溺愛を望むなら
「私、溺愛というものに非常に興味があるのです」
私は目の前にいる、私の婚約者殿にそう伝えてみた。
私、フィール侯爵家のヴィヴィアンと目の前にいる婚約者、リーザル公爵家のカイン様は政略的な婚約関係にある。
この婚約が成立したのはまだ私とカイン様が八歳の頃。
詳しい事情は私には伝えられなかったけど、お互いの家に利益になる為結ばれたことは疑いようがない。
私とカイン様では釣り合いが………爵位的には良いのだが、見た目の問題で取れないからだ。
カイン様は幼い頃からそれはそれは可愛らしくあられて、でも最近ではそこに、男性らしい逞しさも重ねられ金色の髪に青い瞳など、もはや絵本に出てくる王子様と言っても誰も文句は言わないレベルに達しているのだ。
しかも付け加えるのであれば文武両道、文句のつけようもない。
対する私、ヴィヴィアンといえば、趣味は読書。
起きている間はひたすら読み続ける。
その本は種類を選ばず、書というものは手当たり次第読み進めていく。
そして問題の見た目だが………ちまっとしている。
要するに小さい。
現在私とカイン様は十八歳。
今年通っている学園を卒業する予定だ。
なのに私の身長は155cm、対するカイン様は180cm、もう伸びしろはない。
これで私も金髪、青い瞳とお姫様のような見た目なら良かったのだが、代々我が家は安定の栗毛だ。
瞳も同様。
一緒にいると王子様と小間使いにしか見えない。
そして最近ある噂が学園に流れている。
『カイン様と留学生の隣国の王女様が互いに想い合っている』
という噂が。
はっきり言って隣国の第三王女様であるプリシラ様は絵本の中から飛び出して来たと言っても過言ではない、正真正銘何処から見ても可愛らしいお姫様だ。
私も二人が話している姿を見たことがあるが、正に王子と姫の共演。
目の保養というやつである。
私だって気付いていたのだ、こんな見た目の私ではカイン様に釣り合わないって。
………早く婚約をなかったことにしないとって。
でも、私は…………当たり前のようにカイン様に恋してしまっている。
だって、カイン様よりときめく人に会ったことがないんだもん。
小さい頃からあんなに素敵な人が近くにいたら、他の人なんて目に入らない。
だから、決めたのだ。
最後にとっておきのワガママを言って、あわよくばそれを叶えてもらって、それでカイン様の婚約者の座を諦めようと。
「私、溺愛というものに非常に興味があるのです」
それがこの言葉に繋がる。
私のこの言葉に目の前にいるカイン様は不思議そうな顔をしているが、そんな顔も素敵です。
「私は最近話題の恋愛小説を読んでいたのですが、その中で主人公の女性が婚約者から溺愛されているという話があり、是非とも一度私もその溺愛というものをされてみたいと思いまして………」
私の突拍子も無い発言に、カイン様が近くにいたカイン様の幼馴染で、将来の執事予定のジルさんに目で何か訴えかけている。
やっぱり政略的婚約者である私の、こんな馬鹿みたいなお願いは叶えてもらえないか〜。
まあ、でもこんな発言をする婚約者に見切りをつけて隣国の王女様との仲を進める良いキッカケにはなれるかもしれない。
私は、カイン様のことが好きだが自分に縛り付けるよりも彼に幸せになってもらいたいのだ。
ならば、さっさと先ほどの発言は撤回してこの場を撤退しましょう。
「………困らせてしまって申し訳ございません。戯言だと笑って下さい。もう、こんなことは申しませんので……」
「ダメだ! いや!……… あ、その、大きな声を出してすまない。あ、あれだ。その、婚約者の願いぐらい叶えられなければ領地など将来治めることなど出来ないからな………その、ヴィヴィアンが望むのであれば、溺愛というものをするのも………」
私の前言撤回の言葉をカイン様が遮った。
しかも、なんだかわからないけど『溺愛』してくれる流れが………。
なんて優しい人なんだろう。
「カイン様、ご無理はなさらないで下さい」
「無理などしていない! ………いや、何度も大声を出してすまない。だ、大丈夫だ。必ず成功させるから。ただ、心の準備もあるから『溺愛』は明日からで良いか? 」
「本当にご無理はなさらないで下さいね。私としてはカイン様がよろしければいつからでも構いませんわ。それに期間も短くてかまわな……」
「大丈夫だ! 明日からきっちりするからな! 期間は気にしなくて良い」
こうして私はカイン様から『溺愛』していただく約束を取り付けた。
「なあ、ジルさっきの話は夢ではないよな? 」
幼馴染兼主人であるカインがポーッとした締まりのない顔で俺に問いかける。
「………ああ、夢ではなさそうだぞ。ところでその締まりのない顔どうにかならないですか?カイン様」
「二人だけだからカインで良い。それよりやっぱり夢じゃないんだな。………おい、明日から俺の好きに振る舞って良いってことだよな? 」
「………好きにって。まあ、そうなっちゃいますよね? 」
「なあ、溺愛ってどこまで許されるんだ? とりあえず溺愛なんだから一緒にいるときはずっと膝の上に乗せて良いし、く、く、口付けだって良いんだよな? あ、あと、朝も一緒に登校して、昼も二人で食べて帰りは一緒に帰って、なんならもううちに住んで良いよな? そしたらもう結婚しても良いんじゃないか? 」
「普通に駄目だろ………」
しかし、この婚約者が絡むと途端にポンコツになる主人は俺の話を聞いちゃいない。
明日からの生活が楽しみ過ぎておかしくなっている。
―――次の日。
いつものように学院へ向かう準備をしていると、侍女のリオが慌ただしく私の部屋に駆け込んできた。
「どうしたの、リオ? そんなに慌てて来るなんて」
「も、申し訳ございませんお嬢様、し、しかし緊急事態が! 」
緊急事態って………まさか家族に何かあったの?!
「そんなに慌てるなんて………もしかして何か良く無いことでも起きたの? 」
「い、いえ! 良くないというよりかは良いと言いますか………あの! お嬢様の婚約者であられるカイン様がお見えになっていて、お嬢様をお待ちになっておられます! 」
「え!? 」
私は驚きの声をあげてしまった。
しかしとっさに昨日の話を思い出した、もしかしてこれも『溺愛』の一部なのかもと。
「と、とりあえずお待たせするわけにもいかないし、ちょうど準備も終わっているからカイン様のところに案内してちょうだい! 」
私はリオに案内されてカイン様の元に急いだ。
「お、おはようございます。お待たせして申し訳ございません………」
私の挨拶が終わる前に私は何か温かい物に包まれた。
「ああ、おはようヴィー。今日も可愛いな。さあ、一緒に学校へ行こう」
???
え? 何が起きているの?
私は自分の身に起きていることを確認する。
部屋に入ってカイン様に挨拶したら、抱きしめられて、今まで呼ばれたことのない愛称で呼ばれ、頬にキスをされ、そのままお姫様抱っこされ、カイン様の馬車に運ばれている。
え? ちょ、ちょっと理解が追いつかない。
きっと溺愛の一環なんだろうけど、いきなりこんなに詰め込まれるの?!
カイン様のサービス精神が神レベルなんですが………。
そんなことを考えているうちに馬車の中ではカイン様の膝に乗せられて、カイン様の胸元に顔を寄せている状態になっている。
あ、駄目だ、何も考えられない。
なんかカイン様が私の髪に頬擦りしながら「可愛い」「良い匂い」「幸せだ」なんて呟いている。
………ナニコレ、私の想定していた溺愛の百倍凄いんですけど。
「ヴィー、残念だけど学校に着いてしまったようだ。私がエスコートするから一緒に教室へ行こう」
私が現実逃避しているうちに学校へ着いたようだ。
どうやら膝の上から解放されるらしい。
「あ、ありがとうございます」
私はカイン様にお礼を言って馬車から降りた。
降りるとすぐにカイン様が、私の隣にぴったりくっついて手を繋いできた、しかもこれはいわゆる恋人繋ぎと呼ばれる繋ぎ方!?
確かに溺愛を希望しましたが、今までそういったことが全くなかった身として正直頭がついていってないです、カイン様。
それに私たちの様子を見た周りの人たちがみんな驚いた顔をしている。
それはそうですよ、昨日までと全く違うのだから。
私が隣のカイン様を見上げるとそれに気づいたカイン様が、蕩けるような笑顔で私を見つめてくる。
………私はカイン様に魔法でもかけてしまったのでしょうか?
それから一週間経った。
朝から帰りまでカイン様は常に私と一緒にいた。
なんなら帰りも気を抜くと、カイン様の屋敷に向かわれる。
ここ一週間帰りは授業が終わるとすぐに馬車に向かい、私の家に送ってくれてそのままお茶を一緒にして、そのお茶を飲む時もずっと私を膝の上に乗せ、お菓子もカイン様自ら食べさせてくれた。
でもさすがに一週間、カイン様が授業が終わってすぐ帰るのは支障が出て来た。
だってカイン様、この学校の生徒会副会長なんですもの。
因みに会長はこの国の第二王子のバルバトス様。
最初は面白そうにしていたバルバトス様もさすがに一週間も仕事をしないカイン様にキレた。
今日はカイン様がバルバトス様に引きずられて生徒会の仕事をしに行っている、私は先に帰っていた方が良いと思いその旨をカイン様に伝えたところ、物凄く悲しい顔をされたので図書室で待っていることを約束した。
『あら、カイン様の婚約者様じゃない? こんな目立たないところにいるなんて、ついにカイン様に捨てられたのかしら? 』
私の目の前にはニコニコ微笑む隣国の王女様、プリシラ様がいらっしゃる。
だけど、目の前にいるプリシラ様の表情とセリフが合っていない。
私が首を傾げると
「ふふ、ごめんなさい、母国語で話してしまったわ。今日はカイン様は一緒ではないのかしら? 」
なるほど、この方私が隣国の言葉がわからないと思っているのね。
王女様の側にいる一緒に留学して来た方々もそう思っているようだ。
見た目はカイン様といるとお似合いだと思っていたけど、性格は………。
「こんにちはプリシラ様。カイン様は生徒会の仕事に行っています。その間こちらで待つように言われていますので」
私がそう言うとプリシラ様はより一層笑みを深めて
「そうなのですね。………そうそう、もうすぐ王城で夜会が開かれるのですがそこで喜ばしい発表があると思うの。是非参加して下さいね」
そう言うとプリシラ様とご学友の方々は去って行った。
………喜ばしいこと、あの様子だともしかしたらカイン様とプリシラ様の婚約が結ばれるのかもしれない。
私には何も言って来ないけどカイン様の家とうちとでは話がついているのかも。
そう考えると今回の『溺愛』も説明が付く。
長い婚約期間への労り、せめてもの償いと言うところか。
プリシラ様の性格は微妙かもしれないが、貴族であればそれもしょうがない。
見た目はバッチリ合っているのだから………。
その後もカイン様の『溺愛』は継続された。
私が頼んだことだけど、プリシラ様に誤解されてしまうのではないだろうか。
最近の私は二人の仲が壊れてしまうのではないかと、自分の所為なのにそればかり気にしてしまう。
………もう、良いじゃない、作られた『溺愛』なんて所詮幻なんだから、虚しくなるだけ。
始まりが私なのだから責任持って終わらせないと。
夜会を三日後に控えた日、私はカイン様の屋敷にいつものようにお茶に呼ばれていた。
………今日で終わらせよう。
いつもはすぐに捕まり膝の上に乗せられるが、今日は頑なにそれを拒否した。
それによってカイン様が涙目になっているが、今の私はそれどころではない
「カイン様、今日はお話があります」
「ヴィーの話ならいつでも聞くけど、何で膝に乗ってくれないんだい? 」
まだ諦めてなかったんだ………。
そんなに頑張って『溺愛』しなくたって、私はちょっと触れ合えるぐらいで嬉しいのに………そんなに婚約解消に後ろめたさを感じるだなんて。
「カイン様………私からお願いした『溺愛』ですが、今日で終了していただいて大丈夫です」
私の言葉に先程涙目になっていたカイン様の両目から涙が溢れ出した。
しかもちょっとじゃない………号泣だ。
「え? あ、な、何を言っているんだヴィー? な、何でそんなこと言うんだ? も、もしかして上手に『溺愛』出来ていなかったのか? が、頑張るから! まだまだ出来ていないこといっぱいあるから! 終了だなんて言わないでくれ!! 」
泣きながらカイン様が私の方へやって来る。
でも私はそこからすぐに後ろに下がり、部屋のドアへと向かった。
「大丈夫です。カイン様の罪の意識が強いのはわかっていますわ。だからこそ、私はあなたを解放してあげたいの。………どうぞ、プリシラ様と幸せになって下さいね。今まで本当にありがとうございました。あなたと過ごした十年は私の宝物です。では、さようなら」
私はそう言うと部屋から飛び出した。
淑女としてあるまじきことだが今は許してほしい。
このままだと私も泣いてしまう。
後ろからカイン様の声が聞こえて来るが誰かが止めてくれているようだ。
私はそのまま自分の家の馬車に乗って家に帰った。
夜会の日、行きたくはないけどそうもいかない。
いつもならエスコートはカイン様にお願いするのだが、今日プリシラ様と婚約発表があるのであればそんなことさせられない。
何度かお父様に、まだ婚約解消の連絡は無いのですか? と聞いているが期待通りの返事は返ってこない。
ただ、今日のエスコートはお父様が引き受けてくれた。
今日の為に私の部屋に用意されていたドレスは確実にカイン様の色をしている。
青いドレスに金糸の刺繍、まだ婚約者とはいえ解消まで秒読みの私にこれを着る勇気はない。
私は侍女に頼み無難な色のドレスを身に纏うことにした。
アクセサリーもカイン様にいただいていた物は身に付けないよう気をつける。
私の姿を見たお父様は一言
「………拗れているな」と呟いた。
会場である王城にお父様のエスコートで入場する。
だけどお父様も挨拶する人がいるということですぐに別行動。
私は目立たないように出来るだけ隅の方へと進んで行こうとしたのだが、その途中で声をかけられた。
「あら、今日はカイン様にエスコートされていないのですね? それにドレスも随分………」
そう言いながらプリシラ様が私に近付いて来た。
プリシラ様は今日私に用意されていたドレスと同じ配色のドレスを纏っている………カイン様のお色だ。
「御機嫌ようプリシラ様。エスコートは父にお願いしました」
『ふふ、まあ弁えているのね。さあ、早くカイン様を探して決断していただかないと』
また笑顔でサラッと隣国の言葉で話している。
するとこのタイミングでカイン様がちょっと離れたところにいるのが見えた。
プリシラ様も見つけたようで笑みを深め、少し大きめの声でカイン様に声をかけた。
それに気付いたカイン様がこちらを振り返ったと思ったら凄い勢いでこちらに駆けて来る。
「まあ、カイン様そんなに慌てなくても私はいなくなりませんよ」
とプリシラ様が笑顔でカイン様に仰っているのだが、たぶんカイン様は聞いていない。
「ヴィーーーーーーーーー!! 」
いつも王子様のような風貌のカイン様が号泣しながら私の名前を叫び、私に抱きついてきた。
よく見ると眼の下にクマも出来ている。
「ヴィー! 僕を捨てないでくれ! 」
私を抱きしめたまま泣きじゃくるカイン様。
それを見たプリシラ様がそれに若干引きながらも果敢にカイン様に話しかけている。
「カイン様、そんなに泣かないで下さい。大丈夫ですよ、私が居りますから」
しかしカイン様はプリシラ様が全く目に入っていないようで。
「ヴィー、ヴィー、ああ、何で僕の用意したドレスを着てくれていないんだ?! アクセサリーも一つも僕のあげたものを身に付けていない………。うう、何で、何でなんだよ。僕はヴィーしかいらないんだ、ヴィーが僕の婚約者じゃなくなるなんて、僕に死ねと言っているのと同じなんだよ。ヴィー、僕から離れないでくれ。何でもするから一緒にいてくれ! 」
そう言うとカイン様はわんわんと泣き出してしまった。
これはどういう状態?
どうしたら良いのか本気で困っているとカイン様のお父様と、我が国の陛下、それから隣国の王弟であるサリード公爵が現れた。
「やはりこうなったか………」
とカイン様のお父様が言うと陛下とサリード公爵も深く頷いている。
そしてサリード公爵がプリシラ様に声をかけた。
「だから言っていただろう? リーザル公爵家の者は婚約者を深く愛しているから、下手に手を出すなと」
「だ、だけどカイン様はそこまで婚約者の方を愛しているように見えませんでしたわ! ここ最近は何故か一緒にいましたが………その前までは確かに一定の距離がありましたもの」
確かに私が『溺愛』を頼むまではカイン様はそこまで私にベタベタしていなかった。
その疑問にカイン様のお父様が答えてくれた。
「我が家は自分の伴侶と決めたものにかなり、世間では引くぐらい執着するのだ。まあ、私の世代は私と妻のことを知っているから我が家の事情は知っている。だからこの国でカインが選んだヴィヴィアン嬢の座を狙うものはいなかった………私の世代の親ならそんなことしたらどうなるか知っているからな。あと、カインが最近までヴィヴィアン嬢に距離をとっていたのは、私の弟が執着していた女性に逃げられ続けていたのを見ていたからだ」
…………もしかして、私は、カイン様に愛されているのかしら?
私は未だに私に抱きつき泣き続けるカイン様の顔を見上げた。
「カイン様………あの、もしかしてカイン様は私のことを好ましく思っていらっしゃったのでしょうか? 」
私の言葉にカイン様が
「あ、当たり前だろ! 僕は君がいないと生きていけないんだ。僕と君を引き離すような存在がいたらそんなもの滅ぼしてやる………。僕は君から『溺愛』する許可がおりて本当に嬉しかったんだ。今まで我慢に我慢を重ねてきた溺愛を出来るのだから。なのに婚約解消だなんて………誰がそんなこと言い始めたんだ!? 絶対に許さない。僕が君以外を選ぶなんてくだらない噂を流したやつなんてどうなったって構わない、むしろ僕が滅ぼす! 」
カイン様の言葉にプリシラ様と側にいたご学友が蒼褪めている。
王弟様もヤバいと思ったのか
「プリシラは私が責任を持って国に連れて帰る。今回の件でもう君達の仲を引き裂くものはいないだろう。むしろ手を出そうとするものを止めてくれるはずだ。それからこの国とのいろいろな輸出入の件でも譲歩するから許してくれないか? 」
後から聞いた話だが、カイン様のお父様世代の時に隣国を巻き込む騒動があったそうで、カイン様も怒らせるとヤバイと外交を担当していた王弟様が手を打ったらしい。
なら最初からプリシラ様に言っておけば良いのにと思うところだが、プリシラ様が自分の都合の良いように報告していたらしい。
そんなプリシラ様だが卒業を待たずに隣国に戻られた、そのご学友も一緒に。
カイン様に相手にされていなかったというのもあるが、何故かそれよりもショックだったことが、私に語学で負けていたことらしい。
プリシラ様は自国とこの国、あと一国マスターしていたらしいのだが、私が近隣諸国だけではなく遠方の小さい国から古代語、言語に関してほぼマスターしていることを知ったらショックで寝込んだのだ。
語学に相当自信があっただけにダメージが深いとかなんとか。
カイン様と私の関係については概ね解決している。
誤解がたくさんあったけど、今は心配ない。
「ヴィー、今日も頑張ったよ。さあ、褒めてくれ! 」
そう言うとカイン様はソファーに座る私の膝の上に頭を乗せてきた。
私がそのサラサラの金髪をゆっくり撫でると
「あーーーーー、もう、我慢出来ない! ヴィーが愛しくて愛しくてたまらないよーーー! ねえ、もう結婚して良いよね? 卒業までひと月なんて誤差だよね? 」
今日もカイン様は私に惜しみない愛を叫んでくれる。
この公爵家特有の執着を嫌がる伴侶もいるようだが私にはとても心地よい。
だって私もカイン様のことが大好きだから。
「カイン様、愛しています」
「!? ヴィーが僕に愛してるって言ってくれた!」
そう言うとカイン様が泣き始める。
こんなに愛しい人が与えてくれる『溺愛』を望まないはずがない。
これからも『溺愛』してくださいね、カイン様。