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【全年齢版】異世界イチャラブ冒険譚  作者: りっち
1章 巡り会い1 スポットでの出会い
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041 凶報

 休息日を終えて、俺とニーナはまた1週間のスポット遠征に出発した。


 野営予定ポイントに到着するまでに俺の商人がLV30になり、上位職として豪商に転職できるようになったようだ。




 豪商LV1

 補正 体力上昇- 持久力上昇- 幸運上昇 装備品強度上昇-

 スキル 魔玉発光促進 インベントリ




 やはり初回ボーナスの中では、Cが1番手軽に手が届く感じだね。


 恐らく戦闘職ではない豪商だけど、HPとスタミナが上昇し装備品の強度上昇もあるから、戦闘面での性能も決して低くないんだよな。


 でもやっぱり特筆すべきはスキルだろう。

 文字通り、魔玉に魔力が貯まる速度が上がるってことでしょこれ? 本当に金策に向いた職業だ。



 それにしても、思ったよりもインベントリを使える職業は多いな。


 魔物のドロップアイテムの回収量に格段の差が出るインベントリは、やはりお金を稼ぐ場合にはなくてはならないスキルだよねぇ。


 インベントリがもっと大きかったり、鑑定できないものまで収納できたら言うことがないんだけどなぁ。



 あー……、贅沢なのは分かってるけど、せめてもう1つ職業が設定したいよぉ。



 商人の次は何に転職するかで少し迷ったけど、ティムルのおかげで効果の大きさを既に知っている行商人になる事にした。




 行商人V1

 補正 持久力上昇-

 スキル 所持アイテム重量軽減-




 設定したてでも、背負った荷物が気持ち軽くなったような気がする。これはいいな。



 2日間で進める場所まで進み、そこで夜営の準備を整えて、襲撃の合間にニーナと今後の方針を少し話し合う。



「今年いっぱいはマグエルで活動して、職業の育成と資金稼ぎ、それと情報収集を行う。そして納税と家の契約を無事に更新したら、マグエルを離れて旅を再開する。合ってますか?」


「そうそう。マグエルでの生活は収入も安定してるし、スポットのおかげで俺達の訓練場所としても申し分ない。当分はこの活動ペースを維持したい」



 二ーナの確認に頷きで答える。


 彼女の呪いを解く為に、いつかはマグエルも離れなきゃいけない時が来るだろう。行商人の育成もその時に備えて行うようなものだしね。

 だけど未熟な俺達が何の準備も無しで旅に出るわけにはいかない。今は地に伏せ力を蓄えるべき時なのだ。



「今なら半月もあれば余裕でステイルークに行けそうなくらいに見違えたからね。このまま年明けまで鍛え続ければ、マグエルを出た後もかなり楽になると思うんだ」


「概ね同意しますけど、マグエルの家を更新するのは少し勿体無いのではないですか? 旅を始めてしまっては、下手をすると年単位で放置してしまうことになりますけど」



 年単位で放置の可能性か。俺はそこまで考えてなかったなぁ。


 ニーナが自分の呪いに関して、かなり現実的な考え方を持っていることに少し驚く。



「でもさぁ。あそこは手放すにはもう愛着が強すぎでしょ? 補修から自分達でやったんだし、子供たちとも仲良くなっちゃったしさぁ。今さら他の人の手に渡っちゃったら、微妙な気分になりそうじゃない?」


「それは……。私も出来ることなら手放したくはありませんが……」



 家の契約を更新するのは勿体無いのでは? と聞いてきたニーナだけど、やっぱり本心では手放したくないようだ。


 というか次の借り手にどんな人が現れるかは未知数だし、あの家を手放しちゃったら、下手すると俺たちよりも教会のほうが困るんじゃない?



「俺にとってはこの世界で初めて我が家だって思ってる場所だから、出来れば手放したくないんだ。その分のお金はちゃんと稼ぐから、協力して欲しいな」


「っはぁ~……」



 一旦俺から目を逸らして、観念したかのように長く息を吐き出すニーナ。



「……ご主人様はズルいです。私に手放したくないって言わせてからそんなこと言うなんて卑怯ですっ」



 ほっぺを膨らませて、ぷいっと明後日の方向を向いてしまうニーナ。


 だけどむくれるニーナを見るのはちょっと好きだったりするんだよねぇ。



 ニーナは金銭面から家の更新を見送ることも検討したみたいだけど、実は金策についてはあまり心配していない。俺達の稼ぎは確実に良くなっているし、今の俺なら豪商になって魔玉で荒稼ぎする事もできるしね。



 今の生活を維持するだけなら、年末までは全然余裕がある状態だ。


 だから今のペースをなるべく維持して、マグエルを発つ前に鎧をもうちょっと良い物に変えたいんだよなぁ。



「年が明ければ旅を再開するよ。マグエルを見て回った感じだと、呪いを解除できるようなアイテムが一般には流通してないことは良く分かったからね」



 まだ見ぬ職業に未知の可能性が眠っているかもしれないけれど、アイテムに関してはマグエルに留まっていても新たな情報は得られそうにない。


 魔法でも霊薬でもなんでもいいから、旅立つまでに少しでも解呪の手がかりや、せめて調査の取っ掛かりでも見つかれば良いんだけど。



「出来ればニーナの両親が潜ったっていう遺跡を探したいところだけど……、それも分からないんだよね?」


「はい。申し訳ないんですけど、両親もその時の話はしたがらなかったもので……。やはり各地のアウターを地道に回るしかないかと」



 アウター。


 それはこの世界の常識の外にある魔の領域の総称だ。分かりやすく言えばダンジョンだね。現在探索中のマグエルのスポットも、広義ではアウターの1つだ。


 この世界の理の外側にある場所だけあって、そこでは様々な財宝が見つかる事もある反面、ニーナの呪いの様な強力なトラップや、強力な魔物が巣食っている場合も多い。ハイリスクハイリターンの稼ぎ場だ。



 ニーナの呪いもアウター産なのだから、解呪の手がかりもまた、アウターにあるのだろう。そしてアウターを巡る為にはどうしてもマグエルを発たなければいけないのだ。



 洞窟タイプのアウターはケイブ。ニーナの母が呪いを受けた遺跡タイプのアウターはルイン。屋外タイプのアウターは広さに応じて、スポットだったりフィールドだったり呼ばれている。


 屋内タイプのアウターは中も常に変化して、財宝などを繰り返し発見できるそうだ。親切かな?



 この世界の外の存在って意味では、俺自身がアウターそのもの、とか言っちゃったりして。



「アウターは見返りも大きいけれど、その分危険も多いと聞くからね。マグエルでしっかりと力をつけて、万全の状態で挑もう」


「はい。私たちは他の人たちと協力しにくい反面、ご主人様のおかげで職業的にかなり優遇されています。楽ではないでしょうが、2人でもアウター調査を行う事は決して不可能ではないでしょう」



 これからもがんばりますっ! とやる気に満ちた表情のニーナ。出会った頃の諦めに満ちた表情が嘘のように活発になってくれたよなぁ。


 うん。ニーナに負けないように俺も頑張ろう。



 呪いを解いたらポータルでステイルークにひとっ飛び。そこで奴隷契約を破棄して、ニーナと正式な夫婦になる。それが俺の最終目標だ。


 ……今の関係となにが違うのか、ちょっぴり疑問ですけどねぇ?





 予定通り3日間ほど野営を行ない、マグエルへの帰還を開始する。

 2人だけの俺達はスポット内では満足な休憩も取れなかったけれど、旅人の持久力補正が俺達の体を動かしてくれる。



「お~。これは……、思っていた以上に旅向きの職業なんだなぁ」



 立ちはだかる魔物の群れを撃退しながらの帰り道。


 行商人のレベルが上がるごとに軽くなっていく荷物に、職業スキルの恩恵を感じずにはいられない。



 インベントリには鑑定可能なアイテムしか収納できない。

 野営用の道具や食料なんかは収納できないし、そして何より水を大量に持ち運ぶのが非常に大変なのだ。



 俺とニーナ、2人で1日5リットルの水が必要だと見積もると、1週間の遠征では水だけで35リットルにもなってしまう。

 1リットルの重さはそのまま1kgなので、遠征出発時点では35kgもの水を背負わなければならない。他の荷物だってあるのにね。



 厄介な事に、マグエルのスポット内には水場が存在しない。


 もしもスポットに水場があれば、フラッタもあそこまで消耗しなかったかもしれないな。



 水場が無いのでスポット内に野生動物もいない。


 スポットとは、ただただ魔物だけが跋扈する領域なのだ。



 緊急措置として、キューブスライムから取れる水玉、あれをインベントリに入れて携帯する方法もある。


 だけどわざわざあんなものを狩りに行くのも馬鹿らしいし、何より高耐久、単体エンカウント、遭遇間隔が長いということで、最高に安全な反面、大量に狩るのには全く向いてない。


 雑貨屋で水玉を買うとなると1つ10リーフもする。売値の10倍だ。

 家に専用の井戸があるのに、水にそんなお金を払うのはあまりにも無駄遣いに思えてしまう。


 水玉ってビー玉サイズだし、飲料水として携帯するには幾つ必要なんだっていうね。



 長々と愚痴ってしまったけれど、要はそれだけ水の問題には苦労させられていたってことだ。


 何気にフラッタを拾った時が1番ヤバかったんだよ。あいつめちゃくちゃ飲みやがって。

 遭難寸前……、ってか実際に遭難してたんだから文句も言えないんですけどぉ。


 その分の支払いは体で返してもらえたので、何の不満もないんですけどねぇ。



 行商人のレベルが上がる度に、背負っている荷物が軽くなるのが体感できる。


 帰り道は元々荷物が減って楽になるんだけど、それにしたって背負うリュックがとても軽い。もしかして持久力上昇も相乗効果を生み出しているのかも?


 少なくとも今の俺なら、ステイーダからアッチンまでの旅路も余裕でこなせるだろうね。



 危なげなく魔物たちを撃退し、怪我をすることもなく無事にマグエルに帰ってくることが出来た。


 マグエルに帰還する頃には俺は行商人LV12、ニーナは商人LV26になっていた。



 冒険者ギルドでドロップアイテムを処分し、1週間振りの我が家に戻る。


 前回同様休む前に装備品の手入れをしていると、これまた前回同様にムーリさんが家を訪ねてきた。



「おかえりなさい。えっとですね、実はお2人に伝言を預かっています。お相手はシュパイン商会ですね」



 しかしどうやら、用件は前回と少し異なるようだ。



「出来れば早いうちにシュパイン商会のお店に顔を出して欲しい、とのことです。用件はお2人にしか話せないというので、どんな用件なのかはわかりませんが」


「シュパイン商会のお店に顔出せって? わざわざ伝言してまで?」



 ムーリさんの言葉に思わず首を傾げてしまう。



 何気にシュパイン商会側から呼び出しを喰らったのはこれが初めてだ。俺達はどちらかと言うと、商会じゃなくてティムル個人との付き合いがある感じだからな。


 そしてティムルは俺達を呼びつけることはなく、この家に押しかけてくるタイプだった。



「俺たちにしか話せないことっていうと、まぁ間違いなくティムルからの連絡だろうね」


「ええ。でもムーリさんにはティムルの名前を出しても問題ないと思うのですけどね。伝言を持ってきた人はムーリさんとは面識がないでしょうし、ティムルの名前を出さなかったとしても不思議ではありませんかねぇ」



 ニーナも俺と同じように首を傾げている。何の用件なんだろうね?


 えーっと、まだ日没前だし間に合うかな?

 急ぎの用件だと困るし、そうでなくても伝言を受け取らないと気になって仕方ない。


 ニーナも気になるようなので、これから出向く事にしよう。



 ムーリさんに留守の間のお礼を言って、ニーナと共に家を出る。


 時刻は日没のちょっと前、人の往来も少しずつ減り始める時間帯だった。



「俺たちにしか話せないことってなんだろうね? 呪い関連だったら大当たりなんだけど」


「ティムルのことですからねぇ。単に寂しくなって連絡してきただけかもしれません。もしくは帰ってくる日が前後したとかですかね?」



 あーありそう。明日には帰るからねっ! なんて連絡だったらどうしよう。


 休息日をやめて遠征に行こうかな? なんちゃって。



 完全に陽が落ちる前にシュパイン商会の店舗に到着する。


 遠征の準備なんかにも利用しているので、すっかり見慣れた建物だ。



 さっさと入店し、近くにいた中年男性の店員さんにステータスプレートを見せながら取次ぎを頼む。



「ダンです。こっちがニーナ。伝言を受け取ったので伺いました」


「戦士のダン様ですね。伺っております」



 危ない。直前で気付いて職業を戦士にしておいて良かった。セフセフ。



「ただいま上の者に取り次いでおりますので、こちらで少々お待ちください」



 店員さんに通されたのは、マグエルに来た初日にティムルと話をした応接スペースだった。


 上の人とやらを待っている間に、職業を行商人に戻しておく。



 数分待たされた後に、初老の男性が現れた。



「ダン様。ニーナ様。わざわざご足労頂きましてありがとうございます」



 現れた男性には見覚えがあった。


 確かこの人、この店でティムルの次くらいに偉い人だったっけな?



「こうして直接お話をするのは初めてでございますので、改めて名乗らせてください。私の名はエンダ。ティムル様の補佐を務めさせていただいております」



 ティムル()、ねぇ……。会長夫人だからやっぱ偉いんだなアイツ。我が家にいるとただの駄々っ子にしか見えなくなるんだけどなぁ。



「ティムル様が不在の今は、恐れ多くもこの店の責任者を任されております」


「初めましてエンダさん。俺達の紹介は必要なさそうなので省かせてもらうね」



 ニーナと一緒に軽く会釈するだけに留めて、早速本題に入ろう。



「何でも俺たち2人に伝言があるって話だったけど、早速教えてもらえるかな?」


「あ、はい……。それがですな、なんといいますか……」



 俺の言葉に、なぜか目を伏せて少し言いにくそうにしているエンダさん。


 あれ? 俺なんか失礼なこと言ったかな?



 隣りのニーナに視線を向けても、ニーナも少し困惑しているように見える。



「……ここだけの話でございますが、実はお2人を呼んだのは私の独断で行っている事。シュパイン商会の意向ではないことを先に申し上げておきます」


「……どうやら悪い知らせみたいだね。なんでそれを俺たちに持ってきたのかは分からないけど、とりあえず聞かせてもらえるかな」



 悪い話だって分かっている以上、正直聞きたくないけどなー。


 呪いを理由に賃貸契約を取り消すって話もありえる。

 ステイルークからニーナに追っ手が放たれた! は流石に漫画の読みすぎか?



「お2人にお話しするのは勿論、お2人がティムル様のご友人だからでございます」



 心臓がドクンと跳ね上がった。


 悪い話。それがティムルに関わることで、友人の耳に入れておくべき内容って……。



「単刀直入に申し上げましょう。現在ティムル様はとあるエルフからマジックアイテム『世界樹の護り』を盗んだ容疑者として、ネプトゥコにて拘束されております」



 エンダさんの言葉に、ニーナと2人で絶句する。


 ……これだから聞きたくなかったんだよぉ。なんでこんな話を俺に聞かせるんだよぉ、もう。



 まぁでも、ティムルがフラッタのお兄さんに殺されました、とかじゃなくて良かったぁ……。



「シュパイン商会の会長、つまりティムル様の旦那様は、ティムル様との婚姻を既に破棄し、今回の件では商会は無関係だと主張するおつもりのようです」



 エンダさんの言葉に、ステイルークでのニーナの姿がオーバーラップした。


 今のティムルの状況は、世界に存在を否定され、家族を失い、独りぼっちで死を待つだけだったあの諦めに満ちたニーナの姿に重なる気がした。



 はぁ……。仕方ない。助けられるかは分からないけど言っちゃったもんな。話を聞くくらいなら出来るって。


 ティムルが盗みを働くとは思えないけど、状況が分からなければなにも出来ない。まずは本人に話を聞いてみないと始まらないか。



 ……でもネプトゥコって、確かスポットの反対側なんだよなぁ。どうしよっか?

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