそういうことする奴らのこと結構馬鹿にしてる感じでしたけど、ある時思ったんです。

それは、いくらなんでも流行りが長すぎないかということです。

子供って冷めるの早いでしょ。まあ今も昔もトイレの花子さんとかそういうのはありますけど、この怪談に関しては出所不明なんです。外では聞いたこともない、本で読んだとかそういうのでもない。何か突発的に発生してずっと止まないなんて変じゃないですか?


5年の春だったかなあ、学年変わってちょっと噂が静かになったことがあったんです。

でも自分はなんとなく、また流行りの波が来るような気がしていました。だからちょっと調べてみようかな…なんて気になった、もし噂の出所とか、そうじゃなくても広まり方とか見られれば…っていう気持ちでした。去年まで夏の自由研究に苦戦していたんで、それの種にもなりそうでしたし。


動きがあったのは5月に入ってからでした。突然全校集会で先の怪談の話が出たんです。「こうこうこういう噂があって、でもそれは嘘で、だから実行するな」という注意喚起でした。

でもその時までリサーチしていた自分は、今年度入ってから誰もそんなことしてないことを知っていました。

誓って誰もやってないです。自分の小学校は学年合同でクラスが編成されるほどではありませんが、そこまで人数がいなかったので、注意深く聞き取りというか聞き耳を立ててというか、とにかくそういう行動があったかどうかを把握するのは難しいことではなかったんです。

信じられないですか? じゃあ…自分が有能だからできたってことで。

つまり、この怪談は先生の側で共有されていて、先生の手で流布されているんですね。

意味わかんないでしょ。自分も意味わかんないなって思いました。


まあまあその年も流行りましたね。またかよって思わなくもないけど、1年とかは初めて聞くことなんで。

まあ、そんなことしても余計な仕事増やすだけで何も得がないのにって感じです。手間を増やしてるだけでしょ。でも向こうは大人だし、仕事のことだし、きっと目的があるはずだと思いました。


なんとなく訳が見えてきたのは夏休みの前でした。誰かが、その話を親にしたみたいでした。

そのおかげで、親に対しては釈明の場が設けられたみたいです。

みたいですって、子供はその辺いまいちわからなかったんですよね。箝口令っていうんでしょうか、皆、親は誰も教えてくれなかったと言っていました。


ここからは、自分が親から聞いたことです。

端的に申し上げますと、あれはでっちあげの噂話にすぎないです。まあ想像通りですけど。

…で、何のためにかって、「隠すため」だそうです。


まず、この嘘を春のうちに学校全体に共有して、学校の怖い話を統率しようという働きかけが毎年行われています。これは、毎年新しい先生が来るたびに共有されて実行されるそうです。先生方は、これが「われわれが真っ赤な嘘だと言い張ってるのに、皆が信じている、存在するように感じられるもの」として振る舞うきまりです。

これに夢中になれば、他の話は出回らないということなんでしょうね。確かに、皆ミーハーでしょ。


実は、この試みが始まるまで、学校には他に怪談の類がいくつかあったらしいです。で、それの中の一つが本当にとんでもない、というか、実際に何かあったみたいなんです。

断定するわけじゃないですけど、自分が知ってる中では、その時からさらに15年くらい前、……何かあったんだと思ってます。

その頃まだ生まれてないだろって? そうですけど。でも職員室とか、資料室でみたんですけど、この年だけアルバムとか記録がほとんどないんですよ。毎年の記録なら基本同じくらい残ってないとおかしいし…そんな昔の話でもないでしょ? 写真なんて撮らなかったなんてその頃もう言える時代じゃないって。


で、気になるのはそれが何なのか、それは教えてもらえませんでした。親も知らないと言い張ってて。まあ先生もわざわざ正体までは明かさないかと思います。先生の方でももしかしてちゃんとは共有されてないかも知れませんね。


……自分は、むしろそのほうが怖いだろって思いました。今も思います。だって何かとんでもない秘密がある中で、それの正体を知らないまま、自衛の手段もなく6年も生活してたんです。気持ち悪いって。

でもうっかりやろうとする人が出ないように、完全に秘匿しようということなんでしょうね。


卒業してから、小学校のことは何も耳にしてません。まだあの手口で隠し通してるか、それとも何か動きがあったのか、知り合いがいないので知る手段もないです。

子供が入学したらわかるかもしれませんよ、そんな危ない状態のところには入れられない? その通りかも。


自分がこの街を離れたので、やっとお話することができました。場所については、言いたくありません。

日間・週間・月間ランクインありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  ユニークな構成のホラーとして読みました。  わかりやすい恐怖演出は無かったのに、 「ドーナツの中心には穴があるが、穴自体には触れられないから、辺縁を触れることで私たちは穴を見るのだ」  …
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