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スクリュードライバー

作者: 梨田桃

カクテル言葉って知ってますか?

いつもの水曜日、俺はいつものバーに行った。

お洒落な雰囲気の扉を開いたら明るい茶色の髪の毛の君がいた。



「よっ、毎週律儀にありがとうね。」



そういうと彼女はバーテンダーにいつもの。と言ってカクテルができるのを待っていた。





出会いは偶然だった。



水曜日に早く仕事が終わって、次の日が休みだったから少し寂しく、柄にもなく1人でバーに行った。



そこで君と出会った。



1人でカクテルを飲んでいた彼女は、今にでも壊れそうな、儚いそんな印象だった。

そんな彼女は俺に気づいたようで



「よかったら一緒に飲みませんか?」



彼女のその一言で俺たちは仲を深めていった。




彼女は色々話をしてくれた。今、同棲中の彼氏がいること。その彼氏が頻繁に暴力を振るってくること。他の女の人とも付き合っていること。別れたくてもその彼氏とは幼馴染で外面だけはいいから親から結婚を期待されてること。水曜日だけは彼氏の仕事が夜勤なのでこのバーに逃げていること。




なんで俺とこんなに話してくれるかはわからないが、彼女との空間は心地が良くて、いつしか壊れてしまいそうな彼女を好きになってしまった。



そこから俺は水曜の仕事終わりはそのバーに通うようになった。



ある日は「いつも服に隠れるところ殴るのに今朝は顔殴られちゃった。」

えへへっと笑いながら湿布を貼った顔を見せることもあった。




これは彼女なりの強がり。可哀想だと思われたくないからわざと明るくしてみているだけだ。




俺ならそんな思いさせないのに。

俺ならそんな顔させないのに。

俺なら君を幸せにしてあげられるのに。



こんなこと何度思ったかわからない。



でも俺にはどうすることもできないし、どうにかする勇気もない。



ただ、毎週水曜日にバーに通うことしかできない。



他愛もない話をして、君は笑って。

水曜のこの時間だけは2人だけの世界だった。2人だけしかいないんじゃないかと錯覚するくらい。

俺は幸せだった。

その時間だけは彼女も幸せだったと思っていた。



そんな水曜に終わりが訪れる。



「なんかさー、ここ最近体調悪いなって思ってて病院行ったらさ、妊娠してた。彼氏もお互いの両親も喜んで結婚することになった。妊娠しちゃったからもうバーに来れないや。」



明らかに無理やり笑っているのがわかった。



「もう逃げられないや」

「彼氏浮気してるの知ってるのに。」

「どうせ結婚したところで浮気やめないだろうな。」

「散々暴力振るっておいて喜ぶとか。」

「でも赤ちゃんは悪くないしな。」



彼女は消えそうな声でポツポツ呟いていた。



俺は何て言ったらいいかわからなかった。

わからなかったのに何故か口が動いて



「俺は今にでも壊れそうな、崩れてしまいそうな君に惹かれた。だから大丈夫だよ。」



なんて、訳の分からないことを言っていた。

そうしたら彼女は初めて涙を溢しながら笑顔で「ありがとう。」と言った。




「さようなら。」



彼女はきちんと別れを言ってバーを出ていった。





そこから1週間が経った。

俺は無意識に、バーに行ってしまった。

もちろん彼女の姿はない。



「あの、いつも彼女が飲んでいたカクテルをお願いしてもいいですか?」



なんとなく、彼女が毎回頼んでいたカクテルを飲みたくなった。



「かしこまりました。スクリュードライバーですね。あの女性のお客様、前までは別の、それこそアルコール度数がもっと高いカクテルを飲んでたんですよ。でもお客様と水曜日、2人で飲むようになってからスクリュードライバーに変えたんです。」



言ってることがよく分からなかった。

男がいるからかわいいカクテルにしたのか?

俺が不思議そうにしてたのが伝わったのか



「女性の方って、花言葉とか石言葉とかお好きですよね。それと同じでカクテル言葉ってあるんですよ。是非調べてみてください。」



そう言って頼んだスクリュードライバーを出してくれた。



俺はスクリュードライバーを飲んでお店から出た。



そしてスマホでスクリュードライバーのカクテル言葉を調べた。

そこでようやく、彼女の気持ちがわかった。




【スクリュードライバー】

【意味:あなたに心を奪われた】


彼女はカクテル言葉を知っていて毎回スクリュードライバーを頼んでいました。

いつか彼が気づいてくれることを信じて。

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