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【全年齢版】異世界イチャラブ冒険譚  作者: りっち
序章 始まりの日々1 呪われた少女
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009 ニーナの事情

「ニーナさん。ニーナさん。まだ暗い時間ですけど起きてもらえません?」



 俺の呼びかけに、目を擦りながら体を起こしてくれるニーナさん。



「えっと、まさかほんとに起こされるとは思わなかったかな……」



 流石に触れるのは事案になりそうだったので、少し離れたままで声をかけた。


 時間的にはまだ薄暗くもなっていない、早朝と言うより深夜に近い時間帯。我ながらよく起きれたもんだ。眠りが浅かったのかもしれない。



 月明かりを頼りにランタンに火を点けて、まだ寝ている人を起こさないように移動する。


 薄暗い無人の食堂で、ニーナさんと向かい合って腰を下ろす。



「改めておはようございます。今日は朝早くから付き合ってもらって、ありがとうございます」


「……とりあえずおはよう。それで? 私はどうして起こされたワケ?」



 欠伸をしながらも挨拶を返してくれるニーナさん。


 思ったよりも友好的に接してくれてる気がする。下手すりゃキレられると思ってたけど、根が優しい人なんだろうね。



「勿論ニーナさんとお話がしたかったからですよ」


「はいはい。そう言うのはいいから用件を言って」



 ぐ、手強い……!


 けど話に付き合ってくれる気はあるようだ。



「俺が記憶を失っているのは昨日教えましたよね。なので呪いについて、もう少し詳しく聞かせて欲しいんですよ。俺は魔物を狩って生計を立てるつもりなので、状態異常の情報は知っておきたいんです」



 出来るだけ真剣な表情を作って語りかける。


 ニーナさんと仲良くなりたいから、と言っても多分信用されない気がする。

 なので情報が欲しいという体で話を進めてみる作戦だ。



「母親がどうして呪いを受けたのか。呪いを解くために試したこと。無理にとは言いませんが、出来れば教えてもらえませんか? ……ニーナさんにとっては辛い記憶になるかもしれないんですけど、俺の今後の安全のために」


「……ふふ」



 なるべく真剣な顔を作ってニーナさんに懇願したつもりだったのに、ニーナさんは吹き出してしまった。なぜだ。



「私の話を聞くのは、あくまで自分が呪いのことを知りたいから? ならそういうことにしておく。ダンは変わり者だね」



 初めて俺に笑顔を見せてくれたニーナさん。


 くぅぅ……! 兎狩りのために早起きしたのが仇となった! 今のニーナさんの笑顔、明るいところで見たかったなぁ……!



「話すのは全然良いよ。今まで何度も話してきたし。ただ呪いの事は両親からの又聞きだし、私と母さんは家で待ってることしか出来なかったから、多分大したことは教えられないよ?」


「構いませんよ。記憶の無い俺にとっては、些細な事でも知りたいですから」


「……そっか。それじゃ掻い摘んで話すね」



 思ったよりもあっさりと話してくれるニーナさん。

 先天性の呪いなんて辛い体験だと思うけれど、もう吹っ切れてしまってるんだろうか?



「母さんが呪いを受けたのは、どこかの遺跡を調査している時なんだって言ってた。その遺跡はまだ手付かずの状態で、沢山の宝物があったんだって。だからつい、罠の確認を忘れて開けてしまったって……」


「トラップですか。なるほど」



 宝物がある遺跡……。つまりはゲームでいうダンジョンみたいなものもあるみたいだな。


 多くの宝が得られるけど、その代わりにリスクも大きいってかぁ。そういうギャンブル性が高いものには手を出したくないところだ。



「呪いを受けたのは母さんだけだったんだけど、その時はもう私を身篭っていてね。生まれた私にも呪いは引き継がれていたの」



 妊娠中にダンジョンに潜るっていうのも凄いなぁ。まだ自覚症状がなかった頃なのかな。


 しっかし、親が受けた呪いは子供に遺伝するのかぁ。

 でも遺伝だったら、外野がそこまで怖がる必要もないと思うんだけどなぁ?



「両親はこの街の出身だったみたいで、呪いで苦労しながらもステイルークに帰って来たんだけど、この街の人は呪われた私たちを受け入れてはくれなかったんだ」



 ふむ。両親の地元に帰ってきたけど、呪いのせいで受け入れてもらえなかったのか。呪いってのはそれだけ厄介なものって認識なんだろうなぁ。



「ニーナさんの父親が呪いを受ける事は無かったんですよね? ならこうしてニーナさんと話していて、俺が呪いを受ける心配は無いと思っていいですかね」


「どうだろ。父さんはあまり家に居なかったの。私達の呪いを解く方法を探して、父さんは世界中を回っていたから……」



 簡単に移るものではないと思うけど、移らない確信もないのね。


 そして世界中探し回っても見つからないくらい、解呪ってのは難しいのか。お金の問題じゃないんだな。



「私と母さんは、父さんが送ってくれる仕送りでなんとか生活出来ていたの。でも……。その仕送りも、ちょっと前から来なくなって……」



 少しずつ歯切れが悪くなっていくニーナさん。


 そう言えばフロイさんが、2年分の税金を滞納してたとか言ってたな。

 ニーナさんはちょっと前って言ってるけど、仕送りが無くなってから結構な時間が経ってるはず。



「私と母さんはまともに働く事もできないし、家の周りを耕してなんとか暮らしていたわ。でも、それでもギリギリで……」



 無収入で女2人、しかも走れない、か……。

 それに呪いのせいで他人を頼ることもできない、絶望の日々……。


 最後の希望であり頼みの綱だった父親との連絡も途絶えて、ニーナさんとお母さんはどんな気持ちで日々を過ごしていたんだろう……。



「走れない私達が森に入るのは危険だって分かってたけど、それでももう、食べる物が何にも無くて。立ち上がれなくなった私の代わりに、母さんが森に食べ物を探しに行って。そこで……、フレイムロードに……」



 最後は消えそうなほど小さな声で、母親の死を語るニーナさん。

 母親の死を知ったのはまだ数日前のはず。まだ上手く受け止められないのかもしれない。



「そう、ですか……。辛い事を話させてしまって済みません」


「ううん。同じ話は兵士さんたちの取調べでも何回もさせられたし」



 謝る俺に、気にしないでと手を振るニーナさん。



「それでフレイムロードの襲撃のあとに周辺を調査していた兵士さんに保護されて、徒歩で送ってもらって今ここに居るの。これで満足した?」



 妙に落ち着いて話してると思ったら、今の話を何度もか。

 話しているうちに、自分の置かれている状況を、何度も認識させられたのかもしれない。


 そして呪いのせいで馬車に乗れないから、ステイルークに到着するのが遅れてしまったわけかぁ。



 ニーナさんがステイルークに来た経緯は大体分かった。今度は呪いについて訪ねる事にする。



「移動に制限がかかる呪いという事ですけど、日常生活を送る分には支障は?」


「家の中に居るだけなら、なーんにも? でも仕事をするってなると話は変わってくるでしょ? 呪われた私たちを雇ってくれる人もいないけどさ」



 まるで他人事の様にあっけらかんと答えてくれるニーナさん。


 ふぅむ。呪われていても日常動作には支障が無いと。

 走れないことで日常生活に支障は出てると言えちゃうんだけど。



「ええと。俺はこうして話していても、ニーナさんが呪われているのが分からないです。ちょっと気が引けますけど、呪いを隠して雇ってもらうわけには?」


「呪いはステータスプレートに表示されちゃうから、雇い主に隠すのは多分無理かな。仮に雇ってもらえたとして、どんな些細なきっかけでバレちゃうかわからない呪いだし、やっぱりムリ」



 呪いはステータスプレートに表示されるのか。

 あれは誤魔化せない身分証みたいなものらしいし、雇用の際に提示を断るのは確かに無理、か。



「ありがとうございます。ニーナさんの呪いについては大体理解できました」



 なるほど。フロイさんが言っていた、俺より大変って意味が少し分かってきたよ。



「それで……、ニーナさんは支援期間が終わったらどうするんですか? 働くのが難しいなら……、この先どうやって?」



 俺の質問に、ニーナさんは諦めきったような投げやりな様子になった。



「一応ここを出たすぐの事は決まってて、私は奴隷として売却されるの。今年の分の税金、払い切れなかったから。借金奴隷って奴なんだって」


「……借金奴隷? 人頭税って、貰える支援金で相殺できる額だったんじゃ?」


「私は2年間の滞納があるから、その罰則金が上乗せされちゃって、足りなかったんだ」



 滞納による罰則金があるのか! 延滞料金的な?


 説明は受けなかったけど、俺の場合も滞納の罰則金を含めて免除してもらったってことだったのかもしれないな。



「でも奴隷になること自体は構わないの。私1人で生きていけるとも思えないから」



 奴隷になることは構わないと、こんな少女が運命を受け入れる世界。


 呪われた身では1人で生きていくことが出来ない。

 だから誰かの所有物として生きていくことを……、受け入れるしかないのか。



「でも、昨日この街の役人さんと奴隷商人が揉めててね?」



 ああ、それは俺も見た宿の前での出来事か。



「呪いが遺伝するなら、性奴隷としても娼婦としても商品にならない。呪われた奴隷なんか商品にならない。迷惑だー! って騒いでね? 私の所有を拒んだの」



 ……そもそも奴隷にその2つしか選択肢がない世界なのかよ? 胸糞悪いなぁ。



「……色々言いたい事はありますが」



 一旦息を吐いて気持ちを落ち着ける。

 被害者でしかないニーナさんに怒りを見せても意味は無いのだから。



「奴隷商人が所有を拒んだって話ですが、奴隷になるのは決まってるって言ってましたよね? じゃあ誰がニーナさんの所有権を持つことになるんですか?」


「……法律上、私は借金奴隷にならないとダメだって役人さんが迫ったら、じゃあ引き取った後は1人で魔物と戦ってこいと命令するぞって、奴隷商人が言ったの。そしたら役人さん、奴隷の扱いには一切関知しませんって」



 なっ!?  それは事実上の死刑容認でしょっ!?



「だったら奴隷化なんてせずに、放っておけばいいじゃないですか! なんでわざわざ奴隷化させて、なのに捨てるような真似を!?」


「奴隷になったら、所有者には奴隷の生死が分かるからだと思う」



 ステータスプレートは他者と繋がる為の端末……、か!


 奴隷の所有者のステータスプレートに奴隷の所有権が無くなれば、それは奴隷の命が失われた何よりの証拠って、そういうことかよっ……!?



「ステイルークの役人さんたちも私のことを処分したいんだよ。見逃しただけだと、もしかしたら生き延びてしまうかもしれない。……だから隷属させて、確実に殺したいんじゃないかな」



 なんだ、それ……。


 ニーナさんが何をしたわけでもないのに、確実に殺すために、あえて奴隷に落とす?



 昨日のラスティさんの様子を思い出す。


 あれは、ニーナさんから一刻も早く離れたかったってことだったのか……。



「……そして奴隷になるまでの20日間は、ちょうど記憶をなくして、ニーナさんのことを一切知らない俺に厄介事を押し付けてきたってワケですか」



 手厚い難民支援は感謝してるし、今までラスティさんのことは好印象しか持ってなかったけど……。


 ちょっと、この街の住人への見方が変わってしまうな……。



「そういうこと。だからダンは私のことなんか構わない方がいいよ。あまり私と仲良くしちゃうと、ステイルークで生きてくのが難しくなっちゃうかもしれないから」



 自分がもうすぐ殺されてしまうと分かっていて、俺を巻き込まないように全ての事情を説明してくれたってワケか。


 事情を知った俺が、ニーナさんへの態度を180度変える事になったとしても、構わないと。



 軽い気持ちで関わろうとした俺なんかよりも、ニーナさんの方がよっぽど俺のことを気遣ってくれてるんじゃないかっ……!



 無力な俺に出来る事なんか殆ど無い。


 ……でも状況は複雑に絡み合ってる。どこかに隙は無いか……!?



 状況を整理する。


 俺はニーナさんを助けたいけど、ぶっちゃけ無力で、出来る事は殆ど無い。


 ニーナさんは1人で生きていけないので、奴隷になるのは受け入れてる。けど奴隷になったら、即日処分される可能性が高い。


 奴隷商人は、出来ればニーナさんの受け入れそのものをしたくないような印象だ。



 この街の役人は、出来ればニーナさんを確実に処分したいと思ってる、か。


 ならばニーナさんを助けた場合、俺もステイルークで暮らせなくなると思うべきか……。



「ねぇニーナさん。ニーナさんはステイルーク周辺の案内とかって、出来ます?」


「え? ムリムリ、出来ないよ。私が4歳の頃に今の家に到着して、そこからずっと家の周辺だけで生きてきたんだもん。私が案内できる場所なんて、ナイナイ」



 ステイルークに到着したのは4歳か。それじゃ旅の記憶なんて残ってなくても無理はない。移住するとしても案内は頼めないかー。


 馬車にも乗れないし、魔法も無理らしいから、徒歩で移動するルートを確認しないとダメか。あと20日しかないのに、色々忙しくなりそうだなぁ。



「1つ確認させてください」



 ま、もう2度と元の世界には戻れないんだ。ここが覚悟の決め時だと思えばいいさ。



「ニーナさんは、奴隷になること自体は受け入れてるんですよね? 生きるためには奴隷になっても構わない、と」


「うん。だって働けないし戦えないし、奴隷にしてもらうしかないよ。奴隷としても充分に働けるかは、自信、ないけどね」



 奴隷になるより生き延びる道は無いのか。

 たとえ借金がなかったとしても、ニーナさんがこの世界で生きていくには奴隷になるしかないと。


 ならせめて、奴隷のままであっても――――。



「オッケーニーナさん。それじゃ俺がニーナさんを買います。ニーナさん。俺のモノになって、俺と一緒に生きましょう」


「……………………は?」



 俺の言葉に固まってしまったニーナさん。だけどごめん。ちょっと忙しくなりそうだから構ってあげられない。



 作戦は思いついた。状況は明るくないけど、付け入る隙はありそうだ。


 まったく。こんな可愛くて良い子を死なせるだなんてとんでもない話だ。



 ……誰もが要らないって言うんなら、喜んで俺が貰ってやるよっ。

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