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【全年齢版】異世界イチャラブ冒険譚  作者: りっち
6章 広がる世界と新たな疑問2 世界の果て
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406 お披露目会

「では行こうか。私の権限で立ち入りは許可できたが、時間はあまり取れんからな」



 巨大な始黒門が開き切るのを待たずにゴブトゴさんは歩き出す。



 ってあれ? この門って確か王族に連なる者しか開閉できないんじゃなかったっけ?


 もしかしてゴブトゴさんって、スペルディア王族の血を引いてたりするわけ?



「そんなわけなかろう。私は管理者として特別に許可されているだけだ。王族の方々にアウターの管理など到底不可能だからな」


「「「あ~……」」」



 ゴブトゴさんの言葉に、この場の全員に理解と同情の念が広がっていく。


 本当にこの人苦労してるな。その割に報われないあたりが泣けてくるよ……。



「王族の代わりに国政の一切を取り仕切ってるなら、もういっそゴブトゴさんが王様にでもなっちゃえば?」


「そんなものに興味は無いな。王家の面々を見てきた私からすると、それは何の魅力も無い提案だ」



 今まで見てきた王族を反面教師にすればいいのにぃ。

 

 でも王様になんてなりたくない人だからこそ、国の為に身を粉にして働けるのかもしれない。



「そう言うダン殿こそ王になる気はないのか? 神器の所有者でもあるのだろう?」


「勘弁してよ。そんな面倒臭そうなもの引き受ける訳ないでしょっ?」


「だろう? 今の言葉をそっくりそのままダン殿にお返しするよ」



 ぐっ……! なかなかの切り返しだなゴブトゴさんっ。


 ……ってみんなも笑ってんじゃないってば! まったくもう。



 これ以上口を開くと薮蛇にしかならなそうなので、もう黙ってゴブトゴさんについていこう。


 

 以前来た時は見れなかった扉の向こう側には、白く発光する魔法陣があった。これが入り口か。


 どうやら始まりの黒は、転移して潜入するタイプのアウターらしい。



「立ち入りは私が最初で、出るのは私が最後とさせてもらう。ではついてきてくれ」



 躊躇いなく魔法陣に進入したゴブトゴさんの姿が消える。


 ポータルを使った時みたいだな。転移魔法陣は移動魔法みたいなものだと思えばいいのか。



「ダンさんっ。宰相殿を待たせちゃいけないよっ。私たちも早く行こうっ?」


「あ、そうだね。てかキュールさんは俺を待たずに入ってくれても良かったのに」


「無いとは思うけど、私が入った後にダンさんが立ち去っちゃったら神器が見れないからねっ。ダンさんの進入も見届けないと気が気じゃないんだよっ」



 キュールさんが俺を待っていてくれた理由が自分本位過ぎて、いっそ清々しいな?



 さて、ゴブトゴさんも先行してることだし危険は無いだろう。


 早く入りたくてウズウズしているキュールさんと共に、転移魔方陣に足を踏み入れた。



 魔方陣に足を踏み入れた瞬間、魔法陣の外の景色が一変する。


 俺の体は転移したような感覚を覚えなかったけれど、間違いなく転移したらしい。



 転移魔法は対象者を転移させる魔法だけど、転移魔法陣は異なる空間同士を繋いでいるっていうイメージなのかなぁ? 不思議なもんだ。



「こここ、ここが限られた者しか立ち入ることを許されないアウターの内部……!!」



 目を燦々と輝かせて、忙しなく周囲を見回しているキュールさん。


 流石に彼女ほどではないけれど、俺も家族のみんなも思わずきょろょろと周囲を見回してしまった。



 魔法陣の外には、まるで人工的に作られた遺跡のような景色が広がっていた。



 邪神ガルクーザの血溜りから自然発生したルイン型アウターと言う割には、アウター全体が仄かに発光していてなんだか神聖な感じがするな?


 床や壁は石が敷き詰められていて、芸術性すら感じさせる。



「ここがスペルディア王家が管理するアウター『始まりの黒』だ。今回は特例中の特例で進入を許可したが、これ以上進むのは遠慮して欲しい」



 興味深げに周囲を見渡す俺達に、先に入っていたゴブトゴさんが釘を刺してくる。


 心配しなくてもゴブトゴさんを蔑ろにする気はないってば。



「そんな場所に入れてもらえるなど光栄の極みだねっ! いやぁダンさんに会いに行けと言われた時にはどうなることかと思ったけど、これぞまさに役得って奴だねぇっ!」



 そんな俺の横でテンションマックスのキュールさん。


 ……確かにこの様子を見ると、ひと言釘を刺したくもなるかな?



 キュールさんの喜びように警戒する必要は無いと判断したのか、フラッタがキュールさんに質問する。



「キュール殿はあまり戦えるようには見えぬのじゃが、アウターに入るのに抵抗は無いのかのう?」


「ああ、仰る通り私には戦闘能力は皆無だけどね。この世界の歴史とアウターの存在はどうしても切り離せないんだ。だから護衛を頼んだりして普段から中に入らせてもらってたりするね」



 この世界の歴史とアウターの存在は切り離せない。


 それはこの世界の生活はドロップアイテムによって成立しているという意味での言葉なのだろう。



 トライラム様が職業の加護を与える前の世界でだって、スキルを使って加工こそ出来なかったとしても、ドロップアイテムが生活の根幹であったであろうことは疑いようもないからな。



「……ん? ちょっと待てよ……?」



 トライラム様が現れるまで、職業の加護は存在しなかった?



 つまりランダム転職が可能なフォアーク神殿も、トライラム様が現れてから建設された施設って事になる……よな?


 ってことはランダム転職魔法陣も、人が何らかのマジックアイテムを用いて設置した可能性が微粒子レベル……いや結構な確率で存在してないか?



 サークルストラクチャーの製法を教えてもらえれば、そこから逆算して正解を導き出すことも可能かもしれないけど……。


 もしフォアーク神殿の転職魔法陣の原理が判明しても、厄介事にしかならない気はする。



 だけど過去にもガルクーザのせいでフォアーク神殿が使えなくなったこともあったらしいし、ランダム転職魔法陣がフォアーク神殿1ヶ所にしか無いのって危うい気もする。


 ランダム転職魔法陣を広めてしまうと各種ギルドの必要性が変わってくるし、単純に広めていい話でも無いかもしれないけど……。



 まぁいいか。こんなの俺が考えるべきことじゃないだろう、うん。



 それよりキュールさんって、ノーリッテの研究に付き合わされてたんだよな? なら始まりの黒にも出入りできたんじゃないの?


 アポリトボルボロスって始まりの黒で遭遇したって言ってたし、ノーリッテがここに自由に出入りしていたのは間違いないハズだ。



「組織レガリアは普通に始まりの黒にも出入りしてたみたいなのじゃが、キュール殿は中に入ったことは無かったのじゃ?」


「そうだね。レガリアに与していたとは言っても、私の場合はメナスに個人的に協力していたに近い。組織としての恩恵はあまり受けられなかったかな? メナスは護衛などしてくれる気は無かったしね」



 俺の疑問をフラッタが代弁してくれたけど、ノーリッテなら面倒臭いのひと言で護衛とかスルーしそうだ。


 イントルーダーを召喚する手掛かりが手に入る確信でもない限り、アイツは人の都合では動かなかったんだろう。



 さて、始まりの黒に入れてもらったのはいいけれど、探索する許可が下りないなら長居は無用だ。



「それじゃキュールさん。ゴブトゴさん。心の準備はいいかな? 神器のお披露目に移りたいんだけど」


「あー……! もっと始まりの黒を見ていたいけれど、神器も早くこの目で見てみたいっ……! だけど神器を見たら撤収だよねっ!? くぅぅぅ!」


「キュール殿には申し訳ないが、許可の無い者にあまり長居されると面倒事に発展しそうだ。頼めるか」



 悩ましげに頭を掻き毟るキュールさんを華麗にスルーして、神器の確認を促してくるゴブトゴさん。


 ゴブトゴさんの言葉を聞いたキュールさんも異論は無いのか、ちょっと残念そうにしながらも俺に頷きを返してくれた。



「それじゃ1つずつ取り出すね。まずは始界の王笏から」



 言いながら無詠唱でインベントリを発動し、光り輝く王笏を取り出す。


 その眩い光は始まりの黒の淡い明るさなど軽く凌駕して、周囲を明るく照らし出した。



「ここここここれがっ……!? これが始界の王笏っ……!? 記録の通り……いやそれ以上に、本当に太陽の如き輝きを放っているんだねっ……!」


「この強い光、ダン殿が魔力を込めているわけでもなく、杖自らが放っているものだというのか? 俄かには信じられんな……」



 あまりの輝きに、みんなは腕を上げて光を遮った。


 ってかおかしいな? ノーリッテが持っていたときよりも明らかに光が強まってるぞ?



「メナスが持っていた時はここまでじゃなかったんだけどな? 王笏を翳されても視界が阻害されるようなことはなかった覚えがあるし……」


「……ダンさんの手に渡って輝きを増した? いや、本来の輝きを取り戻したと言うべきなのか?」



 キュールさんが光に目を閉ざされながらもブツブツと呟いている。



 本来の輝きとか勘弁してよぉ……?


 早いところペネトレイターに引き取ってもらわないと、本格的に厄介事に発展しそうだわぁ。



「それじゃ始界の王笏はこれでいいかな? これ以上出してても良く見れないでしょ?」


「そうだな。私としてはさっさと仕舞って欲しいところではあるが、キュール殿はどうか?」


「………………そうだね。仕舞ってもらって構わないよ。その存在感、真贋を問うのも馬鹿馬鹿しいほどだしね」



 キュールさんはかなり悩ましげに、始界の王笏のお披露目の終了を受け入れてくれた。


 というか、真贋を問うなら武器職人でも連れて来れば良かったのに。そこまでしたら失礼にあたるとでも思ったのかな?



 まぁいい。目が悪くなりそうなのでさっさと収納。入れ替わりに呼び水の鏡を取り出す。



「ほい。こっちが呼び水の鏡ね」


「かかか軽ぅっ!? 神器をそんなに雑にぃっ!?」



 呼び水の鏡の扱いに悲鳴をあげるキュールさんはスルーしよう。


 前所有者のノーリッテなんか旧開拓村跡に無造作に放置してたんだから、アイツに比べりゃまだ丁重に扱ってるだろ。



「この通りアウター内だと普通の鏡だけど、アウターの外で取り出すと周囲がアウター化するほどの魔力を放ち続けるんだ。アウター化に関しては移動魔法で検証したから、まず間違いないと思うよ」


「なるほど、移動魔法ならアウターか否かの検証は容易いか。通常空間がアウター化するなど、これも俄かには信じがたい話だが……」



 慄くゴブトゴさんとは対照的に、俺の持っている神器に食い入るように見入るキュールさん。



「通常空間がアウター化するなんて……。邪神ガルクーザの血からこの始まりの黒が発生したことを考えれば、膨大な魔力さえあれば可能なことなのだろうが……」



 始界の王笏を見せた時と違って、難しい顔をして腕を組むキュールさん。


 始界の王笏と比べれば見た目のインパクトは弱かったかもしれないな?



 なんて暢気なことを考えていたのは俺だけだったようで、キュールさんはちゃんと真剣に悩んでいたようだ。



「邪神を生贄にしてようやく起こったアウターの発生。それを無限かつ無制限に行えるだなんて……。まさに神の秘宝と呼ぶに相応しい代物だね……。ある意味始界の王笏よりもよほど危険なんじゃないかな……」


「んー、そんな危険なもの、昔の人はどうやって管理してたの? アルフェッカってアウターだったわけじゃないんでしょ?」



 キュールさんの言葉を聞いて、この場にそぐわない暢気な声でニーナがリーチェに問いかける。



「う~ん。当時のぼくはまだ子供だったし、あまり詳しくは知らないんだ。でも普通に考えたら誰かのインベントリに仕舞ってあったんだろうね。だからこそ紛失に気づけなかったんだと思う」


「まさに今ダンが収納してるようにってことだね。でもそんな危険なもの、所有権を巡って争ったりしなかったのかなぁ?」


「ごめん、そこまでは分からない。ただ神器の争奪戦なんて起きた記憶はないから、何らかの方法で所有者を円満に決定していたんだろうね。エルフェリアに行けば知っている人もいるかも?」



 旧アルフェッカって、本当に平和で理想的なコミュニティだったんだなぁ。


 しかし、エルフェリアに当時のことを知っている人が残っているかはちょっと微妙だ。



 いくら当時子供だったとはいえ、王族であるはずのリーチェですら知らないことを、一般のエルフが知っているとは思えない。


 そして代表に近しいエルフ達の多くは、偽りの英雄譚の騒動によって命を落としているわけだからなぁ。



 可能性があるとしたら……、ライオネルさんあたりだろうか?



「呼び水の鏡を持ち去った魔人族たちは、呼び水の鏡の性能をきちんと把握していたのでしょうねぇ。だから聖域の樹海に篭り、世界のアウター化を未然に防いだと」


「そう、ね。この世界はアウターで成り立っていると言っても過言じゃない。偽りの英雄譚をでっち上げた人間に呼び水の鏡が渡れば、悪用の末に世界がアウターに沈んでしまうかも知れない……。そんなことを想定したのかもしれないわ」



 己の先祖に想いを馳せるヴァルゴと、呼び水の鏡の危険性に小さく体を震わせているティムル。



 アウターの占有がどれ程の富と権力を生むのか、それはもうガレルさん然り、スペルディア然り、ヴァルハール然りって感じだ。


 欲望に塗れた人間の手に呼び水の鏡が渡ってしまえば、新しいアウターが乱立してしまっていてもおかしくなかった。



 実際にノーリッテが新たなアウターを生み出しかけていたわけだしなぁ。


 ……本当に扱い辛いな、神器レガリアって。



「ダンさんありがとう。仕舞ってもらって構わないよ」



 今度またエルフェリアに行こうなんて考えていたら、意外にもキュールさんの方から仕舞う許可を出された。



「あら、随分あっさりしてるね。もういいの?」

 

「アイテム鑑定は行えないけど、少なくとも私には本物に思える。今はそれで充分だ。今の私にこれ以上出来る事はないね」



 そっか。この人は別に神器の奪取を命じられてるわけじゃなかったんだっけ。


 今は真贋さえ見極められれば充分、あとは識の水晶の所有者次第ってわけか。



 ゴブトゴさんももう充分ということなので、物騒なものはさっさと収納してしまう。



 呼び水の鏡を収納すると、ふっと小さく笑うキュールさん。



「まさか私のような何の力も無い人間が、3つのレガリア全てを目にした唯一の人間になるとはねぇ。人生ってのは本当に読めないものだよ」


「人生は読めない、か。全く同感だな。まさかこの歳になって、腐りきっていた王国が変わっていくのを目の当たりに出来るとは。長生きはするものだ」



 キュールさんの言葉に同意を示した割に、微妙に噛み合わないことを呟くゴブトゴさん。


 だけどその顔はなんだか嬉しそうだ。



 ゴブトゴさんって仕事も出来る熱血漢なんだろうけど、だからこそ人を疑うのが苦手な印象がある。


 だから組織レガリアにいいように飼い殺しにされていたんだろうね。



 スペルディア王家という特大級の癌が取り除かれた今、スペルド王国の未来は明るいのかもしれない。


 少なくとも、国のためを思って働くゴブトゴさんの足を引っ張る奴は居なくなるはずだ。



 王様になる気なんか無いみたいだけど、宰相としてこの国を支えていって欲しいね。



 しかし……。ゴブトゴさんが王様になる気がないなら、次の王様ってどうなるんだろうなぁ?


 既に空位の期間が結構続いてる気がするけど……。



 この長い王の不在でも問題なく国が運営されているあたり、シモン陛下って本当に無能だったんだなぁ。

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