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【全年齢版】異世界イチャラブ冒険譚  作者: りっち
6章 広がる世界と新たな疑問2 世界の果て
427/637

427 夕日

※R18シーンに該当する表現を若干カットしております。

 リーチェのポータルで、俺達はスペルド王国東端の都市エルドパスタムに転移した。


 しかし転移先に広がる光景に、俺は思わず息を飲んでしまう。



「……こ、れは」



 この世界の都市は移動魔法の普及のせいか、地域ごとの特徴が少ない。


 そのはずなのに、予想していなかった目の前の荘厳な景色に圧倒されてしまった。



 そしてそれは俺だけではなく、リーチェとティムル以外の全員が俺と同じように雄大な景色に魅了されていた。



「あははっ。ぼくも初めてここを訪れたときはそんな感じだったなぁっ。見事な景色だよねぇ~っ」



 楽しげに笑うリーチェの声に返事を返すことも出来ない。それほどに圧倒的な光景だ。


 どうやらエルドパスタムは山の山頂のようなかなり高い場所にあるらしく、切り立った崖の先には七色に輝く魔力の壁が天まで立ち昇っているのだ。



 天まで届く魔力壁はスポットでも同様の物を見たけれど、エルドパスタムの景色は文字通り桁が違った。


 見渡す限りの範囲全てが魔力の壁に遮られており、まるでこの世界はここで終わってしまっているかのような錯覚を覚える。



 ……なるほどね。だから終焉の箱庭なのか。



「……すっげぇな。マジで圧倒されちゃったよ。まるでこの世界の端っこまで来ちゃったみたいだ」


「スペルド王国の東端だから、その言葉もあながち間違いじゃないんだけどねぇ。終焉の箱庭の反対側に出た公式な記録って、確か残ってないからぁ?」



 落ち着いた様子でティムルが俺の言葉に答えてくれる。


 この様子だと、どうやらティムルもここに来たことがあるみたいだな?



「ここはグルトヴェーダの山々とも繋がっているんだけどね? 魔力が満ちているから緑に溢れていて、魔物も野生動物も多く出現する場所なの」



 ここがあの不毛の地グルトヴェーダと繋がっているなんて信じられない……。


 それほどまでに圧倒的な生命力を感じさせる光景だった。



「だから普通は徒歩で訪れる事は無い場所なのよ、最果ての都市エルドパスタムは」


「ぼくたちなら徒歩でも来れたと思うけどね。でも転移していきなりこの光景を見せられるほうが衝撃が大きいでしょっ?」



 声とおっぱいを弾ませたリーチェが、あえて転移での来訪をチョイスしたと微笑んでいる。可愛い。


 この雄大で荘厳の景色を前にしても可愛いと感じるくらい可愛いわコイツ。



「徒歩で山岳地帯を踏破した後でも感動するかもしれないけどさっ。個人的にはサプライズをお勧めしたかったんだーっ」


「……確かに衝撃だったよ。見事なもんだ」



 はしゃぐリーチェを抱き寄せて、サプライズのお礼にちゅっと口付けをする。



 ネットで見かけたナイアガラの滝やイグアスの滝みたいな大瀑布の映像、それを逆再生しているみたいな景色だよ……。


 地面から立ち昇っていく魔力の奔流だなんて、地球では同じような景色は絶対に有り得ないだろう。この世界に来た者だけが楽しめる幻想的な光景だ。



「そう言えばスポットもそうだけど、なんで魔力の壁が普通に見えるんだろうな? 俺には熱視なんて使えないのにさ」


「アウターが生み出す膨大な魔力が、常人の目にもはっきり分かるほどに凝縮されてできたのがあの壁だと言われてるわねぇ」



 ティムルの言っている事は定説なんだろうけれど、納得出来るような出来ないような……。



 魔力を凝縮すると誰にでも見えるようになる……。


 つまりはそれが魔物であったり、ドロップアイテムであるということなんだろうか?



「あっと、逆に熱視でアウターの魔力壁を見たらどう見えるのかな?」


「熱視は魔力を可視化する能力だから、普通に見ることが出来ているあの壁を熱視で見てもあまり意味はないわね~」



 俺の疑問に答えながら碧眼に変わっていくティムル。


 意味は無いと言いながらも、面倒臭がらずに検証してくれるティムルにお礼のキスを贈っておこう。



「……ここは物凄く魔力の充満している場所だから、熱視を使うとまるで深い霧の中に迷い込んだみたいになっちゃって、逆になにも見えなくなるわねぇ」


「ふむぅ、不思議なのじゃー。アウター内では熱視を使って戦えておるのにのう?」


「きっとアウターの内外で魔力の流れ方が違うんでしょうねぇ。どうしてそうなのかはお姉さんにも説明出来ないわぁ」


「そしてみんなの背後にあるのが、スペルド王国東端の都市エルドパスタムだよ。終焉の箱庭とフォアーク神殿への玄関口として賑う場所だね」



 リーチェの言葉に背後を振り返ると、そこには石材で出来た城壁がどこまでも広がっていた。


 街の入り口らしい沢山の人が往来している門は、城壁の規模に対してかなり小さく作られているようだった。



「魔物や野生動物が出やすいし、徒歩でここを訪れる人もなかなか居ないからね。街の外縁部は防衛に特化した作りになってるんだよ」


「こんな立派な城壁に囲まれてるのに、フォアーク神殿と終焉の箱庭のおかげで大盛況なの。下手すると、スペルディアよりも大きい都市かもしれないわねぇ~」


「王都よりも大きいのかぁ……」



 ティムルの説明にちょっとだけ驚く。


 いくら需要があるとは言え、まさか王都スペルディアを超える規模の街が存在しているとは思わなかったなぁ。



「あれ? そう言えばフラッタはここを訪れたことが無かったの? フォアーク神殿を利用したことがあるのかと思ってたけど」


「うむ、騎士までは転職魔法陣があるゆえな、ヴァルハールから出る必要はなかったのじゃ。騎士の次はファーク神殿を利用せねばならぬからの。何事もなく14を迎えていたら、妾は独りでこの景色を目にしていたのかもしれないのう……」



 少しだけ複雑そうに、終焉の箱庭の方を振り返るフラッタ。


 何事も無ければ今もゴルディアさんと共に暮らすことが出来ていて、ゴルディアさんの悲劇があったからこそ俺達と出会えているフラッタは、気軽にもしもの先を想像出来ないのかもしれないな……。



 しかし流石は脳筋の竜人族。戦闘職の転職魔法陣ばっかり充実させすぎだろ。



「さて。夕日もみんなと見たいけれど、陽が落ちるまではもう少し時間がありそうかな?」



 未だ昇り続けている太陽の位置を確認しながらリーチェが呟く。



 以前リーチェが話してくれた、世界が燃えるような終焉の光景。それを見るためにはあと数時間は待たなきゃダメそうだ。


 だけどいくら絶景と言っても、このままここで時間を潰すのは流石に勿体無いよな?



 なんて思っていると、俺と同じことを思ったらしいリーチェが笑顔で提案してくれる。



「せっかくの機会だし、日没までエルドパスタムで時間を潰さないっ? みんなでさっ」


「そうねー。ここは見ての通り魔力が溢れる場所だから、他では見ないような珍しい食材が置いてあったりするわ。だからその食材でなにか美味しいものでも作ってくれたら、お姉さんとっても嬉しいんだけどなー?」


「お姉さんの期待に応えられるかは分からないけど、エルドパスタムデートには何の異論もないよ。早速行こっか」



 人目も憚らずに全員と少し長めのキスを交わし、ニーナとフラッタと手を繋いでエルドパスタムに足を踏み入れた。



 城壁の中には思ったよりも大きくて広い都市が広がっていたけど、やっぱり地域差のようなものはあまり感じられない普通の街並みだった。


 けれど所々に畑が設置されていて、なんとなく街の中に普通に田んぼや畑のある日本の田舎町を連想してしまった。



「魔力が満ちているから色んな野菜や果物が育てられるんだねぇ。街の中で食べ物が取れちゃうのなら行商人も出番が無さそうなのっ」


「そうね。この街で行商をする場合は珍しいものを仕入れるという流れで動くことが多いかしら。この街に必要な物はこの街で全部揃っちゃうからさぁ」



 ニーナとティムルがこの街の商売について楽しげに会話している。


 この街で行商をしても売れるものが無いから、ここではどうしても仕入れがメインになっちゃうわけね。



「大規模アウターがあって農業が容易とあっては、エルドパスタムだけで自給自足できるのも頷けるのじゃ。街行く者たちの表情も活気に満ち溢れておる感じじゃな」


「ここも旧アルフェッカ衰退後に建設された都市なんだけどね。フォアーク神殿に足を運ぶ人のためにかなり優先的に整備されていった歴史があるんだよ」



 物珍しそうに周囲をキョロキョロ見回すフラッタと、そんなフラッタにエルドパスタムの歴史を解説するリーチェ。


 俺の知る限りでは世界最高の美貌を持つ2人の談笑に、周囲の視線が吸いこまれるように集まっておりますね。



 だが残念だったな! 2人とも俺の可愛いお嫁さんなんですーっ!



「師匠の話では、既に守人の中には終焉の箱庭に潜っている者もいると聞いておりますけれど……。中途半端な時間の為か守人の姿は見当たりませんね」


「先を越されたかー。元々の戦闘技術が高いから、ペネトレイターたちの躍進が凄まじいねぇ」



 リーチェが語るエルドパスタムの歴史的背景と、ヴァルゴの語るペネトレイターの躍進が気になるけれど、全員の意見をまとめると、ここはやっぱり食材を見て回るのがいいかな?


 農業が容易ってことはドロップアイテムでは得られない食材とかも豊富だろうし、何か掘り出し物が見つかるといいなぁ。



 5人と代わる代わる手を繋ぎながら、ティムルとリーチェに案内してもらって市場を見て回って時間を潰した。





「あ、ダンっ! そろそろ日没なのっ!」


「えっ、もうそんな時間? え、でもちょっと待って。もうちょっと……」


「市場にはまた来れば良かろう! さっさと来るのじゃーっ」



 段々陽が翳ってきて、間もなく夕日が見られそうな時間帯。


 市場の物色に夢中になっていた俺はみんなに無理矢理手を引かれて、始めに転移した場所まで戻ってきた。



「もうダンってば。買い物に夢中になりすぎなんだからーっ。危うく夕日を見逃すところだよっ?」


「ごめんごめん。もう許してよリーチェ。あとで何か新しい料理をご馳走するからさ」


「んー、ご馳走されるのも悪くないけど、出来ればダンと一緒に作りたいなぁ。ぼくにも手伝わせてくれる?」



 頬を膨らませていたくせに一瞬でおねだりしてくるリーチェ。かっ、可愛すぎかコイツっ……!


 あまりの可愛さに衝動的に抱き締めてしまったじゃないかっ! よしよしなでなで。



「お前普通にしてても最高に可愛いんだから、もうちょっと手加減してくれよ。可愛すぎて危うくこの場で押し倒すところだったじゃないかぁ」


「か、可愛いって言ってくれるのは嬉しいけど、流石にみんな以外の人に見られるのはやだよ……?」


「俺も家族のみんな以外にリーチェを見せるつもりは無いっての。でもそれを突破するくらいに可愛すぎるんだよ。だから手加減してくれって言ってんのっ」



 照れるリーチェによしよしなでなで頬ずり頬ずりしていると、みんなも俺とリーチェにくっついてきてお団子状態になってしまった。


 まぁいつもの光景なんだけど?



 あーでもみんなにご馳走するって言っちゃったから、帰った後も直ぐに寝室に向かうわけにはいかないよぉ。


 もうリーチェを筆頭にみんなを美味しく召し上がりたい気持ちでいっぱいなのにぃ!



 しっかしエルドパスタムには色んな食材があって楽しかったなぁ。柑橘系っぽい果物が沢山手に入ったので、蜂蜜漬けとか試してみよう。


 その蜂蜜も終焉の箱庭で採れるドロップアイテムらしく、マグエルで買うよりも大分安く購入できたのが嬉しい。



 かなり甘い蜂蜜酒も買うことが出来たし、これでみんなをベロベロにして美味しく召し上がっちゃいましょうねー。



「んっ? なんだ……?」



 そんなピンク色の妄想で頭がいっぱいだった俺の目に、突然赤い色が入り込む。


 意識を現実に戻して改めて終焉の箱庭を見ると、夕日の赤い光が魔力壁に反射して、アウター外縁の壁が真っ赤に染まり始めていた。



「夕日が魔力壁に反射してるのか? スポットではこんなこと起きないよね?」


「起きないわねぇ。魔力の濃さの違いかしらぁ? スポットのほうは魔力が薄くて、夕日の光を反射できないのかもしれないわぁ」



 ティムルの考察を聞いている間にも、目の前の魔力壁はどんどん赤く染まってく。


 天に勢い良く立ち昇る魔力の壁が夕日の赤に染まっていく光景は、まるで――――。



「凄いね……。まるで世界が燃えて空を灼いているみたいなの……」


「ニーナも同じこと思ったんだ? まるで炎が燃え盛っているような光景だよね……」



 火も熱も出ない幻想的な炎の壁。


 転移直後に見た景色も衝撃的だったけれど、見る時間帯でここまで表情を変えるとは流石に予想してなかった……!



「ふふ。まるで妾とダンのドラゴンインフェルノのような光景なのじゃ。だからこの景色が美しいのは当然じゃ。妾とダンの愛の結晶なのじゃからのうっ」


「フラッタ。旦那様との愛の結晶と言うと、妊娠したみたいに聞こえてしまいますよ? 旦那様の御子を授かれるものなら授かりたいものですけどね」



 こらヴァルゴ。今は景色を楽しんでいるところなんだからエロ方面に話を持っていかないのっ。



「やっぱり来て良かった……。前来た時とは……独りだった僕が見た景色とは全然違うよ……」


「リーチェ?」



 俺の腕の中で夕日を見詰めるリーチェの翠の双眸からは、目の前の景色以上に美しい涙が溢れ出ていた。


 けれど泣き続けるリーチェからは、ネガティブな感情は一切感じられなかった。



「独りだった僕にとって、この景色は世界の終焉そのものだった。美しいと思う反面、天を焦がすこの光景に恐怖すら覚えていた気がするんだ……」


「……今は違う? もう怖くは感じない?」


「うん……。みんなと一緒に見るこの景色は、ただただ美しいとしか思えないかな……。みんなの声が聞こえて、ダンの鼓動が伝わってくるから、愛おしい光景のように思えてきちゃうんだ……」



 リーチェの言葉を聞いたみんなが、リーチェを抱き締める俺に密着してくる。


 俺はリーチェを抱き締めている両腕を片方だけ開いて、出来たスペースに飛び込んできたティムルをリーチェと一緒に抱き締める。



「あはーっ。またダンに上書きされちゃったわねリーチェ。貴女も私のようにどんどん上書きされて、もうダンと出会う前の自分の人生が思いだせなくなるくらいダンに染められちゃうわよぉっ?」


「もうとっくに染まってるよぅ。ぼくの頭の中、ダンのことでいっぱいなんだもん。ダンの事とみんなのことしか考えられないくらいに幸せに染め上げられちゃったよ……」


「あーもうっ! 貴女可愛すぎでしょー!? ドワーフの私まで魅了しなくていいからっ!」



 リーチェの言葉に、堪らずといった様子で彼女の体をぎゅー! っと抱き締めるティムル。


 そんなお姉さんを堪らず抱きしめてしまう俺。



「昔の僕にとってはここは世界の終わりでしかなかったけれど、今のぼくはこの先にも世界が続いている事を知っている。終焉の箱庭で世界は終わったりしてはいないんだって、みんなのおかげで信じられるんだ……!」


「あー……。確かに私もダンと出会う前にこの景色を見ちゃったら、きっと美しいよりも怖いと思っちゃう気がするの。この炎は私の人生をも焦がしているんだー、とか感じそうかなぁ」


「美しくも力強い光景じゃからな。独りで見るには刺激が強すぎるのかもしれないのじゃ。こうしてみんなと一緒にダンとくっついてみるくらいでちょうど良いのじゃっ」



 ニーナとフラッタが俺の両サイドから抱きついてきてくれる。


 そして俺の背後からはヴァルゴが、何故だか滂沱の涙を流しながら抱きついてきてくれた。



「旦那様に……旦那様に出会えてよかった……!」


「ヴァルゴ? どうして泣いて……」


「旦那様に出会えなければ、私はこんなにも美しいモノが存在している事にも気付かず、ただ自身の境遇を憂いながら生きていくところでしたよぉ……!」



 真っ暗な聖域の樹海で今まで生きてきたヴァルゴにとっては、夕日自体見る機会が無かったんだろうなぁ。



 みんな今が幸せだから、この光景にネガティブなイメージを抱かずに済んだことを喜んでいるようだ。



 言われてみれば、俺がこの世界に転移した直後は炎と死が溢れる地獄のような光景だったはずだ。


 なのに世界を燃やすようなこの光景を見ても、俺は開拓村のイメージに結びつけることは一切出来なかった。



 みんなのおかげで、美しい景色を美しいとだけ感じることが出来る。これってもしかして幸せってことなんじゃないだろうか。


 そんなことを思いながら愛しいみんなと抱き合ったまま、幸せに燃える黄昏の大地を眺め続けたのだった。

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