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【全年齢版】異世界イチャラブ冒険譚  作者: りっち
新たな王と新たな時代2 亡霊と王
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578 好奇心

※R18シーンに該当する表現を若干カットしております。

「ダンさんっ! 私のことも貰ってもらえないかなっ……!?」



 キュールさんのポータルで、かつてノーリッテが秘密裏に利用していたという研究所に転移した俺は、家族の協力によって2人きりにされたキュールさんに嫁に貰って欲しいと懇願されてしまった。


 俺だけ知らされていないシチュエーションといい、シャロを貰ったばかりのタイミングでの告白といい、なんだかエマを迎えた時のことを思いっきり連想してしまった。



「……えーっと、キュールさん?」


「なななななっ、何かなななっ……?」



 真っ赤になって目を逸らしつつも、チラチラと横目でこちらを窺うキュールさん。


 告白までの流れをご説明いただきたいんだけど、この状態で返事を保留するのは可哀想か。



「……ふぅぅぅ。よしっ」



 さっきシャロと婚姻契約を成立させたばかりで、同日にもう1人なんて流石に戸惑うけど……。覚悟は決まった。


 今まで持ち続けた倫理観はもう捨てて、これからは慕ってくれた女性を片っ端から受け入れようじゃないかっ。



「まず結論から言うね。みんなから歓迎されているなら俺としても何にも問題無い。これから宜しくキュールさん」


「…………ふぇ?」


「貴女を妻に、家族に迎えるよキュールさん。流石に事情は説明してもらうけどね」



 声をかけながら歩み寄り、赤面したまま固まってしまったキュールさんが動き出すまで抱き締める。


 事情を説明してもらう前に唇を奪うわけにはいかなかったけど、これで彼女を受け入れる意志がある事は伝わってくれるだろう。



「あ……」



 俺に抱き締められて、呆けたように小さく息を吐くキュールさん。



 キュールさんはあまり運動が得意じゃないからか、我が家では少数派の筋肉少な目の体をしているなぁ。


 筋肉だけじゃなく脂肪分も少なくスラっとし過ぎてて、出会った頃の去年のニーナを思い起こさせるよ。



「早速この場で押し倒してあげたいくらいだけど、ちゃんと話をしてからにしようね。いちから説明してくれる?」


「……べ、別に、この場で始めちゃっても構わないよ? ……初めてって訳でもないしさ」



 セリフの前半はしどろもどろな感じで可愛かったのに、後半部分は不貞腐れたように吐き捨てるキュールさん。


 そんな彼女をよしよしなでなでして、そんなことは気にしてないよと態度で伝える。



「キュールさんの男性遍歴には興味無いけど、貴女の事を何も知らずに押し倒すワケにはいかないよ。まずは貴女の事を聞かせて欲しいな」



 抱きしめているキュールさんの額や頬に軽い口付けを繰り返す。


 すると緊張が解れてきたらしいキュールさんは、なんだか気恥ずかしそうな表情を浮かべてしまった。



「……男性に夢見る少女って歳でもないんだけどねぇ? こんなに気を遣ってもらわなくても構わないんだけど」


「俺が聞きたいんだよ、キュールさんの話をね、だから出来れば落ち着いて話したいんだけど……」



 目の前には話をするのにうってつけの建物があるんだけど……入って大丈夫なのかな?


 あのノーリッテの研究所と聞くと、入った瞬間大爆発を起こして研究資料と侵入者をデリートする、とかしてきそうで怖いんだけど?



「キュールさん、中に入ろっか。中に椅子とテーブルくらいあるんでしょ?」


「あ、うん。ゼノンという男がメナスに食事を作っていたりしたからね。簡単な調理施設もあるはずだ」


「流石にこの中の食材を使う気にはなれないけどねぇ……」



 ゼノンって確かヴァルゴにぶっ殺された呪槍使いだよな?


 ノーリッテに心酔していたらしいし、変なものは食わせてないんだろうけど……やっぱこの中の食材は食いたくないわ。



 紫の肌にまだ少し赤みを残したキュールさんの手を引いて、研究所という名のログハウスに侵入を試みる。


 入り口の扉は施錠されておらず、家の中には埃が積もっているようだ。



「……疑っていたわけじゃないけど、本当にメナスもゼノンも死んだんだね。この扉は2人にしか開けられないはずだから、施錠されてなくて良かったよ」


「どれだけ舞い上がってたんだアイツは……」



 俺にハイテンションで語りかけ、勢いでエルフェリアを滅ぼしかけたかつてのノーリッテを思い出す。


 確かにあの時のテンションは、施錠くらい忘れて家を飛び出しててもおかしくはないな。



 察知スキルと五感補正を使用し、更には気配遮断も使って最大限の警戒をする。


 くっ、魔力がきついっ……! 直前にタイニーコロッサスなんか呼び出すんじゃなかったぁ……!



「……散らかってるな」



 研究所に1歩足を踏み入れると、家の中には研究資料だと思われる書類が乱雑に散らばっていた。


 物取りの犯行というよりは、全ての資料を片っ端からひっくり返したような印象だ。



 散らばっている資料を何枚か拾ったキュールさんが見解を示す。



「散らばっているのは全てマジックアイテムに関する資料のようだよ。一般には出回っていない、レガリアが開発した碌でもないマジックアイテムの資料だけどね」


「ああ、移魂の命石とか貪汚の呪具とかね」



 かつてレガリアに使用されたマジックアイテムの名を口にすると、キュールさんは驚いたように目を見開いて俺を見る。


 驚いたおかげで、どうやら顔の赤みは引いてきたようだ。



「……ダンさん。ここに来たの、本当に初めてなのかい?」


「実際に使われた被害者なだけですぅ。呼び声の命石とかサモニングパイルも知ってるよ」


「それら全部を使用されて平然としているわけかぁ……。これはメナスも勝てないわけだ……」



 こっちはむしろ、それら全部をキュールさんが知っている事に驚くんだけどなー?


 ノーリッテとゼノン、2人のメナスしか立ち入れない建物に出入りを許され、ノーリッテが俺達を殺すために使ってきた虎の子のマジックアイテム全てを知っているとか、キュールさんのレガリアの中の立ち位置が不透明というか。



 まぁ家族に迎える女性の事を疑う気は無いですけどねーっ。



「しかし足の踏み場も無いな。この状態じゃせっかくの資料を破ってしまいかねないし、軽く片付けよう」


「げっ……。嘘でしょ……?」


「え、何その反応? トラップでもあるの?」


「本気で言ってる……? 私、自分の部屋の片付けすらしないのに……」


「……キュールさん。自分の発言こそ正気を疑った方がいいんだよ?」



 本気でドン引きされたから割と本気でびっくりしたじゃんか、もう。



 まったく……。掃除が苦手なだけだなんて、無駄に警戒して損したよ。


 キュールさんは家事が出来ないタイプの学者さんかぁ。



「ほらほら。適当にまとめてテーブルの上に載せるだけでもいいから。ササッとやっちゃおう」


「んも~……。なぁんで私が他人の家を片付けなきゃいけないんだよぉ~……」



 そのセリフは、自分の家をちゃんと片付けてる人しか言っちゃダメなんだよ?



 レガリア亡き今、魂を操るマジックアイテムや、異界の扉を開くマジックアイテムを新たに研究するのは難しいだろう。


 人道的な意味で再現が難しい研究の貴重な資料だ。学者なら率先して保護してよねっ。



 渋るキュールさんを追い立てながら、散らばった資料を適当に片付けた。


 結果的に殆ど俺1人で片付ける羽目になったけど?






「あ~……。やっと終わったぁ~……」



 数十分後、魂が抜けたように椅子にもたれかかるキュールさん。


 ヨダレが垂れそうなくらい大きくだらしなく開けられている口に蓋をしてあげたいところだけど、それは話を聞いてからいっぱいするとしよう。



「勘弁してよ~……。私は炊事洗濯、いや家事全般がまるでダメなんだよ~……」


「キュールさんって、さっき俺にプロポーズしたばかりだって覚えてる? ま、お疲れ様~」



 魂の抜けたキュールさんを労いながら、彼女の向かい側の椅子に腰を下ろす。


 ノーリッテとゼノンという男しか使っていないという話は本当らしく、家具の類いが大体1組ずつしか無いようだ。



「お茶でも淹れてあげたいところだけど、ノーリッテたちが用意した物を口にしたくないからね。悪いけどこのまま話を聞かせてもらうよ」



 片付けの時にざっと見て回った限り、お茶を用意するくらいは出来そうなんだけどね。


 ノーリッテが使ってた施設に残されたお茶とか、何のお茶か分かったもんじゃないっての。多分普通のお茶だと思うけど。



 俺の声に辛うじて反応したキュールさんは、ギギギ……と鈍い音が鳴りそうなくらい緩慢な動きで体を起こす。



「……話をする前に確認しておきたいんだけど、ノーリッテっていうのはメナスのことでいいのかな?」


「あ、ついノーリッテって呼んじゃってたか」



 今までキュールさんに合わせてメナスって呼んでたけど、気が抜けてしまったのか、或いはキュールさんももう身内判定が出てしまったのか、自然とノーリッテと呼んでしまっていたようだ。


 今までなんとなくキュールさんの前でノーリッテと呼ばなかったのは、キュールさんの立ち位置が不透明だったからかもしれないな。



「そうそう、メナスの本名はノーリッテって言うんだよ。51歳の人間族女性だったんだ。家名は持ってなかった」


「年上だろうとは思ってたけど、母よりよほど年上じゃないか……。いやそれ以前に、女性だとは思ってなかった、かな」



 そういやラトリアやシルヴァでもノーリッテの情報を読み取ることができなかったんだっけ。


 キュールさんの触心なら或いは情報を抜き取れたかもしれないけど、そんなことしたら殺されてるか。



 いや、そもそもノーリッテが装備していた無貌の仮面には鑑定妨害効果が付与されていると言っていた。


 なら恐らく触心も弾かれてしまった可能性が高いな。



「……ダンさんって、本当に私が知らないことを何でも知ってるよね」


「何でも知ってるわけじゃないよ。なんかいつの間にか巻き込まれてて、否応無しに色んな事を叩き込まれただけだから」


「うん。だから私も、ダンさんと一緒に巻き込まれてみたいって思ったんだ」



 居住まいを正したキュールさんは、自身の膝に手を載せて、真っ直ぐな眼差しを向けてくる。


 キュールさんの熱意に向き合うように、俺も居住まいを正して正面から彼女の言葉を受け止める。



「もう返事は貰ったけど、改めて言わせて欲しい。ダンさん。私は貴方の妻に、貴方の家族になりたいんだ」


「うん。改めて歓迎させてもらうよ。俺はキュールさんを妻として家族に迎える事をここに誓う。けど……」


「先に話を、かい?」



 少し肩の力を抜いたキュールさんが、少しおどけた調子で確認してくる。


 そんな彼女に真っ直ぐ頷きを返した。



「うん。キュールさんの事をちゃんと理解した上で婚姻契約を結びたいと思ってる。だから聞かせてキュールさん。どうして俺の妻になりたいなんて言い出したの?」


「おやおや、随分野暮なことを聞くねぇ? 好きになったから……では納得してくれないのかい?」


「夢見る少女って歳でもないんでしょ? だから腹を割って話そうかなって」



 軽い冗談で俺の問いをはぐらかそうとするキュールさんに、俺の考えを素直に話す。


 俺より年上の女性に、下手な遠慮や気遣いは無用だろう。



「キュールさんは知的で落ち着いていて、好奇心以外の感情に突き動かされる人には思えない。俺の家族になりたいといった言葉の裏には、少なくない打算が隠されてるように思えて仕方ないんだよ」


「……夫に理解してもらえていることを喜べばいいのか、夫に腹黒いと言われて悲しめばいいのか迷うところだよ」


「話してキュールさん。打算があろうが腹黒かろうが、俺はどんなキュールさんでも家族に迎えるつもりだから」


「…………やっぱり複雑な気分だよ」



 この人褒めてるの? 貶してるの? みたいな顔をしたキュールさん。


 観念したように1度大きく息を吐いて、ゆっくりと語り始める。



「疑われてないと思うけど、女としてもう1度言わせて貰うよ? 私がダンさんに惹かれたのは本当さ」



 女として、なんて言いながらぶっきらぼうに言い放つキュールさん。


 愛を告白されているのに、まったく艶っぽいムードにならないのがキュールさんらしい。



「2種の神器に始まって、始まりの黒やタラム以外の魔人族、祝福の神トライラムの正体から、聖域を生み出すレリックアイテムと、貴方は私の好奇心を刺激しすぎだよ」


「全然愛を告白された気がしないけど、キュールさんが楽しそうだからこの際気にしないでおくね」



 恋愛の形はそれぞれだもんね。


 キュールさんの場合は恋愛の入り口が好奇心だったってだけの話だろう。



 ……流石に好奇心だけで家族になろうとは言い出してないはず、だよな?



「でも究明の道標なんかも結成してみたり、好奇心って理由だけなら家族になる必要は無いんじゃない? あ、キュールさんはとっても魅力的な女性だから、このあと押し倒すのが滅茶苦茶楽しみだよ?」


「……なら素直にもらってくれたまえよ。本当に面倒臭いねダンさんは。ニーナさんに予め忠告されてて良かったよ」



 くっ……! ニーナに面倒臭いって評価されてるのは地味に堪えるぜぇ……!


 このあとキュールさんから報告を受けたニーナに、やっぱり面倒臭いのーっ! って鬼の首を取ったように喜ばれそうだよぅ。



「ま、ダンさんの言った通り打算の部分も決して少なくはないかな。今回このような選択をした1番の要因は、やっぱり帝国からの離脱と言わざるを得ないよ」



 別に故郷を捨てて出てきたわけじゃないらしいけれど、もう10年以上帰っていない故郷は拠り所にならない。


 かつて所属した組織レガリアは俺が壊滅させてしまい、ヴェルモート帝国からも距離を取ってしまった。



 つまり今のキュールさんには何の後ろ盾も無い状態なわけで、生活能力が壊滅的なのを自覚しているキュールさんは1人で生きていける自信も無い。


 なので経済的にも恵まれていて気心も知れていて、なにより自分の知的好奇心を大いに刺激してくれる俺のところに、いっそのこと嫁いでしまおうと考えたようだ。



「チャールとシーズのことは心から敬愛しているけどね。私の後ろ盾には流石にまだ幼すぎる。その点ダンさんの身内になる事が出来れば、この世界のどこよりも安全で安心な暮らしが保障されてるようなものでしょ」


「……俺の傍って、言うほど安全かなぁ? ヴェノムクイーンみたいな奴とまたやり合うかもしれないよ?」


「くくく……。それだよ、まさにそれなんだよダンさん」


「へ?」



 小さく笑いながら立ち上がったキュールさんは表情を隠すように俯いたまま俺に近寄り、そして椅子に座る俺の膝の上に俺と向き合うように座る。



 困惑する俺にキュールさんが浮かべているのは、どこか獰猛さすら感じるほどの壮絶な笑顔だった。


 まるでキュールさんの内側に宿る好奇心という名の怪物が、舌舐めずりをしているかのように思えた。



「ね~えダンさぁん……? 学者が最も好奇心を刺激されるものって、何だと思う?」


「え、えーっと? ちょ、挑戦とかっすか……?」


「可能性だよぉっ! ダンさんの傍に居れば、新しいことが知れるかもしれない。新しい事が起こるかもしれない。しれないしれないかもしれない! ダンさんは可能性の塊なのさーっ!」



 興奮の雄叫びを上げたキュールさんは、そのままガバッと唇を重ねてくる。


 俺の中にある可能性をすべて喰らってやるとでも言いたげに、もはや捕食されているのではないかと思うほどに貪るようなキスをされる。



 う~ん。キュールさんは今までのみんなとは少し勝手が違うようだ。


 でも今は何も考えず、キュールさんの苛烈なキスを存分に楽しむことにしようかなっ。

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