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01 婚約破棄でしょうか?

 

「レティニア・リル・リーア! もう我慢の限界だ! このままでは婚約を破棄するしかなくなるぞ!」

「はぁ、そうですか……」


 先ほどまで私の婚約者()()()、というべきなのでしょうか。この金髪碧眼の立派なお方はここゲリア王国の第一王子でいらっしゃるフリューゲル・ゲナスト・ゲリア様です。私はそんなお方にスープを掬って口に運ぼうとしていた手を止めて驚きも何もない平坦な口調で返事をしてしまいました。


 いきなりのことにポカンとしたままでいたら自慢の長い銀髪が風に揺られてスープに浸かりそうになったので、そっと肩の後ろへ流します。危ない危ない。スープに浸かったら大惨事ですからね。髪のケアというのは大変なのです。


 でも、呆然としてしまったのも仕方ないというものでしょう。だって、ここは王国が誇る伝統ありしファナルシア学園の食堂で、今はお昼時なのですから。人もかなり集まっていました。断じて記憶もあやふやな程小さい頃に結ばれた婚約を破棄する場ではないはずです。


 あまりにも唐突過ぎると人は考えを放棄するのでしょうか? 言われてすぐは言葉の意味が理解できませんでした。


 予兆なんて何もなかったのです。私が気付いていなかっただけかもしれませんが、何もなかったはずなのです。


 それに、それにですよ? みなさんお気づきでしょうか。今、彼の隣には誰もいないのです。普通、このような一発逆転の恋物語であれば婚約破棄を告げる時には隣に可愛らしいご令嬢を連れていてしかるべきではないでしょうか?


 私が愛読している物語はそうでした。


 なのに、誰もいない。私はなめられているということなのでしょうか? そんなさらなる絶望を与える演出すら不要な女だと。喧嘩ならいくらでも買いますよ? こう見えても私、強いですから。精霊に愛された私の力に並大抵の者は敵いません。強いんです。正確には私じゃなくて精霊が、ですけど。


 真実の愛を見つけたから。どこかの令嬢を私がいじめていたから。理由なんてなんだっていいのです。公爵家の娘である私との婚約を破棄するからには代わりを用意すべきなのです。でなければ、王家からの打診で政略的に結ばれたこの婚約を破棄することなどできないのですから。


 ……まぁ、用意されていても普通は駄目なのですが、そこはまぁいいのです。


 こんな扱いでは流石に私を愛する精霊さんもお冠になるというものです。プンスカと怒りを露にしています。後で宥めないと余計な災厄が降りかかるかもしれません。それに私だってご機嫌斜めを通り越してもはや直立不動です。


 ……あれ? この場合は横の方が怒ってるのでしたっけ? まぁ、そんなことはどっちでもいいのです。


 顔は笑っていなくても、怒ってるのが相手に伝わればそれで。あれ? 私は怒っているのをわかってほしかったのでしょうか。別にどうでもいいような気がしますが……まぁこれもいいでしょう。


 冗談はこれくらいにして、けれども私は希望を捨てきれずに少しの期待を持って告げるのです。


「もしかして誰かお好きな方でもできたのですか?」

「なんだと!? お前はこの婚約破棄が俺の責によるものだと、そう言いたいのか!?」


 はい、そうです。殿下の言からすると違うのでしょうか?


 殿下に原因がないとすると……え? 私に? そんなはずは……


 でも、理由もなく相手のせいにするのはよくないので、私は今までの自分の行いを振り返りました。


 こころあたり……あるにはある、のかもしれません。でも、どれでしょう?


 誘われたデートが面倒で何かと理由をつけて断っていたことでしょうか?


 それとも、王妃教育が面倒で精霊にお願いし自分の身代わりを創って受けさせていたことでしょうか? 再現度が半端ないのでバレてはいないはずですが……というよりそもそも見抜ける代物では……。そういえば、教育を受けた私を消す際に記憶を引き継がないといけませんが、どっと疲れるので時々……いえ、八割がたそれをサボっていた気がします。


 それが原因でしょうか? かなりの頻度で教えたはずのことを覚えていない私を再度教育する羽目になった教育係には同情するしかありません。もちろん、改善する気などないのですが。


 だって、疲れるのは嫌なのです。それに王妃にも興味はないのですから。第一王子に対する恋心など皆無というものです。あればすぐに蒔きにくべて燃やしてゴミ処理場へ持っていかねばなりませんね。


 でも、理由としてはやはりこれが妥当なのでしょうか? まさかこれがと、私は貴族たるもの内面を悟られるなという理由からまだ真面目な頃に会得していた無表情(ポーカーフェイス)を以て自信満々に告げることにします。でも納得はしていないので、首が少し傾いてしまったのは見逃してほしいところです。


「もしかして、私の王妃教育が遅々として進まないことが原因なのでしょうか?」


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