390 幻滅
※R18シーンに該当する表現を若干カットしております。
当時ターニアとニーナを受け入れられなかった事情を吐き出せたレオデックさんと、その事情を正面から受け止めて見せたニーナ。
辛い思いを吐き出した先にレオデックさんが見たのは、穏やかに笑う孫娘の力強い笑顔だった。
和やかな場の雰囲気を感じて、ニーナに抱きしめられているターニアも少しずつ落ち着いてきたようだ。
「ターニアは良い娘を育ててくれたみたいだね。私も祖父として誇らしい気分だよ」
「……ん~。ニーナがこんなにいい娘になってくれたのは、私よりもダンさんのおかげって気がするけどぉ……」
いやそんなことないよターニア。俺と出会った時、既にニーナは誰よりも優しい女の子だったってば。
グラフィム家の語らいに口を出すのは野暮ってもんだけどさぁ。
ニーナの平らな胸から抜け出したターニアは、レオデックさんを正面から見据え、そして深々と頭を下げた。
「お父様。お転婆で不束な娘でごめんなさい。いっぱい迷惑をかけちゃったけど、見ての通りニーナともどもすっごく幸せな日々を送っているの。だから心配しないでね?」
頭を上げたターニアは、レオデックさんに向かって柔らかく微笑んだ。
そのターニアの笑顔を見て、滂沱の涙を流すレオデックさん。
「こんな日が……、またお前と笑って話せる日が来るなんて夢のようだよ……! 去年お前の死を知らされてから、過去の己をどれだけ後悔したことかっ……!」
「あ、あれ……? 父さん、知っていらしたんですかっ……!?」
泣き続けるレオデックさんと、情報の握り潰しに失敗していたことが発覚してアタフタしているラスティさん。
そりゃまぁ領主だしラスティさんだけが情報源じゃないよなぁ。
慌てるラスティさんを笑いながら、ニーナと2人で一緒に立ち上がるターニア。
「ねぇお父様。せっかく帰って来たんだし、お父様にぎゅーってしてもらいたいなぁ? 出来たらニーナのことも抱きしめてあげて欲しいの、お爺様にっ」
「もちろんっ、勿論いくらでも抱きしめてあげるさっ……! ああっ、でもちょっとだけ待ってくれるかいっ……? 涙が止まらなくてっ……! ああもうっ、お前達を泣きっ面で抱きしめたくないのっていうのにっ」
席を立ちながらもなかなか涙が止められず、何度も涙を拭うレオデックさん。
そんな彼の姿を見ながら、ターニアがからかう様な口調で俺に言う。
「ダンさんごめんね? 貴方のお嫁さん2人を別の男に抱きしめさせちゃって。あとでいっぱいお仕置きしてくれていいから、今だけ許してくれる?」
「ははっ、流石に父親とお爺さんにまで嫉妬しないってば。存分に甘えておいで2人とも」
「うんっ。ありがとうダンっ! 今夜は好きなだけ玩具にしてくれていいからねっ」
やめんかこの母娘はっ! この場面でエロいことを口走るんじゃありませんっ。
「ねぇねぇレオデックさんっ。おじいちゃんって呼んでもいいの?」
「ももも勿論だともぉっ! さぁおいでニーナ、ターニア。おじいちゃんがぎゅーっとしてあげるからねっ」
孫娘のおじいちゃん発言は破壊力抜群だったようで、涙が一瞬で引っ込んだレオデックさんはデレデレの顔になって両手を広げた。
「お父様、ただいまぁっ」
「おじいちゃん、これからよろしくなのっ」
勢い良くレオデックさんの胸に飛び込むニーナとターニア。
その2人をしっかりと抱きしめて、愛おしそうに頭を撫でるレオデックさん。
「こんなに家族を愛する人から娘さんを預かるんだ。俺ももっともっと気合入れねぇとな……!」
耳に届いたフロイさんの呟きがなんだか印象に残った。
でも、その言葉にまたメロメロになってるラスティさんが気になって仕方ないんだよ……?
3人は暫く抱き合ったあと、話の続きをするためにと腰を下ろした。
レオデックさんは膝の上にニーナとターニアを乗せているので、獣爵家当主としての威厳が完全に消滅したデレデレ顔になっている。
性欲を感じさせないデレデレ顔って、見てる方も笑顔になっちゃうよなぁ。
「改めてダンさん、フロイさん。娘と孫をこれからもよろしくお願いします。2人のことだから何も心配してないけど、もっともっと娘達を幸せにしてくれたら嬉しいね」
「いやぁ幸せにされてるのは俺達のほうだけどね。ま、一緒に幸せになっていくつもりだよ」
「はっ! ダンの言う通りだな。領主様の娘さんに幸せにしてもらってるのはこっちの方です。これからも一緒に幸せになっていくとお約束しますよ」
頭を下げ合う男3人。
だけどそれぞれに女性がくっついているから、どうにもサマにならないな?
「そうそう、新しい開拓村……アルフェッカといったかな? あそこもダンさんが関わっているそうだね」
「お、耳が早いね。関わってるって言っても、もう殆ど俺の手を離れてる感じだけど」
「ははっ。カルフィス家と違って、全く野心なんて無いんだねぇ? ともかく、ステイルークとももっと密接に連携させてもらえるとありがたいよ。侵食の森に入るのも容易になるだろうからね」
開拓村再建と聞いた時はカルフィス家の残党でもいたのかと思って肝を冷やしたけれどね、と笑うレオデックさん。
ニーナとターニアのおかげで、もう箸が転がっただけで笑いそうな勢いだ。
そんな和やかな雰囲気のレオデックさんのおかげで、いつの間にか敬語を止めていた事に気付かなかったよ。
「ステイルークと連携するのに異論は無いですけど、あそこはまた変わったアウターなんだよねぇ……」
アルフェッカの先に広がる聖域の樹海は、スペルド王国全体で見ても最大規模のアウターだ。
だからあそこで大量のリーパーが活動するのは問題ないと思うけど……。そのせいで守人の集落の秘匿性が失われるのは問題かなぁ?
「その辺どう思う? ヴァルゴ」
「そうですね。直ぐには無理でも、将来的に守人の集落まで魔物狩りが来るのは間違いないでしょう。ですがレリックアイテムを守護しようという守人達が、いつまでも逃げ隠れしているのも違うと思うんですよ」
今のままでは何も守れないと知った守人たち。
隠れ住んでいるだけでは、逃げ回っているだけでは何も守れないと腹を括ったようだ。
「それに、守人たちは王国を自由に歩き回っているのに、守人たちの方だけ排他的というのも格好がつきませんからね」
「あーそっかぁ。格好以前に、もう守人たちは王国内で周知されつつあるんだ。隠れ住むのは既に難しくなってるんだね……」
「ええ。逃げ隠れするのはもう止めです。勿論各集落の住人とも話し合わねばなりませんが……。これからは王国の魔物狩りたちとも積極的に交流していくべきだと、私は思っておりますよ」
うん。確かにもっと積極的に交流したほうがいいとは思う。
交流を絶った結果、守人たちは職業の加護を失ってしまったわけだしね。繰り返すわけにはいかないよ。
だけど、秘匿性が失われるほどにレリックアイテムの守護は難しくなると思うけど、平気なのかな?
「いやいや。現状管理できているのは聖域の樹海だけで、我等が管理すべき神器レガリアは旦那様が所有したままではないですか。少なくとも近い将来問題が起こるとは思えませんよ?」
「……そうでしたねー」
守人の連中、神器レガリアを受け取ってくれないんですよね。
既にアウターエフェクトくらいなら余裕で撃退できるのに、ノーリッテのせいでイントルーダーの危険性に気付いちゃった守人たちは、まだまだ力不足ですと言って神器を受け取ってくれないんすよー。
ま、直近で問題が起きそうにないなら保留でいいのか。
問題が起きないうちに交流してみて、色々お試ししながら体制を整えていけばいい。
「守人たちも問題なさそうだし、王国民が聖域の樹海に潜りやすいように少し環境を整えようか」
「そうだねー。聖域の樹海は特に大規模のアウターだから、得られる資源もスポットとは比べ物にならないもん。遊ばせておくのは勿体無いよっ」
ヴァルゴの反対側から抱き付いているリーチェが、スポットと比較しながら俺の意見に賛成してくれる。
あ、そうだ。スポットとの違いと言えば……。
「レオデックさん。聖域の樹海って視界が確保出来ないんだよ。だから支援魔法が無いと奥に進むのは危険だってこと、周知徹底して欲しいかな」
「ふむぅ……それは非常に面倒な問題だねぇ……。支援魔法の使い手なんて殆ど居ないし……。クリアリングだって安くないから……」
アルフェッカとの連携は前向きなのに、肝心のアウターの探索が難しいと聞いて、悩ましげに唸るレオデックさん。
クリアリング……って、どっかで聞いたな?
確かフラッタと竜王のカタコンベデートをした時に、照明魔法の代わりにアウターで視界を確保できるマジックアイテム、みたいに紹介されたんだっけ?
ああ、クリアリングで視界さえ確保できれば、屋外型アウターの聖域の樹海にはトラップも無いし、むしろ安全に魔物狩りが可能かもしれない。
支援魔法士を一気に増やすは無理でも、マジックアイテムなら直ぐに用意できるでしょ。
「それじゃ、クリアリングはアルフェッカの冒険者ギルドあたりで有料で貸し出そう。利用者が多ければ余裕で回収できるでしょ。支援魔法士が増えれば、多分将来的には需要が無くなっていくだろうしさ」
「クリアリングも結構なお値段だよー? でもまぁ今後は支援魔法士も増えていくなら、そんなに数は要らないのかなぁ?」
お、リーチェもクリアリングの知識はあるのね。
そう言えばリーチェって支援魔法士は浸透してなかったもんな。一人旅の間はあまりアウターの攻略はしなかったって言ってたけど、腕を磨くためにもアウターに出入りすることはあったんだろう。
俺達の話を黙って聞いていたフロイさんは、少しワクワクしたような表情で笑っている。
「へへ。侵食の森に入りやすくなれば俺の職業浸透も進めやすくなるってもんだぜっ……! あ、ダンよ。1つ聞いていいか?」
「ん? なぁにフロイさん?」
「お前、色んな職業を浸透させてんだよな? だからアドバイスが欲しいんだよ。この前ラスティから浸透の説明はされたんだけどよぉ。この先もステイルークを守っていくにゃあ、騎士の次には何になりゃいいんだ?」
ああ、流石にラスティさんも職業浸透の知識はあったのね。獣爵家令嬢なんだから当たり前か。
フロイさんには、魔玉が10個発光したら騎士の浸透が終わると教えてあげる。
そして騎士の次は旅人を上げて、インベントリと持久力補正を獲得。その次は商人を上げて行商人まで上げることをお勧めしておく。
「フロイさんに戦闘職はもう充分に浸透していると思う。だから日常生活でも効果の大きい行商人、移動魔法の使える冒険者、探索者の浸透を目指すのがいいんじゃないかな」
「へぇ~。旅人のインベントリは分かるけど、行商人かぁ~。まさかステイルークを守る為に戦闘職以外の職業を薦められるとは思ってなかったぜぇ?」
感心したように目をパチクリさせているフロイさん。
その動作は、出来ればお隣の奥さんにやってもらいたかったんだよ?
騎士の次に聖騎士になってもらっても良いと思うんだけど、聖騎士の転職魔法陣は存在してないみたいだからね。
それに戦闘職だけを突き詰める危険性は、ルーナ竜爵家夫妻が身をもって証明してくれたからなぁ。
「それと近いうちにマグエルとアルフェッカに、マインドディプリートっていう、簡単に言えば魔法使いになる為のマジックアイテムを設置する予定なんだ。だから魔法使い系の職業浸透も視野に入れるといいよ」
「マジかっ!? 平民の俺が魔法使いになれんのかよっ!?」
「マ、マインドディプリートを一般に公開するっていうのかい……!? そんなのスペルディアの連中が黙っているはずが……!」
「いや? 既に宰相殿には許可を取っているからね。国王も死んだばかりで誰も文句を言う人なんかいないよ」
魔法使いになれることを単純に喜ぶフロイさんと、マインドディプリートを機密情報として扱ってきたレオデックさんの反応は実に対照的だ。
邪魔してきそうな相手としてロイ殿下とラズ殿下が思い浮かんだけど、あの2人ならドロップアイテムの産出量が増えることを喜ぶだろ。
攻撃魔法の使い手が増えれば、職業の浸透速度もドロップアイテムの産出量も跳ね上がるはずだ。
これからベビーブームみたいなことが起こっても、恐らくは問題なく対応できるはず……。
「……って、やばい……! 今まで気付かなかった……!」
殲滅力が上がったリーパーたちが大量に最深部に押し寄せれば、普通にアウターエフェクトが起こるんじゃないのか!?
魔物察知が無くても、造魔スキルでイントルーダーまで出現させたノーリッテだっている。
察知スキルを物量で補うことは可能なはずだ。可能であると、既に証明されてしまっていたのだ……!
「……旦那様?」
「ダン~? 1人で悩むのは無しだよー?」
「あ、うん。家に帰ったらみんなと相談するよ。ありがとう2人とも」
心配そうに俺を覗きこむリーチェとヴァルゴの頬にキスをして、家族に相談する事を約束する。
アウターエフェクトやノーリッテの話を、家族以外の人とするわけにはいかない。この話は後回しにするしかないだろう。
気を取り直して、別の話題が無いか記憶を掘り返す。
「あっ、そうそうレオデックさん。どうしてレオデックさんはガレルさんとターニアの交際を強く否定したのか、改めて教えてくれないかな?」
「っ! そ、れは……!」
「フロイさんや俺をあっさり受け入れた割に、ガレルさんのことは今でも許してないようにも見えたのが不思議でさ。なにかガレルさんだけの事情があったのかなって」
「そ、それは……。その、なんて言うか……」
俺の問いかけに、分かりやすく動揺するレオデックさん。
かと思えば膝の上のニーナとターニアの顔を見て、なんだか苦しそうに表情を歪めている。
……つまり、この2人には聞かせたくない事情でもあるの?
「おじいちゃん。私達なら大丈夫。ダンの質問に答えて欲しいの」
「……ニーナ。だけどあの男は……」
「父さんの裏の顔は嫌ってほど見てきたから、今更なにを聞かされたって平気なの。だから聞かせて? おじいちゃんっ」
父殺しを受け入れたニーナの強い眼差しを見ても、まだ迷うように視線を泳がせるレオデックさん。
そんなレオデックさんからただならぬ様子を感じ取ったターニアも、ニーナと一緒に懇願する。
「……お父様? ガレルにはまだ私の知らない何かがあるの? あるんなら教えて欲しいのっ」
「……ん、分かった。話そう」
娘と孫娘から見詰められ、観念するように息を吐いたレオデックさん。
そのままニーナとターニアの背中を押して、優しく2人を立たせる。
「話すから、2人はダンさんのところに行きなさい。お前達にも関わる話を、お前達を膝の上に乗せたまま話すわけにはいかないからね」
「ん、了解なのっ。ごめんねリーチェ。ダンを譲ってくれるー?」
「あはっ。勿論だよニーナ。だけど代わりにダンを抱きしめるのは許してねーっ」
リーチェとヴァルゴが俺から少し身を離し、ニーナとターニアの収まるスペースを空けてくれる。
ニーナとターニアが俺の腕の中に収まり、更に外側からリーチェとヴァルゴが抱き付いてくれたを見て、レオデックさんが静かに語りだす。
「ガレルが孤児だというだけなら、私だってあそこまで強硬に反対はしなかったんだがね……。出自以上に問題だったのが、彼の素行なんだ」
「素行……?」
ガレルさんの問題は素行だった?
確かにターニアを始めとして、自分が成り上がるために沢山の人を利用していたとは聞いているけど……。
この世界的には、成功者こそが正義なんじゃ?
「2人を捨てて5人も妻を娶っていたとは、本当に変わらないな、あの男は……」
「と、言うと?」
「……単刀直入に言おうか。ガレルがターニアと交際している間に、ガレルと肉体関係に会った女性は……。ターニアとは別に、複数居たんだよ」
「……商売女ってワケじゃなく? 私これでも、男性の性欲には肝要な方だと思うけど?」
剣呑な雰囲気で問いかけるターニア。
っていうか商売女だったら浮気じゃないの? 凄い理屈だなぁ。
「残念だが商売女ではないよ。ガレルと将来を誓い合っていた者ばかりだ。お前と同じ獣炎の眼光のメンバーのチチルも、ガレルとは肉体関係を持っていたそうだ」
「チチルとっ……!?」
チチルという人物がガレルさんと関係を持っていたと聞いて、ターニアが飛び上がりそうなほど驚いた。
この反応的に、チチルという女性はターニアともかなり親しい間柄だったのかもしれない。
「う、嘘でしょうお父様……。いくらなんでも、同じパーティ内で……!?」
「……チチル本人がここに報告に来たからね。自分を選ばず呪われたターニアを選んだガレルのことを捕まえて欲しいとね。まったく、あのパーティの内情は爛れていたようだねぇ」
「そんな……。チチル、貴女ミミスと婚姻してたじゃないのっ……!」
抱きしめているターニアから、あまり詳しく聞きたくない情報が伝わってくる。
学生の頃とか、不良って割とモテてた気がするもんなぁ。
日本じゃチェリーのままだった俺は、彼らの話す会話はそれこそ異世界の話題みたいに思えたもんだ。
孤児でありながら人頭税を払いきった、周囲を振り回す悪ガキか。モテたんだろうね、相当。
「それにガレルが居なくなったあと、ステイルークでは何名か父親不明の孤児が増えたんだ。ここまで言えば分かるだろう? 孤児の父親が誰だったのか」
「…………はぁぁぁぁぁ。ガレルぅ……、貴方どれだけ私を幻滅させれば気が済むのよぅ……」
ぎゅっと俺に抱きついてくるターニアを、俺からも抱きしめてあげる。
俺もターニアと一緒に別の女性を愛しているんだけど、それを後ろめたく思ったりはしない。堂々と愛する女性を抱きしめる。
「レオデックさんが婚姻に反対した理由は痛いほど分かったけど……。それにしたってガレルさんの行動、ちょっとおかしくない?」
この世界ってまさに我が家がそうであるように、一夫多妻は普通のことなんだよ? しかも実際にガレルさんは、後に5人も妻を娶っているわけだし。
誰よりも愛に飢えていて誰よりも家族を欲していたガレルさんが、ターニアに隠れて女遊びをしていたって……、なんでだよ?
人頭税を払いきれる程度に稼げていたんだから、普通にみんな貰っちゃえば良かったのに。
「ダンさん。ガレルにとって女性とは自分の食い物でしかなかったんだよ。なぜかターニアにだけは特別な感情を抱いたみたいだけど、そんなターニアと一緒になっても、奴は女性を食い物にし続けたんだ」
「女性が食い物って……」
複数の女性と将来を誓い合ったのも……全部嘘……。
なんだそれ……。結婚詐欺師かよガレルさん……。
「性欲の捌け口にしただけに留まらず、金銭を要求されて奴隷に落ちた女性までいるんだ。だから奴とターニアとの交際なんて、絶対に認められるはずがなかったんだよ……!」
苦しそうに吐き出すレオデックさん。頭を抱えるターニアに、興味の無さそうなニーナ。
ニーナはもうガレルさんのことを受け止めてしまっているから、過去に何があろうともどうでもいいのかもしれないなぁ。
しっかし、ガレルさんが幸せになれなかった理由が良く分かるよ。
誰かの幸せを食い物にして幸せになろうとしても、どこかにしわ寄せがいってしまうものだからね。そのしわ寄せを解決するくらいの能力がガレルさんには無かったんだろう。
「誰よりも家族と愛を欲していたガレルさん、かぁ」
……馬鹿馬鹿しいね。
他人の愛を利用し、他人の家族を崩壊させてもなんとも思わなかったガレルさんが、自分の家族を正面から愛せるはずなんてなかったんだ。
半端に有能だったから、色んな人に迷惑をかけちゃったんだね。
そんなガレルさんの末路が魔物化して実の娘に討たれるなんてのは、彼に相応しい最期だったんじゃないのかと思えてきちゃうなぁ。
※こっそり設定公開
ガレルがターニアにだけ特別な想いを抱いていた理由はいくつかありますが、最大の理由はターニアがガレルよりも明確に立場が上だったことが挙げられます。
全ての女性は道具であり食い物であると思っていたガレルでしたが、戦闘力、経済力、美貌、人望と、ありとあらゆる面で自分を圧倒的に上回っていたターニアの存在を、ガレルはどうしても見下すことが出来ませんでした。
チチルとミミスは獣炎の眼光のメンバーで、ターニアたち共にステイルークを発つ前から2人は婚姻を結んでいました。
しかしその裏でガレルはずっとチチルとの関係を持ち続けていました。チチルがミミスと婚姻を結ぶ前からの関係で、婚姻を結んだあともその関係は続いていました。
獣爵家の娘ターニアを娶っておきながら他の女性を娶るわけにはいかないなどとチチルを諭したガレルでしたが、婚姻は結べないけどお前を思う気持ちに変わりはないなどと言ってチチルと関係を持ちながら、魔物狩りで訪れた各地でも派手に遊び歩いていたようです。
そういったガレルの二枚舌の振る舞いのせいで、ターニアが呪いを受けてしまったとき、ガレルとターニアに寄り添おうとしてくれる仲間は誰も居なくなっていたのでした。