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【全年齢版】異世界イチャラブ冒険譚  作者: りっち
7章 家族みんなで冒険譚2 聖域に潜む危機
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487 崩界

 種族代表会議についての問い合わせを済ませ、今はこれ以上聞くべき事は無いと話を切り上げる。


 ロイ殿下のほうも忙しいというのは本当のようで、特に引き止められることもなく解散する事になった。



「ティムル。リーチェ。2人ともお疲れ様。それじゃ家に帰ろっか」


「あはーっ。私たちはなーんにも疲れることして無いんだけどねー」



 ニコニコ上機嫌のティムルとリーチェを抱きしめたまま、マグエルに帰宅する。


 既に日没を過ぎている為かみんなが稽古している姿を見る事は出来ず、家では夕食の準備を終えたみんなが俺達の帰宅を待ってくれていたようだ。



 早速みんなで夕飯を食べながら、中継都市とスペルディアでした話を報告する。



「会議の開催は思ったよりも先なんだねー」


「新王の即位式より優先するわけにはいかないよね。だから聖域の樹海の調査期間には余裕がありそうだよ」


「ふ~んそうなんだー」



 ニーナは俺の報告をちゃんと聞いてくれているけど、あまり興味は無さそうだ。


 俺の安全が脅かされない限りは、基本的に俺のやる事に口出しして来ないもんな、ニーナって。



「残念ながらゴブトゴさんには会えなかったんだ。だから献上品については報告できなかったんだよねー。ロイ殿下に報告して話が捻じ曲がったら嫌だしさ」


「ん……。それは仕方ないですね。この期に及んでバルバロイ殿下が何かしでかすとは思いませんが……。なんだか信用し切れないんですよね、あの方って」



 どうやらラトリアもロイ殿下の事は信用しきれないらしい。



 あの人が厄介なのは、信用は出来るけど全面的に信用するのは怖いって所だよなぁ。


 基本的に仕事は出来るから信用は出来るんだけど、あっさり寝返りそうな怖さがあるって言うか。自分独自のルールで動いているような危うさがある。



 ラトリアがロイ殿下を警戒する一方で、俺からの報告を嬉しそうに聞いてるのはキュールさんだ。



「ははっ。宰相殿次第だけど、私も種族会議に出られそうな流れでなによりだよ。タラムの族長に会うのだけは、ちょっと気が重いけどね?」


「種族代表会議は早くてもひと月以上先って話だったけど、キュールさんはこのままうちに滞在してて大丈夫なの? 1回くらい報告に戻ったりしなくて平気?」


「んー、許可は貰ってきてるんだから大丈夫だと思うんだけどね。仮に問題が発生した場合はスペルディア王家を通して連絡が来ると思う。直接ここに迎えが来る事は無いと思うよ」



 俺達に迷惑が掛かる心配は無いはずだと断言するキュールさん。


 どうやらキュールさんも、帝国側のスケジュールが読めなくてはっきりとは答えられないようだ。



 帝国の皇帝陛下が張り切って俺達を迎える準備をしているそうだけど、この世界って建築スピードは遅くないからな。


 スペルディアでの即位式が終わって、種族会議が開催されるのを待ってる間に帝国の方の準備が整って、イベントの日程が前後する可能性は充分にありそうだ。



「カレン陛下はダンさんの力を最大限警戒なさってるからね。私と皆さんが仲良くなるのは歓迎してくれるはずさ。情が移ればラッキー、といったところじゃないかな」


「ふぅん? こっちとしてもキュールさんや帝国側と対立なんかしたくないけど」



 キュールさんの能力を考えると、引き抜きとかを警戒しても良さそうだけどねぇ。帝国はキュールさんをあまり重要視していないのか?



 いや、皇帝陛下と親しいっぽい感じだし軽視してるって事はないか。


 有用な人材であるキュールさんを差し出してでも、俺の持っている神器に近づきたいってことなのかな。



「キュールさんと仲良くなるのは歓迎だけど、俺よりもチャールとシーズの2人と仲良くして欲しいところだけどね。2人とは話とかしてるの?」


「あっはっは! そりゃもうたっくさん話をさせていただいているよ!」


「私達が作ってる職業の資料なんかも見てもらってるんだっ。やっぱり沢山の人に見てもらって意見を聞きたくってさーっ」


「ヴェルモート帝国の話とかもしてもらってるんだぜっ? いつか自分でも行ってみるつもりだけど、実際に住んでる人の話を聞くのは楽しくってさぁっ」



 弾んだ声でキュールさんとのやり取りを報告してくれるチャールとシーズ。


 どうやら離れの方で色々な情報交換をしているようだ。



「はははっ。私のほうも2人のおかげで大変有意義な時間を過ごさせていただいているよっ」



 キュールさんもまた、チャールとシーズのことを高く評価しているようだ。


 2人が子供だからと侮る感じも無いから、チャールとシーズも話しやすいんだろうな。



「特にチャール君の読み込んできたトライラム教会の古い資料は本当に興味深いよ! 帝国は王国と比較するとまだまだ新しい国だから、歴史的資料に乏しくてねぇ」


「へぇ? ヴェルモート帝国って、スペルド王国の後に建国されたんだ?」


「ああっ! スペルド王国に溢れた貴族が新天地を求めて西に旅立ち、今から127年ほど前に建国されたのがヴェルモート帝国だとされているよっ。表向きにはね?」


「表向き? つまり本当は違う経緯で建国されたってこと?」


「……ダンさん。今のこの場は、王国の闇に紛れていた組織の事を口にしても大丈夫な場所だろうか?」



 上機嫌に語っていたキュールさんは豹変したように真面目な表情になり、俺に1つの問いを投げかけてくる。


 王国の闇に紛れていた組織って……組織の方のレガリアのことだよな?



 キュールさんは、俺達家族がレガリアを壊滅させた事を知っているはずだ。


 なのにあえてこんな確認をしてきた理由は、チャールとシーズに話していいのかって確認かな?



「……そうだね。この2人がこの世界の真実に迫る為には、レガリアという組織の存在を避けて通ることは出来ないと思う。だからこの2人にも知ってもらっていいんじゃないかな」


「了解だ。では今後このメンバーの前に限り、組織レガリアのことは包み隠さず話させて貰うよ」


「えっと、レガリアなら知ってるけど……。3種の特別なレリックアイテムのことじゃないの? 組織?」


「チャール君。悪いが詳しい話は離れで説明させて欲しい。君達以外のみなさんは既にご存知の情報なのでね」



 首を傾げるチャールに、済まないと軽く頭を下げて説明を後回しにするキュールさん。


 チャールってレガリアっていう名前には自力で辿り着いてたんだっけ。チャールの認識は神器の総称だろうけど。



 キュールさんはチャールとシーズに、スペルド王国には昔から暗躍する悪の組織が存在していたんだよー、くらいに大雑把な説明をしてから俺に向き直った。



「結論から言うとね。組織レガリアの支配を嫌った王国貴族が、レガリアの支配の手が及ばない地を求めて作り出したのがヴェルモート帝国なんだ。勿論これは一般には知られてない情報だからね」


「……表向きの話とやってることに大差は無いけど、きっかけが全然違うわけだ」



 新天地を求めて冒険に繰り出したのと、レガリアの支配から逃げ出したのでは印象がまるっきり変わってくる。



 一般の帝国民に伏せられている理由も良く分かるな。


 自分の祖先が勇気ある開拓者であると言われるのと、王国から逃げ出した軟弱者だと言われるのとどっちがいいかって話だもん。



「この事実は殆どの帝国民は知らないよ。帝国の建国に携わった当時の人々ですら殆ど知らなかったんじゃないかな? 先導者以外の人々は純粋に新天地を目指して踏み出したはずだ」


「組織レガリアは今に至るまでその存在が明るみになってないくらいの隠密っぷりだからな。王国では宰相や一部の王族ですら知らなかったレベルだし、当時の人々の多くも存在を認識していなかったのか」


「ん~……? ねぇねぇキュールさん。レガリアから逃げ出すなんて出来るものなの?」



 今まで黙っていたニーナが、首を傾げながら会話に参加してくる。


 種族代表会議については興味無さそうだったのに、自分が実際に関わった組織レガリアの事については流石に関心があるようだ。



「宰相様のゴブトゴさんに気付かれずにマジックアイテムの開発の情報を盗めたり、王国の公文書を勝手に発行したりできる組織だよ? 逃げたって逃げ切れないんじゃないのー?」


「えっと、私には当時の事を推察することしか出来ないけれど……。恐らくレガリアは逃亡者を把握していたけど、何もせずに見逃したんじゃないかって思ってる」


「把握してたけど見逃したの? レガリアにとっても新しい国が興ることは歓迎すべきことだったの?」


「いや、そうじゃないよニーナさん。恐らくレガリアは、王国を去る者に興味を持たなかったんだ」



 王国を去る者には興味が無い……? そんなことってあり得るのか?


 いや、組織レガリアが誕生した経緯を考えれば、レガリアの憎悪の対象はあくまでスペルディア王家とエルフェリア精霊国、そしてその2つに属する者たちだけって事になるの、か?



 スペルド王国から離反するということは、スペルディア家を否定しているとも取れなくもない。


 そして大量の出国者が出れば王国にかなりの痛手を与えることにもなる。



 なるほど。確かにレガリアの連中が逃亡者を止める理由は無いのかもしれない。



「……いや、納得しかけたけどおかしくないか? それならなんで帝国に識の水晶があるんだよ? 流石に識の水晶の持ち主を見逃すことはないはずだろ?」


「確かにダンの言う通りだ。神器の行方はガルクーザの討伐のドサクサに紛れて分からなくなったはずでしょ?」



 俺の意見にリーチェも賛同してくれる。



 スペルド王国から逃亡者が出ることには興味が無かったとしても、その逃亡者が神器を所有していたら話は別だろう。


 神器(レガリア)と名乗るくらいには、神器に拘っている組織だったはずなんだから。



「帝国の建国が130年前なら、帝国の建国者は実に300年以上もの間、レガリアの目を盗んで神器を隠し持っていた事になっちゃうよ? いくら神器がインベントリに収納可能だからって、流石に話に無理があるよ」


「確か神器は長期間同じ者が所有できないという話じゃったしの。この国の中枢深くまで根を張ったレガリアから、そんな長期間に渡って神器を隠し通せたとは思えぬのじゃ」


「宰相であるゴブトゴさんもその存在を知らないような組織でしたからね。何処にどれだけ潜んでいるのか分からない相手から扱いの難しい神器を守り抜くのは困難を極めるでしょうね」



 リーチェの意見にフラッタとヴァルゴも追従した。



 300年間も識の水晶を隠し通したってことは、エルフでもない限り所有者も代替わりしているはずだ。


 王国貴族なんてレガリアに常に監視されていてもおかしくないし、識の水晶を守り通す方法がまったく分からない。



 そんな風に首を傾げている俺達に対して、キュールさんもまた腕を組んで何かを悩んでいる。



「……それを説明するには、陛下から聞かせていただいた皇家ラインフェルドに伝わる秘密を話さなきゃいけなくなるんだけど……。話しても平気だろうか?」


「あ~……。流石に隣国の機密情報に触れてまで説明してくれなくってもいいよ。究極的にはどうでもいい話なわけだしさ」


「ははっ。陛下もどうでも良いと仰られていたね。自分の生まれる前の話など関係ない、などと笑い飛ばしていたのを思い出したよ」



 おっと。皇帝陛下自身もあまり重要視していない情報なのか。


 それなら機密情報に触れる危険性みたいなものは考えなくていいんだろうか? と思うのは楽観的過ぎ?



「ダンさんは神器の所有者でもあるし、話してもいいかもね。もしかしたらこれも何かの真実に繋がる話なのかもしれないし」



 肩の力を抜いて腕組みを解いたキュールさん。


 他国の機密情報なんて知りたくないでーす、と止めても良いんだけど、せっかく話してもらえるみたいだからここは素直に大人しく聞かせてもらおう。



「これは皇家ラインフェルドに口伝でのみ伝えられている話で、根拠となる資料のようなものは一切存在しない。それを念頭に置いて聞いて欲しい」



 つまり皇帝陛下が言っているだけで、それが本当のことなのかどうかはキュールさんも判断出来ないって言いたいのか。


 ま、それにしたって話を聞いてみないことにはなんとも言えないよね。



 キュールさんに頷きを返して話の先を促した。



「現代に至るまで識の水晶を護り続けてきた皇家ラインフェルドなんだけどね。元々は権力者でも何でも無かったそうなんだ」



 ガルクーザの討伐の際に、その討伐方法を人々に授けたと言われる識の水晶。


 始界の王笏と共に、ガルクーザの討伐の際に失われてしまったというんだけど……。



「ガルクーザが討伐されたと思われるタイミングで、ラインフェルド家の祖先の前に落ちたきたそうなんだよ。識の水晶」


「…………は? 神器が、落ちてきたぁ?」



 いやいやいや。いくらなんでもラインフェルド家が識の水晶を入手した経緯が唐突過ぎるだろ。


 なんだよ目の前に落ちてきたって……。棚ボタじゃないんだからさぁ。



「なんでも、始界の王笏によって放たれる破滅のウェポンスキルである崩界って、実は移動魔法を攻撃手段に応用したものらしいんだよね」


「移動魔法を攻撃に応用?」


「ああ。攻撃指定した対象の存在座標を移動魔法による転移で剥離させ、対象を空間ごと千切り滅ぼす能力らしい。説明してる私がいまいち理解出来ていないけれどね」


「移動魔法の転移を使って、対象を空間ごと千切る……?」



 そ、それってつまり、バラバラの方向に肉体を転移させるってことか……?



 今まで何の疑問も抱かずに散々利用してきたけど、移動魔法による転移って効果対象者が入り口に触れると問答無用で転移させられてしまうんだよな。


 以前リーチェが絡まれてた時に無理矢理押し込んで転移させたように……。



 つまり、もしも移動魔法を攻撃に転用されたら防ぐ術が無い……?


 効果範囲をパーティメンバーではなく任意対象に変え、転移先を細分化して肉体をバラバラに引き千切るウェポンスキルってこと……? グ、グロすぎない……?



「恐らくガルクーザが強力すぎて転移に抵抗されたんだろうね。結果的にガルクーザの討伐には成功したんだけど、崩界の影響は割と世界各地に出てるんだよ。分かりやすい例では始まりの黒かな」


「……あっ! あれってそういうことだったのねっ!?」



 崩界の説明で何かに思い当たったらしいティムルが、思わずといった様子で声をあげる。



「おかしいと思ったのよ! ガルクーザの討伐場所と、ガルクーザの血溜りから発生したと言われている始まりの黒の位置がどうしても辻褄が合わないって! だけど、転移魔法の影響と考えれば……!」


「そういうことだね。他にもグルトヴェーダ山岳地帯の中にぽっかり空いた平地であるクラメトーラなんかも、ガルクーザ討伐の際に抉り取られた結果出来た地形だと言われているよ」


「……は? クラメトーラが転移魔法で作られた地形……?」



 い、いやいや……流石にそれは信じられないよ。


 だってクラメトーラって、多分都道府県レベルの広さだと思うんだけど……。



「……暴王の、ゆりかご。暴王って、ひょっとしてガルクーザの事を指していたのか? フューリーコロッサスじゃなくて」


「それは分からないね。天険の地であるグルトヴェーダ山岳地帯に足を踏み入れた記録は無かったらしいから。暴王のゆりかごが元々あったアウターなのか、それともガルクーザによって発生したものなのかは不明だよ」



 崩界の仕様とガルクーザ討伐の余波を説明されて、俺の頭に1つのストーリーが浮かび上がった。



 スペルド王国から逃れるためにと、ドワーフ族がそれまで未開であったはずの北を目指したのは、前人未到の天険の地に盆地が出来たことに気づいたから?


 始まりの黒の発生を目の当たりにした当時のドワーフは、同じく崩界によって抉られた場所にはアウターが発生していると見込んだんじゃないだろうか……?



「なんなんだ。本当になんなんだよ、邪神ガルクーザって……!」



 知れば知るほど、この世界の根本に関わってきている存在に思えて仕方が無い。


 ガルクーザがこの世界に与えた影響があまりにも大きすぎる。本当にただのイントルーダーだったのか……?



 ウンザリさせられるばかりのキュールさんの話だけど、たった1つだけ明るい材料があるとするなら……。



 防御不能の即死転移魔法型ウェポンスキル『崩界』。


 それを使える始界の王笏が俺のインベントリに納まってるってことくらいかなぁ……。

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