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大好きでした

作者: バルサン

密かに心を寄せている彼と、授業中目が合った。

微笑むでもなく目を逸らす。“いけない”と思っても、

そのまま顔を上げる勇気は出ない。これでは、

“俺嫌われてる?”なんて思われてしまう。それだけは

避けたいのに、どちらかと言えば、相手に意識して

貰いたいのに。意気地なしの自分が、腕で頭を机に

押し付けてくる。ノートは白紙なのに、

ほくそ笑んでるように見えた。


いつの間にか目を向けてしまう彼と、すれ違うときに

肩同士がキスをした。彼の「ごめんっ」と振り向き

ざまに言うセリフに、咄嗟に返した言葉が、

「ううん、大丈夫っ」という素っ気なく面白くも

ないものだった。階段を登る後ろ姿を見送って、

大きな溜め息をマスクの下で抑え込む。もっと気の

遣える言葉は出なかったか、せめてユニークに

返せなかったのか。遅すぎる反省会は夜になっても

続いた。


肩も恋した彼が、新しい席の隣だった。「よろしく

お願いします」微笑む彼に「よろしくお願いします」

とそっくりそのまま返した。すると彼はフワッと

笑って「何か意外だな」と零す。意味が取れず

「え?」と驚いて返すと「勝手に凄い真面目な人だと

思ってたからさ、良かった。話しやすそうで」と、

彼は涙袋を作った。私の心臓は3日間ロックを

奏でていた。


彼が隣になってからというもの、ずっとは話さない

ものの、授業中やちょっとした休み時間などでは

話すようになった。日に日に彼の魅力が磨かれて

いく程、私は増々彼を好きになった。


イヤホンで世界にトリップしている私の肩を

トントンと叩いて、現世に彼が呼び戻す。

「ごめん、なに?」と私。「あのさ、次の移動教室

一緒に行かない?」と彼。「あ、うん、いいよ

全然。そっちは良いの?いつも行く友達と

行かなくて」と私。「うん。俺園崎さんと一緒に

行きたいんだ」と彼。「そうなんだ。いいよ」

と私。「ありがとう」と微笑む彼。を視界の隅に

映しながら、私は自分の目を疑っていた。彼の

目が、異様に大きく見えた。目というよりは、

瞼が大きく膨らんでいるように感じた。アーチ型に

膨らんだ目は、酷く醜かった。形容しがたいものに

なった彼の目を、私は最後まで見届けることが

できなかった。それから一緒に行動したが、

まともに顔を見れなかった。見たらまた、変わって

しまう気がしたから。


彼が嬉しそうに言う。「おはよ」と。私は下を向いた

まま返す。「おはよう」と。彼は少し黙ったあと、

「俺のこと嫌い?」不満気な声で問う。そんなこと

ない。否定しようと顔を彼の方に向けたとき、思わず

喉が締まった。彼は微笑んで「やっとこっち向いた。

ホントに嫌われてるかと思ったよ。最近全然目

合わせてくれないから」と寂しそうに言う。でも、

そんな言葉にいちいち一喜一憂している暇など

なかった。私の目は確実に彼を捉えているはずだ。

なのに、目の前にいるのは、喉がぷっくりと

膨らんだり萎んだりして、黒目が横長になってて、

口裂け女みたいに口が横に伸びている、化物

みたいな人間だ。もはや声でしか彼と判断

できない。気持ち悪い。早く誤魔化さないと。

そう自分を急かせば急かす程、彼の餅みたいな

喉に目が行く。このまま見ていたら飲み込まれそう

だと本能で感じて、「ごめんっ」とかろうじて

出せたか細い声と共に席を立って、トイレに

駆け込んだ。出すものがないのに出したい。

頑張って酸っぱい胃液を吐き出したあと、口を

ゆすぎながら自分の顔と目があった。私の目が

おかしいのだろうか。目の前にいるのは、いつもの

私だ。片方だけ二重で、鼻筋だけ綺麗であとはパッと

しない、どこにでもいそうな平均顔。これは私だ。

私の目は正常だ。すれ違う人全員普通の人間だった。

私はおかしくない。おかしいのは彼だ。彼と普通に

関われている人間の頭がおかしいのだ。


彼は日を重ねる毎に人間を辞めていった。彼が人を

卒業して2週間が経った今日。私の隣には同じ学校の

制服を着ている蛙が隣に座っていた。ずっと私の方を

見て、ゲコゲコうるさく鳴いている。私の体は無意識に

ガタガタと震えていた。何故誰も何も言わないんだ。

私の隣に、平然とした佇まいで蛙が座っているのに。

教師も頭がおかしい。普通に出席を取っている。彼の

名前が呼ばれると、隣の蛙が「ゲコッ」と鳴く。

やはり、彼は人間を辞めたのだ。


私はその日の休み時間に友達に相談した。


「前…さ、気になってる人がいるって言ったじゃん?」


「え、何か進展した!?あれ以来話聞いてないけど」


「進展とかそういうのじゃないの。どっちかって言えば

 その逆」


「え?後退?」


「何か…最近…彼が本当に…気持ち悪く見えて、かえ…

 化物みたいに見えるの。声も、何かやかましく

 聞こえる」


「その前に何か関われたりしたの?」


「うん。挨拶とか、それこそ普通に話せるように

 なったし、前は向こうから一緒に移動教室行こうって

 誘ってくれた」


「あぁ、だからだよ」


名探偵のように、赤縁の眼鏡をクイッと上げて彼女は

息を吸った。「自分の好きな人が、自分に好意を向けた

瞬間に気持ち悪く思う現象。俗に言う蛙化現象って

やつ」得意気に語る彼女の声が遠ざかる。だからか。

だから彼は蛙になったのだ。いや、蛙に見えたのだ。


しかしその現象は、今の私には当てはまらない。

何故なら、もう彼に対する気持ちは完璧に冷めている

からだ。もう微塵も、好きだなんて思っていない。

それなのに、どうして私は彼が蛙に見えるのだろう。


「てか誰?その相手」


「同じクラスの武崎斗真くん」


「え、武崎って登校してんの?」


「…どういう意味?」


「ソイツ中学一緒だからそこそこ仲良かったんだけど、

 高校の入学式も出ずにずっと不登校なんだよ」


「え…?でもちゃんと来てるよ?先生も特に心配してる

 様子ないし…」


「でも私ずっとLINE送ってるけど1回も返信来たこと

 ないんだよ。既読にもなんないし」


「携帯触らないようにしてるとか」


「いや、アイツゲーム厨だもん。有り得ない」


「それを親に言われたとか…」


「いや、アイツんち放任主義だからそれはない。ホント

 テキトーだもん。心配になるくらい」


「なら…」


「ここで押し問答しててもらちあかないから見せてよ。

 もしかしたら違う武崎斗真かもしれないし」


「そう…だね」


彼女を私のクラスまで案内している間、彼女の言葉が

ねちっこく脳に纏わり付く。一体何が起こっているの

だろう。彼が登校していないなんてこと、あるの

だろうか。彼の存在を知ったのは、同じクラスに

なった今年。去年は確かに知らない。もし、私の

知っている武崎斗真と、彼女の知っている武崎斗真が

同一人物でなかったとしたら、何かとんでもないことが

起きている。緊張して胸が走り出す。


入ってすぐの席なので入る気になれず、廊下の窓を

開けて「左端の一番前の席」と小さく指をさした。

軽く観察して、彼女が口を開く。


「誰アレ」


息が止まる。この学校に武崎斗真は一人しかいない。

他の学年にも、教師にもいない。


ならば彼は、あれは、何なんだろう。

ふと、女の子目線のラブストーリーが書きたいと思い、

このお話ができあがりました。純粋で可愛らしい物語に

しようとワクワクしながら書きました。

どうしてこうなってしまったのでしょう。


真相は、簡潔にいえば、

武崎斗真のフリをしたナニかが、武崎斗真の代わりに

人間を楽しんでるだけです。

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