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【全年齢版】異世界イチャラブ冒険譚  作者: りっち
7章 家族みんなで冒険譚2 聖域に潜む危機
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519 悪意の女王④ クラゲ

「うっわ……。辺り一面真っ赤っかだな……」



 一気に大木を駆け登ってきた俺は、毒見スキルで真っ赤に染まった眼前の光景にちょっと辟易してしまう。



 ニーナたちがヴェノムデバイスを大量に駆除してくれたのはいいんだけれど、そのせいで木の上部分が完全に毒の領域と化してしまった。


 どんなものかなと様子を見に来たんだけど……。近寄らない方が良さそうかな?



 毒の領域では太い枝や幹にも傷が付いていて、足場も不安定になっているようだ。


 そして毒で汚染された一帯には、ヴェノムデバイスの生体反応すら残っていないようだ。



 ヴェノムデバイスは自身の発する毒に耐性が無いのか?


 いや、単に駆除されまくって、この辺に残っている個体が居ないだけの可能性も低くないか。



「ニーナ。フラッタ。ヴァルゴ。3人はどのくらいヴェノムデバイスを倒したの?」


「分かんないのーっ! こんなのいちいち数えてないのーっ!」


「妾も数えておらぬが、100や200では無いはずなのじゃっ! なんせ倒しても倒しても減っている気がせんからのう!」


「素早く逃げ回られておりますが、流石に私達の敏捷性補正に対抗できる逃げ足ではないですからね。見つけ次第全て処理しておりますので……。3人で1000~3000くらいは駆除したかもしれません」


「なるほど。ありがとう3人とも。引き続き警戒してね」



 この短時間で1000体以上の駆除に成功しているのは流石だけど、それだけ駆除しても数が減っている気がしないのかぁ。



 しかもコイツら、未だに俺達とは一定の距離を保ったままなんだよな。


 これだけ殺されてもまだ様子見してるんだよ。厄介そうだわぁ……。



「……ん? なんだ?」



 その時毒で覆われた視界の先から、ミシミシと木が軋むような音がし始めた。


 五感補正を意識して視力を強化すると、毒の滞留している空間内の植物が、急速に壊死して枯れ始めている事に気付いた。



 ヴェノムデバイスの毒が植物に作用することは分かってたけど、死んだ後に発生する毒でも木を枯らしてしまうことが出来るようだ。



「ターニアとかティムルとか、頭上も警戒しててねー。上の方で戦場になった場所、毒のせいで崩れ落ちそうになってるからさ」


「了解っ! 落下物には気をつけるのーっ」


「倒せば倒すほど戦況が悪くなっていくなんて厄介ね……。でも枝程度が落ちてきても平気だから、みんな気にせず調査して頂戴ねーっ」



 元気に返事してくれたターニアと、こんな時にもみんなを気遣ってくれるティムルには悪いけど、どうやらこれから落下するのは枝程度じゃなさそうだなあ。



 恐らくドラゴンイーターか何かで大きく抉られている幹部分が、ヴェノムデバイスの毒にあてられ一気に朽ち果てていく。


 そしてパキパキミシミシといった渇いた炸裂音を響かせながら、ゆっくりと傾いていく巨木の樹冠部分。



「全員警戒。巨木の幹が折れて落下しそうになってる。この大木が倒壊するつもりで対応してね。いざとなったら躊躇わずにアナザーポータルで撤退するから」


「うえええええっ!? この大木が私たちに向かって倒れてくるのぉ!?」



 素っ頓狂なアウラの声が響き渡る。


 でもこの程度で驚いてたら駄目だよアウラ。仕合わせの暴君的にはこんなの日常の範囲だからさ。



「毒の調査にかまけて回避しそこなったりしないようにね。でかいのが落ちたあとも多分休みなく、どんどん新しい木が落下するはずだからさ」


「……ねぇダン。それだけ排除してるのに、ヴェノムデバイスからまだなにもリアクションが無いのは何故だと思う?」



 下の待機組に落下物注意の警告をしていると、リーチェから質問が飛んできた。



 んー、確かにかなりの数を排除出来てはいるんだろうけれど、ヴェノムデバイスは多分動物っていうより虫に近い生態だと思われる。


 そして虫だとしたら、1つのコロニーに数千から数万の個体がいてもおかしくないんだよな……。



「痛くも痒くもないからじゃない? 想像したくないけど、想像を絶するくらいの個体数が生息してそうだもん」


「これだけ排除しても、相手からしたらまだ様子見なんだね……。いや、相手にどの程度知性があるのか分からないけど」


「少なくとも馬鹿じゃないだろうなぁ……。こんなに大量に生息しているのに、魔人族に存在を知られていないほどに警戒心が強いみたいだし」



 地球の知識で語るのは危険だけど、虫って結構狡猾だったりするからな。情や遊び心なんかは無さそうだし。



 今までこの世界で出会ってきた野生動物は、基本的に狡猾で攻撃的なイメージが強い。


 山のような体躯なのに人知れず生きていたマウントサーペントとか、職業の加護を持つ魔物狩りを集団で壊滅させるストームヴァルチャーとか、魔物よりも頭がいい印象の生物ばかりと出会ってきた。



 その流れでいくなら、ヴェノムデバイスの本体も狡猾であると想定しておくべきだろう。



「とりあえず、俺も殲滅のほうを手伝うことにするよ。落下物が増えると思うから気をつけてね」


「下のことは気にしなくていいから、思う存分暴れちゃってよ。ヴェノムデバイスが慌ててリアクションを見せるくらいにね」


「了解。それじゃたまには頑張って、可愛いお嫁さんたちにかっこいいところを見せるとしますか、ねっ!」



 敏捷性補正を意識して跳躍し、木の中を這いずり回る生体反応に剣を突き立てていく。


 蜘蛛部分に風穴を開けたら直ぐに百足部分も切り刻んで、蜘蛛部分が破裂する前に確実に始末し離脱する。



 木の中で破裂させると枝が一気に壊死してしまい、長期的に見たら足場を失って不味いことになるかもしれない。


 けれど木の中で破裂させれば有毒ガスの発生が抑えられるので、無差別駆除なら木の中で殺してしまう方が良さそうだな。



 ……無いとは思うけど、聖域の樹海を枯らすくらいに駆除しても駆除し切れなかったらどうしようね?


 異変の調査をしにきたのに、その結果聖域を滅ぼすとか洒落になってないんだが?



 下らないことを考えながらも跳ね回り、生体反応を片っ端から潰していく。


 俺から逃げようなんて判断させる暇すら与えない。お前らそのまま死んでいけ。



「ダン、早すぎなのーっ! これ以上かっこいいところ見せなくたって大好きなのーっ!」



 別の場所でヴェノムデバイスを駆除しているニーナから、愛の告白が届けられる。


 俺も大好きだよー。ニーナが大好きだから張り切っちゃうんだよーっ。



「やはりダンは1人になると動きが変わるのじゃ。本人が意識的に切り替えているわけではなさそうじゃが」



 ドラゴンイーターで巨木を削りながら、ふむふむと何度も頷くフラッタ。



 別に何かを意識してるわけじゃないけど、みんなが近くに居ると頭の中がみんなのことでいっぱいになるからね。


 1人の時とは処理してる情報量に差があるのかもしれないよ。



「旦那様ーっ。もしも聖域の樹海が枯れ果てたとしても、その時は我ら守人が責任を持って森を育てますゆえっ。遠慮せずに暴れてくださいませっ」



 自身もザクザクとヴェノムデバイスを狩り続けるヴァルゴから、全力で行けとゴーサインが発せられた。


 それじゃヴァルゴにいいとこ見せれるように、もっと張り切って駆除しちゃうぞーっ。



 破裂する幹。溶け落ちる枝。軋む巨木に傾く大樹。


 無数のヴェノムデバイスを排除し続けた結果、とうとう1本の巨木がミシミシと音を立てて折れ始めた。



「大きめの木が折れ始めた。下に居るみんなは注意してね」



 軽く注意喚起を行なって、傾き始めている目の前の巨木に視線を戻す。


 ヴェノムデバイスが破裂しまくったおかげで幹のいたる所が溶け落ちていて、大木なのにまるで滝みたいな状態になっている。



 しかしいくら溶けていると言っても、あんな小規模の破裂を繰り返すだけで、こんな数百メートルはありそうな巨木が倒れたりするんだろうか?


 基本的にヴェノムデバイスが這いずり回っているのは木の表面近く、刃が届く範囲だっていうのに。



「……もしかして、木が倒壊するように誘導された、のか?」



 嫌な想像を頭に巡らせる俺の前で、生体反応が一切無くなった巨木の樹冠部分がボキリと折れて落下していった。



 超高層ビルが倒壊するようなド迫力の落下だ。


 しかし俺の目は落下する木ではなく、折れて残っている大樹の方に釘付けになった。



「これ、は……!」



 液状化した樹木が流れ落ちたあとに大樹の幹から現れたのは、俺の身長くらいありそうな楕円形の物体。巨大なお米粒のような物体だった。


 それはまるで巨木を乗っ取っているかのように幹の下にびっしりと敷き詰められていて、集合恐怖症を発症してしまいそうな生理的嫌悪感が呼び起こされる。



 これってどう考えてもヴェノムデバイスの卵だよなぁっ!?



「折れた巨木の下から無数の卵を確認! 数は確認できないけど、少なくとも1000や2000じゃきかないと思う!」


「そんなに卵があるなら、根絶するのは難しそう……ってダン! 生体反応がっ!」



 切羽詰ったティムルの声に、咄嗟に生体察知を発動。生体反応を確認する。


 すると俺が居る場所とニーナたちが居る場所を目掛けて、夥しい数の生体反応が高速で向かって来ているのが分かった。



「……待望のリアクションかっ! さぁ何が出るっ……!?」


「移動速度も個体の大きさも今までの個体と違うのが混ざってるみたいだよっ! みんな気をつけてぇっ!」



 リーチェの言う通り、今まで駆除して来たヴェノムデバイスよりふた回りくらい大きな生体反応が、ジグザグに跳ねながら俺達を目指してきている。


 変にグネグネ曲がってきてるのは、コイツも植物の内側を移動してきているせいだろう。



 警戒する俺の周囲の木々から次々にヴェノムデバイスが飛び出してきて、勢いそのまま俺に飛び掛ってくる。


 なかなかの速度、そして凄まじい物量で迫ってくるヴェノムデバイスの大津波に飲み込まれないよう、木々の間を飛びまわりながら応戦する。



「ぎゃーっ! 流石にこの数はキモいのーっ! 絶対皆殺しにしてやるのーっ!」



 風を伝って聞こえてくるニーナの叫び声。


 どうやらニーナたちのほうでも同じ事が起こっているらしいな。それでもニーナにはまだ余裕を感じられるか。



「くっ、ここはブレスの出番か……!? しかしここで魔力を使いすぎるのは悩ましいのじゃ……!」


「……まだですフラッタ! ひと際大きい生体反応、出てきますよっ!」


「うわわわわっ……!? な、なにコイツーっ!? キ、キモすぎなのーーーっ!!」


「ニーナ!? 大じょっ……!」



 余裕を感じられていたと思っていたニーナが、かなり切羽詰ったような声色の叫びをあげた。


 そんな彼女に声をかけようと口を開きかけた時、俺の前にも大きい生体反応の持ち主が姿を現した。



「……確かに、かなりキモいな……」



 現れた異形に、思わずニーナへの同意を口走ってしまった。


 俺の目の前には成人男性と同等か、あるいはひと回り大きいくらいのサイズの生き物が姿を現し佇んでいた。



 ヴェノムデバイスと違って百足型の胴体は消失しており、代わりに蜘蛛型の胴体が肥大していて、それが本体のように見える。


 蜘蛛型の下部からは、まるでミミズのような節がある滑った触手が大量に伸びている。



 いや、ミミズなんて言うほど太くないなこれ……。糸状というのが近い気がするな。


 細くて長い糸状の……触手? が、ウネウネと蠢きながらこちらに向けられている。



「全体のシルエットとしては、クラゲが1番近いのかもしれないけどなぁ……」



 だけどコイツをクラゲに分類してしまったら、クラゲにもクラゲファンにも怒られてしまいそうだ。


 第一印象でクラゲを連想できなかった理由は、複眼がビッチリ張り巡らされた蜘蛛部分の胴体上部がばっくりと開いて、ぶぶぶぶぶ! と不快な音を出しながら飛んでいるせいだ。



 もう見た目だけでもかなりの嫌悪感を催すというのに、その激しい羽音もかなり不快だ。


 しかも不快なだけじゃなく、翅からは常に毒判定が垂れ流されており、何か鱗粉のようなものが分泌されているようだった。



「ヤバイなコイツら……。全身毒の塊の癖に、外見とか羽音とかで精神汚染まで仕掛けてきやがるよ……」


「以前戦ったダーティークラスターもかなりの嫌悪感を抱かせられる相手じゃったがな……。此奴らもまた別格なのじゃ……!」



 フラッタに心から同意しようとした時、目の前のキモクラゲの全身の複眼がギラリとこちらに向けられた気がした。


 その様子にゾクリと背筋を震わせる俺の目の前で、細長い無数の触手をまるで演奏前の指揮者のように振り上げたかと思うと、俺を断罪するかのように一気に振り下ろした。



 するとその動きに合わせて、周囲のヴェノムデバイスが一斉に俺に向かって飛んできた。



「なっ!? コイツ、指揮官かっ……!?」



 全方位から飛んでくる不快害虫ヴェノムデバイス。



 攻撃魔法が通じるなら飽和攻撃も歓迎なんだけど、攻撃魔法が使えない状況だとこの攻撃方法は厄介すぎるだろっっ……!


 しかも下手に殺すと毒が発生するとか、なんだよこのクソゲーはっ……!



「……けど、そっちの都合に合わせてやるつもりはないっ! アウターブレイクっ!」



 一瞬でロングソードに魔力を込めて、拡張した斬撃でキモクラゲを一閃する。



 キモクラゲが指揮官クラスなら上等だ!


 無限湧きのザコは放置して、指揮官殿から仕留めさせてもらうだけだぁっ!



「……って、嘘だろおい!?」


「ダン!? どうし……」



 自分の認識の甘さを痛感する。


 心配するティムルの声が俺の耳に届いた瞬間、両断されたキモクラゲと共に、俺に飛び掛っていた夥しい数のヴェノムデバイスが一斉に破裂し、周囲に毒霧をばら撒いたのだった。

※こっそり設定公開。


 毎回行き当たりあったりで投稿している今作ですが、悪意の女王戦のコンセプトは『仕合わせの暴君でも苦戦する相手』です。イントルーダーさえもあっさりと殲滅させてしまえる彼らが苦戦するべき相手とは? ということからスタートした結果、書けば書くほど厄介な生物になってしまいました。

 今だから言えますが、521話を執筆していたあたりでは、こんな生物とどうやって決着をつければいいのかなぁと頭を抱えていた記憶があります。頭を抱えましたがちゃんと決着は着くのでご安心ください?

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