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【全年齢版】異世界イチャラブ冒険譚  作者: りっち
新たな王と新たな時代2 亡霊と王
581/637

581 資料

※R18シーンに該当する表現をカットしております。

「俺は研究を愛するキュールと生涯を共にすることを魂に誓うよ」



 キュールを妻に迎え、数分間抱き合ったままひたすら唇を重ねる。



 婚姻を結んだ直後という事もあってか、キュールもただ激しいだけではない情感たっぷりのキスを楽しんでくれている。


 キスはあまり体力を奪われるような行為じゃないし、研究最優先のキュール的には好きな行為なのかもしれない。



「妻になったキュールと改めてもう1回……と言いたいところだけど、今回は我慢しておこう。好色家が浸透していないキュールが俺とのえっちに耐えるのは難しいからね」


「ア、アレだけしたのに本当にケロっとしてるねぇ……。職業補正だと分かっててもびっくりするよ……」



 俺の提案を受け入れて、慄きながらもあっさりと体を離すキュール。


 もっともっとと迫ってくる我が家の家族の反応と比べると、なんか逆に新鮮に感じてしまうな?



 体力を消耗したキュールを椅子に休ませて、俺は汚してしまった部屋の後始末を済ませる。


 そして後始末をしたことで、最近は俺が後始末をする機会が殆ど無かった事に改めて気付かされてしまった。



「みんなに押し付けてたつもりは無いけど……。帰ったらちゃんとお礼を言おう」



 普段はもっと汚された部屋を片付けなきゃいけないっていうのに、俺に気付かれないように掃除しちゃってくれるんだからなぁ。


 本当にみんなには頭が上がらないよ。



 しっかし、こんな場所に掃除用具一式が揃っててちょっと驚いた。


 ノーリッテかゼノンのどっちかは分からないけど、意外と綺麗好きだったのかな?



 簡単に後片付けを済ませ、椅子で休んでいるキュールに声をかける。



「お待たせキュール。動けそうかな?」


「自宅ですらないのに、よくもまぁ……」



 俺が片付けをしている姿を信じられないような目で見ていたキュールが、自分の気持ちを正直に打ち明けてくる。


 キュールの言い分も分らないでもないけど、情事の匂いが蔓延する部屋で資料漁りとかしたくないんだよ? またすぐキュールを押し倒したくなっちゃうから。



「はぁぁ~……。頼りになる夫のおかげで大分休めたよ。おかげで私に家事は無理だと改めて痛感させられちゃったけどねぇ?」


「俺の妻になった以上、殆ど家事をする必要は無くなったんじゃないかなぁ? その代わりひたすら肌を重ねる毎日になると思うけど」


「……早いところ好色家を浸透させないと、本気で身がもたなそうだ」



 まったくだね。今後気兼ねなくえっちする為に今は我慢するしかないよ。


 帰ったらさっそく好色家の条件を満たす為にみんなと大運動会をして、今日のうちにシャロとキュールの好色家を浸透させてしまおーっと。



 ……その時に艶福家も出現するようだったら、鑑定の出来ないシャロに内緒で一気に浸透させちゃおーっ!


 さぁて後の楽しみも出来たことだし、少し真面目に調べて回るかな?



「ねぇキュール。ひと口で語れるかは分からないけど、ノーリッテってここでなんの研究をしてたの?」


「ふむ、そうだね……。研究内容は多岐に渡るけど、その目的は一貫していたかな。メナス……いやノーリッテの目的は、イントルーダーを顕現させること、ただそれだけだったよ」


「造魔の為、か……」



 会話しながら手を引いて、椅子から立ち上がらせたキュールを抱き寄せる。


 特に意味は無いけれど、なんとなくキュールの事を抱き締めてあげたくなったのだ。



 本当はお姫様抱っこしてあげようと思ったけど、これから手分けして資料漁りをする予定とは相性が悪いので我慢した。



「多岐に渡るって……」


「あ、造魔と言えば……」


「「あっ……」」



 同時に話し始めてしまって、お約束のどうぞどうぞの応酬が始まる。


 けどここはレディファーストということで、キュールの話から聞く事にした。



「造魔スキルのことはもう報告しちゃったけど、私とダンさんの婚姻についても帝国に報告していいかい? 多分報告の義務は無い情報だと思うけど……。言っておかないと陛下に怒られてしまいそうでさ」


「それくらいなら別に俺に断らなくてもいいよ? でも怒られるんだ?」


「多分ね。陛下は人をからかうのが大好きな方だからさ。私がダンさんと婚姻を結んだこともからかってくるだろうけど、それを隠してからかい材料を1つ増やすわけにはいかないよ」



 やれやれと、なんだか疲れた感じで肩を竦めるキュール。


 神器関係で皇帝カレンには少し警戒心を持ってるけど、人をからかうのが好きというお茶目な一面も持ち合わせているようだ。



「もうキュールが俺の妻なのは事実だからね。帝国どころか世界中に喧伝してもいいよ? これが俺の大好きなキュールですー! って」


「……アレだけ渋ってたくせに、受け入れるとなったらグイグイ来るねぇ?」


「俺が渋ってたのは、あのままキュールを受け入れてもお互い幸せになれない気がしたからだよ」



 呆れ顔のキュールに改めて唇をグイグイ押し付ける。


 俺より研究を愛すると言われて少し嫉妬しそうになってしまったけど、俺は研究を愛するキュールのことが好きなんだから受け入れるしかないよな。



「本音を言い合えばいいってもんじゃないだろうけど、それでもやっぱり本音も言えない関係で夫婦生活が続くとは思えないからさ。キュールの本音を聞けた今、夫婦生活に何の不安も無くなったんだ」


「耳が痛いね……。嘘を吐いたつもりは無かったけど、確かに本心は見せてなかった気が……って、あっ……」



 俯きそうになったキュールの顎を持ち上げて、もう1度俺からキスをする。


 俺とのキス中に俯こうとするなんて、そんなの許してあげないってば。



「過ぎたことは気にしなくていい。隠し事をしても、謀をしても構わない。キュールが幸せでいてくれるならそれだけで俺は幸せだからね?」


「そこまで信用されちゃうと、逆に隠し事が出来なくなる気がするよ……」



 いやぁそうでもないと思うなぁ?


 我が家は意外と、お互いに隠してることが結構ある気がするんだよ。



 俺だけに限っても、魔物使いと召喚士の転職条件をニーナにさえ明かしてないからなぁ。



「別に何でもなんでもかんでも打ち明ける必要は無いよ。あのキュールさんが俺と婚姻を結びたがるなんて思ってもみなかったし、ここに来るまでニーナたちがキュールに協力してる事になんて全く考えが及んでなかったからね」


「さっきのでもう懲りたってばぁ。私の愛する男には隠し事は通じないってさぁ」



 愛する家族に隠しごとは出来ないって、それ完全に俺のセリフなんだわ。


 ニーナなんて俺の思考を1字1句間違いなく読み取ってくるから、逆に自分の考えをニーナに教えてもらったりするケースすらあるからね……。



「ともかく、これで私の用件は終わったよ。次はダンさんの話を聞かせてくれるかな?」



 少し不貞腐れたように、プイっと顔を背けるキュール。



 拗ねた様子も可愛いなぁもう。


 うちはみんな素直だから、こういう反応はちょっと新鮮だ。



「俺の話はさっきの話題の続きだよ。多岐に渡ったっていうノーリッテの研究のこと、もう少し具体的に聞こうと思っただけ」


「んー、具体的にと言われても、本当に幅広く研究されてたんだ。魔物の資料、野生動物の研究、マジックアイテムに各アウターの調査。勿論職業の種類や歴史なんかも調べさせられたよ」



 どうやらノーリッテはありとあらゆる方面からイントルーダーを追い求めていたようだ。


 そこにはイントルーダーへの情熱と、研究が順調に進まなかったであろう葛藤が見え隠れしているように感じられた。



「ノーリッテの研究全てにキュールは関わってたの?」


「いや、私が携わっていたのは主にマジックアイテムの研究だよ。それとは別に、レガリアに残されていた資料を自主的に読み漁ったりしていたんだ」


「お、マジックアイテムの研究に携わってたのは心強いね。ここに来た本来の目的は、レリックアイテムやマジックアイテム開発の資料に目を通したかったからだし」



 キュールの触心はマジックアイテム開発にかなり有用な能力だろう。


 呼び水の鏡と視界の王笏という現物の神器を触心させれば、本当に様々な情報が……って。



「ノーリッテの研究に協力させられてたのに、その時に神器を見せられなかったの?」


「いやいや。そもそもノーリッテが神器を持っている事すら知らなかったからね? 私たち帝国側が神器の行方を知ったのは、あくまで識の水晶に教えてもらえたからなんだから」


「あ、そうだったね」



 キュールって出会った時に既に神器のことを知っていたから、なんか始めっからノーリッテの神器研究に関わっていた気がしてたよ。


 呼び水の鏡のことも見たことなかったようだから、キュールは神器の研究には参加させられなかったのか。



「でもノーリッテの持っていたマジックアイテムは、どう考えても神器を模したとしか思えない物も少なくなかった気がするよ? 神器を研究するのにキュールの触心は最高の能力だと思うんだけど、なんでキュールを神器の研究に関わらせなかったんだろう?」


「私も触心のことをひけらかしていたわけじゃないけど……。私が神器に触れられなかったのは多分、私が魔人族だったからじゃないかな?」


「へ?」



 魔人族だからって理由で、キュールを神器研究から除外するの? 普通逆じゃない?


 魔技が使える魔人族は種族的に魔力制御に長けているんだから、むしろ積極的に研究に携わらせるべきじゃないの?



「ダンさん。忘れてるみたいだけど、レガリアは人間族だけで構成された組織だよ?」


「あ、そう言えばそうだった……」


「人間族以外は基本的に信用せず、マジックアイテムの開発なんかも極力人間族にやらせていたみたいだからね。神器の研究に私が関われるわけないのさ」



 人間族さんが他の種族にハブられる事はあっても、人間族が他種族を拒絶する流れって珍しいから思い至らなかった。


 レガリアの構成員全員が人間族では無かったんだろうけど、それでも組織の中枢に他種族の者を招き入れることは無かったのか。



「ってことはむしろ、人間族じゃないのにここまでノーリッテに重用されたキュールの有能さが光るね?」


「お褒めに預かり光栄だけど、単純に今代のメナス……ノーリッテが種族に拘っていなかっただけだと思う。ゼノンにはいつも嫌な顔をされていたからね」


「はっ、アイツらしいねまったく」



 確かにノーリッテは種族になんか拘らないだろうなぁ。


 ノーリッテはゼノンがヘッドハンティングしたらしいけど、本来のメナスは組織の構成員から選出されるとか言われたっけ。



「ん? でもレガリアが嫌ってたのってスペルド王国とエルフェリア精霊国なんじゃなかったっけ? 魔人族のキュールを嫌う理由はあったのかな?」


「その辺はレガリアの構成員に聞いてみるしかないだろうね。でも組織レガリア内で人間族以外の種族が対等に扱われたことは無かったと思うよ?」



 偽りの英雄譚をきっかけにエルフと王国の人々を蝕む呪いとなった組織レガリアは、いつしか呪いの対象を拡大し、自分たち以外の全てを呪うようになってしまったのか?


 その成れの果てが世界呪だなんて、皮肉にもなりゃしないっての。



「クラメトーラの困窮も助長していた節があるし、竜人族も飼育してたんでしょ? 他種族は全て人間族の下に見ていたんじゃないかな」


「レガリアの構成員かぁ。見分ける方法でもあれば……。この研究所に都合よく構成員のリストとか無いかな?」


「流石に無いと思うし、仮に名簿があってもここには無いんじゃないかな。ノーリッテは組織レガリアに興味を持ってなかったからね。ここは本当の意味で、()()()()()()()()()、なんだよ」


「……組織レガリアとは無関係ってことね。分かりやすい解説どうも」



 という事は、キュールを協力者としてスカウトしたのはノーリッテ本人だったのかな?


 いや、種族に拘らないノーリッテの為にゼノンが探し出してきたと考える方が妥当か。



 話がひと段落したので、キュールに案内してもらって研究所内を見て回る。


 そして四方の壁が全てが棚になっている、通称『資料室』に到着した。



「秘密の研究所の資料室なのに、本当に普通の家のただの一室って感じなのなー」



 壁が全て棚になっており、そこに大量の書類が収められている事を覗けば、部屋の中央に大きなテーブルと2脚の椅子があるだけの殺風景な部屋だった。


 研究所と言うよりは図書室、または書斎のような雰囲気だな。



「機密の保持の為にもっとこう……。例えば隠し扉の先に隠してあったりとか、地下深くに潜る必要があるかと思ってたよ」


「……それはいったい何のイメージなんだい? 研究のための施設なのに、研究の度にいちいち隠し扉を開けたり地下に潜ったりなんて、そんなの面倒臭すぎるじゃないか」


「……ご尤もです」



 研究所って聞くとゾンビが出たりギミックいっぱいのからくり屋敷のようなイメージが湧いてしまうけど、機密保持を度外視して利便性を追求すれば、居住空間に併設してしまうのが最も合理的だよなぁ。



 ここは人里から遠く離れた場所らしいし、レガリア内でもノーリッテとゼノンしか立ち入ることが出来ないような場所だ。


 情報漏洩のリスクを考えるのも馬鹿らしいし、そもそもノーリッテはそんなこと気にしない、かぁ。



「まぁいい。とりあえず軽く目を通してみよっか」



 キュールと手分けして、大量の資料を選別していく。


 既にこの場の資料の殆どに目を通したらしいキュールにマジックアイテム関係の資料を抜粋してもらい、俺はそれを受け取りながら全体的にざっと目を通す事にした。



 野生動物への従属魔法の影響、造魔スキルの検証なども気になるけれど、基本的にイントルーダーに繋がるかもしれない情報ばかりが目立つな。


 建国の英雄譚の真実とか、ノーリッテが興味無さそうな資料は一切置いてない感じだ。



「んー……。この資料を全部持ちだすのってかなりの手間だな……。家に持ち帰っても置く場所が無いし……」


「でも人体の魔物化についての研究とか、魂の操作とか、放置しておくには危険な資料が多すぎるんだよね。ここは人里離れた場所らしいけど、絶対に人が来ないとは言い切れないだろうしさ」


「確かになぁ……。ざっと目を通しただけでも、人目に触れさせられない情報が多すぎる、かぁ……」



 ここにある膨大な資料を全て持ち出すのは、重量軽減スキルがあってもかなり面倒臭い。


 けれどここに残して放置するには危険すぎる情報が満載、と。



 何かいいアイディア飯はないかなぁと頭を捻ってみたところ、1つの妙案が浮かんできた。



「ねぇキュール。ここってノーリッテとゼノンしか立ち入りが出来なかったんだよね?」


「へ? うん、そうだよ。少なくともゼノンにはそう聞かされたよ。実際あの2人と私以外の人間をこの場で見たことないね」


「で、その2人は間違いなく落命していて、現在ここに間違いなく移動してこれるのは、俺とキュールの2人だけってことになるよね?」



 であればいっそのこと、この建物ごといただいてしまってはどうだろうか?



 セキュリティ方面で何らかの防衛システムみたいなものがあるかと身構えていたけど、面倒臭がりのノーリッテがそんなもの用意するはずが無かったぜ。


 おかげで施設をそのままパクっても問題無さそうに思えるのだ。



「私がレガリアから抜けたのは何年も前だし、私の知らない誰かが出入りしてる可能性はあると思うよ? 今のところ誰かが出入りした痕跡は無いってだけで」


「もしもキュールの知らない人なんかいなかったらさ。ステータスプレートの認証だけ変えて、俺達で貰っちゃわない? この建物」


「え、えぇ……? いくら所有者が死んでるからってそれは流石に……」



 俺の提案にキュールは軽く引いている。


 知的好奇心が刺激されたら何処までも突っ走るくせに、興味ない話題になった途端に常識人になるのやめて?



「いやでも、確実に所有者が死んでるからむしろアリ、なのかなぁ……? 実際放置も出来ないし……」


「今回キュールを妻として迎えたけど、チャールとシーズは客人扱いだからね。究明の道標の拠点となるような場所があってもいいんじゃないかって……。あ、ダメだ。キュールって家事全般無理だったんだわ。ここを管理するの難しそう」


「ちょーーーっ!? ここをもらうかどうかはともかくとして、断念する理由がそれなのは納得いかないんですけどーっ!?」



 納得いかないって……。


 むしろここで反論してくるキュールの鋼メンタルに驚くよ?



 家事能力の無いキュールにこの場を任せちゃったら、せっかく確保した資料が逆に失われかねないからね?


 チャールとシーズは掃除も料理も出来るから、あの2人に研究所の管理を任せっぱなしになってしまう光景が目に浮かぶよ……。



 妻が他人様に迷惑をかけるような提案、するわけにはいかないんだよなぁ。

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