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【全年齢版】異世界イチャラブ冒険譚  作者: りっち
6章 広がる世界と新たな疑問3 ホムンクルス計画
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448 従属

 竜化と魔竜化による強化ブレスを打ち破り、ようやく動きを止めて崩れ落ちそうになったアウラの体を抱きとめる。



 一瞬意識を失って寝息を立てたアウラだったけど、1分も経たないうちに瞼が開き、疲れた様子で俺を見上げてくる。


 会話、出来そうかな?



「アウラ、大丈夫? 意識はあるかな?」


「だい……じょぶ……。ありが……と……」



 俺の問いかけに、苦悶の表情を浮かべながらも答えてくれるアウラ。



 顔色的に、魔力枯渇を起こしているようには見えないな。


 恐らく、直前までアウターから魔力供給が続いていたのが幸いしたんだろう。



 今アウラが苦しんでいるのは、限界以上に酷使された肉体の負担が大きい為だろう。キュアライト使っとくか。



「ティムルもお疲れ様。最高にかっこよかったよお姉さんっ」



 ぐったりしているアウラをお姫様抱っこしつつ、魔力枯渇を起こして真っ青な顔をしているティムルに歩み寄る。


 顔色こそ真っ青だけど、その表情は達成感に満ちた晴れやかなものに見えた。



「初めて会った頃からティムルはずっとかっこよくて、毎回毎回惚れ惚れしちゃうんだよーっ」


「ま、ドワーフ族の意地って奴ぅ……? でも、流石に疲れたからぁ……。ちょーっとだけ、お姉さんにも肩を貸してくれないかしらぁ……?」


「お安いご用だよ。今はゆっくり休んでね」



 ティムルの傍に腰を下ろすと、アウラを抱いたままの俺の肩に寄りかかってくるティムル。


 そんな彼女の肩を抱き寄せよしよしなでなでしていると、カイメンを拘束し終えた他のメンバーも集まってきてくれた。



「アウラの意識はあるのじゃな? であればとりあえずはひと安心、ひと段落かのう?」


「アウラ、もし知ってたら貴女の服の場所を教えて欲しいの。クラクラットで会った時に着てた服の置き場所とか分からない?」



 あ、そう言えばアウラ、未だに全裸なんだった。


 アウラを助けることが出来た安堵感で、ニーナに言われるまでアウラが裸なのをすっかり忘れてしまっていたよ。



「んと……。正確な場所は分からないけど、向こうの部屋のどこかにあると思う。私のブレスで破けてなければだけど……」



 話しかけた好色家姉妹に、少しバツが悪そうに答えるアウラ。


 改めて周囲を見渡すと、部屋中穴だらけの傷だらけだ。思い切り暴れ回ったもんだなぁ。



「多分もう危険は無いと思うけど、フラッタも来てくれる? 単独行動は避けたいの」


「了解なのじゃ。折角助け出したアウラを裸のままにしていては、社会的に殺してしまうことになりかねんからの。適当な衣装を探すのじゃっ」



 ニーナとフラッタはアウラに教えられた部屋の調査に赴き、ヴァルゴは一定の距離を保って俺達とカイメン両方を見守っている。


 そして残ったリーチェが、アウラの頭を優しい手付きで撫でている。



「アウラを無事に助け出せて良かった。ここから出たら沢山お話しようね。姉さんのことも、ぼくがどうして姉さんの名前を名乗っているのかも、君に聞いて欲しいんだ」


「……うん。私も知りたい。辛い事実を知る事になっても、#蒼穹の盟約__みんな__#が守って繋いだ時間を私も知りたいよ。カイメンたちは何も教えてくれなかったから……」



 キュアライトが効いたのか、受け答えもはっきりとしているアウラ。



 辛い事実を知る事になっても、か。


 妹のリュートが姉のリーチェの名を継いでいる意味を、この幼い少女はある程度正確に読み取ってしまったのかもしれない。



 絶望の時代に生まれ、地獄のような運命に翻弄された少女か。


 きっとカイメンたちの被検体にされる前から、子供のままではいられなかったんだろうな……。



「ごめんアウラー! 服の類いは見つからなかったのー」


「あ、謝らなくて良いけど、それじゃ私、裸のままで居なきゃいけないのかな……?」


「えっとね。ベッドをいくつか見つけたから、とりあえずこれを巻いてくれるー?」



 フラッタと共に戻ってきたニーナが、清潔そうなシーツをアウラに手渡す。服は見つからなかったかぁ。


 仕方ないのでちゃちゃっとアウラにシーツを巻きつけ、即席のアウラ巻きを完成させる。



「衣装は見つからなかったが、なんだか貴重そうな資料は色々と残っておるようじゃぞ。妾には良く分からんかったのじゃが、ダンやティムル、リーチェが目を通したら何か分かるやもしれぬ。いっそキュールに見せるのもいいかもしれぬな」


「んー……、出来ればアウラの研究資料なんか全部処分してしまいたいところだけど……」



 魔力で人体を作り変えるなんて方法、出来れば跡形も無く消し去っておきたいところだけど……。



 もしもアウラに何らかの体調不良が起こった場合、知識が無ければ対処出来ない可能性がある。


 それに455年間引き篭もっていた資料の中には、当時起こった事について何らかの記述が残されているかもしれない。



 う~ん……。考え無しに処分するのは早計か……?



「アウラの体のこともあるし、資料は一旦全部回収して中身を確認しようか。悪いけどまたニーナとフラッタで可能な限り集めてきてくれる?」


「了解なのっ。でも私もフラッタも資料なんて読む気は無いから適当に詰めちゃうのっ。あとで確認よろしくねっ」


「ははっ、りょーかいだよ。どうせ全部確認しなきゃいけないし、いくつか失われちゃってる資料もあるだろうから、気にしないで詰め込んじゃってー」


「「はーいなのっ!」じゃーっ」



 好色家姉妹がまた元気良く駆け出して、残っている資料をかき集めてくれる。


 その間にヴァルゴが俺の判断を仰いでくる。



「アウラの事を知りたいのであれば、この男に聞いたほうが早いのではないですか? というか旦那様はこの男をどうするおつもりです?」


「そうだなぁ……。個人的な感情だけで言えば生かしておく気にはならないけれど、とりあえず奴隷契約して情報を引き出そう。クラクラットの管理体制にも口を出せる立場の可能性も高いしね」


「……そうね。少なくともこの男たちは暴王のゆりかごの管理権限は持っているはず。この男に直接アウターの立ち入り禁止解除を宣言してもらったほうがスムーズだわ」



 ティムルが俺の肩に頭を乗せたままで同意してくれる。



 ただこいつを生かしておくと第2、第3のアウラが生み出される可能性が残されてしまうんだよなぁ。


 アウラ関係の情報開示をするのは俺の家族だけ、みたいな誓約でも結ばせればいいかな?



「暴王のゆりかごが正常化すれば、クラメトーラ全体の生活を賄う程度のドロップアイテムは確保できるようになるでしょうし、もしかしたら不毛の地だったこの場所でも作物が育てられるようになるかもしれないわ。きっとクラメトーラの……ううん、ドワーフ族の未来は明るいと思うわ……」


「う~ん……。アウターどころか、クラメトーラからグルトヴェーダまでの超広範囲に渡って魔力を集めておきながら、それでも455年も魔力を必要としていたなんて凄まじいね。やっぱり命や魂に干渉するなんて人の身には過ぎた業なのかもしれないよ」



 確かにリーチェの言う通り、いくら後天的に魂に干渉出来るとなっても、その為に必要な魔力が膨大すぎて話にならないな。



 レガリアやノーリッテの事を思い出すと、大量の魔力を用いた肉体改造を行うと、人の身を保てず魔物化してしまう事が殆どだった。


 しかしアウラは間違いなく人間のままで魔力の……、いや魂の改造に成功している。



 人の身のままで全ての力を手に入れるために、魔物化する以上の膨大な魔力を必要としていたんだろうか?



「大体集め終わったのー」


「お待たせなのじゃーっ」



 アウラの改造に必要とされる魔力量の事を考えていると、どこから見つけてきたのか大量のカバンを背負ったニーナとフラッタが元気良く戻ってきてくれる。



「その辺にあったカバンに適当に詰め込んじゃったから、あとでちゃんと確認してねっ?」


「拾い集めた感じだと、焼けたり破けてしまっている物も少なくなさそうなのじゃ。可能な限り集めたつもりなのじゃが、役に立たなかったら済まぬのじゃ」


「2人ともお疲れ様だよー。資料に関してはこっちで確認するから、2人はなにも気にしなくていいからねーっ」



 戻ってきた2人を順番によしよしなでなでしてあげる。



 さてと、資料も無いし研究員は全滅したしアウラは俺の腕の中だし、これでもうこの場に留まる必要性は無くなったかな?


 なら帰るとしようかねぇ。



「っとアウラ。なんかずっと抱っこしちゃってたけど嫌じゃない? 嫌だったら離れても……」


「ううん、大丈夫だよ。こうして抱き締められるの、なんだか久しぶりなんだ……」



 アウラは離れたくないかのように自分からも俺に抱き付いてくる。


 抱き締められるのは久しぶり、か。最短でも455年振りだもんな、そりゃ人恋しくもなるか。



「アウラが嫌じゃないならこのまま行こうか。それじゃヴァルゴ、悪いけどカイメンを起こしてくれる?」


「了解です。……が、カイメンは探索者を浸透させていないようですけどどうするのですか? まさか旦那様が一時的にパーティを組まれるのですか?」


「……いや、奴隷化してアライアンスに加入させてしまおう」



 アウラとドワーフ族を弄んだコイツに遠慮は要らない。とっとと隷属化させてしまえっ。



 カイメンも俺達の提案を断れば、魔物が出るようになったこの場所に独り取り残される事になる。


 隷属する事を魂から拒否できる状況じゃないはずだ。



「なるほど、納得しました。それでは起こしますね」


「ぶっ!? ぎゃっ!?」



 失神しているカイメンの胸倉を掴み、右手で容赦無く往復ビンタを繰り返すヴァルゴ。


 よ、容赦ねぇなぁこの人……!



「やめっ……! もう起きっ……! もう起きてるっ! ブッ! ブハァ! やめっ! やめぶっ!?」


「おっと、これはこれは気付きませんでした」



 大根役者のような白々しい態度で、カイメンの声を無視するヴァルゴ。


 彼女はカイメンが悲鳴を上げてからも追加で数発ビンタをかましたあと、両手が拘束されているカイメンをそのままポイッと投げ捨てた。



「グペッ!?」



 両手が拘束されているから受身も碌に取れない状態のカイメンは、ヴァルゴに投げ捨てられてそのまま地面と熱烈なキスを交わしている。


 思ったよりもヴァルゴもムカついてたのかな? カイメンの態度、めっちゃムカついたもんねー?



「大地とお楽しみのところ悪いけど、お前は今から俺の奴隷なカイメン。お前には色々聞きたいこともあるし」


「だっ誰が貴様の奴隷などに……なななっ!?」



 カイメンの反抗を無視し、て無詠唱で従属魔法を発動する。

 


 すると、恐らく感覚で俺に従属したのが理解できたのだろう。拘束されて地面に転がったままでカイメンが驚愕の声を上げた。


 強化済みの俺の従属魔法は、カイメンの意思とは関係なく効果を発揮し、カイメンを俺に従属させる事に成功したようだ。



 相手の意思もステータスプレートも無視して奴隷契約を結べるんだから、強化従属魔法も何気にチート能力だと思う。



「アウラを好き勝手操った変態親父じゃあるまいし、そんなに警戒しなくっても大丈夫だって。ただの逃亡防止だってば」


「だっ、誰が変態かぁっ! 私は純粋な研究対象としてアウラを……! …………アウ、ラ?」



 自分でアウラと発言したことで、ハッとしたように状況を理解し始めるカイメン。


 ようやく俺の腕の中にいるアウラに気付いたカイメンは、信じられないものを見るような表情でアウラを見ている。



「ほら存分に見とけよ。これが縛鎖のペンデュラムから解放されたアウラだぞ。お前と違って服も着せてやったしな」


「ばばばばばかなぁっ!? 縛鎖のペンデュラムの拘束から逃れる方法など……!」



 縛鎖のペンデュラムから逃れる方法など無いってか?



 確かにマインドロードの『支配』スキルを思い起こさせる、凄まじい強制力を持った拘束だった。


 けれどこれまた支配と同じく、大元を破壊すればその効果も失われるんだよ。



「いや、そもそもペンデュラムはどこだ!? どこに隠したぁっっ!!」


「どこにも隠してないよ。ペンデュラムは破壊したからもう無いんだ。ペンデュラムの効果が無くなった時点で悟って欲しかったけどね?」



 ペンデュラムで自分の魂に干渉してた癖に、ペンデュラムが無くなった事に気付かないとはね。


 縛鎖のペンデュラムが破壊されたと聞いたカイメンはその言葉を飲み込めず、けれど少しずつ理解していき驚愕に両目を大きく見開いた。



「馬鹿な……! そんな馬鹿なぁぁっ!? 貴様は……、貴様はなんという事をぉぉっ!!」


「うっさいなーもう。こっちから聞いたこと以外は喋るの禁止ね」


「おぐぅっ!? んーっ! んんーっ!」



 軽い感じで命令しただけで、カイメンの口は閉ざされ言葉を発することが出来なくなった。


 凄いな従属魔法。今までニーナにもティムルにも命令みたいなことをした覚えが無いから、今ここで初めて従属魔法の威力を思い知らされた気分だよ。



「ペンデュラムが破壊され暴王のゆりかごからの魔力供給も止まったけれど、アウラの体には今後どんな影響が出ると想定される? 簡潔に答えろ」


「ぐぐぅっ……! ア、アウラの肉体は完全に完成しているはずだ……! 外で活動する分には、なんら心配は無いはずだ……!」


「なら今後アウラに起こりうる懸念事項を、可能性が高い順から説明してくれ」



 自白剤も拷問も必要としない尋問で、包み隠さずアウラの情報を提供してくれるカイメン。


 今も言った通り、アウラの肉体と魔力は完全に安定していて、今すぐ何か問題が起こる想定はしていないらしい。



 ただし魔力によって無理矢理改造されたアウラは、1度魔力枯渇を起こしてしまうと自力では回復するのが難し

い。


 死んだ方がマシだとと思えるくらいに苦しむ可能性があるそうだ。



「ペンデュラムも魔力転送陣も、この場にあった魔力供給システムを全て破壊してしまうとはな……。それではこのあとアウラに何かが起こったとしても、何のサポートも出来ないということに他ならないぞ!?」


「……さっきまでアウラを好き勝手に操ってた奴のセリフとは思えないんだけどね。それに関してはこっちにも考えがあるみたいだから気にしなくていいよ」



 俺の言葉を聞いたニーナが、資料の入ったバッグを背負ったままで物凄い勢いで頷いてくれる。


 ……でもなんか、ノリノリなニーナを見てると不安になるのは何故なんだろうな?



「お前にやってもらう事はいくらでもあるんだ。アウラのことなんて考える暇が無いくらいにこき使ってやるから覚悟しとけ」


「くっ……! 貴様、ドワーフでも無いくせに……!」



 なにを悔しそうな顔してやがるんだお前は。


 今までお前らが掠め取ってきたものを、ドワーフたちに返す時が来たんだよ。



 俺は従属魔法で強制的にクリミナスワークスに加入させたカイメンと共に、アウラをお姫様抱っこしたままでアナザーポータルで脱出したのだった。

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