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【全年齢版】異世界イチャラブ冒険譚  作者: りっち
7章 家族みんなで冒険譚2 聖域に潜む危機
532/637

532 ※閑話 失伝 蠱毒

※閑話です。視点はノーリッテ。時系列は少なくとも本編の20年以上前です。

 失伝の定義は、本編ではもう知ることの出来ない情報、です。識の水晶を使えばその限りではないかもしれませんが。

「今回も失敗だったかぁ……」



 今回もイントルーダーの出現に失敗し、意気消沈した私はトボトボとアジトに転移する。



 『イントルーダー』



 それはアウターエフェクトを超える、異界からやってくる脅威。


 圧倒的な悪意と力を持って人類を滅ぼしに来る、人類の絶対的な敵対者の名だ。



 古の邪神ガルクーザが存在している事から、イントルーダーも確実に存在するはずだ。


 なのに……! 



「なのにどうして、どこにもその存在の痕跡は残されていないんだ……!」



 進まない研究に、思わずひとりごちてしまう。


 イントルーダーという存在を知って以来、ありとあらゆる過去の資料を読み解き、考えられるあらゆる方法でイントルーダーとの遭遇を試みているけれど、未だに1度足りともイントルーダーには出会えていなかった。



 アウターエフェクトに遭遇するのにも大分苦労させられたけれど、イントルーダーはその比じゃないね……。


 いったいどうやったらイントルーダーにお目にかかれるのだろう?



「お、帰ったかメナス」


「ああゼノン。わざわざ待っていてくれたのかい? 相変わらず律儀だね」



 アジトの庭では、先代メナスであるゼノンが汗だくになって槍を振り回していた。


 メナスとなって人を使う立場になってからも、彼は槍の鍛錬を怠った事はないそうだ。



 造魔というスキルを得てしまった私に、最早戦闘技術を磨く必要性は無くなった。


 けれど一心不乱に槍の鍛錬に明け暮れるゼノンの姿に、少し嫉妬してしまうのも事実だ。



 私にも、彼にとっての槍くらいに夢中になれるものがあれば良かったんだけどね。



「……ふぅ」


「その様子では今回も失敗したようだな」



 ゼノンの姿を見ながらため息を吐く。


 そんな私を見て、ゼノンは今回の実験の結果を悟ったようだ。



「流石はゼノン。大した洞察力だ。お察しの通り、今回もなんの成果も得られなかったよ」


「……造魔を行使できる貴方がイントルーダーを求めるのも無理はないと思うが、そもそもイントルーダーの召喚など本当に出来るものなのか?」


「無理だって分かってるなら楽だったんだけどね。実際には可能かどうかすら分からないんだから、諦め切れなくって困るんだよ」



 肩を竦めておどけながらゼノンの横を通り過ぎ、一旦休もうとアジトの中に足を踏み入れる。


 適当にお湯を沸かして2人分のお茶を淹れ、今回の実験の問題点を洗い出す。



 そんな私についてきたゼノンは、汗だくの服を着替えたあと、私の淹れたお茶を静かに飲み始めた。



「まさか当代のメナスにお茶を淹れてもらえるとはな。貴方は誰よりもメナスとして相応しいのに、誰よりもメナスらしくないようにも感じられる……」


「メナスらしさなんて考えたことも無いよ。私はただ便利そうだからメナスという名を利用しているに過ぎないからね」



 ゼノンに続いてお茶を飲む。


 疲れた頭では考えも纏まらないので、休憩がてらゼノンとの会話に興じることにしようか。



「そういうゼノンはメナスらしいのかい? 一心不乱に槍を振るうさっきの姿は、およそメナスと呼ぶに相応しい姿とは思えなかったけど?」


「……貴方がメナスの名にどういうイメージを抱いているのかは知らんが、俺の槍はレガリアに古くから伝わる伝統的な流派だ。それを否定されても困ってしまうが」


「そうなのかい。それは済まなかった」



 戦闘能力の無い私には興味が無い話だったけれど、ゼノンの振るう槍はレガリアの者以外でも普通に習いに来る程度には大きな流派らしい。


 レガリアの者とそうでない者も区別無く腕を磨けるらしいが、レガリアの者にしか受継がれていない裏の伝統があるとか無いとか。



「私は今までレガリアとは無縁の生活を送ってきたから、レガリアの伝統やら歴史やらには疎くてね。王国の歴史にだって興味は無いけれど」


「くく……。レガリアの歴史など貴方が知る必要は無い。貴方は心の赴くままにレガリアを利用し、自分のしたいことを優先してくれれば良いのだ。それが結局は最もメナスらしい振る舞いなのだろう」


「ふ~ん? 相変わらずゼノンの言い回しは胡乱で分かりにくいね。平民出身の凡人には理解できないよ」



 ゼノンに請われてメナスの名と力を受け継いだけれど、その力を使って好きにしろと言われると戸惑ってしまうんだよね。


 レガリアのやっている事にも興味を持てないのに、私と唯一接触してくるゼノンがこの調子だから、どうしてもレガリアという組織のトップであるという事実を忘れてしまいそうになってしまう。



 お茶を淹れてやったお礼のつもりか、ゼノンが無言でお茶請けらしい菓子を用意してくれる。


 見た目に似ず、相変わらずマメな男だよ。



「ガルクーザがイントルーダーであったという話は知っているが、他のイントルーダーは今まで出現が記録されていない。確かレガリアに残されていた資料にはそんなことが書いてあった気がするが」


「ああ、それは私も読んだよ。ガルクーザ以前の時代の資料は殆ど焼失しているし、ガルクーザ出現後はイントルーダーは出現していないらしいね」


「ガルクーザの後にイントルーダーが出現していないのは本当だろう。始界の王笏をレガリアが保有している以上、イントルーダーが出現した瞬間に人類は滅亡しているはずだからな」



 ゼノンが語るイントルーダー像に思わず同意してしまう。



 イントルーダーどころか、アウターエフェクトでさえも単体で街を滅ぼせる存在なのだ。


 ソレを遥かに超えるイントルーダーが出現した時に視界の王笏が失われていたら、人類が滅亡していないと辻褄が合わない。



「識の水晶が齎した知識である以上、イントルーダーが存在するのは疑っていない。だが本当に人の身でイントルーダーを呼び出すことなど出来るのか。ソレについては少々懐疑的ではあるな」


「それを言われると何も言い返せないね。実際に前例は無いわけだから。ただし、呼び出せないと決まったわけでもないだろう?」


「……識の水晶にイントルーダーの呼び出し方を問うことが出来れば手っ取り早いのだが……。2つの神器の行方は建国と共に失われてしまったからな」


「識の水晶があっても使う気はないよ。呼び出し方を知っても興味を失っては何の意味も無いからね」



 ゼノンとの会話に興じながら、今回の実験の結果を書き出していく。



 こんなことに意味があるかは分からないが、私は自分で思っているよりもマメな性格なのかもしれない。


 自分の行動の結果を記録しておかないと気が済まないのだ。



「なぁメナスよ。ここいらで一旦イントルーダーから離れてみるのもいいのではないか?」


「んー? どういうことかな」



 ゼノンが用意してくれた菓子を頬張りながら、作成中の資料に菓子を溢さないように気をつけていると、ゼノンが少し声色を変えて提案してくる。



 しかしゼノン。イントルーダーの研究と召喚は私の興味の全てだ。


 イントルーダーから離れたら、私のやることが無くなってしまうじゃないか。



 そう私が抗議をする前に、ゼノンの方が口を開く。



「貴方が欲しているのはイントルーダーそのものでは無く、イントルーダーに匹敵する強い力ではないか? であれば、必ずしもイントルーダーに拘る必要は無いと思うのだが」


「……んん? イントルーダーに匹敵する強い力だって? そんなものは存在しないからイントルーダーを求めて研究しているんじゃないか、馬鹿馬鹿しい」



 イントルーダーとは古の邪神と同格の、この世界を滅ぼし得る強大な存在のはずだ。


 そんなイントルーダーに匹敵する存在になんて心当たりがあるわけないじゃないか。



「それともゼノンには何か心当たりがあるのかい?」


「心当たりと言うほどではないが、1つ提案はある」


「……へぇ?」



 イントルーダー級の力を手に入れる心当たり、いや提案だっけ?


 どちらにしてもゼノンを見縊っていたみたいだね。面白い。



 私は胸の奥で少しだけワクワクした疼きを感じながら、ゼノンに提案とやらの説明を促した。



「貴方は造魔スキルや従属魔法で万物を従えることが出来るだろう? だからイントルーダーを探すのではなく、自身の手でイントルーダー級の戦力を育てるということも可能なのではないかな?」


「……いやいや、造魔スキルは魔物にしか適用できないし、そもそも魔物は一定以上成長しないよ。かと言って人間なんていくら従属させても、イントルーダーどころかアウターエフェクトすら上回れないザコばかりだ。無理だろうね」



 軽い失望感を覚えながらゼノンの提案を却下する。


 一瞬でも期待してしまったせいか、自分でも驚くほどの失望感だ。



 しかしゼノンは私の返答は予想通りだったようで、全否定されたのに動じることなく言葉を続ける。



「魔物も人間も成長の限界が低すぎてイントルーダーには迫れない。ならばそれ以外のモノを試してみるのはどうだろうかと提案しているのだ」


「……ん? 魔物でも人でもないモノ? 何の話かな?」


「野生動物だよ。貴方の従属魔法が野生動物に適用されるのは検証済みだからな。野生動物を育ててみるのはどうかと思うのだ」


「……野生動物を育てるか」



 確かに肉体を持たない魔物と違って成長するし、人間よりも屈強な肉体を持つ野生動物を育てるという試み自体は面白い。


 しかし最終的にイントルーダーになれる見込みが無い存在を育てるなんて、時間の無駄すぎる。



「確かにその発想は無かったけど、野生動物がイントルーダーに迫れるとはとても……」


「メナスよ。『蠱毒』、という古の呪法は知っているかな?」


蠱毒(こどく)?」



 やっぱりゼノンの提案は不毛だったなと会話を切り上げかけた時、ゼノンから興味をそそられる話を切り出される。


 古の呪法だって? ちょっと期待できそうじゃないか。



「悪いけど初耳だね。説明してもらえるかい?」


「うむ。俺が槍を学んだ流派で密かに行なわれていた呪いでな。最強の個体を作り出すための儀式のようなモノだ」



 昔を懐かしむように、地獄のような体験を語り始めるゼノン。



 ゼノンの学んだ槍は本来一子相伝。


 表向きは広く門戸を開いた流派だったらしいけれど、最後に槍の極意を継げるのはただ1名のみだった。



 見込みある者を密かに選抜し、最も槍の才ある1人を決める為に選抜した者たちを1室に隔離して監禁し、最後の1人になるまで殺し合いをさせ、生き残ったたった1人を後継者と定めて槍を伝えていくそうだ。


 先ほどアジトの前で爽やかな汗を流していると思ったゼノンの槍の背景には、血塗れの呪いが隠されていたらしい。



「王国中から野性動物を集めて殺し合わせよう。そして最後に残った個体をイントルーダーとして成長させてはどうだろう?」


「いやいや簡単に言ってくれるけど、そんなに上手く行くものかな~……?」



 ゼノンの軽い口調に、私は懐疑的になってしまう。


 野生動物を育てるという発想自体に異論は無いけれど、人間と同じ方法で野生動物を選別することなど可能なのだろうか?



 それに意思の疎通が取れない野生動物の育成は、人を育てるよりもよほど大変なんじゃないか?



「……いいではないか。仮に失敗しても」


「え?」


「現在貴方は行き詰っているのだろう? ならば視点を変えて別の発想を試みるべきではないか?」



 視点を変えて別の発想を試す、か……。


 研究とは突き詰めた先に完成が待っているものだと思っているけれど、向かう先が袋小路でない保証など無いのが未知の分野というものなんだよねぇ……。



「それに元々行き詰まっているのだ。失敗したとしても大差無いだろう?」


「……馬鹿の考え休むに似たり、と言いたいのかい? 耳が痛いねぇ」


「貴方を貶める気は無いが、そもそもイントルーダーの召喚を志す時点で馬鹿げた話なのだ。ならば様々な角度から試行を繰り返すべきではないのかと思ったまでよ」


「……ふむ」



 確かにゼノンの言う通り、イントルーダーを呼び出そうとしている時点で荒唐無稽で前代未聞なんだったね。


 ならば下らない常識になんて囚われずに、まずは実行してみて検証を重ねていくべきか。





 乗り気になった私は、世界各地からゼノンに野生動物を集めさせ、そして殺し合わせた。


 レガリアが把握している野生動物は優に100種を超えたようで、巨大なものから極小のものまで、可能な限り沢山の種類の野生動物を1ヶ所に隔離し殺し合わせた。



 その結果生き残ったのは、人の拳大の大きさの、8本足が生えたイモムシのような吸血動物だった。



「意外だね。こんな鈍そうな生物が最後まで生き残れたなんてさ」


「どうやら見た目からは想像できないほど狡猾な生物のようだな。巨大な生物ほどこの大きさの生物に張り付かれると、なにも出来ずに吸血を許してしまうだろうな」


「ふぅん? 君、狡猾なんだ? なかなか面白そうじゃないか」



 拳大のイモムシに従属魔法を発動する。


 問題なく隷属させることが出来たのでステータスプレートを確認すると、隷属契約欄にはアンノウンと記載されていた。


 恐らく誰にも命名されていない生物なのだろう。



「ふむ。それじゃあ君のことは『害意(ハーム)』と……いや『隠者(ハーミット)』と命名しよう。その狡猾な頭を使って手段を選ばず生き延びて、相手の嫌がることを徹底的に選び抜くんだ。期待してるよ」



 従属魔法で、何が何でも生き残ること、その上で徹底的に他の生物に嫌がらせを行うことを命じて、小さな悪意を侵食の森に解き放った。



 どれほど屈強な個体も鍛え上げねば最強にはなれず、どれほど脆弱な個体であっても磨き上げれば最強を目指せるのだ。


 そんな最強を目指した育成の場には、魔物も野生生物も跋扈すると言われるこの侵食の森が相応しいと感じたのだ。



「……俺から言い出しておいてなんだが、あんな矮小な生物がイントルーダー級になるとは考えられんな。やはり無茶だったか」


「くくく……。ゼノンがそう言うなら案外成長してくれるかもしれないね。元々イントルーダーだって常識破りの存在なんだ。そこを目指す生物が常識に囚われていても仕方無いだろう?」



 それからは月に1度侵食の森に赴いて、ハーミットの成長具合を確認していた。


 ハーミットはゼノンの予想を裏切り侵食の森で生き延びて、毎月その体を少しずつ肥大化させていった。



 そんなある時、ハーミットの経過観察を終えて帰ろうとしていた私の前に、魔人族の集団が通りかかった。


 その全員を従属化して情報を引き出すと、なんと長い間失われていたという呼び水の鏡を手に入れることが出来てしまったじゃないか。



 興奮した私は直ぐにゼノンに頼み、呼び水の鏡の研究と検証に没頭することになる。


 この時既に私の頭の中には、侵食の森のことなど全く残っていなかったのだった。

※こっそり設定公開。


 大体ノーリッテのせい。


 ハーミットと名付けられた生物は、その脆弱な体を隠す為に元々地中に潜る能力と、地中から獲物の魔力を感じ取る能力が備わっていました。その魔力感知で整合の魔器に気付いたハーミットは、他の生物を襲うよりも整合の魔器の魔力を奪う方が楽だと気づきます。

 整合の魔器の魔力を全て奪わず、魔人族がなんとなく違和感を抱く程度の魔力強奪に留めていたのは、自分の存在の発覚を遅らせるための加減だったのでしょう。財布を紛失したら直ぐに気付かれますが、中身の一部を抜き取られても気付けないようなものですね。

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