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【全年齢版】異世界イチャラブ冒険譚  作者: りっち
6章 広がる世界と新たな疑問2 世界の果て
430/637

430 各種族のやらかし

※R18シーンに該当する表現をカットしております。

「焼き上がったよーっ。次の生地持ってきてーっ」



 家族総出で夜通しお菓子を作り続ける。



 というかフラッタが覚醒してめちゃくちゃ攪拌を頑張ってくれるので、他のメンバーが手分けして焼き行程を進めないと間に合わないのだ。


 フ、フラッタが炊事場でも無双してくるよぉ……!



 我が家の家族は全員が好色家を浸透済みなので、好色家先生のハイパー持久力補正を全員が持っているという事になる。なので3日間くらいの徹夜なら疲労すら感じない。


 だから寝ずにひたすらカステラを焼き続けることが出来るのだ。職業補正の力ってスゲー!



「ふっふ~んっ。皆の者、どんどん焼くが良いのじゃーっ」



 鼻歌混じりにメレンゲを泡立て続けるフラッタ。ご機嫌フラッタがニコニコ可愛いわぁ。



 いつもなら調理中もみんなとイチャイチャするところだけど、嬉しそうにメレンゲを泡立て続けるフラッタを見て水を差せる者は誰も居なかったようだ。


 と言うことで我が家としては珍しく、誰ともくっつかずにカステラを焼き続ける。



 しかしフレイムランスをキープすることなど最早意識しなくても出来るくらいに慣れた作業なので、焼き作業を続けながら少し考え事をすることにした。


 今なら誰の邪魔も入るまい。



「……みんなには悪いけど、個人的にはまだ懐疑的なんだよな」



 先日話し合ったガルクーザ人為召喚説なんだけど、まだ色々と穴がある気がするのだ。



 もしもガルクーザの召喚が呼び水の鏡を用いて行われた事であったなら、そんな奴らに神器を任せておくわけにはいかないと、呼び水の鏡を持ち去って姿を眩ます理由にはなるかもしれない。


 けれどノーリッテに滅ぼされたバロールの民は、共にガルクーザを滅ぼした盟友であるスペルド王国の民に救援を要請しに来たのだと聞いている。



 かつての魔人族がガルクーザの召喚を理由に聖域の樹海に引き篭もったのであれば、バロールの民の言動に違和感が出てしまうんじゃないか?



 バロール族がスペルド王国を目指したことから、守人の魔人族が行方をくらませたのはスペルド王国建国後で間違いないはずだ。


 でも建国直後に姿を眩ませていた場合、スペルディアの連中のことを盟友と伝えているのはおかしい気がするんだよなぁ。



 今でこそ聖域の樹海に引き篭もって、職業の加護さえ失われても種族全体で聖域を護り続けている守人たちだけれど、その先祖は間違いなくアルフェッカで共に暮らしていたわけだ。


 つまり始めから聖域に引き篭もっていたワケじゃないのだ、魔人族たちは。



「旧アルフェッカの壊滅と共に呼び水の鏡の行方が分からなくなった。それはつまり魔人族が黙って神器を持ち去ったってことになる……」



 焼き上がったカステラを皿に避けて、新しい生地をホットサンドメーカーに垂らしてからまた考える。


 そもそもの話だけど、どうして守人の祖先たちは呼び水の鏡を持ち去ったのだろう? と。



 確かにアウターの中に安置していれば問題のない代物であるけれど、それならインベントリに入れていたって良い筈だ。


 いくら所持者に負担が大きかろうと、インベントリに収納しておけば人里を離れる必要は無かったはずなのに。



 あえて人目を避けるように、広大なアウターの奥深くで呼び水の鏡を守っていた理由。


 それは間違いなく、人の手から神器を遠ざけたかったからだと思うんだよね。



 でももしそう考えるとしたら、どうして呼び水の鏡を人の手から遠ざけたかったのかって話になって、タイミングを考えるとガルクーザの出現に危機感を覚えて呼び水の鏡を持ち去ったとしか考えられないんだよなー……。



「論理が飛躍してる気もするけど……。邪神の恐怖に怯えつつも人の輪を抜けるのは並大抵の覚悟じゃなかったはずだ……」



 ガルクーザの出現をきっかけに危機感を抱いたのは理解できるけど、邪神への対抗手段にもなりうるはずの神器を人の手から遠ざけるという判断は、いったい何を根拠に下されたのか。



 そう考えてしまうと、守人の祖先は知っていたんじゃないのかって話になるんだよ、


 ガルクーザの出現と、無尽蔵に魔力を呼び込む呼び水の鏡の因果関係をさ。



「……だけど、それならヴァルゴの代まで伝わってないとおかしい、よな?」



 もしもガルクーザの召喚が人の手によって引き起こされたもので、それを魔人族たちが知っていたとするなら、今度はスペルド王国に助けを求めることが矛盾してしまう。



 もしや職業の加護のように、長い年月の間に真実が忘却されてしまった?


 しかし職業の加護を失ってまでアウターで暮らすほど使命感に満ちた守人達が、自分達が聖域に引き篭もった理由を伝え忘れるなんてありえるのか?



「フラッタもみんなも適度に休憩しながら作業してねー。多少ならつまみ食いも見逃しちゃうよーっ」



 焼き上がったばかりのカステラに、縦横2本ずつ切れ目を入れて適当に9等分して、頑張っているみんなの口に放り込んであげる。


 はふはふうまうまと美味しそうにカステラを食べるみんなは可愛いなぁ。



「フラッタには真ん中の1番大きいのをあげるからねー」


「んふーっ。妾が作った生地は美味しいのじゃ~」



 あつあつうまうまとカステラを食べるフラッタをよしよしなでなでして、焼き作業を再開する。


 普段なら俺が悩んでいると直ぐに気付かれてしまうんだけど、可愛すぎるフラッタにみんなの意識が集中しているのか、ニーナですらニコニコしながらフラッタをなでなでしているな?



「違和感の原因は、当時の魔人族の動きと現代の魔人族の動きに齟齬があるからか……」



 ガルクーザの出現が人為的なものであり、それが呼び水の鏡を用いて行なわれたことだと魔人族が知って神器を持ち去ったとするなら、スペルド王国に救援を要請するのはどう考えてもおかしい。


 まだ何か見落としている情報があるのか。はたまた俺の考えがどこかで間違っているのか。



「魔人族のみんなは建国の英雄リーチェのことを知らなかった。それは長い年月の間に忘れ去られたのか、または偽りの英雄譚が普及、定着する前にスペルディアを発ったから、なのか……?」



 スペルド王国建国直後は蒼穹の盟約のことを覚えている者ばかりだったので、偽りの英雄リーチェ・トル・エルフェリアへの風当たりはかなり強かったと聞いている。


 魔人族が聖域の樹海へと旅立ったのがスペルド建国直後であったとするのならば、スペルディアとエルフェリアを盟友扱いするのはどう考えてもおかしいはずだ。



 真実が失われる程度の代を重ねてから聖域の樹海に移動した? いや、呼び水の鏡はスペルド建国のゴタゴタの際に無くなったような話を聞いた気がする。


 それに事が落ち着いてから移動したのならば、流石に誰かに行き先を把握されていると思う。



 ……となると、偽りの英雄譚の真実を知っているはずの守人の祖先が、あえて偽りの英雄譚の方を後世に伝えたということになる。


 これが意味することはいったいなんだろうねぇ?



 先日の話し合いでは、ガルクーザの召喚を行なったのはスペルディア家の連中なのではって話になったけど……。


 邪神召喚がスペルディア家が行なったことなら、組織レガリアの連中に伝わっている気がするんだよなぁ。



「もしもガルクーザの出現が人為的な召喚によるもので、その犯人がスペルディア家の人間でなかったとしたら……」



 建国と共にスペルド王国を去り、蒼穹の盟約ではなく偽りの英雄譚を後世に伝え、職業の加護が失われても頑なにアウターに篭り続けた魔人族……。かなり怪しくなってこないかなぁ……?



 今のところ人間族とエルフ族が偽りの英雄譚をでっち上げ、それをきっかけにドワーフ族がアウラの研究に手を出すというやらかしをしてくれた。


 数の少なかった獣人族は微妙かもしれないけれど、竜人族と魔人族もガルクーザの出現で何らかのやらかしをしている可能性があるんじゃないかぁ……?



「……まったく。毎度ながら最低の想定をしては勝手に落ち込んでるよな、俺ってさ」



 もしもガルクーザの出現が呼び水の鏡を用いた人為的なものであって、もしもその犯人が魔人族であったとしたなら。



 ガルクーザ討伐後に、事の発覚を恐れていち早く神器を回収。しかし世界を滅亡に導いてしまったことを悔いて、呼び水の鏡を人里離れた場所で管理することを決意し聖域に引き篭もった。


 ガルクーザの出現が自分たちのせいだったなど後世に伝えるわけにはいかないので偽りの英雄譚を伝え、しかし呼び水の鏡の管理への異常な使命感だけは後世に伝えていった。こんな感じだったりしないか?



 ……う~ん。この話が合っているにしろ間違っているのにしろ、みんなに話して楽しい話題じゃないよなぁ。


 苦々しくなった頭の中をリセットする為に、焼きあがったばかりのカステラをつまみ食いする。もぐもぐ、甘い。



「ダンー? まーた碌でもない事に思い当たっちゃったんでしょー? お菓子作りが終わったら聞かせてもらいますからねっ」



 口の周りにカステラの欠片をくっつけたニーナが、目敏く俺の悩みを見抜いてくる。


 ご機嫌フラッタが注意をひきつけてくれていたけど、流石に長時間悩みすぎて気付かれてしまったようだ。



 っていうかニーナ、ちょっとつまみ食いしすぎでは? これ結構カロリー高いんだよ?



「出来ればもうちょっと煮詰めてからみんなに伝えたいところなんだけどね。今伝えても誰も得しない情報って感じでさ」


「ダンの話は大体いつもそうでしょっ。余計なこと考えないで家族に共有すればいいのっ」



 俺を軽く咎めながらちゅっとキスしてくれるニーナ。


 心配してくれてありがとね。今日帰ったらみんなにも共有することにするよ。






「ちわーっす。突然ですがお届け物でーす!」


「ありがとうございます……。ええ、本当にありがたいんですけどこの量は……。せめてこう、事前に連絡していただけませんか……?」



 山のようなカステラを焼き上げて、それをスペルディアのトライラム教会本部に押し付ける。


 受け取ってくれたテネシスさんは物凄く面倒そうな顔でお礼を言ってくれた。



 最近俺の周りの人、俺に対して遠慮が無くなってきてますよね?


 テネシスさんも俺への遠慮が無くなってきているようなので、俺も遠慮無く自分の都合で話を進めてしまう事にする。



「俺達これから終焉の箱庭の攻略に入るんだけどさ。ついでにトライラム教会の旧本部の調査もしたいと思ってるから、どのあたりにあったか調べてもらえないかな?」


「旧本部の場所ですか? それを調べるのは構わないですけど、調査に入る前にイザベルにも話を通したいので、実際に調査を開始するのは少し待ってもらえますか?」



 む、そりゃ旧本部教会の調査をトライラム教会のトップであるイザベルさんに無許可で行うわけにはいかなかったな。


 テネシスさんに了解を告げて、本日のところは失礼させていただいた。



 お菓子の配達を教会に押し付けることも出来たので、さっさとエルドパスタムに行って終焉の箱庭の攻略に入るべきなのは分かっているけれど、昨日ひと晩お菓子作りに専念してみんなを愛していないのでもう限界だった。


 ちょうど家族全員揃っている事だし、このままスペルディアでいただいちゃいましょうかねっ!



 スペルディアの夢の一夜亭に明るいうちから駆け込んで、みんなの体を思う存分堪能する。


 昨日はみんなお腹いっぱい甘いものを食べたよね? だから今日は俺がみんなをお腹いっぱい召し上がる番だぁいっ!



 朝イチでトライラム教会にカステラを配達したっていうのに、俺達が夢の一夜亭を出たのは正午を過ぎた時間だった。





「ふふ、なんだか旦那様がいっぱい甘やかしてくれて楽しかったですっ。これからも沢山甘えさせてくださいねっ」



 珍しく警戒心を捨てて、ぽわぽわした雰囲気をまとうヴァルゴ。


 みんながあんまり可愛いことを言うものだから、終焉の箱庭の前でみんなともう1度キスを交わして心を落ち着ける。



「俺のお嫁さんはみんな魅力的過ぎて参っちゃうよ。このままじゃ際限無くみんなと愛し合いたくなっちゃうから、そろそろ終焉の箱庭に入ろうね」


「あはーっ。私達としては際限無く愛してもらいたいところなんだけどねー。なんだかんだ言ってダンは真面目よね」


「ダンよ。妾としても愛してもらうのは吝かでは無いのじゃが、今日はクラクラットに確認に行かなくて良いのか?」


「あ」



 フラッタが首を傾げて確認してくる。可愛い。


 ……じゃなくてすっかり忘れてたな。いやフラッタが可愛いのは間違いないけど。



「んー……。ちょっと面倒だけど、クラクラットのアウター管理局に伝言の有無だけ確認しに行こうか。教えてくれてありがとうフラッタ」


「んふ~。くすぐったいのじゃ~。なんだかダンがいつもより優しい気がするのじゃ~」



 感謝のよしよしなでなで。からのちゅっちゅ。


 昨日の今日で伝言が入っている可能性は高くなさそうだけど、現状ではアウラのことは優先度高めに設定してあるからな。せめて伝言の確認は毎日しないと。



 そう思ってクラクラットに足を運んだものの、予想通りアウラからの伝言は残されていなかった。


 う~ん……。アウラの状況が分からないだけに、この対応で正解なのか分からないのが辛いな。



「アウラが外に出れないことが、当たり前なのか非常事態なのか分からないね……」



 リーチェもまた、巨大おっぱいを持ち上げるようにして腕を組みながら悩んでいるようだ。



「どうすればいいのかな……? 悠長に構えていたらアウラの研究が完成してしまった、みたいな事態は避けたいところだけれど……」


「現状だと出来る事が無いのが辛いですね。今の段階で動くとなったらどんな動きであれ、クラクラットのルールに抵触してしまいそうですから」



 ヴァルゴの言葉に少し不安感を覚える。



 暴王のゆりかごの立ち入り禁止が解除されるのっていつだよ? 普通に考えたらアウラの調整が終わるまでは探索許可は下りないんじゃないのか?


 アウラの研究の完成を阻止したいと考えるなら……。強行突入の必要があるんじゃないのか……?



「ダン。貴方がどんな判断をしても私達はついていくのっ。だから迷わず行動していいからねっ」


「……ニーナ」



 俺の悩みを鋭敏に察知したニーナが、俺の背中を笑顔で押してくれる。


 そしてニーナの言葉にみんなも笑顔で頷いて見せてくれた。



 うん、俺にはこんなに頼りになる家族がついていてくれるんだ。だから悩まず信じた道を行こう。



 まずは終焉の箱庭の踏破を目指す。


 そしてその間アウラから何のリアクションも無かったら……。



 その時はたとえクラクラットの秩序を乱す事になってでも暴王のゆりかごに忍び込むことを、はっきりと決意するのだった。

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