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【全年齢版】異世界イチャラブ冒険譚  作者: りっち
7章 家族みんなで冒険譚2 聖域に潜む危機
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525 悪意の女王⑨ 追い込み

「造魔召喚! スウォームワーム!」



 造魔召喚で生み出されたスウォームワーム君を見て、様々な想いが脳裏を過ぎる。


 スポットの最深部で初めて交戦した相手でもあり、フレイムフィールドでびったんびったんのた打ち回る素敵な光景は今でもちょっとしたトラウマだ。



 それでもヴェノムデバイスと比べれば、数段優しい光景だったけどね……。



「なるほど。地中を自由に動き回れるスウォームワームで女王個体を探すのじゃな。しかしスウォームワームでは役者不足ではないかのう?」



 俺と一緒にスウォームワーム戦を経験したフラッタが、地中の探査に向いている事と、けれど実力が不足している懸念を同時に口にする。



 スポットとは比較出来ないほど広大な聖域の樹海は、魔物のレベルも普通に3桁越えだ。


 LV50台で出現したスウォームワームは、普通に魔物としても1段落ちるんだよな。



「スウォームワームもスポットの最深部で出現する魔物じゃ。決して弱い存在ではない。じゃがヴェノムデバイスと比べた場合、単体の戦闘能力に大きな差があるように感じてしまうのじゃ」


「そうですねぇ。スウォームワームの本領って大群で襲い掛かってくるところにあると思います。でもダンさんの能力だと1体しか生み出せないんですよね?」



 既にスポットの最深部で戦っているムーリも、スウォームワームの生態にはかなり詳しくなっているようだ。



 でも正直言って、戦闘面ではあんまり心配はしてないんだよなー。


 スウォームワームはあくまで地中探査がメインなのだ。戦闘させる気はなかったりする。



 だけどそう告げても、リーチェが疑問を口にする。



「んー。でも地中の探査だって難しくない? だって本体は察知スキルが届かない深さにいるわけでしょ? 聖域の樹海全てを1体のスウォームワームで調べ抜くのは、流石に気が遠くなるような……」


「それも大丈夫だと思うよリーチェ。俺が操って探すんじゃなくて、スウォームワーム君に自力で女王を発見してもらうつもりだからねー」


「えっ?」



 戸惑うリーチェにちょっと待ってと断って、まずはスウォームワーム君の地中探査を開始してもらう。


 俺の意思に従ってとぷんと地面に潜ったスウォームワーム君は、そのまま地中深くを目指して一直線に進んでいったようだ。いってらっしゃ~い。



 相変わらず地面に穴が空いていないのが不思議すぎるけど、野生動物であるはずのヴェノムデバイスが木々の内部を泳いでいたことを考えると、擬似生命体である魔物が地面を泳ぐ方がまだ常識的に感じられるな。



「さて、多少時間がかかると思うから、今のうちに解説させてね。解説中はリーチェとムーリを抱き締めさせてもらってもいい?」


「リーチェのおっぱいもムーリのおっぱいも好き放題していいから、早く説明しなさいっ」


「ちょちょっ! ニーナさん、背中押さないでっ……!」


「自分でっ! 自分で行くってばっ!」


「ありがとニーナ。ムーリ、リーチェ、2人とも大好きー」



 ニーナがリーチェとムーリの背中を押して、俺にむぎゅううううっと押し付けてきた。


 胸に飛び込んできた2人の背中に腕を回して、逃げられないようにぎゅーっと抱き締める。



 この2人の抱き心地は、我が家の家族の中でも群を抜いて最高すぎるんだよなぁ。よしよしなでなで。



「ほらほらダンっ! 2人を好きにしてもいいから早く解説するのっ! まだこれから本体が出てくるんでしょっ」


「スウォームワームが地中の探査に向いてるのは分かるよね? だけど察知スキルが届かない範囲の探査にまで役に立つかが分からない、って事でいい?」


「そうそう。ダンが操作するワケじゃなくてスウォームワームに探査させるって、いったいどういう意味なのー?」



 首を傾げながら、リーチェとムーリをぎゅうぎゅうと俺に押し付けてくるニーナ。


 ただでさえ最高な2人の感触を余すことなく堪能しながら、スウォームワーム君の生態を解説する。



「スウォームワームってさ。かなり遠い位置から俺達の存在を察知して襲ってくるじゃない? だから察知スキルに似た能力を持ってると思うんだ」


「だろうねー。目や鼻も無いし、獲物を探知する為の能力はありそう」


「でね? その能力って多分、地面による効果減衰を受けないんだよ」



 地表近くに居るスウォームワームなら魔物察知で見つけられるけど、50メートルも離れれば地中に居るスウォームワームを感知することは魔物察知スキルでは難しい。


 けれどスウォームワームのほうは察知スキルの効果範囲外から俺達を見つけて集まってくるんだよね。



 何を感知して俺達に向かって来ているのかは分からないけど、今は地中でも問題なく周囲を察知できる能力を持っているってことが重要だ。



「スウォームワーム本体も地中を泳ぐように移動できるからね。恐らく持っている能力も地面の影響を殆ど受けずに使用できるものなんだと思うよ」


「う、う~ん……? 納得出来るような出来ないような……」


「造魔スキル持ちのダンの言うことだからね。適当に言っているように見えて、直感的に本質を突いている場合もあるわ。ここまでの話を疑っても仕方ないわよニーナちゃん」



 首を傾げるニーナに、フォローなのかディスなのか分からない説得をするティムル。


 でも確かに、造魔スキルのせいで直感的に魔物の生態を理解している部分が無くもないかもしれないなぁ。



「次の話よダン。もし貴方の言う通りスウォームワームが女王個体を見つけられたとしても、スウォームワームじゃ戦闘力が足りないと思うわ。でも貴方は問題ないと言った。それはどうして?」


「探査さえ済めば戦闘は妾たちがやればいいということなら、少々楽観が過ぎるのではないかのう? 相手がどれ程の深さに居るのかも分からぬし、しかも地中を自由に移動することも出来るであろう。アルケミストの研究所を襲撃した時と同じようにはいかぬと思うのじゃが」



 ティムルの問いかけをフラッタが補強してくる。


 実際俺の考えはフラッタが言っている通りで、スウォームワーム君が発見して追い立てた女王個体を地上で撃破するという作戦だ。



 しかしティムルもフラッタも、戦闘力の低いスウォームワームでは女王個体を地面に引っ張り出すこと自体が難しいと考えているから俺と話が噛み合わないのだ。


 恐らく俺とみんなの想定している女王のイメージにズレがあるから、認識齟齬が起きてるんだ。



「2人の懸念は尤もだと思う。けど俺はそこまで心配してないんだよね。スウォームワーム君はしっかりと女王個体を地面まで追い立ててくれると思ってるよ」


「そこです。なぜ旦那様はスウォームワームが女王個体を地表まで追い立てられると思っているのですか? 私にはとても成功するとは思えないのですが……」


「みんなはヴェノムデバイスとスウォームワームの戦闘力ばかりに注目してるけどさ。そもそもの話、ヴェノムデバイスの女王個体がスウォームワームを正面から撃退したりすると思う?」


「「「えっ?」」」



 なんかサラウンドでびっくりしたような声が聞こえたなぁ?


 キュールさんたち究明の道標のメンバーですら意外そうな顔で首を傾げてる。



 この世界の魔物って積極的に人間を襲ってくる存在だからなぁ。


 魔物を基準に考えて、個々の戦闘力だけに注目してしまうのは仕方が無いのかもしれない。



「みんなは忘れてるかもしれないけど、ヴェノムデバイスは野生動物なんだ。魔物じゃない。劣勢になって逃げ出したストームヴァルチャーや、ひっそりと隠れて生きていたマウントサーペントのように、人間を襲うよりも自分の命を優先する生き物なんだよ」


「女王個体がスウォームワームとまともに戦わずに逃げ出すって事!? でもそんな……! ふ、普通に考えて女王個体のほうが圧倒的に強いはずじゃ……!?」


「か、仮に女王個体に戦闘能力が無かったとしても、ヴェノムデバイス1体いればスウォームワーム1体を相手取るのも容易いはずです……! そ、それなのにスウォームワームを嫌って逃げてくると……!?」



 耳元で疑問の声をあげるムーリとリーチェの吐息で耳がくすぐったい。


 この2人、吐き出す吐息までエロいから困っちゃうんだよなぁっ。



「そもそもの話、戦闘力は関係ないんだよ? 量産型の使い捨て個体だったヴェノムデバイスですら、俺が無理矢理捕まえるまでは徹底的に逃げ回ってたんだから」


「あっ……! ダンがショートソードで串刺しにしても止めを刺しても、その後私たちまで加わって駆除を開始しても、向かって来ずにずっと逃げ回ってたんだっけ……!」


「そうそう。ニーナの言う通り、俺達の実力も自分たちの被害も考慮せず、始めはただひたすらに逃げ回ってたんだよ。俺達と交戦し始めたのは、あのままじゃ全滅させられると判断したからだろうね」



 はっきり言って、俺達が警戒する前に総攻撃を仕掛けてきていたら、俺達の対応が間に合っていた自信は無いんだよね。


 始めからヴェノムデバイス達が、潜伏よりも俺達の排除を優先していたらと思うとゾッとする。



「つ、つまり……! ヴェノムデバイスの女王個体も戦闘力なんて考慮せずに、近づいてくるスウォームワームの存在を嫌ってただ逃げ回る……ってこと!?」


「正解だよティムル。俺はそう思っているからスウォームワームを放ったんだ。地中をずっと追いかけ続ければ、女王個体はそれを嫌って必ず地表に現れると踏んでるんだよ」



 もう1つ、コッソリ俺が思っている根拠として、ヴェノムデバイスって生理的、心理的嫌悪感の塊みたいな生物なんだよね。


 相対する相手のストレスになることを的確に突いてくるというか、悪意の塊みたいな野生動物なんだよ。



 今回みたいにヴェノムデバイスの駆除に乗り出した時、最も厄介な立ち回りって逃げ回られる事に他ならない。


 この聖域のどこにでも潜める不快害虫が、ひたすら逃げ回って身を隠しているという事実。これって凄まじいストレスだろう。



 そうやって人の嫌がることばかりしてくるヴェノムデバイスの女王個体が、正々堂々と正面からスウォームワーム君を撃退するとは思えない。


 スウォームワームなんかよりもずっとずっと高い戦闘力を持ちながらも、それでも戦わずに逃げ回る方が絶対に腹が立つ。だからそう立ち回るはずだと確信してるんだ。



 ……しかし、悪意の塊みたいな生物、かぁ。


 この時点で俺と衝突するのは必至だったのかもしれないな。



 世界に自然発生した生物ならまだしも、悪意に塗れて人を脅かそうとする生物が俺と相対しないわけがない。


 そんなことを考えてしまうくらい、俺は人の悪意というものに縁があるつもりだから。



「多分みんなが思っている通り、かなり戦闘力の高い生物が現れると思う。イントルーダー級なのは間違いないと思って警戒して欲しい」


「それほどの戦闘力があっても、決して表に出ずに隠れて逃げ回る生物……! 確かに嫌悪感を抱いてしまいますね……!」


「手下というか眷属の扱いも使い捨てでしたしね……。確かにダンさんの言う通り、心理的な嫌悪感を抱く行動が多かったように思えますよ……」



 武人気質が強いラトリアとエマが、改めてヴェノムデバイスとその親玉に対して嫌悪感を顕わにしている。


 とその時、地中を元気に走り回っていた探査魔物スウォームワーム君の動きが変わったように感じられた。



 遠すぎて正確には動きを把握出来ないけど……。多分何かを追い掛け回しているっぽいかな?


 どうやら無事ターゲットにヒットしたようだ。



「みんな戦闘準備。スウォームワーム君の動きが変わったっぽい。いつ何が出てもいいように準備を」



 リーチェとムーリを解放して、双剣を握る。


 もしもここで逃がしたら、次の機会が訪れるか微妙な相手だ。今回確実に滅ぼしてやらなきゃいけない。



「ティムルはやっぱり防御重視でお願い。ヴェノムデバイス以上の攻撃力を持つ相手だと、即死級の攻撃を繰り出される可能性があるからね」


「……了解よ。野生動物が竜王のブレスを超える攻撃をしてくるとは思いたくないけど、最悪の想定をしておくわね」


「仕合わせの暴君メンバー以外は、絶対にティムルから離れないでね? エマもラトリアもアウラも戦闘参加は許可しない。いいね?」



 俺の指示に文句を言わず、黙って頷きを返してくれるみんな。



 みんなの実力を疑うつもりは無いんだけどね。


 それ以上にこの世界の悪意ってのは厄介だって、何度も身を持って経験させられているからさ。



「リーチェはティムルの近くで待機したまま弓で援護して。状況の変化に柔軟に対応して欲しい」


「はいっ! みんなの背中はぼくが守るよっ!」


「ニーナ、フラッタ、ヴァルゴは俺と共に前衛ね。頼りにしてるよ」


「まっかせるのーっ! 女王を倒してキモい生物を根絶するのーっ!」



 対照的なおっぱいを張って、元気に張り切るニーナとリーチェ。


 そんな2人とは対照的に、フラッタが警戒心を強めている。



「ダンがいつも以上に真剣なのが気になるのじゃ。そこまで警戒すべき相手が出てくるのか……?」


「旦那様にお会いしてから1年も待たずに、聖域の樹海の異変の元凶と思わしき相手と対峙できるとは……。解呪されたニーナやリーチェの気持ちがちょっとだけ分かりましたよ」



 迫る強敵の気配に嗤うヴァルゴ。


 それぞれの反応を返してくれるみんなの存在が本当に頼もしい。



 っていうか、いつも以上に真剣ってなんだよぉ。


 野生動物戦では職業補正が適用されないから、ちょっとびびってるだけなんだからねっ!?



「……揺れ始めたね。全員戦闘準備」



 造魔スキルで繋がっている為、スウォームワームがこちらに向かって来ているのが感じられる。


 それに伴って、地面全体がまるで地震のように震えだしてきているのが感じられる。



「ここまで徹底的に逃げ回る相手だからね。次の機会なんて無いと思って、今回で確実に殺しきるよ」


「こ、この揺れ……。いったいどんな生物が現れるのかなぁ……?」


「ち、知的好奇心に突き動かされてここまで来ちゃったけど……。この世界の謎に迫るには、ここまでの危険を冒さないといけないのかなっ!?」


「「「――――来たっ!!」」」



 ターニアが疑問を呟き、キュールさんが本音を叫んだ瞬間、生体察知に巨大な生体反応が現れた。


 その反応は凄まじい速度で地表に上がり、そして土煙と共にその巨体を俺達の前に現した。



 その姿は巨大で、イントルーダーと比較しても更に大きい。


 マウントサーペントクラスか? まるで山のようだ。



 見た目はダンゴムシとかダイオウグソクムシみたいに見えるけど、足があんなに細くない。


 ぶっとくて短い足が両側に4本、計8本生えていて、足の先端からは触手のようなものが短く何本も生えている。


 顔は目も鼻も無い平らなのっぺらぼうで、でも口の部分にだけ口のような穴が空いており、その口の中にはグルっと円周上に白い歯っぽいものが生えていた。



 ヴェノムデバイス、ヴェノムコマンダーよりは大分マシだけど、この気持ち悪さは奴らの系譜に違いない。


 間違いなくコイツが女王個体。悪意の女王『ヴェノムクイーン』だろう。



 さぁ本体戦の始まりだ。


 ここでしっかりとケリをつけて、聖域の樹海の問題をスッキリ解決するとしますかねっ!

※こっそり設定公開。


 ヴェノムクイーンの外見モデルは緩歩動物です。クマムシと言えば知っている人は多いと思いますが、画像検索は自己責任でお願いします。個人的には可愛いと思う派ですが。

 最強の虫というイメージで、やはりクマムシさんは外せませんでした。


 スウォームワームが割と簡単にヴェノムクイーンを発見しておりますが、これはダンたちの様子を窺っていたヴェノムクイーンが、ダンたちの直下に潜んでいたせいです。

 聖域で暮らす魔人族のことも知っているヴェノムクイーンだからこそ、地中深くに居る自分に気付く生物が居るとは夢にも思っていなかったのでしょう。

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