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【全年齢版】異世界イチャラブ冒険譚  作者: りっち
6章 広がる世界と新たな疑問2 世界の果て
407/637

407 始動

※R18シーンに該当する表現をカットしております。

「ではみんな、先に脱出してくれるか。私は全員の脱出を確認してから最後に出る」



 ゴブトゴさんに促されるまま、始まりの黒を後にする俺達。


 俺の所有する2つの神器のお披露目が終わり、用が済んだので始まりの黒を脱出した。



「全員間違いなく居るな? では門を閉じるぞ」



 全員の脱出を確認したゴブトゴさんは、速やかに始黒門を閉ざしてしまった。



 ゴブトゴさんは正式に始まりの黒の管理を任されているから問題ないとは思うけれど、俺達部外者をアウター内に招いたことでケチをつけられてもおかしくないらしい。


 だから王族の連中につっこまれる材料を極力減らしていきたいのだそうだ。お疲れ様です。



「でも、管理を任せているゴブトゴさんが居なくなれば、困るのはその王族の方なんじゃ?」


「ふん。王族の方々は私を煙たがっているからな。失脚させる気は無くても、嫌がらせや妨害は頻繁だ。だから隙を見せたくないのだ」



 真面目な宰相を煙たがってはいても、国の管理・運営業務を自分達でやろうって気は無いのね、スペルディア王家の皆さんは。


 ま、ある意味ゴブトゴさんの安全は保証されてるのかもしれない。



 これで用事は済んだかなと帰る気満々の俺の前で、キュールさんが静かに頭を下げる。



「ダンさん、宰相殿。この度は帝国の我が侭を聞き入れてくれてありがとう。貴方達の誠意ある対応は上にも必ず伝えると約束するよ」


「いやいや、この程度でそこまで恐縮してもらわなくてもいいよ。感謝はお城での滞在をお世話したゴブトゴさんにだけでいいでしょ」


「賓客に礼を尽くすのは当然だ。何より今王国は不安定、帝国との関係悪化は避けたいからな」



 あくまで仕事上お世話しただけだと主張するゴブトゴさん。


 これも本音ではあるんだろうけれど、全部を語らないところが真面目なゴブトゴさんらしい。



 俺達の返答に軽く苦笑した後、表情を引き締めるキュールさん。



「貴方達が友好的に接してくれたことは感謝するけど……」


「うん?」


「神器が本物だと知った上の人間がどのような判断を下すのかは正直分かりかねるかな。短絡的な判断をするお方ではないと思ってはいるけど、こればっかりはね……」



 キュールさんは帝国の判断に口を出すことは出来ないと、少し悔しそうな様子を滲ませている。


 彼女は上司の事を信頼しているようだけれど、神器を前に人がどんな判断を下すのかは読み切れないと言っているようだ。



「ああ、何かあっても自分達で対応するから大丈夫。キュールさんは自分の思った通りの報告を上げればいいんじゃない?」



 あまり油断しすぎるのも良くないけれど、知らない相手を不必要に警戒しすぎるのも良くない。


 今の俺は複数体のイントルーダーを単独で滅ぼしてしまえる存在になってしまった上に、造魔召喚で竜王を呼び出すことも出来るんだから。



 それに正直な話、神器にそこまで執着してるわけでもない。



「……究極的なことを言うとさ。悪用、乱用さえされなければ、神器なんてくれてやってもいいと思ってるからね」


「…………っ!?」



 神器を譲っても構わない。


 そんな俺の言葉に絶句した後、搾り出すように返答するキュールさん。



「……………………それも、必ず伝えるとするよ」


「よろしくね。ただ、譲った後に簡単に奪われないように気をつけて欲しいな」



 神器を譲るのは構わないけれど、行方が分からなくなったり変な人物の手に渡るのは避けたい。


 なので一応、神器を譲る為の最低条件的な事を提示しておく。



「前所有者だったメナスは、アウターエフェクトをほぼ無限に生み出し操るような相手だった。神器を独占するということは、そういう脅威に狙われるってことだからね?」


「……確かに、譲ってもらっても護りきれなければ何の意味もない。ご忠告痛み入るよ」



 俺の忠告に真剣な表情で頷くキュールさん。


 神器を実際に目にしたことで、その性能の厄介さを改めて痛感したのかもしれない。



「宰相殿にも大変お世話になりました。このお礼は後日改めて」


「私にとっても有意義な体験になったので、どうか気にしないで欲しい。キュール殿、また何かあれば遠慮なく連絡してくれて構わないからな」



 キュールさんとゴブトゴさんが笑顔で挨拶を交わす。



 キュールさんも俺もこれで失礼する事になったので、城の出口まで一緒に歩いていくことになった。


 城から出るだけなら案内は必要ないので、ゴブトゴさんとはここで別れる。



 出口までの道すがら、チャールが導き出したトライラム様の話をすると、思った以上の食いつきを見せるキュールさん。



「祝福の神トライラムがエルフである可能性……。そしてソレに気づいたのが、孤児出身の10代の子だって……!?」


「ま、この推論が合っているかどうか確かめる術は無いんだけどな。でも諸々の事実を検証した結果、その可能性が高いんじゃないかって話になったんだよ」


「職業の加護は法王の職業スキル……。トライラム教会は信仰によって生まれた宗教じゃなく、人が人を導く為に生まれた組織というんだね? 確かに考えさせられるけど……」



 腕を組んで1人でブツブツと考え込むキュールさん。


 本当は足を止めてじっくり考え込みたいのかもしれないけれど、俺が足を止める気が無いので思考をまとめにくそうにしている。



「ん~っ、悔しいなぁ……! 出来ればその2人と直接会って話をしたいところだけど、流石に神器の報告を先延ばしにするわけにはいかない……! これでも帝国に雇われてる身だからねぇ……」


「ははっ。宮仕えは大変だ。2人にもキュールさんが話したがってたことは伝えておくよ」



 あの2人とキュールさんを引き合わせてみるのは面白いのかもしれない。


 あの2人にもまだ新しい仲間が見つかっていないわけだし、キュールさんとの出会いで交流の場を広げられたら同好の士だって見つけられるかもしれないもんな。



 ただ、2人とキュールさん本人が一緒に活動できるかと言われると微妙かな。


 数々のアウターの中を調査したことがあるらしいキュールさんだけど、それでも戦闘能力は皆無だ。第一に戦闘訓練から始めているチャールとシーズのパートナーとしては、意識に齟齬が出てくるかも分からない。



 ……って、外野の俺が勝手に判断すべき話でもないかな?


 王国中の資料を調べて回り、組織レガリアに残っていた資料にも目を通したキュールさんの存在は、あの2人にとっても重要になってくる可能性が高い。


 俺が勝手に切り捨てずに、黙って本人同士を引き合わせた方がいいかもしれない。



 キュールさんもチャールたちも知的好奇心に真っ直ぐだから、きっと仲良くなってくれるだろう。



「ん~っ。束の間の王国暮らしも今日で終わりかぁ~っ」



 和やかに雑談しながら歩いていたら、あっという間に城の外まで移動してしまった。



 ググーっと背伸びをしながら王城を振り返るキュールさん。


 俺達は自前のポータルで帰れるけれど、キュールさんは城の冒険者に送ってもらうそうだ。



 パールソバータの更に西に、ヴェルモート帝国の玄関口であるシルニーダムという街があるらしく、そこに迎えが待機しているみたいだ。


 いつか冒険者ギルドのお姉さんに聞いた、国を跨ぐ際に必ず寄るように指定されている街がシルニーダムなのかな?



 確か個人間のポータル移動には制限が無かったはずだけど、王国側が配慮したのかもしれない。



「実に刺激的な訪問になったよ。ありがとうダンさん」



 解散する前に、キュールさんと最後の挨拶を交わす。



「神器や始まりの黒もだけど、トライラム教会について新しい解釈を得られたのも大きい。諸君が帝国に来る事があったら歓迎させてもらうからね」


「ああ。もし帝国に行く事になったらチャールたちも連れてくよ。本人同士で話した方が有意義でしょ」



 ソレは楽しみで仕方ないねと笑って、キュールさんはポータルで転移していった。



 神器の事に触れてきたからどんな厄介事が起こるかなって構えていたけど、終わってみれば平和的に解決した形になるかな。


 いや、まだ何も解決したワケじゃないんだけど。



 そんなことを考えながらニーナとフラッタの手を握って、ポータルで自宅に転移した。



「みんなは食堂で待っててねー。あ、フラッタはお茶の用意だけお願いしていいかな?」


「んふー。任せるが良いのじゃーっ! だから妾の分はいっぱい用意して欲しいのじゃーっ」



 自宅に戻った俺は別荘生活のお礼として、久しぶりにみんなにオヤツを作ることにした。


 その間リーチェに声を繋げてもらって、ホットサンドメーカーで焼きドーナツモドキを作りながら今回の話を振り返る。



 っとリーチェ。抱きついてくるのはいいけど手加減してね? 危ないから。



「神器について言及された時は少し警戒したけど、俺達に敵対心は無さそうだったねー? 少なくともキュールさんは、って話だけど」


「そうだねぇ。ノーリッテと繋がってたって時点でちょっと怪しいけど、キュールさんが戦えないのは間違いないと思うの。浸透も全然進んでなかったから」



 相変わらずニーナは他人を躊躇無く鑑定するなぁ。


 ……俺が気にしすぎてるだけなのかもしれないけど?



「彼女の言葉に嘘は感じられなかったけど、だからこそ彼女を信用しすぎるのは危険ね。上の判断には責任が持てないと言われたようなものだし、帝国がどう出てくるかは彼女からは判断できないわ」


「敵対する気が無い、されど神器を諦める気も無いということじゃからな。今後も接触してくるのは間違いないのじゃ」



 ティムルとフラッタは、キュールさんだけを見て帝国の反応を予想するのは危険だと思っているようだ。



 気さくな態度のキュールさんだったけど、帝国の最終判断に関われないからこその本音トークだった可能性は否定出来ないよね。


 私は友好的に接してもらったと報告したけど、上層部は耳を貸さなかったんだーって言えば嘘にはならないし。



 う~ん……。やっぱベーキングパウダーが無いと膨らまないよなぁ。


 何かで代用できた気はするんだけど……流石に覚えてないや。



「でもさっ。彼女と接触できたのは幸運だったんじゃないかな? 組織レガリアに残っていた資料とか、レガリアを壊滅させた今となっては探すのは難しいと思うし」


「リーチェの言う通り、キュールさんの知識には興味がありますね。聖域の樹海に関する情報も残されていた可能性もありますから」



 リーチェとヴァルゴは知識面から、キュールさんとの接触を歓迎しているようだ。


 職業浸透の話に始まって、この世界では正しい知識が失われがちだからね。情報操作をしていた大本であろう組織レガリアに残されていた情報は、確かに俺も興味がある。



 背中から抱きついてきて、肩越しに俺の手元を興味深そうに観察するリーチェと、簡単な手伝いをしてくれるヴァルゴ。



 ニーナ達が食堂で待機しているのは炊事場が狭いせいです。


 これがもし別荘の広い炊事場での調理だったら、6人でワイワイ言いながら調理してた気がするよ。



「フラッタも言っている通り、今後もキュールさんからのコンタクトは続くと見ていいだろうね」



 キュールさんとの出会いは良いものだったと思うし、個人的に交流を続けるのは歓迎だ。


 けれど彼女と関わるという事は、帝国側と神器を奪い合うという事に繋がる。油断は出来ないよなぁ。



「識の水晶の所有者は簡単に出歩けない人みたいだし、恐らく俺達のほうが帝国に足を運ぶ事になりそうだ」


「いいねっ。帝国に旅行! 去年までは家の周りしか知らなかったのに、今ではもうどこにだって行けちゃうのっ」


「私も帝国には行ったことがないから楽しみだわぁ。移動魔法の使いにくい行商だと、マグエルからヴェルモート大陸までは遠すぎるのよね。大きな盗賊団も多かったしさぁ」



 神器なんてどうでも良いとばかりに、はっきり旅行と明言してはしゃぐニーナとティムルお姉さん。



「確か今までは、王国と帝国はあまり交流が無かったと思うのじゃ」


「へぇ? 隣国同士だから交流は盛んだったのかなって思ってたけど、そうでもないんだ?」


「無論、多少商人は行き来しておったのじゃろうがな。帝国も王国も、自国にあるアウターで問題なく成り立っていたのじゃろう」



 フラッタが貴族教育の中で得たっぽい知識を披露してくれる。


 自国内で生産活動が完結しているなら、他国に助けや儲けを求める意味はないもんね。



「リーチェは帝国にも行ったことがあるんでしたっけ。王国と比べてどうでしたか?」


「んっ……、そうだねぇ。ぼくの印象は王国も帝国もさほど変わらないかな? あまり積極的に人と関わってこなかったのも悪いんだけど」



 ヴァルゴの問いに、あまり参考に出来ない返答をするリーチェ。


 そんなリーチェを見ていたら、以前リーチェに聞いた話を思い出した。



「ヴェルモート帝国には海があるんだっけ? この世界の人達は海に入って遊んだりはしないのかな?」



 せっかくの流れなので、この世界の海事情について聞いてみる。



 ぶっちゃけ海水浴にはさほど興味は無いんだけど、みんなに水着を着てもらいたい気持ちは物凄く強い。


 そして別荘生活で知った、青空の下での解放的な肉体交流。



 ……うんっ。海でヤることなんて1つしかないなっ!



「そうだねぇ……海の中に入る習慣は無いかな? 海には海特有の野生動物がいるって聞いたから」


「海専用の野生動物かぁ……」



 リーチェの言葉を聞いてどんよりとしそうになる気持ちを、みんなの水着姿を想像することで紛らわせる。



 地球上での法則がこの世界にも適用される保証は無いけど、向こうでは基本的に陸上よりも海中の生物のほうが巨大だったと思う。


 この世界では陸上にマウントサーペントのような巨大生物が跋扈している事を考えると、海の底にはどんな巨大生物が生息しているか分かったものじゃない。



 魔法やスキルが効かない野生動物の危険を排除できない限り、この世界で海水浴を楽しむのは難しそうだな。



「これで失敗作なのぉ? ダンの居た世界って、美味しいものが本当に沢山あったのねぇ?」



 個人的にはモサモサしすぎているように感じるドーナツも、美味しそうに頬張ってくれるティムルお姉さん。


 完成した焼きドーナツモドキをみんなに振る舞い、みんなと一緒にドーナツモドキとフラッタのお茶を楽しんだ。



 軽食の後は探索から帰ってきたムーリ、ラトリアたちとも合流して、寝室での大運動会が開催される。


 その結果、帰宅したチャールとシーズを俺1人で迎える羽目になってしまった。



 帰宅した2人に夕食を振舞いながらキュールさんのことを話してみると、予想通りに興味津々の様子だ。



「へぇ、大人の歴史学者なんていたんだっ? うん、勿論会ってみたいっ」


「俺も会ってはみたいけど、こっちから提供できる情報は殆ど無いぜ? がっかりさせる事にならなきゃ良いけどさぁ」


「こっちから提供できる情報に関しては心配要らないよ。キュールさんも2人に会いたがってたし、帝国に行かなきゃならなくなったら2人も連れて行くってことで問題ないかな?」



 もっちろん! と元気に頷いてくれるチャールと、少し不安げに頷きを返すシーズ。



 意外とシーズは気を遣うタイプなんだよなー。


 でも始まりの黒と2つの神器の公開、加えてトライラム様エルフ説も提供したわけだし、がっかりどころか払い過ぎなくらいだと思うんだよ?



「そうと決まったら出来るだけ職業浸透も……って、そうだダン! 発光したよ! 私達の分も発光したのっ!」


「落ち着け、落ち着けってチャール。それじゃ伝わらないっての」



 突然思い出したように騒ぎ立てるチャールと、そんなチャールを冷静に宥めるシーズ。


 俺に何かを伝えたいことは分かるんだけど、興奮して言葉にならないみたいチャールに変わって、シーズが説明してくれる。



「今日、俺達が持ってた魔玉が光ってさ。2人揃って転職してきたんだ」


「え、マジで!? 2人ともおめでとっ」


「おうっ、サンキュー! でさ。今回は2人とも、訓練に有利になるっていう旅人に転職してきたんだぜ」



 シーズが自分のステータスプレートを見せながら、旅人に転職したことを報告してくれる。


 早いなぁ……って思ったけど、トライラムフォロワーの協力があれば浸透も進むか。



 2人とキュールさんを合わせることも決まったし、ヴェルモート帝国からのファーストコンタクトはこれで一旦終了かな?


 また何か新しいことが起きそうな気配がして仕方ないけれど、何が起きても大丈夫なように万全な体勢を整えるとしよう。



 ヴェルモート帝国と、識の水晶の所有者か。


 今のところ分かっていることは殆ど無いけれど、いっそ始界の王笏と呼び水の鏡を譲っても大丈夫な相手であることを期待したいねぇ。

※ちょっぴり補足

 冒険者ギルドのお姉さんの話は127「国内アウター」での話です。

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