461 見えざる手
※R18シーンに該当する表現をカットしております。
詰まらない想像で落ち込みそうになった心を、大好きなフラッタを抱きしめることで立て直す。
ああもうフラッタはなんでこんなに可愛いんだろうなぁ。ぎゅー。
「チャールとキュールさんの好奇心を抜きにしても、この世界の真実は白日の下に晒す必要がありそうだ。今後同じ不幸を繰り返さない為にもね」
「この世界の真実って……。うわっ、ダンが何に思い当たったのか想像出来ちゃったかも……?」
リーチェが心底ウンザリした表情で、俺がフラッタにしているようにアウラをぎゅーっと抱きしめている。
抱き締められたアウラは、押し付けられたおっぱいのせいで首がちょっと大変そうです?
「ま、これ以上は今考えても仕方ないよ。1つ1つ調べて、確実に正解を導いていこう」
暗い話題を切り上げて本日の活動を開始する。
……前に、チャールとシーズが家を出てから一旦皆を堪能してしまった。
「嫌な事を考えちゃったんですね~……。いっぱいいっぱい甘えてくださいね~……」
甘えて抱きつく俺の頭を、ムーリが優しく抱きしめてくれる。
どこまでも甘やかしてくれるムーリにひたすら甘えて癒されたあと、俺はようやく本日の探索に赴いたのだった。
「最深部目指して、今日も頑張っていこーっ」
昨日に引き続いて、今日も俺は別働隊と共に終焉の箱庭の攻略に付き添う。
昨日よりも深い場所に潜っているおかげでアウラの職業浸透が早まるけれど、そのアウラが火力不足に陥ってきた。
現在は戦士の育成を行なっているんだけれど、探索速度が速過ぎて通常メイスのままでは攻撃力が足らないようだ。
装備品の材料は揃えてきてあるので、鋼鉄のメイスを作成してアウラの武器を更新する。
「『抗い、戦い、祓い、貫け。力の片鱗。想いの結晶。顕現。鋼鉄のメイス』。はいアウラ。こっち使ってみて」
「ありがとパパっ。帰ったらいっぱいお礼するからねっ」
新しい武器のお返しに長めのキスをしてくれたアウラが、嬉しそうに魔物を叩き潰している。
戦士の補正と合わせれば、なんとか戦えるくらいの火力に出来たようだ。
「今まであまり気にしたことは無かったけど、結構差ががあるもんなんだな……」
昨日も思ったことだけれど、仕合わせの暴君と比べてアウラたちの職業浸透の速度は間違いなく遅い。
それに加えて、魔玉も中々光らないようだ。
みんな真面目にアウターの探索を続けているのに、なかなか敏捷性補正の上がる職業の浸透が進んでおらず、思った以上に攻略が進まなかった。
「焦らなくていいからねー。全員の安全を最優先に攻略していこう」
そんなゆっくりとした攻略に付き添いながら、俺はドロップアイテムの回収を担当しつつアウターブレイクの練習を続けていく。
昨晩も今朝も、なんなら今日出発する直前までアウターブレイクの復習を繰り返したからな。精力増進スキルの感覚はバッチリだ。
「ふぅぅぅぅ……」
ショートソードを構え、両手を通してその剣先に魔力を流し込んでいく。
ウェポンスキルを発動するのではなく、俺の体に流れている魔力そのものを流し込むイメージだ。
俺の体には職業補正が浸透しきっているけれど、魔力と補正を別個に考えるのではなく、職業補正ごと魔力を動かすつもりで剣に魔力を流し込む。
そう、イメージするのは体液。
両手から流し込むイメージなので、下半身からは離れよう。なら今イメージすべきは血液か。
魔力で血液を作り出し、その血液を武器に流し込むイメージで剣に魔力を込めていく。
しかしショートソードに流し込んだ魔力はすぐさま零れ落ちてしまう。
「……ダメだ、くそっ」
上手くいかない魔力制御に、知らず毒づいてしまう。
俺自身の体に宿る魔力は身体操作性補正で操ることが出来るけど、ショートソードに送り込んだ液体イメージの魔力を留める事は難しい。
ショートソードは俺の肉体ではないので、流し込まれた血液を受け止めることが出来ないのだ。
「このままじゃ成功する気がしないな。いったいどうしたら……って」
1人で悶々としながらアウターブレイクの練習に明け暮れていると、ようやくアウラの戦士が浸透してくれた。
いつもであれば迷わず商人に転職させているところだけれど、今のアウラに必要なのは攻撃力と魔力補正だ。
ということで、今回は僧兵になってもらう事にした。
僧兵LV1
補正 魔力上昇-
スキル 打撃時攻撃力上昇
「やったっ! これでまたメイスの威力が上がるんだねっ」
「うん。魔力補正もあるからアウラにピッタリだと思うよ」
改めて僧兵の性能を確認すると、補正もスキルもアウラに特化しているような職業だ。
最大レベルも30と低めで、浸透が楽なのも素晴らしい。
本当は魔力補正優先で魔法使いルートを進めてあげたいところなんだけど、アウラの魔力が毎日俺が補充してやる予定なので、魔法使いルートを優先する必要性は薄いだろう。
まずは僧兵、そして武道家に繋げて火力の向上と敏捷性補正の獲得を目指す。
その方が結果的にアウター攻略が早まるはずだ。
「ふぅ。ちょうどいい休憩だったな」
アウラの転職を済ませたら、またアウターブレイクの開発作業を再開する。
武器に魔力を溜めるには、武器にそういった機能が無いと難しい。
具体的には絶空のような、魔力を一時的に溜めておくことが出来るスキルが付与されていない武器は、どれだけ魔力を込めても底の無いバケツのように、流し込んだ端から零れ落ちてしまう。
「……液体をイメージした魔力では、器が無ければ流れ零れてしまうだけ。なら……」
魔力操作で武器の性能を変えることは不可能だ。ならどうすればいいか。
簡単だ。武器に流し込んだ魔力も全て制御して、武器の中に留まらせればいいのだ。
要は武器に流し込んで終わりだった魔力制御を、武器に流し込んだあとも掌握し維持し続ければいいんだよ。
「ぐ……くくっ……! む、むっずい……!」
ドロップアイテムの回収をしながら、直ぐに魔力制御の練習を始めるが、これがまた凄まじい難易度だった。
そもそもがシステムサポートの受けられない魔力の操作。
そこで操作された魔力は、俺の体から離れれば離れるほどに制御が難しくなっていく。
制御を失った魔力が大量に失われ続け、とうとう軽めの魔力枯渇の症状が出始めた。一旦中断だ。
「くっそ、舐めてたな……! 発想は合ってるけど技術が追いついてないって感じか……?」
ドロップアイテムの回収に専念しながら魔力を回復させていくと、ふと思い至る。
今の大量の魔力が一気に霧散していく感覚こそが、アウラが日常的に感じている感覚なのではないのかと。
俺の職業浸透数ですら魔力枯渇を起こすような現象を、村人さえ浸透していない時から味わい続けていたなんて……。
「ん? パパどうかした? 私の顔に何かついてるの?」
ついついアウラを見詰めてしまい、見詰められたアウラに気付かれてしまった。
どうせ気付かれてしまったのだからとアウラを思い切り抱きしめて、思い切りよしよしなでなでしてあげた。
何がなんだか分からずに首を傾げるアウラの柔らかいほっぺに何度もキスをして、俺の心にやる気が漲っていく。
やる気に満ち溢れた俺は、魔物との戦闘の合間合間にみんなの装備の隙間から手を差し込み……って、そうじゃないよっ。ナニにやる気出してんだ俺はっ!?
「練習が上手くいかなくてイライラしちゃったんですか? ふふ。探索を続けないといけませんから少しだけですよ?」
俺に抱きつかれて少し呆れ気味のエマが、俺の頭を抱きしめてよしよしと優しく撫でてくれる。
甘えちゃってごめんね。エマ大好きぃ……。
10分前後エマの母性に包まれて英気を養った俺は、エマにお礼のキスをしてからアウターブレイクの練習に挑んだ。
俺の体を離れるほどに制御が難しくなっていく魔力。
であるならば、いっそ俺の体から離さないで……、。
例えば両手に魔力を溜めて、アウターブレイク発動の瞬間に溜めた魔力を一気に武器に流し込めばいいんじゃないか?
「……駄目かっ! いいアイディアだと思ったんだけどなぁ……!」
しかし試して直ぐに、この案ではアウターブレイクの完成が難しい事に気付かされる。
無数の職業補正が浸透しきった俺の肉体は、余分な魔力を直ぐに職業補正に分解して体に還元してしまう。
フラッタやヴァルゴのように、己の肉体に過剰に魔力を纏う方法は俺には使えないらしい。
俺が魔力を扱いたいなら、やはり武器を媒介にしなければダメだ。
俺の体にあるうちは、魔力の制御は問題なく行える。
けれど俺の肉体に留めてしまうと余剰分の魔力は吸収・分解されてしまう。
つまりアウターブレイクを成功させる為には、魔力の制御を失わないように魔力を体から出来るだけ近い場所で操作して、しかしその魔力が肉体に吸収されるのを防ぐ為に体からなるべく離した場所で維持・貯蔵しなければならないというわけだ。とんちかな?
「……いや、とんちじゃない。イメージの問題だ。」
この世界の魔力は俺が思っているよりもずっと寛容で柔軟で、俺がイメージすれば大抵の事には応えてくれる筈なのだ。
制御を失わないよう魔力を己の肉体と捉え、しかし肉体への還元を阻止する為に武器を伝って延長しろ。
「魔力だって、俺の一部なんだ……! 一部なんだと強くイメージしろ……!」
魔力を自身の腕としてイメージし、実際の肉体を超えて見えざる腕を伸ばしていく。
ショートソードの先まで延ばされた俺の見えざるその手は、俺の体を離れても俺の魔力制御を離れない。
……成った。その確信が俺の全身を駆け巡る。
そうだ。フラッタとリーチェを家族に迎えると決めたあの日、ニーナが既に答えをくれていたんだ。
みんなが伸ばした見えざる手が、俺達を仕合わせ繋ぎ止めたんだって。
なら今度は俺が腕を伸ばす番だ。
みんなを守るために。みんなを害する全てを打ち砕く為にっ!
「……ごめんみんな。ちょっとだけ下がっててくれる? 試してみたいんだ、俺がみんなに手を伸ばせるかどうか」
「ふふっ。なーに言ってるんですかっ。ダンさんはいつだって皆に手を差し伸べてきたじゃないですかっ」
笑顔のムーリが俺の後ろに下がっていく。
「……何か掴んだみたいですね。ダンさんが成したダンさんの剣。この目で見届けさせていただきますね」
真剣な表情をしたラトリアが俺の後ろに下がっていく。
「みんなに沢山の幸せをくれたダンさんの手。その手を伸ばした先にあるもの、私にも見せてくださいっ」
期待に満ちた表情のエマが俺の後ろに下がっていく。
「みんなが過去に失ったモノまで拾ってくれたくせに、まだ手を伸ばしてもいなかったなんてびっくりなのっ。そんなダンさんが手を伸ばしちゃったら、ほんとに何でもできちゃいそうだねっ?」
からかうように笑うターニアが俺の後ろに下がっていく。
「パパっ。アウラにかっこいいとこ見せて欲しいなっ」
無邪気にはしゃいで見せるアウラが俺の後ろに下がっていく。
背中に感じる大切な存在。
大切なみんなを守るために。この世界を取り巻く不幸を破壊する為に。
そのままじゃ触れることの出来ない場所まで、今こそ手を伸ばすんだ……!
「アウター……ブレイクッ!!」
上段に構えたショートソードを地面に叩きつけるつもりで、発声と共に思い切り振り下ろす。
その切っ先から放たれた魔力の剣閃はまるで破軍の様で、けれど破軍よりも遠い距離まで斬撃を拡張する。
魔力によって拡張された1撃には絶空のような派手さは無いけれど、剣を振り下ろしたその先は30メートル近く先まで切り裂かれていた。
アウターの地面が切り裂かれている。
つまり今の1撃は、バトルシステムに守られた魔物以外の存在にも届き得る1撃だったのだ。
「…………」
剣を振り下ろしたままの姿勢で自分の体を確認する。
大丈夫だ。魔力枯渇も起こしてない。魔力にはまだまだ余裕がある。
これがアウターブレイクの完成形なのであれば、きっとニーナたちも心配せずに済むだろう。
残心をやめて、地面に刻まれた裂傷を謎って歩き出す。皆も直ぐに付いて来てくれる。
どうやらアウターブレイクの射程は30メートル前後で間違い無いようだ。
この射程だけでも魅力的なのに、深く地面を切り裂くその威力も凄まじい。
絶空と比べると威力そのものは控えめだと言わざるを得ないけれど、射程30メートルの斬撃で切れない大きさの生物はそんなに居ないだろう。
巨大野生動物への備えとしては充分すぎる能力と言っていいはずだ。
ショートソードをインベントリに納め、背後に感じていた大切な家族を振り返る。
「アウターブレイク、とりあえず完成かな? それじゃ探索を再開しよっか」
「いやいや、アッサリしすぎですよーっ!? 人間族がウェポンスキルを使わずに魔力を飛ばしたなんて、多分前代未聞ですからねーっ!?」
おおう。珍しくラトリアから全力のツッコミをいただいてしまったぞ?
剣の達人であるラトリアだからこそ、アウターブレイクの特異性をスルーできないのかもしれないな。
「確かに前代未聞ではあるかもしれないけどさ、これって結局は他の種族が普通にやってることを再現しただけだからね? 基本的にウェポンスキルの代替用の技でしかないし」
「他の種族がやっている事を自力で再現してるのがおかしいんですってばぁ……」
「アウラのことを忘れたんですか? アウラは他の種族の特性を得るために、アウターから流れ込む魔力を数百年に渡って流し込まれたんですよ? とても再現しただけ、で済む話ではありませんよ……」
頭を抱えるラトリアの後ろから、思った以上に真剣な表情をしたエマが慄いている。
「……やはりダンさんとアウラはどこか似ていますよね。会うべくして会った、そんな気がしてしまいますよ」
「ははっ。俺とアウラが似てるなんて当たり前だろ? 親子なんだから。なーアウラー?」
「親子になってまだ数日の初心者だけどねーっ」
アウラとエマを一緒に抱きしめてよしよしなでなで。
俺とアウラの出会いが偶然でなかったとしても、生涯アウラを愛することに変わりはない。
だから何も問題は無いんだよね。
新米親子の俺とアウラが楽しく生きていけるように、エマママも協力してくれたら嬉しいよ。ぎゅー。