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世界最強の武器

第三話目です。

よろしくお願いします。


自分に銃を向けてくるジャスティスにエイミー・ムーンは優しく微笑みかける。ジャスティスが無駄な抵抗をしている姿が滑稽で可愛いらしく思えるからだ。


『世界最弱の武器』を向けられたエイミー・ムーンは無邪気にオモチャの武器を振り回す子供とジャスティスの姿を重ねて見ていた、エイミー・ムーンの恋情はいやまして高まっていくのだが、ジャスティスから見れば捕食者がどんどんやる気になっていくのである。自身の意思に反して身はちぢこまり、すくみきっていくのが実感としてわかった。


エイミー・ムーンは、そんなジャスティスを見かねて、子供を諭すような口調で優しく甘ったるい声を出しながら勇気づけるのだ。



「ジャスティス、貴方の瞳にちゃんと闘志の炎が見えましたよ。私と戦うつもりなのでしょう?決して勝てないけど諦めたら駄目よ?ねっ?」


それは残酷な励ましだった、まるでジャスティスはエイミー・ムーンの恋愛初心者用のオモチャのようになってしまっている。ジャスティスは完全に沈黙していた。絶望的な状況に自失していたのである。


「ジャスティス…ゆっくりやるから避けてみてね、焦らずによく動きを見て避けるのよ、良い?」


エイミー・ムーンは噛んで含むように丁寧な口調でジャスティスに言い聞かせるとマネキン人形を操りジャスティスにそっと攻撃を仕向ける、ジャスティスは辛うじて危機を察知すると闘志を振り絞って銃を発砲するのだが、弾丸はマネキン人形のすぐ前で止まってしまう、マネキン人形が魔力に覆われているからだが。絶望感は益々深まっていく、エイミーは今のところ攻撃をわざとゆるめているようだが、ジャスティスがバランスを崩すとマネキン人形の軽い一撃が腹部に当たってしまった。


エイミーはその姿に駆け足をしてコケてしまった子供を見るような眼差しで微笑ましげにジャスティスを見ているのだが、その一撃はジャスティスにとっては内蔵を直接殴られたかのような深いダメージとなった、たまらず床にかがみ込むとエイミー・ムーンはジャスティスのそばに駆け寄って来て、ジャスティスの背中を擦りながら「大丈夫?」と言っていたわるのだ。そして、保護者的な気取りのある笑顔を向けていう。


「大丈夫、貴方は強い子よ。貴方はジャスティスだからね…ねっ?ジャスティス・ソール」


ジャスティスは、もはや蜘蛛の巣に囚われた昆虫のように不自由であり、無邪気な魔女に好きに弄ばれていた。


生殺与奪の権利は完全にエイミー・ムーンが握っているのである。ジャスティスも自分の拳に魔力を込めて対抗する事などを考えたが、自身に内在する小さな魔力では十秒と経たず魔力が底をついてしまうのは明らかであり、魔力が底をついてしまえば疲労困憊で動く事すら出来なくなってしまう。それはジャスティスの完全敗北と死を意味していた。


初めから分かっていた事ではあるが、戦いを初めた時から絶対絶命である。こうなることは頭では十分に予想出来たのだが、想像と実践するのとではまるで違う、ジャスティスは今まさに生きるか死ぬかの決場にあり、これまでやって来た事はこの場の過酷さに比べれば遊びの様なものに過ぎないと悟った。ジャスティスはエイミー・ムーンを自身の心の恐怖と共に必死で振り払うと苦し紛れに天井のシャンデリアの支えを銃で撃ち抜いてマネキン人形の上に落下させてみる。恐らく効果は無いと思っていた。


しかし意外なことに有効だったようだ、シャンデリアの下敷きになった数体のマネキン人形は壊れてしまっている。


この光景をジャスティスは決して見逃さなかった。自失するほどの場の重圧と緊張感が逆に彼の神経を極限まで研ぎ澄ましていたからだ。そして、生き残る為に冷静な分析を開始する。


全身が魔力に覆われているはずのマネキン人形をシャンデリアで破壊出来た…。


どういうことだろう?


魔導力学的には有り得ない事だ。


ジャスティスはこの場面にあって以前、学校に講義に来ていた上位魔力保持者の講義と実践を思い出していた、彼は一通り魔力の原理を説明すると拳に魔力を込めて1トンもの鉄塊を拳に落として見せたのだが、魔力を込めた拳は全くの無傷だった。先程の人形は全身に魔力を込められているハズである、魔力も帯びていないシャンデリアの落下程度で壊れる道理は無かった、ジャスティスは冷静に状況を分析し終わると、まずはエイミー・ムーンが強大な魔力を有していると思い込んでいたことが大間違いだったという事に気がついた。


クラスメイトも言っていたが、エイミー・ムーンの魔力値その物はジャスティスと同じく最下値のハズである。


もしジャスティス自身の魔力を砂浜の砂のようにかき集めて手の平に置く事が出来たならテニスボール1個分程度の大きさだ。つまりエイミー・ムーンの魔女としての能力と魔力値は別々に考える必要があったのだ。


そうすればエイミー・ムーンの実態が見えてくる。記憶の改ざんや認識の改ざんなどの常識離れした能力を目の当たりにして悪戯に惑わされていたが、人形に込められた魔力は本当に膨大なものだったのだろうか?


エイミー・ムーンが魔女であるのは確かだが、魔女だからと言って莫大な魔力を持っているとは限らないのだ、むしろ少ない魔力を人間の常識に当てはまらない魔女独特の手法で使用しているのではないのか?


ジャスティスは、まず、エイミー・ムーンの魔力の限りを知る必要があった。


その手段としてジャスティスは銃の弾倉に弾丸を補充すると天井にぶら下がっているものなら何でも片っ端から撃って落とした、そして目を凝らすとエイミー・ムーンは被害の及ばない位置に移動し、マネキン人形達は落下物に押し壊される物もあれば、エイミー・ムーンの元に引き戻される物もあった。


やはりエイミーの魔力絶対値は少ないようである。膨大であれば落下物などを避ける必要は無いからだ。


そしてジャスティスは決定的な証拠をこの眼で見た。それはエイミー・ムーンが新たなマネキン人形に魔力を吹き込む瞬間だ。


エイミー・ムーンは一粒の雫程度の小さな魔力の塊をマネキン人形に『水のように染み込ませて全身に張り巡らせて』いたのだ、それで自在にマネキン人形を操っているのだから、恐ろしく質の高い魔力ではある。最上と最下が同居しているようなその姿を見て、エイミー・ムーンは生来の魔女では無いのかも知れないとジャスティスはうっすらと感じた。


そもそも、エイミー・ムーンは素行も悪く傲慢であると聞いていたが、目の前にいるエイミー・ムーンの姿と振る舞いはまるで淑女である。


どうにも分からない事が多いが、人外の存在には人間の常識や概念などまったく通用するものではなく、エイミー・ムーンの魔力の質の違いも異次元である。だが質の違う魔力にも限りはありそうだ、上手く粘りながら時間をかけて戦えばエイミーも魔力を使い果たし、勝機も見えてくるかも知れないと感じた。僅かに希望を見い出せてきたジャスティスが時給戦を意識して残弾数を確認しているとエイミー・ムーンは相変わらず奇妙な警告をしてくる。


「ジャスティス、抵抗も程々にね?後のお掃除の事も考え無いと…ね?」


「…確かに、この広い部屋を一人で掃除するのは大変そうだ、それとも人形達と一緒にやるのかい?」


「ん?いいえ、貴方と私の二人でやるの、だから貴方に忠告したのよ?ね?」


ジャスティスにはエイミーが何を言っているのかまるで分からなかった。つい先程まで自分を破壊すると言っていたはずなのだが、今はこの後の部屋の片付けの話を始めるのである。それも二人でだ。エイミー・ムーンは何をしたいのかジャスティスには測りかねた。


「…エイミー、最上の独占欲とやらは満たさないのか?それは僕を殺すってことだが」


「悩ましい所ですが、一時の快感より長久の愛の方が価値的に思えて来たの…」


どうやら、エイミーの心は切り替えが早いようだ、それに長久の愛と言った。長久の愛とは先程の「もてあそび」の事だろうか?

それはジャスティスにとっては地獄である。ジャスティスにはエイミー・ムーンが正真正銘の『魔女』であるということを改めて思い知るのだった。そして、『魔女』は身勝手な提案をしてくる。


「ジャスティス、私は魔女ですが、貴方は魔人になりませんか?お互い釣り合うと思うの…」



エイミー・ムーンの提案や衝動や心変わりはどう転んでもジャスティスにとっては致命的なものばかりだ。しかし、エイミーはジャスティスの都合など微塵も考え無い、エイミー・ムーンにあるのは独りよがりの幼稚な愛と歪んだエゴのみであった。

エイミー・ムーンはマネキン人形達を操り、素早くジャスティスの動きを封じると悩ましげにジャスティスに身を絡めつつジャスティスの両腕を掴み、自身の魔力を染み渡すよう流し始めた。ジャスティスは両腕からにじみ流れて来るエイミーの魔力に激痛を感じ苦痛の声をあげながら身をよじらせる。


その一方でエイミーはジャスティスに魔力を流し込みながら恍惚と官能を感じていた。


「魔女が異性を魔人化出来るのは生涯に一度だけです、光栄に思いなさい、ジャスティス・ソール」


激痛に悶えながらジャスティスは叫んだ。


「ぁあ!エイミー・ムーン!!勝手な事を言うな!!」


ジャスティスは次に装填するつもりで握りしめていた数発分の弾丸を魔力を込めた親指で雷管に圧力をかけて連鎖爆発させる。それは小さな爆発だったので両者にダメージは無かったものの、エイミー・ムーンは驚いた拍子にジャスティスの両腕を離してしまう。ジャスティスは何とか魔人化の驚異から逃れることが出来たが、両腕が焼けるように熱く耐え難い激痛が走る。


エイミー・ムーンはジャスティスの思わぬ抵抗と魔人化を失敗させられた事に激怒していた。もはや、ジャスティスを直ぐに殺害せんばかりの形相に早変わりしている。エイミーはジャスティスを前にしてその本性をあらわにしていた。


「ジャスティスゥゥー!貴方は私を拒んだ!!もう!八つ裂きにしてあげるからぁぁあ!!」


逆上するエイミー・ムーンにジャスティスは宣告する。


「エイミー・ムーン!君は間違えた!それは痛恨のミスだ!君が僕にしてしまったことを思い出してみろ!!」


ジャスティスは激痛に喘ぎながら銃に弾を込めてエイミー・ムーンに放つ、エイミーは怒りのままに突撃してくるが、一瞬で冷静の園に戻された、ジャスティスの放った弾丸はエイミー・ムーンのすぐ隣のマネキン人形を三体ほど貫通していたのだ。


「何?どういうこと?…」


半ば倒れ伏したジャスティスの両腕に奇妙な紋様が浮かんでいる、エイミー・ムーンは戦慄した。先程の魔人化によりジャスティスの両腕だけが人外になってしまっているのだ。三体のマネキン人形を貫きながら壁にめり込んだ弾丸の魔力は未だに拡散することなく弾丸に留まっている。



両腕だけが魔人化した。


三体のマネキン人形を弾丸で穿いた。



これはジャスティスの両腕の魔力の質の変化とそれによって弾丸に込めた魔力が四散する事無く敵を穿つ事が出来るようになったことを意味していた。


それはもはや世界最弱の武器である銃がジャスティスの手に収まる時に世界最強の武器になるということだ。


「エイミー、君は間違えた…」


困惑するエイミー・ムーンに向けてジャスティスは再び銃の引き金を引いた。







次も頑張ります!

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