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【全年齢版】異世界イチャラブ冒険譚  作者: りっち
2章 強さを求めて2 新たに2人
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081 決闘

 タイミングがいいのか悪いのか、ちょうどこの場に姿を現したフラッタを出汁に使って軽めの精神攻撃を仕掛けてみたが、どうやらその効果は抜群だったようだ。


 激昂した6人は真っ赤な顔で大きく武器を振り被り、俺に向かって我先にと走り出した。



「「「死ねええええええっ!!」」」



 いやいや、やる気満々のところ申し訳ないけど、6人全員が同時に接近戦を挑んできてもお互いの邪魔になるだけだよ?

 そっちは6人。こっちは俺だけ。そっちは同士討ちを心配しなきゃいけないけれど、俺は好き勝手に動けるんだ。


 しかも俺とあんたらじゃ体格も違う。竜人族はでかくてゴツい。乱戦で自由に動けるのはどう考えたって俺の方だろうに。

 尤も、竜人族のコイツらと人間族の俺でも、常識を逸脱するような体格差ではないみたいだけどね。



 フラッタやリーチェの動きと比べると、ハエが止まりそうな速度で迫ってくる6人を見据える。



 相手の実力は低そうだが油断するわけにはいかない。対人戦ではHPが働かない。攻撃補正も防御補正もない。つまり相手の攻撃を一切許さないのが前提なのだから。


 そして対人戦では武器、防具の概念も変わってくる。職業補正が適用されない以上、武器の強度も防具の強度もどこまで信用出来るのか分からない。



 さっき酒場で絡まれている間に、コイツらがインベントリを使えないのは確認済みだ。つまりいきなり手元から武器が出てくる心配はないはず。


 だけど素手には素手の恐ろしさがある。掴まれ、止められ、そのまま嵌め殺される。その心配は常にある。



 素手の懸念に関連して、やはり体格差も問題になってくるだろう。


 ステータス補正のほとんどが無効化される対人戦。種族的に脆弱な人間族は、はっきり言ってこの世界では弱者だ。魔物の攻撃は受けられても、竜人族の1撃は受け止めきれないかもしれない。


 だから受けない。危険な橋は渡らない。コイツらの攻撃は全て回避するものと想定する。



 左手の盾を投げ捨て、ロングソードを両手で構える。


 想定と対策、そして覚悟は完了した。行くぞ。初めての対人戦だ。



 相手がこちらに到着するのを待たず、こちらからも走り出す。


 先頭の男の振り下ろす攻撃を躱しながら、その男を無視して擦れ違う。



 先頭を走っていた男が突如動きを止めた事で、後続の連中は混雑し、俺の姿を見失っている。


 その混雑の間をすり抜け、状況が把握出来ていない1番後ろにいた男と擦れ違う時に脇腹を一閃する。

 ……少し剣が深く入りすぎたかもしれない。



 足を止めずに少しそのまま進み、相手のパーティ全体から少し距離を取って、全員を視界に入れる事を意識して振り返る。



「へっ……? あ、あれ……?」



 最後尾、今の俺から見たら先頭にいる男が、脇腹を押さえながら膝をつく。


 ……加減してる余裕はなかった。すぐに治療しないと死ぬかもな。



 殺してしまったら運が悪かったと思って諦めるから、お前も諦めてどうぞ。



「レ、レィズっ!? だ、だいじょうぶかっ!?」



 腹から大量に出血してるのに大丈夫なわけないだろ、馬鹿か?



 決闘中に相手の目の前で仲間に駆け寄った仲間想いの大馬鹿野郎に、現実の怖さという名の腹へのひと突き。そしてすぐに剣を引き抜く。


 失血死を招きたくはないけどこっちも命がけなんでな、悪いね。



「な……ななっ……!?」



 大馬鹿野郎が血溜りに崩れ落ちる姿を見て、後続の4人の動きが止まる。


 おいおいどうした? 仲間が倒されたのを見て今更怖気づいたのか? 武器を持つ手に震えが見えるよ?



 かっこいい主人公なら「これで終わりにするか?」とか言うんだろうけど、俺には余裕なんてない。敵を前にして動揺を見せるなら、遠慮なくその隙を突かせてもらう。


 近くにいる順に袈裟切り、切り上げ、切り払い。崩れ落ちていく筋肉ダルマたち。



 残る筋肉ダルマはあと1人。


 怪我人が動けるとも思えないけど、震える最後の1人を通り過ぎて、改めて全員を視界に入れる。



 最後に残った1人から目を離さないように注意しながら、地面に崩れ落ちて呻き声を上げている5人の様子を窺う。


 出来るだけ重傷にはならないようにと気をつけてはいるつもりだけど、実際の怪我の具合はどうかなぁ?



 ……最初に斬った相手はちょっと痙攣しだしているな。これ以上はやばそうだ。



「おい! 決闘が終わったらすぐに治療できるようにしておいてくれ! まだ誰も死んじゃいないからなぁっ!」



 目の前の相手から目を逸らさずに、周りを囲うギャラリーに声をかける。すっかり静まり返っちゃいるが、耳と頭が付いてりゃ今の言葉が届いただろう。


 最悪誰も反応しなかったとしても、この場にはフラッタがいる。心配はしてない。



 残った1人はみっともなくガタガタと震えて、すっかり戦意を喪失しているように見える。この状態なら俺の言葉に聞く耳を持ってくれるだろうか?



「……降参するなら3秒待つ。お前が降参しなけりゃ決闘は続行。治療は受けられず仲間は全員死ぬだけだ。トドメもさしてやる気はない。お前らが死ぬまでここでゆっくり見ててやるよ」



 ……脅しのつもりで苦しんで死ねと宣言してしまったけど、そんなこと気にせずとっとと殺して帰ったほうがいいか? コイツらに付き合うなんて時間の無駄だよなぁ。



「あっ……あ……」


「まだお仲間は1人も死んでないぜ? お前のくっだらねぇプライドを捨てて降参すれば、また全員で笑って生きれる。全てはお前が決めろ。5人の生死はお前にかかってる」



 上手く喋れない様子の筋肉ダルマに最後通告。


 あまりグズグズしてると最初に斬った奴が死にそうだからな。こんな茶番とっとと切り上げて治療させないとマジで死ぬぞ?



「仲間5人を瞬殺した俺に無駄と分かってもかかってくるか、5人の仲間を救う為にプライドを捨てるか。好きなほうを選んでいいぞ。タイムリミットは3秒だけどな」



 出来れば殺したくない。


 ……殺したくはないけれど。面倒を負ってまで生かす気もない。



「3……、2……、1……、ゼロ」



 タイムアップ。現実は非常である。


 てかカウントして思ったけど、これ4秒だよね? まぁオマケしてあげよう。



「残念だよ。あの世で6人仲良くな」



 降参する気がないなら生かしておいても仕方ない。せめて苦しまないように、1撃で首を落としてやろう。



 恐怖に染まった表情の少し下、俺と比べて倍はありそうな太い首元を目掛けて、すっかり手に馴染んだロングソードで斬撃を繰り出した。



「まままま参ったああああ! 降参だあああああ! こここ、殺さないでくれええええ!」



 寸でのところで耳に届いた降参宣言に、首を両断しようと振ったロングソードを何とか止める。



 ……お前なぁ。結局降参するならなんでギリギリまで我慢したんだよ。薄皮1枚どころか、1cmくらい刃が入っちゃったじゃないか。流石にこれは自業自得だぞ?



 首筋から刃を放してやると、首元を押さえながら座り込む男。



「すんません……! すんませんっしたぁ……! うああああああ……!」



 座り込んだと同時に怯えるように蹲り、泣き叫びながら謝罪の言葉を口にする筋肉ダルマ。


 ……なに泣いてんの? お前らが一方的に吹っ掛けてきたんだろ?



 というか、コイツら降参したんだから決闘は終わりだよな?



「決闘は終わりだぁ! 馬鹿面下げて見物してたお前らは、見物料としてコイツらの治療くらいしてやれぇっ! それとも竜人族は、死にゆく同胞を見捨てる奴しかいないくらいに薄情な種族なのかぁっ!?」



 6人が降参しても動き出さない外野にも苛立つ。その苛立ちをぶつけるつもりでギャラリーたちを怒鳴りつける。


 人の喧嘩を仲裁もせずに見物だけしてるだけの、暇人で役立たずどもが。せめてお仲間の竜人族の手当てくらいしてやれよ……!



「決闘は終了じゃ! 誰かこの6人の治療を!」



 しかし俺の声に反応したのはフラッタただ1人だった。


 最初から見物していた連中でさえ、死にかけの竜人族に手を差し伸べる者は1人もいない。



「おぬしは冒険者ギルドの職員じゃろう!? さっさと動かんかぁっ!」


「フ、フラッタ様!? は、はいぃぃっ!」



 俺が言っても微動だにしなかった連中が、フラッタのひと言で慌しく動き出す。その事実に、またいちいち腹が立ってしまう。


 人の生死がかかってる場面でさえ俺の言うことは聞かず、領主の娘がひと声かけただけで動き出すのかよ。クソしかいねぇのかこの街は。



 周囲を見ていてもイラつくだけだと、ステータスプレートを取り出し確認する。すると問題なく決闘契約の表記は消えていた。


 あ、そうだ。せっかくプレート出したんだし、このままフラッタとパーティ登録すっか。



「おーいフラッタ。やきゅ……、じゃなくてパーティ契約しようぜぇ~」


「ダン! これはいったい何事なのじゃっ! 説明せいっ!」



 なぜか現場の陣頭指揮を取り始めているフラッタが、ワケが分からないといった様子で俺に詰め寄ってくる。


 そんなフラッタの後ろでは大勢の竜人族がオロオロとするばかりで、怪我人の治療すら満足に行われていないようだ。



 ……なんだコイツら? 指示が無いとまともに動ける奴、誰もいないのか?


 っと、まずはフラッタに答えてあげないとな。



「説明はしただろ。お前に懸想する6人が、俺が気に食わないっていう理由で決闘を吹っ掛けてきたって。俺はそれを撃退しただけだよ。ステータスプレートの決闘契約もちゃんと解消されてるだろ?」



 フラッタは決闘契約を交した時にはいなかったけど、俺のステータスプレートに契約が表記されていない事を確認させる。


 しかしこれって報酬ありだった場合、どんな扱いになるんだろうなぁ? 例えば報酬を賭けておいて相手を殺してしまったりしたら、報酬の支払いとかどうなるんだろう?



 まぁ今はいいか、そんなこと。



「よし、じゃあ説明もしたし早くパーティ組んでくれる? こんな場所にいつまでも居たくないんだよ」


「それじゃ何も分からんのじゃっ! 大体この場を放置して離れるわけにもいかぬじゃろうがっ!」


「なんで? ここは冒険者ギルド前だし、俺の話を証明してくれる人も、この馬鹿どもを片付けてくれる人も大勢いるよ?」



 なんてフラッタに言いながら周囲を確認すると、治療も後始末も全く進んでいないようだった。


 ならばと冒険者ギルドの中に入り、カウンターに向かって全力で怒鳴る。



「おいお前らぁっ! 今の俺の話に嘘偽りがあったかぁっ!? ここにいるフラッタ様が知りたいそうだ! 答えて差しあげろぉっ!」



 しかし、気配はするのに誰も出てこない。使えねぇなこのギルド。


 だが知らぬ存ぜぬでやり過ごせると思ってんじゃねぇぞ?



「そこの酒場で話してた内容だし、お前らが聞き耳立てて見てたのは知ってんだよっ! 証人がいるって言われてた時も否定しなかったんだからダンマリは許さないっ! さっさと出てきてフラッタに説明しろぉっ!」



 ……しかし俺の声も空しく、冒険者ギルドには何の反応も現れなかった。



 なんだよ、証人なんて役に立たないじゃないかよぉ。


 なんなの竜人族って? 短絡的な上に口約束すら守れないの? もう付き合ってらんないわ。



「おーいフラッタ。このギルドの職員は誰もお前に説明する気はないんだってさー。役立たないのなここの職員。全員首にしたほうが良くない?」


「お、落ち着くのじゃダンよっ! 落ち着いてくれなのじゃっ……! 何をそんなに怒っておるのじゃ!?」


「あーもういいからさっさとパーティ契約してよ。めんどくさいなぁ」



 この街出身のフラッタには申し訳ないけど、段々馬鹿馬鹿しくなってきたな。


 こっちは一方的に絡まれただけなのに、いつまでこんなのにつき合わされなきゃいけないんだ?



「フラッタがどうしてもここの後始末がしたいんなら勝手にしたら? ここ冒険者ギルドだしポータル使えるでしょ? 終わったら勝手に帰ってきてよ。俺は先に帰ってるからさ」



 思考停止でフラッタに従ってる様子を見るに、この街でフラッタに危険はないだろ。


 ならもう俺だけでもさっさと帰るに限る。長居すればするだけトラブルが起きそうだしな。



 ……なによりも不快過ぎて、1秒だってこの場に留まりたくない。



「おっ、己が本質。魂の系譜。形を持って現世に示せ。ステータスプレート!」



 慌てた様子でフラッタがステータスプレートを呼び出した。



「ほらダン! パーティ契約! パーティを組むのじゃっ!」



 ステータスプレートを俺に差し出しながら、パーティ契約を急かすフラッタ。パーティ組む気はあるらしい。


 互いのプレートと接触させ、フラッタとパーティが結成された事を確認する。



「そんじゃ帰ろっかフラッタ。こんな場所に長居は無用だしね」


「待つのじゃ! ダンの説明だけでは判断がつかぬのじゃ! せめて、せめて誰か他にも話を聞かせてくれえっ!」



 ギルドを出ようとする俺の前に立ち塞がって、他の人の説明も聞かせて欲しいと懇願するフラッタ。


 ふむ。確かに途中から居合わせたフラッタには、状況的に俺が加害者にしか見えないかもしれないな。



 俺以外の誰かに話を聞こうと、必死に周りに声をかけるフラッタ。



「誰かっ、誰か一部始終を見ていたものはおらんのかっ!?」


「あそこで馬鹿面下げてた連中は、大体始めから全部見てたよ? 具体的にはあそこにいる職員とかあいつとか、それとアイツも始めからこっち見てたな。ああ、こっちの店員も最初から見てたよ」



 フラッタの声に反応して顔を見せ始めた奴らを片っ端から指差していく。


 鑑定でギルド中の人間を確認してたんだ。間違えるワケがない。



「今名指しされた6人! 今すぐ妾の元に来るのじゃ! 拒否は許さぬっ!」



 しかし指名された6人は、フラッタの言葉にすら逆らって動き出そうとしない。


 竜人族って自分から喧嘩吹っ掛けてくるくせに、面倒事を嫌う事なかれ主義なの? ダサすぎない?



「……グズグズするでないっ! 今すぐ妾に切り捨てられたくなければ早う来んかぁっ!!」



 フラッタの剣幕に脅しではないと悟ったのか、慌てた様子でバタバタと動き始める6人。多少渋りはしたものの、基本的にフラッタの言う事は聞くんだなぁ。


 若干俺に非難めいた視線を送る奴がいるけど、知るかバーカ。俺が絡まれてた時に傍観してた奴に助け舟なんて出すわけねぇだろ。



「それではおぬしが一部始終を説明せいっ! 他の者は間違いや補足があれば申せっ! ……さっさとせぃっ!」



 イラついたフラッタがギルドの床を踏み抜いて見せて、ようやく口を開き始めるギャラリーども。


 でもさぁ。なんでこんなのに俺が付き合わないといけないんだよぉ?

 


 第三者からの聞き取り内容も、俺が1人で食事をしていたところ、6人が一方的に難癖をつけてきた。その喧嘩を俺が買った。以上である。


 アホくさ。なんも情報量増えてないじゃん馬鹿馬鹿しい。



「聞いた通りだよフラッタ。俺は被害者で、一方的に絡まれたんだ。俺を殺す気でかかってきた相手を、俺は殺さずに場を収めたんだよ」



 決闘終了時点では間違いなく6人とも生きていた。あれで死者が出るならもう俺の知ったこっちゃない。



「これで気が済んだ? 気が済んだなら帰ろ? 俺もうここには居たくないよ」



 一方的に絡んでくる奴ら。種族的に劣ってるって分かってる人間族を助けようともしない竜人族。フラッタが居なけりゃ治療も後始末もしないボンクラども。



 なにここ? 無能な奴しか働けない決まりでもあんの?


 こんな場所にいつまでも居たら俺までクソ無能になっちゃうよぉ。早く帰ろうよぅ。



「経緯は理解したのじゃ……。じゃが妾がこの場を放置して帰る訳には……」



 俺と周囲を落ち着き無く見比べて、どうしたらいいのか分からない様子のフラッタ。


 なんでフラッタが責任を取る必要があるんだよぉ。お前普通に今回の決闘に無関係じゃんかぁ。



「なんでフラッタがこの場にいる必要があるの? フラッタもコイツら全員無能だって認めてるの? 自分がいないとコイツらは何も処理する能力が無いって、フラッタもそう思ってるんだ?」


「なっ!? ちがっ……」



 でもなぁ。俺がそんなの待つ義理ないんだよなぁ。



「決闘ってめんどくさいんだね。せっかく全員殺さずに収めたのに、そのせいで帰れないとは思いもしなかったよ」



 無駄に人を殺す気はないけど、皆殺しにしてたらもう帰れてたのかなぁ?


 可愛いフラッタの故郷って言うからそれなりに楽しみにしてたのに、不快な思いしかしなくて嫌になっちゃうよ。



「分かった。今度から竜人族に決闘を吹っ掛けられたら迷わず皆殺しにするよ。こっちから決闘を挑む場合も、全員皆殺し以外の条件はつけないことにする」



 竜人族は決闘処理に慣れてるのかと思えば無能しかいないし。こんなに事後処理が面倒なら後腐れなく皆殺しだ。


 稀少種族? そんなの俺が知ったこっちゃない。



「ここは冒険者ギルドだし、今回の話はひろーく知らしめて欲しいね。竜人族は決闘で生かすとめんどくさいから、挑まれたら確実に皆殺し推奨ってさ」



 竜人族って、マルドック商会の件もあって、俺の中では被害者のイメージが強かったんだけどなぁ。これから返り討ちにした時は、確実に息の根を止めよう。


 ……ああ、竜人族がこんなクズばっかりだったなら、そりゃあフラッタのお兄さんも皆殺しにしたくもなるかな?



「こっちはフラッタの用事に付き合って、ここで美味くもない料理を食いながら1人寂しく待ってただけで絡まれてさぁ」



 美味くもないって言った時に微妙にこっちを睨んできた奴がいた。


 お前が作ったのあの料理? よくあれで金取れるね? フロイさんの料理のほうがよっぽど美味かったよ?



「始めはちゃんと穏便な態度で接してたんだよ? なのに消えろとか言われてさぁ。こっちはフラッタの送迎があるから、俺が消えたらフラッタが困るって言っても聞かないし」



 竜人族優遇の意識があるとは聞いてたけど、領主の娘であるフラッタの都合さえ無視するんだよ? 竜人族は人間族の話なんて一切聞く耳持たないってわけ?



「弱っちい人間族が1対6で絡まれてるのに、周りは助けるどころかニヤニヤ見てるだけでさぁ。そうそう。コイツらが壊した食器だって俺が弁償したんだよ? そこの人もお金は普通に受け取っておきながらこの対応だもん」



 俺が指差すと、料理を不味いと言われて俺を睨んでいた男がさっと目を逸らした。


 被害者に弁償させておいて、その被害者を助ける気もないとか信じられない。普通恥ずかしくって受け取らないよね?



「なんなのこのヴァルハールって。クズしかいないの? 絡んできたクズ。止めない奴もクズ。終わった後に同胞を助ける気もないクズ。領主の娘に説明をする気もないクズ。クズクズクズクズ。あーもう嫌」


「………………っ」


「……ってあれ? フラッタ? どうかした?」



 なんかイラついて色々言ってるうちに、フラッタが俯いて肩を震わせている。


 竜人族を散々無能無能言いまくっちゃったし……、お、怒られちゃう?



「ごめんなさぁぁぁい! ごめんなさいなのじゃぁぁぁ! ごめんなさいっ、ごめんなさぃぃぃっ!」



 しかし俺の予想に反して、フラッタは謝罪の言葉を叫びながら大声で泣き出してしまった。


 え、ええ……。なんでお前が泣くの? 別にフラッタは何も悪いことしてなくない?



 困惑する俺。号泣するフラッタ。冒険者ギルドが修羅場と化してる。


 け、決闘ってめんどくさぁ……! もう2度とやらないぞこんなもん……!

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