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【全年齢版】異世界イチャラブ冒険譚  作者: りっち
7章 家族みんなで冒険譚2 聖域に潜む危機
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527 悪意の女王⑪ 守護者の弾丸

※R18シーンに該当する表現を若干カットしております。

「さぁみんな、ここからが私たちの本当の戦いよっ!」



 ティムルのひと声で話し合い始める待機中のメンバー。



 女王討伐に必要な情報は恐らく出揃った。


 あとはティムルたち解析班が最適な作戦を立ててくれるのを待つだけだ。



 ここまで来て女王に逃げられたら洒落にならないからな。


 俺達前衛組がしっかりと足止めしておかないとっ。



「女王の体内にある何かを取り出すには、巨大な女王の肉体をどうにかする必要があるわね……」


「アウターブレイクで両断は出来ているけれど、問題は女王の再生速度だね……。斬った直後に即再生されるから摘出が間に合わないよ」



 ティムルとリーチェ主導で話し合われる相談の声を聞きながら、女王の体を斬り続ける。


 地面との設置面を優先的に攻撃し、女王が地中に潜ろうとしないように邪魔をし続ける。



 女王から伸びる8本足の触手的な器官は、俺達を攻撃することを諦めて、それぞれが周囲の木に伸ばされたり、地面に向かって伸ばされたりしている。


 逃げる気なのか、それとも別の何らかの意図があるのか分からないけれど、伸ばされた触手を片っ端から斬り飛ばす。



 何をしてくるか読めない相手には、何もさせずに封殺するに限るだろっ!



「ダンにはアウターブレイクで女王を両断してもらわなきゃいけないわ。だから何かを摘出するのは、瞬発力に優れたニーナちゃんが向いてると思う」


「……いくらニーナでも、あの速度で再生されると間に合わないよ……!?」


「それについては私に任せて欲しいの。でも問題はそこじゃなくってね……」



 体表を突起させて攻撃を仕掛けてくる女王。


 それらをなんなく躱し続ける俺達に、口からブレスを吐いて追撃してくる。



「うっとおしいんだよぉぉぉっ!!」



 ブレスを吐かれる度にアウターブレイクで両断し、ブレスをキャンセルさせる。


 さっきまでは温存してたけど、野生動物である女王からも魔力が吸収出来ているので、どれだけアウターブレイクを放っても魔力枯渇を起こす心配はない。



 だと言うのに、さっきから俺に見せつけるようにブレスの予備動作に入りやがって……。


 女王は魔力吸収のことなんか知らないだろうし、アウターブレイクを誘発し、俺の魔力が切れるのを待つ作戦なのか?



 これだけの戦闘力を有しておきながら、徹底的に相手の嫌がる事ばかり考えやがって……!


 悪意の女王(ヴェノムクイーン)とは良く言ったもんだぜ! 我ながら!



「……ねぇダン。アウターブレイクの威力を上げることは出来るかしら?」


「えっ!? 威力を上げるって、なんで!?」



 地面に向かおうとする触手を切り刻んで魔力を吸収していると、ティムルから意外な問いかけをされてしまった。



 女王の再生能力で一瞬で回復されてしまっているとは言え、アウターブレイクは女王の巨体を1撃で両断できている。


 とても威力が不足しているようには思えないんだけど?



「アウターブレイクの切断面が綺麗過ぎて、女王に直ぐに再生されちゃってるでしょ? 込める魔力を増やしたら、これをもう少し何とか出来ないかしら?」


「ん……難しいかな……! アウターブレイクは剣の斬撃の延長だから、込める魔力を増やしても意味はないかも……!?」


「なら考え方を変えましょうか。スパッと綺麗に切り裂くんじゃなくて、フラッタちゃんのドラゴンイーターの1撃みたいに、グチャっと叩き潰すような攻撃に変えられない? 要は少しでも再生を遅らせたいの」


「叩き潰す……。ちょっと待ってね……」



 ティムルの要求に応えられるかどうか、急いでシミュレートする。



 アウターブレイクはあくまで俺の斬撃を魔力で拡張しているだけなのだ。


 俺がロングソードを使っている限り、アウターブレイクもまた斬撃しか飛ばせない。


 であるなら、例えばインベントリに収まっているタイニームーンを使えば、打撃を飛ばすことも可能かもしれない。



 ……けれど、超精密な魔力制御を必要とするアウターブレイクを、使い慣れていない武器で発動できる自信は流石にない。



 しかも打撃の場合、拡張しても打撃面が広くなるわけじゃないはずだ。


 最大限上手くいったとしても、鞭のように細長い打撃が実現するだけじゃないのか……?



「ダンやニーナちゃんの斬撃と、フラッタちゃんのドラゴンイーターやヴァルゴの槍で付けた傷を見ると、後者の2人の攻撃のほうが再生に時間がかかっているように見えるの。だからそれをダンも出来ないかなって……」


「斬撃だと切断面が綺麗過ぎて、再生するのも恐らく簡単なんだ。だから打撃のように傷口を潰したり荒らしたりすることで、女王の再生能力を阻害したいんだよーっ」


「……2人の言い分は分かったけど、アウターブレイク単体じゃちょっと難しそうだな。アウターブレイクはあくまで、俺の攻撃をそのまま拡張するだけの能力だから」



 ティムルとリーチェが必死に訴えかけてくるという事は、ここが作戦の要なのかもしれない。


 なので剣先に込めた魔力を拡大して放つイメージでアウターブレイクを発動してみたけど、単純に込めた魔力が霧散して、女王の体に傷を付けられないほどに威力が減衰してしまった。



 込められる魔力は有限だから、範囲を拡張すればそれだけ魔力は薄まり威力が殺されるようだ。


 つまり、アウターブレイクだけじゃ威力は上げられない。



 ……アウターブレイク、()()()()



「……悪い、ちょっと時間が欲しい! アウターブレイクの威力を上げる方法、なんとか考えてみるよっ」


「いつも通り頼りにしてるわよっ。でももし威力を上げられても、もう1つ問題があるのよねぇ……」


「へ?」



 アウターブレイクの威力を上げることは必要だけど、それをすると新たな問題が発生しちゃうの?



 ひょっとして、俺の魔力が枯渇するって事かな?


 でもそんなの現時点で分かる話じゃないし……。



「……ヴァルゴ。もしもダンがアウターブレイクで女王を攻撃した場合、女王の中の何かを破損させてしまう恐れがあるわ」


「あっ……!」


「……聖域を護り続けてきた守人の一族、誇り高きディロームの護り手ヴァルゴに問います。女王を滅する為に、聖域の核を危険に晒す判断は出来るかしら?」



 静かなティムルの問いに、ヴァルゴが一旦下がって目を閉じる。



 守人たちはアルフェッカが崩壊する前から、聖域の樹海を護り続けてきたという。


 そんな彼女達だからこそ女王の存在をこのままには出来ないのだけれど、そのために聖域を聖域たらしめている核たるレリックアイテムを破壊する危険を冒してまで、アウターブレイクを強化するという判断に踏み切れるのだろうか?



 ヴァルゴが考える時間を稼ぐため、それまで以上の敏捷性を発揮して女王の体を切り刻む。


 俺達を狙って伸びてくる突起を斬りとばして、その奥の肉体を掘削するつもりで双剣を叩きつけ続ける。



 しかしやはり斬撃は再生能力とは相性が悪く、どうしても一定以上の深さまで傷つけることが出来ない。



「ダン! ブレスが来るのじゃっ!」


「ブレスは高濃度の魔力による砲撃であるなら、邪魔するのにアウターブレイクなんて必要ないよなっ! 断っ……空ーーーっ!」



 魔力消費の著しいアウターブレイクを温存し、ブレスを放った瞬間の女王の口元目掛けて断空を放つ。


 女王の口から放たれかけた魔力は空中で霧散し、砲撃となる前にかき消された。



 が、流石レリックアイテムから魔力を供給されているだけあって、俺の断空1撃ではブレスに込められた魔力全てをかき消すことは出来なかった。



「なるほどのぅ! それなら妾も手伝えるのじゃっ! 断空ーーーっ!!」



 しかし追加で放たれようとしていた魔力は、フラッタの握るフレイムドラゴンブレードから放たれた断空によって跡形もなく消失させられてしまった。


 さっすが俺の可愛い無双将軍! 頼りになりすぎるぅ!



「ふははははーーーっ! 妾とダンのダブル断空、抜けるものなら抜いてみるが良いのじゃあっ!」



 ビシィ! っとドラゴンイーターの切っ先を女王に向けながら、ブレスを全てかき消してみせると豪語する無双将軍。


 ……なんとなくだけど、同じ断空ならフラッタの方が威力高くない?



 これは人間族と竜人族の身体能力的な差なのか。それとも無双将軍フラッタのピカイチの才能が為せる業なのか。


 多分後者だなっ。



「ふふ。流石はフラッタです。悩んでいるのが馬鹿らしくなりますね」



 その高らかなフラッタの笑い声を聞いて、ヴァルゴが静かに目を開く。


 開かれたその両目は、槍のように真っ直ぐに女王を貫いている。



「ディロームの護り手として返答します。ティムル。旦那様。どうぞ遠慮無く全力を尽くしてくださいませ」


「……いいのヴァルゴ? 最悪、この聖域の機能が失われちゃうかもしれないわよ?」


「構いません。ここで女王を取り逃してしまっても、聖域の護り手としての責務を果たせているとは言えませんから」



 聖域の樹海のレリックアイテムが奪われ、この世界に満ちるはずの魔力が横取りされていたんだもんな。


 この聖域を守るために職業の加護すら捨てて尽くしてきたのに、実は全然守れていませんでした、じゃ立つ瀬もないか。



「それに、旦那様に出会えなければ我等は既に滅びていてもおかしくなかったのです。旦那様の手に運命を委ねる事に今更抵抗などありませんよ」


「俺が抵抗するっての! やだよ! 魔人族の命運なんか背負いたくないから!」


「あはははっ! 流石に今更過ぎますよ旦那様っ。既に何度もこの世界の危機を退けておきながら、今更何を仰ってるんですかっ」



 戦闘中にも拘らず、珍しく声を上げて笑うヴァルゴ。


 そんなに楽しそうにされちゃったら、これ以上文句も言えないんだよなぁ。 



 ……だけど、俺だけに責任を負わせようったって、そうはいかないよ?



「ティムル。アウターブレイクの威力を上げる方法も思いついた。作戦よろしく」


「えっ!? い、いきなりね……!? ほんとに大丈夫……?」


「大丈夫大丈夫。さっきリーチェとやったことを、今度はヴァルゴとやろうってだけの話だから」


「……えっ!? わ、私ですかっ!?」



 女王に槍を突き入れながらも、驚いたようにこちらを振り返るヴァルゴ。



 でも驚くところじゃないんだよなぁ。


 聖域の樹海の問題に決着をつけるのは、ずっと聖域を守ってきた守人たちであるべきなのだから。



「わわわっ、私っ……! 旦那様との合成技なんてやったことないですよ!? それなのにいきなり作戦の要に組み込む気ですかっ!?」


「大丈夫。さっきのリーチェのジェードテンペストも思いつきのぶっつけ本番だったから」


「……だよね~。なんだかんだと乗せられちゃったけど、あれって普通にギャンブルだったよね?」



 呆れた声のリーチェから、今更過ぎるツッコミが入った。



 でもギャンブルなんかじゃないよ。


 出来る確信があったからやったんだってば。



「俺がリーチェとリュートの想いを受け止められないわけないだろ? だからヴァルゴとも間違いなく成功するよ」


「はぁっ……! さ、さっきの旦那様の声を思い出してしまいましたぁ……! あ、あれと同じことを私とも……!」


「ん? さっきの俺の声ってなに?」



 なんだか急にやる気になってくれたヴァルゴ。


 やる気になってくれたのはいいんだけど、声に甘さが混じってるのはなんで?



「えぇ……あれって無自覚だったの……?」


「えっと、俺ってなにかしたっけ? リーチェにジュエルバラージをお願いしただけだと思うんだけど?」


「その声が情感たっぷりで、お姉さんドキドキしちゃったわよぉっ! 戦闘中に愛を囁きすぎだからねっ!?」


「あー……。煩い雑音が消えた途端にみんなの声が聞こえたら、みんなを大好きな気持ちが止まらなくなっちゃってさぁ。声にも乗っかっちゃってたみたいだね」



 ヴェノムデバイスもコマンダーも、生理的、心理的不快感を煽ってきていたからなぁ。


 そのストレスで、逆にみんなへの気持ちが強く出過ぎちゃったのかもしれない。



「とにかく分かったわっ! さっきのリーチェと同じ事をするなら、絶対成功するって信じるからねっ!?」


「任せてよ。ヴァルゴの全力の想いを受け止められるなんて、今から楽しみで仕方ないからね」


「了解です旦那様ーーっ! 不肖ヴァルゴ、全身全霊を込めて旦那様に愛をお伝え致しますねーっ!」



 ダークブリンガーを発動しながら、俺を挟んで女王と対峙するヴァルゴ。


 ウルスラグナで俺ごと女王を貫く位置関係だね。



 俺はヴァルゴに邪魔が入らないように、度々アウターブレイクを放って女王を両断する。



「ティムル。準備はいい?」


「私はいつでもオッケー! ニーナちゃんはっ!?」


「私も大丈夫! ティムルの指示に従うのーっ!」



 ティムルに叫びを返しながら、モフモフ狐しっぽを2本生やして深獣化するニーナ。


 おおっとぉ!? これは女王を倒したら、ニーナが魔力枯渇を起こす前にいつもの方法で深獣化を解いてあげなきゃいけませんねぇっ!?



「リーチェはそのまま待機してて! 不測の事態に備えてちょうだいっ」


「了解だよっ。みんな、後は任せたからねっ」


「それじゃヴァルゴ! いつでもいいわよーっ!」


「了解しましたぁぁぁ! 行きますよ旦那様ーーーっ!」



 黒い魔力を全身に纏った笑顔の妻に、槍の切っ先を向けられているこの状況。


 うん。絶対に夫婦ゲンカはしないんだよ?



「フラッタ。ブレスで女王の四肢を焼いてくれる? 一瞬でいいから女王の動きを止めて欲しい」


「まっかせるのじゃーっ! ヴァルゴとダンの愛の共同作業を邪魔させないのじゃーっ!」



 一瞬でオーラを纏って大きな翼を広げたフラッタは、女王にブレスの手本を見せるかのように膨大な魔力をひと筋の線にまで凝縮して威力を高め、首を振り回して女王の8本の足を根元から焼き切った。



 グジュグジュと急速に再生している女王だけど、傷口がグチャグチャな分再生に梃子摺っているようだ。


 そんな女王に背を向けて、準備万端のヴァルゴに両手を広げる。



「さぁおいでヴァルゴ。大好きなヴァルゴの想い、欠片も溢さず受け取ってあげるから」


「はいっ! 愛しております旦那様ーーっ! ウルス、ラグナアァァァッッ!!!」



 ヴァルゴの愛の告白と共に、黒い魔力に包まれた槍が俺に向かって放たれた。


 双剣を十字にクロスさせて悪魔の槍の切っ先を受け止め、そこから一気にヴァルゴの想い(魔力)を受け取った。



 抉るような槍の1撃をアウターブレイクで増幅し、俺自身が黒い弾丸となって女王を打ち抜くイメージを抱く。


 槍を受け止めた衝撃すら利用して、振り向き様に女王に双剣を振るう。



「貫けぇ! デモンズパニッシャアアアアアア!!」



 俺に累積する敏捷性補正の上にヴァルゴの魔迅が上乗せされたように、俺自身ですら認識できないほどの速度で女王を貫く俺の双剣。


 音すら置き去りにして女王を貫いた俺が気付いたときには、女王の体は8割がた消し飛んでいた。



「再生なんてさせないわよっ! 竜鱗甲光ーーっ!」



 合体技の影響なのか上手く動けない俺の目の前で、弾け飛んだ女王の体の傷口を押さえつけるようにティムルが魔法障壁を展開している。


 防御用のスキルを使って女王の再生能力を阻害してるのか。流石ティムルだ。



 感心する俺の前で碧眼のティムルは、左手に持ったオリハルコンダガーを女王に投げつけた。



「あそこよニーナちゃん! 後は任せたからねーっ!」


「了解なのーっ!」



 オリハルコンダガーが刺さった場所に、すぐさまコンコンニーナが飛びついた。


 そしてフラッタすら上回るハンドスピードで一気に女王の肉体を掘削し、そして右手を突っ込み何かを引き抜いた。



「何かあったの! ティムル! これでいいのー!?」


「オッケーよニーナちゃん! 女王への魔力の流れが断ち切られたわーっ!」



 女王を蹴ってニーナが距離を取った瞬間、グジュグジュと再生をしていた肉体全てが停止して、見る間に崩壊していく悪意の女王。


 それを動けない体でぼうっと見詰めていた俺は、リーチェに回収されて後方に下げられた。



 後方に下げられた俺は、魔力枯渇寸前のくせに笑顔を向けるヴァルゴを抱きしめながら、聖域に巣食っていた悪意の女王の滅びる姿を見届けたのだった。

※こっそり設定公開


 ヴェノムクイーン戦が行き当たりばったりで書き上げたのは先にも申し上げた通りなのですが、合体技に至っては本当に書き上げる瞬間まで全くノープランで苦労しました。しかしDaemonという単語に思い当たった時に、ヴァルゴと魔人族に関わる全てのエピソードが繋がったような気がしました。

 彼女の振るう災厄のデーモンスピアは間違いなくDemonなのですが、聖域に住まう守人の魔人族たちはDaemonと呼ぶに相応しい存在です。聖域の樹海関係は過去に投稿した話と意図しない設定的な繋がりが発生する場合が多くて、書き上げるのが大変だった一方で、書き上がるのが大変楽しかったと記憶しています。

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