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【全年齢版】異世界イチャラブ冒険譚  作者: りっち
1章 巡り会い2 囚われの行商人
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048 絞り込み

 リーチェとの情報交換を済ませた俺は、改めてティムルと話をするために彼女が勾留されている部屋に戻ってきた。



「ええ……? いったい何がどうなってこうなったのよ……?」



 再会したティムルの第一声がこれだよ。


 まぁ原因は分かってる。俺の腰にしがみ付いたエルフ以外には考えられない。



 もう諦めたからリーチェの事はスルーだスルー。



「ティムルにもうちょっと確認したいことが出来たんだ。シュパイン商会の内部事情のことに踏み込むことになると思うけど、教えて欲しい」


「いやいやいや! 話すのはいいけど、その前にそのエルフ何とかしなさいよ! なに思い切り真剣な表情で話を進めようとしてるのよ! この状況をスルーとか、私には無理だからねっ!?」



 くっ……、俺はスルーを決め込んだけどティムルのスルースキルが足りていなかったようだ。


 でも無理矢理引き剥がそうとしても、普通に膂力で負けてて引き剥がせないんだよねぇ。



「ということだリーチェ。世界樹の護り捜索が進まないからそろそろ離してくれよ。差し入れはもうあれで全部だって言ってんじゃん」


「いやだーー! また作ってくれるまで僕は絶対に君を離さないぞっ! なんだよあれ! なんでサラッとあんな料理が出てくるんだよ! また作ってくれるって言うまで絶対に離さないからなー!」



 ぎゅーっと俺にしがみ付いてくるリーチェ。そのせいでコイツの特大級のモノが押し付けられて意識が持っていかれそうになる……!



「お前さっき、依頼をすっぽかす訳にはいかないって言ったばっかじゃねぇか。さっさと依頼に行ってきて、どうぞ」


「嫌だー! 大体領主館も居心地悪いんだよっ! 料理も僕の口に合わないし! お願いだよダン! 毎日僕の食事を作ってくれないかっ!?」



 落ち着けリーチェ。言ってる事がプロポーズみたいになってるからっ。っていうか押し付けてくんなぁぁっ!



「明日も差し入れ持ってくるから。それで我慢してくれってばぁ……」


「差し入れじゃ足りないよ! というか毎日食べたいんだよ僕は! そうだダン! 君の家に招待してくれ! それで食事を提供して欲しい!」


「えい」「ふぎゃっ!?」



 チョップの痛みにリーチェが頭を押さえてくれたおかげで、ようやく解放されたよまったく。フラッタに続いて、なんでこんな美人にチョップをお見舞いすることになってるんだろうな?


 こいつ、エルフっていう割にはムーリさんクラスの立派なモノをお持ちだから、そこから意識を逸らすのが本当に大変だった。フラッタに抱き付かれた経験がなかったら耐えれなかったかもしれない。


 この世界のエルフがスレンダーかどうかは、ドワーフに見えないティムルを見る限り微妙な気もするけど。



「リーチェ。うちは婚約者と2人暮らししてるんだ。そんなところにお前を連れて行けるはずないだろ? 諦めろ」


「こ、婚約者殿は僕が説得するよ! お願いだ! 一生のお願いだよぉっ!」



 今日初めて会った俺に、一生のお願いをするのはどうかと思う。


 ええいっ! せっかく離れたのにまた縋りついてくるんじゃないっ!



「というかリーチェの反応、ちょっと過剰すぎない? ティムルにも警備隊の人にも配ったけど、ここまでじゃなかったよね?」


「そうね。確かに美味しかったけど、そのエルフの反応は過剰に思えるわね? 本人の好みの味だったにしても、ねぇ……?」



 ティムルと顔を見合わせて首を傾げあう。


 大体にして、この世界の食材で適当に作っただけだよこんなの。もちろん美味しいものを作ろうと意識はしたんだけどさ。



「僕、料理は全然できないから分からないけど……。ダンの差し入れ、昔母さんが作ってくれた味に似てるんだよ。今まで結構長いこと旅してきたけど、こんな料理食べたの、僕初めてだよ?」


「エルフ料理っぽいぃ……? ハンバー……、肉料理だったのにぃ? なにかそれっぽいもの使ったっけ……?」



 エルフのイメージって森の中で自然と共に生きて、野菜や果物を食べて生きてるって感じだけど……。


 あ、そういえば甘みを出す為に、リンゴみたいな果物を摩り下ろして入れた覚えがあるなぁ。ひょっとしてアレだった?



「あー! その顔は何か心当たりあったんだろ!? ってことはまた作れるって事だろ! 頼むよダン! また作ってえええっ! 作ってよおおおおっ! うああああああんっ!」



 うおっ!? マジかよこいつっ、まさかのガチ泣き!?


 なんなんだこの世界はっ! フラッタといいリーチェといい、美貌と引き換えにポンコツになる決まりでもあるの!? ああもう泣いてても最高に美人っすねぇっ!

 


「……おいダン。悪いこたぁ言わねぇ。リーチェさんの言う通りにしておけ」



 ガチ泣きエルフの前に途方に暮れていると、警備隊の1人が耳打ちしてきた。



「はぁ? なんでさ? リーチェを家に連れて行ったら、ウチの中が修羅場だよ」



 今この場も完全に修羅場ってるけどぉ。でも我が家が修羅場になるよりは1000倍マシだっ!



「この状態のリーチェさんを放置したら、家の中どころかスペルド王国中が修羅場になりかねねぇ。ここは大人しくリーチェさんを引き取ってくれ」


「……リーチェって、そんな大人物なの?」



 食事の話題でガチ泣きしてるこいつが?



「そもそもエルフってだけで絶対数が少ないからな。更に旅するエルフってのも珍しいし、1人で旅してるところも珍しい。その上でこの美貌だ。むしろダンが知らないほうがびっくりだ」



 俺って断魔の煌きすら知らないほどの世間知らずっすからねぇ?


 まぁリーチェはこの世界の人間なら誰でも知ってるレベルの知名度だってことは分かった。納得いかないけど?



「瞳の色から『翠の姫エルフ』って二つ名が付いててな。王族にすらファンが居るらしいぞ」


「え、なにその二つ名。ダサくない?」


「聞こえたああああっ! ダサいって言ったああああっ!」



 やべ、本音がつい口からぽろっと。


 しっかし王族にもファンが居るとか、そんな相手を家に連れ帰るほうがやばくね?



「ごめんごめん。今のはほんと失言だった。でもさぁリーチェ。お前領主の館に厄介になってるんだろ? お前がうちに来たら、領主のメンツ丸つぶれじゃん?」



 このままにしておくのも問題でしかないけど、うちに連れていっても問題が起こる気配しかしない。頼むから言うこと聞いてくれよぉ。



「そ、そんなの知らっ、ないよっ。ぼ、僕はっ、僕はダンの料理が食べっ、食べたいだけっ、だもんっ……!」



 もんっ、じゃねぇよ。もう口調も崩れてきてるじゃん。



 ダメだ……。ここまで必死になられると俺の方が悪者みたいに思えてきてしまう。こうなったらもう終わりだ……。


 はぁ~……。まーたニーナに怒られるよぉ。



「……分かった。俺の負けだ。家に招待してやるよ、ったく」


「ほ、本当だねっ!? 今さら嘘だって言ったら許さないぞっ!」



 怖いなこいつっ!? 泣いてたカラスがもう怒ったって?



「その代わりちゃんとお前自身が説明して、正式に領主の館を引き払って来い。そしてもうだいぶ手遅れだけど、これ以上俺に迷惑をかけないこと。俺の婚約者にはお前からちゃんと許しを得ること。守れるか?」 


「ま、守れるよそのくらいっ。子供じゃないんだからっ……!」



 たった今ガチ泣きしてた奴が大人ぶるんじゃない。


 くそ、涙目で頬を膨らませやがって。美人の癖にいちいちあざといんだよっ!



「子供じゃないならとっとと行ってきな。お前が来るまでは詰め所で待っててやるからさ」


「本当だねっ!? 居なくなってたら地の果てまで追い詰めてみせるからねっ!?」



 何このエルフこわ。痴情の縺れでもこわって思うのに、これって食事の話だからね?


 俺から言質を取ったリーチェは、飛ぶようにこの場を去っていった。



 ……マジでこのまま放置して帰りたいよぉ。でも逃げ切れないんだろうなぁ。



「ニーナちゃんに同情するわぁ……。私を迎えに行った筈のダンが、全然知らない女と家に帰ってくるなんて……」



 ざっけんなティムル。俺にこそ同情しろってんだ。


 あーもう、これも全部ティムルに濡れ衣を着せた奴が悪いんだよ。とっとと解決して俺が責任持って地獄に叩き落してやるぅ。



「それじゃあ鬼の居ぬ間の洗濯じゃあないけど、盗難事件について聞かせて欲しい。今回盗難事件があった宿の経営を、シュパイン商会が引き継いだって話はほんと?」


「よ、よくこの流れでそんな話に持っていけるわねぇ……」



 グズグズしてるとまーた何か起こりそうだからな。もう一瞬だって時間を無駄には出来ませんよ。



「ええ、本当よ。今回私がここに来た理由が、マルドック商会の抜けた穴を埋めるためだから」



 マルドック商会の壊滅は、他の商人にとっては大きなビジネスチャンスだった。だからこそ実績も実力も申し分ないティムルを送り込んで事業の拡大を図る、そういう流れのはず。


 つまり今回ティムルを陥れた相手は、商会全体の利益を度外視して謀略を仕掛けてきたわけだ。そう考えると、恐らく今回ティムルをここに送り込もうとした相手と陥れようとした相手は、それぞれ別々なんじゃないか?



「ティムル、分かる範囲で答えて欲しい。会長の妻の中で、宿の従業員の配置に違和感無く口出しできる立場の人間は?」


「現在存命中のジジイの妻は、私を除いて43人。その誰もが宿の人事には口を出せるし、出しても違和感はないわね」



 よ、43人……!? ティムルって12人目って言ってたから、そのあと31人も……?


 いや、存命中のってことは、もっと居たのかよ……。よく体が持つなぁ……。



「その43人の中で、商会全体の利益よりも自分が商会内でのし上がることしか頭に無く、自力でのし上がる商才がないような相手は?」


「私より上の8人は商会の利益を無視したりしない。商才に関してはある女のほうが少ないわ。ジジイは顔と年齢しか見てないから」



 8人は除外と。商会の利益を重んじる人間がティムルを陥れるとは考えにくいしね。


 って12人目の妻のはずなのに上には8人しかいないの? だから存命中って……?



 まぁ今はいいや。とりあえず容疑者はあと35人だ。



「翠の姫エルフの事も知らないレベルの無知で、アクセサリーが好きでわがまま。自分の都合を押し通し、金使いが荒く、部下の事を捨て駒だとしか思っていないような相手は?」


「世間知らずで浪費家、それでいて部下とあまり上手くいってないって奴は結構絞れるわね……」



 多分今回の犯人、あまり頭が宜しくない。いくら希少価値が高くても、王族にすらファンが居るっていう有名人のところから一点物のアクセサリーを盗むとか正気とは思えない。


 ここまでアホだと警備隊の調査にひっかかりそうなもんだけど……。シュパイン商会は腐っても大商会。影響力は大きいのかもしれないなぁ。



 ただでさえこの街のトップの商会がなくなって混乱している状況だ。領主としても、実績のある大商会の参入は歓迎したい流れのはず……。


 だから容疑者であるティムルを切り捨てて無関係を主張するシュパイン商会に強く出られないとか?



「それに加えて、今回ティムルをネプトゥコに送る話の決定権を持っていない相手、とか分かる?」


「今回の私のネプトゥコ出張に決定権を持ってないって条件を加味すると……。ラダー、サルーダ、ネフネリ。この3人が当てはまりそうね」



 3人か。もうちょっと絞る方法ないかなぁ?



「その中で、最近ジジイに興味なくされて焦ってるやつとか」


「ジジイは若い娘にしか興味ないから。今あげた3人は既にお払い箱ね」



 俺自身16歳のニーナを所有してる立場だから、あまり強くも言えないんだけど……。


 俺はニーナが年を取ったからって手放そうとは思わないかな? シュパイン商会会長殿とは趣味が合わないようだ。



「じゃあ今回の実行犯の男の直属の上司とかは?」


「それはカイノール……、3人の中には含まれてないわ」



 ダメかぁ。これ以上は総当りするしかないか?



「んー。仕方ない。ラダー、サルーダ、ネフネリだっけ。そいつら3人は、みんなマグエルに居るわけ?」


「ええ。そのはずよ。ジジイに興味なくされてるから、3人とも若い男を囲って贅沢してるわね」



 若い男を囲って贅沢三昧ぃ? そんな何不自由ない生活してる奴が、なんのためにティムルを? そんな中でティムルが邪魔で仕方なかった奴って、誰だ?



「あー……、っと。その3人の中で、会長の子供が産めてない奴とかいない?」


「3人とも産んでないわね。ジジイは人間族だけど、3人は獣人だから」



 これもダメか。他の条件は……っと。



「じゃあジジイとじゃなくて、ティムルとその3人でなにか問題が起こった事は? 逆恨みでもなんでもさぁ」


「あー……。そこはむしろ、3人全員に間違いなく嫌われてるわねぇ」



 3人とも該当すんのかよぉ……。


 調べるのが3人と1人では労力が変わりすぎる。だからなんとか1人に絞って調査したいんだけど……、こりゃ無理かぁ?



「だってあいつら、稼ぎもしないのにお店のお金で豪遊してるのよ? お金を預かる身としちゃあ堪ったものじゃないわよ」



 自分で稼ぎもしないで贅沢三昧かぁ。


 奴隷として購入されたってのに、ジジイのおかげで勝ち組になれたと思ってる女性もいそうだ。



「あんまりにも浪費するものだから、3人への予算に制限を設けたのよね。だからそりゃあもう嫌われてるわよぉ? おかげさまで嫌がらせもしょっちゅうだし」



 うわっ、贅沢三昧の女に予算制限とか考えるだけで恐ろしいな……。そりゃ排除されるには十分な動機になるかも。



「そうそう、ダンとニーナちゃんと一緒になったアッチンにだって、結局は嫌がらせの1つとして派遣されたようなものなんだからね? おかげで2人に会えたんだから、結果的には良かったんだけどさぁ」



 そういえばアッチンに居たのは、客への挨拶を押し付けられたからって言ってたっけ。あれも嫌がらせの1つだったのか。



 ……ん? ちょっと待てよ?


 アッチンへの派遣が嫌がらせの1つだったとしたら、帰ってきたティムルをを見た相手って、どう思った?


 嫌がらせのつもりで遠くに行かせたのに、野盗を討伐するわ、莫大な利益を上げるわで、そりゃあ面白くなかったんじゃ……? 



 だからずっとチャンスを待っていて、利用できそうなネプトゥコ派遣に思わず飛びついて……?



「……ちなみにティムル。そのアッチンへの訪問は、元々は誰が行く予定だったの?」


「ん? えーっと、確かネフネリだったんじゃなかったかしら? お客さんがネフネリに好意を持ってしまって、ネフネリをアッチンに招待したいって話だったはずよ。それを直前になってから体調不良だなんだって、私に代役を頼んできてさぁ……」



 嫌な客をその気にさせて直前でドタキャンし、機嫌を損ねさせる。そこに嫌いな女を送り込んで……、みたいな嫌がらせか?


 幼稚だし、商会の利益を考えない行為。そして何より、成功して帰ってきたティムルを見たら発狂しそうな相手だなぁ。



 よし。まだ確定ではないけど、まずはそのネフネリって奴を調べてみよう。



「ティムル。ネフネリの拠点の場所、財力、動員できる人材とか、知ってる限り教えてくれ」


「ほんっとあの女って金食い虫でさぁ。価値も分からないのに金ばっかり……。ってなに? ごめん聞いてなかった」



 審美眼のない浪費家か。そうなると希少価値が高いっていうだけで、世界樹の護りを欲しがってもおかしくはなさそうだ。



 俺の推理なんてデタラメもいいとこだけどね。ティムルの情報と合わせればそれなりに信頼性は上がるでしょ。


 その女がどうなろうと知ったことじゃないけど、世界樹の護りは絶対に返してもらわないといけない。俺が確実にティムルを購入するためにね。

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