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【全年齢版】異世界イチャラブ冒険譚  作者: りっち
1章 巡り会い2 囚われの行商人
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045 事情聴取

 ネプトゥコでティムルとの接触に成功したまでは良いんだけど、鉄柵ごとハグされたせいで全身が悲鳴をあげている。



「痛いよ! 鉄柵の痕付いちゃったよ! 少しは加減しろバーカ!」


「なによーっ! 仕方ないじゃないのよーっ! この状況で現れるダンが悪いんじゃないのーっ!」



 叫びながらもようやく鉄柵ハグから解放してくれるティムル。超痛ぇ。



 鉄柵さえなければ、長身の褐色美人、出るところは出てるモデル体系のティムルのハグはご褒美でしかないんだけど、実際には鉄柵を挟んでドワーフの全力で締め上げられるという、ある意味拷問と化していたからなぁ。


 まだ全身の骨が軋んでいる気がするわ。これでティムルが元気になったならいいけどさぁ……。



 さて、警備隊員にお金を払ったのはいいけど時間は有限だ。早速事件のことを聞くとしよう。



「それじゃティムル、本題に入らせてもらうよ。さっきも言ったけど、ティムルが盗難盗難事件の容疑者として投獄されたってを聞いて、本人から事情を聞こうと思ってここにきたんだ。詳しい経緯を話してもらえるか?」


「あっと……。話すのは構わないんだけど、どこから話せば良いかしら……?」



 戸惑いを見せるティムル。俺にどこから話せばいいのか迷っているみたいだ。


 でも考えてみたらそりゃそうか。シュパイン商会の内輪揉めだなんて、俺が知っているとは思わないだろう。



 まず先に俺がエンダさんから聞いてる話をティムルに教えよう。その上で補足を頼めばスムーズかな?



 今回の件はシュパイン商会の内輪揉めが発端で、ティムルの同行者がどっかのエルフの持ち物を盗んで、それをティムルの指示によるものだと主張。

 なぜか盗品の賠償責任を実行犯ではなくティムルに請求されていて、シュパイン商会の会長からは既に婚姻契約を破棄されている。

 現時点でティムルは容疑者でしかないけど、盗品の賠償金次第で借金奴隷になる瀬戸際。



 俺の聞いた話を一気に捲し立てる。


 そして捲し立てられたティムルは、大きく息を吐いてから返答する。



「はぁ~……。なんでそこまで知ってるの? ってくらい合ってるわよ。でもちょっと情報が古いかしらね」



 ティムルが額に手を当てながら大きく息を吐く。でも情報が古いって、なんのことを言ってるんだ?



「実行犯の男はドロームと言って、取調べ中に逃走を図って現在行方不明なの。だから賠償請求が私に回ってきたってワケね」



 はぁっ!? 実行犯、逃げてんのかよっ!



「取調べ中に逃走って、そんな簡単に出来るもんなの……!?」


「そりゃ普通は無理に決まってるわ。でもドロームが詰め所に連行される前、犯行現場で簡易的な取調べを受けている時に、何者かがその場を襲撃したらしくてね。その混乱に乗じて……、というわけなの」



 なんだそりゃ? 完全に計画的な犯行じゃないか。それだと逆に、掴まってるティムルって怪しくない気がするんだけどなぁ。


 ふぅむ、実行犯が脱走したことは流石にエンダさんも知らなかったのかねぇ? 俺に伏せる意味のない情報だよな?



「その協力した勢力の存在も問題になっててさぁ。個人で出来る犯行ではない。一定の財力がある者が裏で手引きしたのは間違いないとか言って、私への疑いを強めちゃってさぁ」



 その思われるのも無理ないか。少なくとも協力者がいたことは間違いないわけだし。


 でも逆に、そのドロームって男に接触できれば話は早そうだ。逃亡を手助けした協力者こそティムルに罪を被せた黒幕だろうからな。


 それにドロームという名前さえ分かれば、俺には鑑定があるから探しようもなくはない。



「なるほど。状況的にティムルの関与が疑われるのも無理はないと」


「相手がエルフなのも良くなくってねぇ……。エルフとドワーフって、昔から種族的に仲が悪いからさぁ」



 へぇ、この世界のエルフとドワーフも仲が悪いのね。地球の創作物のイメージそのまんまだな。



「今回の件も、エルフへの嫌がらせのためにドワーフの私が指示したことなんだろうって言って聞かなくてね。取り付く島もない感じねぇ」



 種族間での対立っていうか、偏見みたいなものがあるのか。レッテルが貼られてるのは厄介だなぁ。



「んー、まぁシュパイン商会が裏で手を引いてるって意味では間違ってないんだろうけどね。標的がエルフじゃなくてティムルだったってだけでさ」



 それが厄介なんだよな。シュパイン商会が裏で手を引いていた事実自体は間違ってないんだもん。


 というか、執拗にティムルを犯人扱いしたがるそのエルフは怪しくないのか?



「その被害者のエルフの立場はどうなんだ? 単刀直入に言って、そいつもシュパイン商会とグルだと思う?」


「それは……、正直可能性は低いと思うわ」



 ありゃ? 仲が悪いと言う割には、ティムルがエルフの関与を否定するのか。



「エルフっていうのはエリート意識の塊のような種族でね。自分たちこそが高貴で至高の種族であると心から信じているような連中なのよ。だから他の種族とはあまり交流を持たないし、ましてや謀略に手を貸すなんてあのエルフ族がするとは思えないわ」



 種族的にありえない、ねぇ。どうかなぁ? 


 最近人の悪意ってのは底無しだと思う機会が多くて、どうしても素直に前提条件を受け入れられなくなってしまった。エルフだろうがドワーフだろうが、悪意に染まればなんだってやってしまうに違いない。そう思ってしまっている自分がいる。



 ……いやいや、この思考こそが思いこみのレッテル張りに他ならない。ちょっと話題を変えようか。



「ちなみに、このままだとお前はどういう扱いになるんだ? 賠償責任を求められてるのは分かったけど、お前が窃盗を指示したって証拠もないだろ?」


「そうね。相手のエルフが私を窃盗犯だと主張しているけど、客観的に見て私が関わっている証拠は無いはずだから……、借金奴隷に落とされて終わりかしらね? 恐らく犯罪者にまではされないと思うわよ」



 概ねニーナと話した時に予想した通りか。放っておいても問題ないなら気楽だな。


 それじゃあとはティムルの意思次第だ。



「……ティムル。答えは今すぐじゃなくていいんだけど。1つ考えてみて欲しい事があるんだ」



 言ってしまったら、もう責任を持つしかない。言っておいて拒絶するわけにはいかない。


 だから覚悟を決めて、慎重に口にする。



「ニーナとも話し合ったんだけど、俺たちはお前を奴隷として購入する意志がある。窃盗の容疑を晴らしてシュパイン商会に帰らせるより、お前を奴隷にして我が家に迎え入れようって思ってるんだ」



 ティムルは身じろぎもせず、息を飲んで俺の言葉に耳を傾けている。


 そんなティムルの目を真っ直ぐに見詰めながら、俺はティムルを奴隷として侍らせたいんだと口にする。



「だからお前にも真剣に考えて選んで欲しい。1つは容疑を晴らして商会に戻り、今までの生活を続ける道。もう1つは今の生活全てを捨てて、俺とニーナと一緒に生きていく道」



 絶望的な状況のティムルに、究極の選択を迫る俺。


 ……本当にティムルに選択の余地はあるんだろうか。ティムルを手に入れるために都合の良い提案をしているだけじゃないんだろうか。


 そんな雑念を振り払いながら言葉を続ける。



「お前がどっちを選びたいかで、これから俺が取るべき行動が変わって来るんだ。だから良く考「買って欲しい」」



 俺の言葉を待つことなく、ティムルは答える。


 その表情は真剣そのもので、軽い気持ちで答えたようには見えない。



「私、ダンに買ってもらいたい。ニーナちゃんと一緒に暮らしたい。あんなところ、もう戻りたくないよ……」



 シュパイン商会には戻りたくない。はっきりとそう断言するティムル。


 あんなところ、か……。うちにいる間は楽しそうにしてると思ってたんだけどなぁ。



「ニーナちゃんくらいの頃には物みたいに扱われて、それで新しい玩具が来たら興味も失くされて。厄介者扱いで色々押し付けられてさ」



 不意に視線を逸らしたと思ったら、突然ぶっきらぼうに話し始めるティムル。


 感情の乗っていない言葉で、だけど語りは止まらない。



「それでも頑張って仕事して、出世にも興味ないってちゃんと公言してたのにさぁ。それがこんなことになって、旦那様は私のことなんて一瞬で切り捨ててさぁ」



 その表情に怒りはなく、ただ虚しさだけが滲んでいる。


 何かを言ってあげるべきなのかもしれないけれど、まずは彼女の心の奥底の膿を吐き出させてやるべきか。



「なんだったのよ私の人生。17年間……、もう買われてからの方が長くなっちゃったのに。こんなにあっさり捨てられるなんて、本当になんだったのよってね。あんな場所、私の帰る場所じゃないわ……」



 17年間も過ごしたシュパイン商会は、ティムルの帰る場所にはなれなかったのか。



「俺だって……、俺だってお前を奴隷にした後は物みたいに扱うかもしれないじゃん? こんな即決しちゃっていいわけ?」


「貴方ねぇ……。そういうことはニーナちゃんの扱いを思い返してから言いなさいよ」



 呆れたようなティムルの様子に思わず言葉に詰まってしまう。


 ニーナ、全然奴隷として認識されてないじゃん? 俺の責任でもあるんだろうけどさぁ。



「それに、物みたいに扱われたって別に構わないわよ? あのクソジジイと違って、自分で選んだ相手なんですもの。全然違う。うん。今までとは何もかも全然違うわ……」



 潤んだ瞳で、まるで自分の購入を嘆願するかのように俺を見詰めてくるティムル。



 自分で選んだ相手だから、か。


 分かったよ。お前みたいな美人に選んでもらえたんなら、俺も腹括るさ。



「それじゃティムルには悪いけど、このまま一旦借金奴隷になってもらうね。間違いなくうちで買ってやるからなんにも心配しなくて大丈夫だよ」



 奴隷になってもらうけど心配するな。自分で言ってて意味分からないな?


 さてと、あとは確実にティムルを購入しなきゃいけないんだけど……。奴隷の予約購入とか、そういうことって出来るのかなぁ?



「予約は出来ないけど、私は恐らく犯罪奴隷にはされないだろうから、私にも購入者を選ぶ権利は保障されてるわ」



 え、奴隷にも購入者を選ぶ権利があるの……!? だったらニーナのときもあんなに苦労しなくて……、って無理か。ニーナの時はそもそも購入資金が無かったんだった。



「賠償金だって本来実行犯のドロームに請求されるところを私が肩代わりした形だし……。購入者に関してはある程度私の意見は汲んでもらえるんじゃないかしら?」


「ということは、確実に容疑者からは外しておきたいところだね」



 結局ティムルの窃盗の容疑は晴らさなきゃいけないか。まぁそう簡単にティムルみたいな美人が手に入るような虫の良い話は転がってないってことだ。



「可能であればドロームを発見して世界樹の護りを奪還する。それが無理でも被害者のエルフに話をつけて、賠償金だけで満足してもらおう」



 と言ってもティムルの借金奴隷落ちは必須事項だから、盗難品を発見できても下手に返すわけにはいかないかもしれないなぁ。


 そこも実際に会ってみてからの話になるかぁ。出たとこ勝負はしたくないんだけどぉ。



 あ、そうだ。言い忘れてた。立ち会っている警備隊の男に聞かれないように、鉄柵越しに小声で囁く。



「ティムル。ニーナの呪いが解けるまでは、悪いけどお前の奴隷契約も解放してやるわけにはいかない。呪いが解けたらニーナは奴隷から解放して、そのまま婚姻を結ぶ約束をしてるんだ」



 なんでこれから奴隷に落として購入しようって相手にこんな説明をしてるんだろうな? 何もかもめちゃくちゃだ、だからこそ俺らしい気もするけど。



「ティムルもその時に一緒に奴隷解放してやるつもりだけど……。お前の事もそのままニーナと一緒に貰っちゃっていい?」



 俺のプロポーズにティムルは一瞬呆けた後に、堪えきれないといった様子で噴き出した。



「あはっ、あっははははっ! なーにが物みたいに扱うよ!? これ以上ないくらいに、生涯大切にしてくれるって言ってるようなものじゃないのっ!」



 俺はどっかのクソジジイと違って、自分のものは独占するタイプなんだよね。


 過去には拘らないけど、1度俺のものになった以上は独占させていただきます。



「あーおっかしい。こんな中古の年増女で良ければ、どうぞもらってくださいなっ」


「うん、もらってやるさ。それじゃあもうちょっと不便を強いることになっちゃうけど我慢してね」



 中古の年増女? 長身の美人ドワーフの間違いだろ。しかも商人としても有能とか普通に買いだね。



「ちなみにティムル。商人として客観的に見て、ティムルの値段っていくらだと思う?」



 本人に値段を聞くのってハラスメントかなぁ?


 でもティムルが商人として培った鑑定眼は信用できる。聞いておくべきだ。



「そうねぇ……。処女じゃないってことで病気を心配されるリスクもあるし、32はもうはっきり言って買い手が付かない年齢だと思うから……」



 ……なんだろう。聞いてるこっちがハラスメント受けてる気分になるのはなぜ?



「私はまぁまぁ言い寄られることもあったけど、それは多分肩書き込みの評価でしょうし……。うん、安めの愛玩用奴隷として、10~15万リーフってとこじゃないかしら? 窃盗の疑いがかけられた行商人を雇う商人もいないでしょ」



 いくらなんでも安すぎだよバーカ。お前がそんな値段で購入出来るかっつうの。



「……30万~50万は用意しておくよ。流石にティムルを見て、その値段で買えるとは思えないね」


「えっ、ちょ、ダン。それって……」



 俺の言葉を聞いて、頬に両手を当てて赤面しているティムル。


 何赤くなってんだよ。こっちまで照れるからそういうのやめてよぉ。



 ティムルから目を逸らして、少し離れてずっと待機していた警備隊の人に声をかける。


 ……決して気まずくなって目と話題を逸らしたわけではないよ?



「ねぇ。俺って盗難被害に遭ったエルフとは会えるのかな? 出来ればそっちの人とも話をしておきたいんだけど」


「うん? そりゃあ取次ぎぐらいはしてやるけど?」



 お、普通に取り次いでもらえるのか。問答無用で突っ撥ねられたりしなくて助かった。



「だけどそっちのドワーフ女の知り合いだと知らせないわけにもいかないし、あっちが会いたがらないんじゃないか? なんて言って会うつもりだよ?」


「そりゃあもちろん、世界樹の護りの捜索協力だよ」



 面識のない相手に会う口実なんて、普通は思いつかないけど。今回に限って言えば、ピッタリの口実があるんだよねぇ



「俺は彼女の無実を心から信じているから、それを証明する為に盗難品を見つけ出したい。だからお話を聞かせてもらえませんか、って感じでお願い」


「っかぁ~! さすが商人、口が達者なこった」



 感心したように自分のおでこをペチンと叩く警備隊員。


 商人じゃなくて申し訳ないね。口八丁には自信があるけど?



「それじゃ連絡はしておくからよ。また明日顔出してくれ。防犯上の問題もあるし、詰め所で面会してもらうことになるだろうからな。ただし、先方さんに断られたら素直に諦めてくれよ?」



 ああ、断られた後に付き纏ったりするなって意味ね。


 出来れば接触しておきたいところだけど、このままでもティムルは普通の借金奴隷になる可能性が高いから、断られた場合は無理する必要はないか?



「了解。また明日来るよ。あっ、明日来る時にティムルに差し入れとか持ってきていい?」


「ん、食いもんの類なら構わない。ただ受け渡しは警備隊の者を間に挟んでもらうから、そこだけは了承してくれ」



 さっきは物のやり取りは禁止って言われたのになぁ?


 俺達の様子を見て疑いが薄まったのか、それともお金の力は偉大だった?



「それで構わないよ。むしろ警備隊にもなんか差し入れ持ってくるね。流石に酒は不味いだろうけど。適当に食い物でも持ってくるよ」


「いいねぇ。それならなんか軽く摘めるもんにしてくれ。あとあまり高価なものは避けてくれよ? 賄賂だと見做されると、お前を拘束しなきゃならなくなる」



 だったらはじめから受け取るなっつうの!


 賄賂にならないように安い物にしてくれって、本末転倒じゃね?



「聞いたとおりだティムル。明日もまた来るから、あまり落ち込みすぎないようにね」


「ええ、待ってるわ」



 笑顔で答えてくれるティムルにもう悲壮感はどこにもない。


 待っている、かぁ。いつも見送っていたティムルに見送られるのって、なんだか新鮮だ。



「あはー。私拘留されてるっていうのに、なんだか明日が楽しみになってきちゃった。奴隷になるのが楽しみだなんて、なんだかおかしな話ね?」



 うん。俺もおかしな話だと思うんだけど、ニーナに続いて2人目なんですよね。笑顔で俺の奴隷になりたいって言う美人を見るのは。



「ダン。早く私の事を迎えに来てちょうだいね? 今さらやーめたっ、なんて言わないでよね?」


「言わないってば。俺の中ではティムルはもう俺のものだから誰にも渡す気はないよ。そんなに信用できないなら、これは前払いしておくね」



 戸惑うティムルの体を抱き寄せて、鉄柵越しに軽く唇を合わせた。


 まさか俺が牢屋越しのキスなんて、メロドラマみたいな真似をする日が来ようとはね。

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