629 捕縛
※R18シーンに該当する表現を僅かにカットしております。
「ニーナ、ターニア、一緒にきてくれる? ここがレガリア壊滅への正念場だよ。全力を尽くして過去の亡霊を退治しようっ」
レガリアの構成員が地域監査員に扮して各地で暗躍している事を突き止めた俺は、今回襲撃しなかった場所でまだ異変に気付かず滞在しているはずの地域監査員を確実に捕えることにした。
ニーナとターニアと共に奈落を脱出し、直ぐにステイルークに赴く。
この2人がいれば、なんの問題もなくレオデックさんに会える筈だ。
「おや? ターニア様とニーナ様じゃありませんか。遊びに来てくださったんですか?」
ステイルークのグラフィム獣爵家邸に到着すると、門番の男がニコニコと声をかけてきた。
ニーナもターニアも俺抜きで普通に遊びに来てるみたいだし、随分仲良くなったみたいだなぁ。
「こんにちはモーンさんっ。今日はおじいちゃんに会いに来たんだけど、入っていいかなー?」
「あははっ。良いに決まってるでしょうニーナ様。ここは貴女の家でもあるんですから。皆様の訪問をレオデック様にお伝えして参りますので、応接室で待ってもらっていいですか?」
「了解なのっ。ありがとモーンさんっ」
門番の男性にお礼を言ってずんずん進んでいくニーナ。
慌ててその背中を追いかけて、屋敷中に笑顔を振り撒くニーナと共に応接室に足を運んだ。
ニーナとターニアの間に座って、2人を抱き寄せてレオデックさんの到着を待つ。
「それにしてもニーナ。随分グラフィム家の皆さんと仲良くなったんだねー?」
門番の男性に始まって、屋敷中の皆さんとニコニコと言葉を交わしていたニーナの姿が少し意外に感じられた。
ニーナってコミュ症ってわけじゃないけど、必要以上にグイグイ歩み寄るタイプでもないと思うんだよなー。
「元々知り合いだったターニアが仲良くなるなら分かるけど、初対面だったはずのニーナがこんなに仲良くなってるとは思ってなかったなー。仲良くなるに越した事はないけどね」
「私が仲良くなったっていうか、なんだかみんな可愛がってくれるんだー。だからいつの間にかって感じなのっ」
なるほど。グラフィム家の皆さんの方から歩み寄ってくれたのね。
ま、レオデックさんもニーナにデレデレだったから、他の人も邪険には扱ってこないか。
「むしろ私より、母さんの方がちょっと居辛そうなんだよねー」
「へ? なんでまた? ターニアにとっては文字通り実家だろうに」
「そんなの実家だからに決まってるでしょっ」
首を傾げる俺に、不満げに頬を膨らませるターニア。
そんなに可愛い顔されても、お前が魅力的ってことしか伝わってこないよ?
「この屋敷にいる人みーんな、私がニーナよりも小さかった時の事を知ってるんだよ? 頭が上がらないって言うか照れ臭いって言うか、ここに居るとムズムズしちゃうのーっ」
「はは。なんとなく分かるよ。でも険悪になってるわけじゃないなら良かったー」
ぷんぷんと頬を膨らませるターニアをよしよしなでなでして宥める。
駆け落ち同然に家を飛び出して、1度は拒絶されて……。
ターニアも素直に甘えきれない部分があるんだろうなぁ。
「ようこそ3人とも。君達が気軽に顔を見せに来てくれるのは実に嬉しいね」
ニーナとターニアを抱き寄せて頬ずりしたり、2人のほっぺにキスをしたりしながら待っていると、俺の興奮が最高潮になったあたりでレオデックさんがやってきた。
「おじいちゃん、約束もなく突然来てごめんねー?」
「はっはっは! 何にも謝らなくていいよニーナ。いつでも遊びに来るといい」
謝るニーナにデレッデレのレオデックさん。
子沢山のレオデックさんにはニーナ以外の孫も沢山いるんだけど、1度は決別を覚悟したターニアとその娘のニーナの存在は、子沢山のレオデックさんにとっても特別な存在になったらしい。
「お父様も元気そうで何よりなの。でね、今日はちょっと宰相様からの伝言があってステイルークに来たんだけど……」
「宰相様から? だから今日はダンさんが同行してるのかな。あ、アルフェッカの領主が決まったとか?」
「こっちの用件を伝える前に1つ確認したいんだ。ねぇお父様。ステイルークにも地域監査員って派遣されてるの?」
「へ? そりゃ勿論派遣されてるよ? さっきまで一緒に仕事してたからね」
よし! 狙い通りステイルークの地域監査員は確実に確保できそうだ。
この様子だと、レオデックさんも地域監査員に全く疑念を持っていないようだ。
違和感無く領主と仕事できている監査員には、各地の機密情報なんて全部筒抜け状態だっただろうなぁ。
「ごめんお父様。先に用事を済ませたいから監査員さんに会わせてくれる? 仕事が残ってるとのんびりも出来ないのっ」
「それは構わないけど、直接会って伝えるのかい? ポーヌ監査員に私から伝言しても……」
「宰相様からの伝言だよー? 自分で直接相手に届けなきゃ不安なのっ。お父様を信用してないって話じゃなくって、私の気が済まないってことだからねー?」
「ははっ。了解だよターニア。それじゃ早速案内しよう。さっさと用事を終わらせて、お前たちと沢山話がしたいからね」
ニコニコしながら席を立つレオデックさん。
けどほんっと申し訳ないっす……!
監査員を捕獲したら、直ぐに奈落に戻る事になるかと……!
2人とゆっくり話してもらう為に、レオデックさんも奈落に招待するか……?
そんなことを考えていると、あっという間に目的地に到着した。
「失礼。ポーヌさん。ちょっといいかな?」
「ん? 領主様ですか? どうぞお入りください」
執務室のドアをノックするレオデックさんに対し、即座に入室の許可を出す監査員。
さっきまで仕事をしていたと言ってたし、単純に仕事を再開しに来ただけだと思ったんだろうね。
気配遮断を発動して、レオデックさんに続いて入室する。
室内には妙齢の女性が1人座っていて、鑑定の結果ルービークという人間族の女性であることが分かった。
室内にはこの女性が1人だけ。
レオデックさんがポーヌという名前を出して声をかけたのに対して、ルービークという名前でありながら返事をした事実から、こいつがレガリアの構成員であることは間違いないハズ!
ということで、さっそく従属魔法発動ー!
「はうっ……!?」
「あれ? どうしたんだいポーヌさん?」
無事に一瞬で隷属化して、その反動で跳ね上がるようにしてピーンと直立してしまうルービーク。
その様子に状況が分かっていないレオデックさんが、気遣うように声をかけている。
「ごめんねおじいちゃん。今日ステイルークに来た本当の目的は、この監査員を捕える為だったんだ」
「……はぁっ!? 国から派遣されてる監査員を捕えるって、え、なんで……!?」
「問答無用で隷属化したってことは、間違いなくレガリアの残党だったんだね? ダンさん」
「うん。レオデックさんにはポーヌって伝えてあったのに、鑑定ではこの女性の名前はル-ビークって表示されてたからね」
問いかけてくるレオデックさんを完全スルーして話を進めるターニア。強い。
おかげでターニアに便乗して話を進められるよ。
「国から派遣されてる相手が偽名を使うとかありえないでしょ? レガリアの残党でもない限りはさ」
「ぎ、偽名!? 残党って!? 3人とも、いったい何の話をしてるんだい……!?」
混乱しているレオデックさんに、最小限の情報を共有する。
建国からずっとこの国を苦しめ続けた組織レガリア。
今回俺達は、その構成員が地域監査員として各地に派遣されている事実を突き止めた。
だから今は各地を回って監査員を捕獲して回っているのだと、掻い摘んで説明した。
「そ、そんな組織が存在していること自体信じられないけど……」
意外な事に、レオデックさんはレガリアの事を知らなかった。
ラトリアを通して国から各地の領主たちに注意喚起が行なわれた筈だけど、その連絡も監査員が担当したなら情報を制限されても仕方ない。
「ステイルーク襲撃を手引きした組織と言われると、信じないわけにもいかないか……!」
「ごめんレオデックさん。今はあんまり時間が無いんだ。だからこれ以上詳しい話が聞きたければ日を改めるか、もしくは俺達に同行してもらえる?」
「……同行しよう。この国の貴族として知っておくべき情報に思えるし、ターニアとニーナが関わっているのに私が何もしないわけにもいかないからね」
娘と孫だけに働かせるわけにはいかないと、獣爵レオデックが動き出す!
しかし娘と孫と手を繋いでデレデレ笑っちゃってる姿を見ると、全く頼りになりそうもないんだよ?
ま、険しい顔をしているよりも、孫と娘とニコニコしてるほうが健全だよ。
ターニアとニーナの仕事もこれで終わりだから、後は3人で一緒に過ごしててもらって構わないしね。
ルービークとレオデックさんを連れて、一旦奈落に転移した。
「あ、ダン! この者たちにも早う従属魔法をかけて欲しいのじゃっ!」
奈落に戻ると、ほっぺに食べかすをつけたフラッタが早く早くと俺の手を引いてくる。
テーブルの上にまだ山のような料理が積み上がっているのが気になって仕方無いんだけど、フラッタに連れて行かれた先には3名の気絶した男女が倒れていて、それをティムルが見張っていた。
コイツらってもしかして監査員???
え、もう3人も捕まえて来たの? 早すぎない……?
フラッタとティムルに確認しつつ、倒れている3人を隷属化する。
しかしヴァルゴ、張り切りすぎでは?
いくらレオデックさんと談笑してた時間があったとは言え、この短時間で3ヶ所回り終えてるとか……。
「ほらぁ。ダンが覚悟しろとか正念場とか言っちゃったじゃない? だからヴァルゴ、物凄い集中力で監査員を捕獲してるみたいよぉ?」
「え……。それって大丈夫なのかな? 人違いとか起きない……?」
「それもダンが言っておった通り、予め領主に聞いた外見や名前と鑑定情報にズレがある人物を狙っておるようじゃな。その後領主にも顔を確認させておるようじゃから、今のところ人違いは起きておらぬのじゃ」
「う、う~ん……。なるほどねぇ~……?」
俺が焚き付けすぎちゃったせいで、ヴァルゴはマジで余計なことを一切考慮せずに監査員の捕縛だけを優先して行動しているようだ。
ってことはつまり、普通に各地の領主邸を襲撃してるってことだよなぁ……。
人違いが起きていないならギリセーフ、かぁ……?
ま、今更過ぎる心配かこんなのは。
各地の領主を問答無用で誘拐しておいて、最早発覚するかどうかを心配する段階じゃないわな。
「あっ、旦那様ーっ! 隷属化お願いしまーす!」
「はやっ!?」
俺がグズグズとしている間に、ヴァルゴが新たな監査員を捕縛して奈落に戻ってくる。
っていうか声がでかいよヴァルゴってば!
一応俺が従属魔法を使えるのは秘密って事になってんだからねっ!?
「ヴァルゴさーん! 次の目標はフォーベアです! 領主の準備完了しましたーっ!」
「了解ですーっ! 直ぐに参りますから少々お待ちくださいねーっ! では旦那様、エマが待っているので失礼しますっ!」
「い、いってらっしゃ……もう居ない!」
魔迅まで使ってエマの元に駆け寄ったヴァルゴは、その勢いにどん引きしている領主の手を引っ張りながらアナザーポータルで転移していった。
エマのサポートも十全に機能しているみたいだし、グズグズしてるとマジで全ての都市を2人だけで回られかねないな。俺もさっさと動かないと。
監査員の捕縛に成功したら解放すると約束したおかげか、か口の領主たちは非常に協力的だ。
戻ってくる度に従属魔法を使わなきゃいけない俺と違って、ヴァルゴとエマペアは破竹の勢いで監査員を捕獲し、そして領主達を解放していく。
領主が減る毎に監査員は増えていくけれど、監査員は全員俺が隷属化しているので逃げ出す心配は一切ない。
なので次第にみんなでお茶をし始めて、フラッタとリーチェを中心に各地で色々な食べ物を購入してきて、わいわいきゃーきゃーと楽しそうに談笑している。
笑顔溢れる正念場ってなに……?
「事情説明を頼むよ領主様。早めに解放されたかったら問題は起こさないでね?」
1度目の領主誘拐が騒動になっている地域も少なからずあったけれど、そこは領主本人を連れ帰ったことで何とか騒動を治めることが出来た。
レガリアに与していたことで自分の処遇に不安を抱いていた領主たちは、自分たちの不始末や不祥事を監査員に押し付けられると非常に積極的に協力してくれた。
俺達の領主誘拐を問題にすると、俺達が領主達を攫った動機、つまり自分がレガリアに与していたことが露見してしまう。
先の竜爵家の騒動や同時多発テロで、支配者層には組織レガリアの存在が仄めかされている為、レガリアに与していると知られたら厳罰は免れない。
先王の崩御に関わった組織だし、関与が疑われる領主は問答無用で処刑されてもおかしくないからな。
だから俺達に誘拐されたのは、組織レガリアの構成員を捕える為の秘密の作戦に協力していた事にしてもらった。
誘拐自体には何の問題もなかったんだよと振舞うことで、レガリアと協力関係にあった事を否定して見せたというわけだ。
この辺はシャロとお姉さんの発案らしい。
放置していても大きな害は無いであろう無能の領主連中を捕えるよりも、意図的に領主の影に隠れて暗躍を続ける監査員を優先して捕えるべきだってことね。
無能を放置すると物凄く大きな迷惑を被る可能性だってあるんだけどね……。
ゴブトゴさん辺りとか凄く共感してくれると思う。
だけど今はレガリアの残党を優先すべきなのは俺も分かっているので、俺達が領主だちを誘拐した事と、領主達がレガリアに甘い汁を吸わせてもらっていたことを相殺して水に流して、共通の敵であるレガリアに全部不具合を押し付けようって作戦だ。
ちなみに、国から派遣される地域監査員が偽名で活動できる理由はというと、ステータスプレートそっくりなカード型のマジックアイテムを、ステータスプレートを取り出す振りして各地の領主に提示していたからだそうだ。手品かな?
地域監査員は少ない者でも8つ以上職業を浸透させており、対する領主たちは1つ2つ浸透して入れば良いというような状況だから、監査員の不自然な動きを見切れる領主はそう多くないんだろうな。
ゴルディアさんやレオデックさんのような戦える領主と接しなければならなかった場合は、第三者などの仲介などを設ける事でステータスプレートの提示を極力避けていたそうだ。
「この者で最後になりますね。旦那様、隷属化をお願いしますっ」
「はいはーい隷属化ーっと。お疲れ様ヴァルゴ。エマ」
怒涛の勢いのヴァルゴと、びっくりするほど協力的になった領主たちのおかげで、日没を向かえる前に71名ほどの地域監査員を捕獲する事に成功した。
やはり始めの領主誘拐で異変を感じて姿を消した地域監査員も居て、残念ながら全ての地域の残党を捕縛してくることは出来なかった。
「たっだいまなのじゃーっ! ダンよ、全員捕えて来たのじゃーっ!」
しかしそこはヴィアバタに派遣されていたリリート(偽名)から引き出した情報で、緊急時に潜伏する予定の拠点の位置が明らかになった。
なので腹ごなしも兼ねてフラッタとリーチェを中心とした居残り組のメンバーが、潜伏していた地域監査員を捕えて帰ってきてくれた。
隷属化した監査員たちに確認すると、間違いなく全ての監査員を捕縛する事に成功したようだ。
1人も死なれずに事が済んで、本当に良かった良かった。
「司教テネシス様に確認してきましたけど、ガリアの1件で教会の内部を調査し直したおかげで、不穏な動きをする人物は既に排除した後だという話でしたっ。ただ、事の顛末は知りたいので、後日私が報告をあげる約束をしてきましたよーっ」
「お疲れ様ムーリ。まさかここでガリアの1件が活きてくるとはビックリだねぇ……」
エロ司祭ガリアの調査の時にも怪しい動きをする者に気付くことは出来たけれど、教会の動きを察した相手に逃亡を許してしまったそうだ。
なので今回の監査員の中に教会に接触した者がいるのではないかと疑っているらしい。
さ、それじゃテネシスさんの期待に応えられるかは分からないけど、楽しい尋問タイムを始めましょうかねー?
と言っても既に全員を隷属化してるから、普通に質問するだけのとっても簡単なお仕事です?




