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【全年齢版】異世界イチャラブ冒険譚  作者: りっち
6章 広がる世界と新たな疑問1 蜜月の日々
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388 獣爵

「ラスティが迎えに来てるはずなの。だから冒険者ギルド前に転移してくれる?」


「了解ターニア。それじゃ行くよー」



 ターニアの指示に従い、ステイルークの冒険者ギルド前をイメージしてポータルを開く。


 ニーナとターニアの生家である獣爵家に向かう為、ニーナとターニアの母娘2人と、俺から離れる気が無いリーチェと護衛のヴァルゴと一緒にステイルークに転移した。



「わわっ。おっきい馬車なのーっ!」



 ステイルークの冒険者ギルド前には大きめの馬車が停車していて、初めて見るサイズの乗り物に、ニーナが目を輝かせて歓声をあげた。


 タイミング的に、これって俺達用の迎えの馬車なのかな?



「あっ、みなさんっ! お待ちしてましたっ!」



 俺達の転移を確認して、大きく右手を振って迎えてくれるラスティさん。


 ……彼女の左手の先は、フロイさんの右手と固く繋がれているようなんだけど?



 ラスティさんの隣りで、少し気恥ずかしそうに俺に左手を上げるフロイさん。


 うん。事前に聞いてたから驚かずに済んだけど、まさかこの2人がくっつくとは思ってなかったんだよ?



「また姉さんと一緒に家に帰る日が来るなんて夢みたいっ。ニーナさんも楽しんでいってくださいねっ」


「私としては面倒臭いって感じだけどねー……? ラスティが喜んでくれるのは嬉しいんだけどぉ……」



 テンションマックスなラスティさんと、ダウナーな様子のターニア。そんな2人を興味深そうに眺めているニーナ。3者3様で面白いな。


 はやくはやくー! っとご機嫌なラスティさんに馬車に詰め込まれ、早速獣爵家に向かう事になった。



 ラスティさんは冒険者なのでポータルで移動することが出来るけど、初めて獣爵家を訪れる相手はポータルで連れていってはいけない決まりがあるらしい。


 セキュリティを考えれば当たり前だけど、直接転移できれば楽だったのになー。



「こんな大きい馬車、初めて乗ったのっ! 思ったよりも全然揺れないんだねー?」


「あははっ! 姉さんとニーナさんをお迎えするので、父さんにちょっと無理言っちゃいましたっ」


「私も見たことない馬車なの。お父様ったら、こんな大きい馬車を何に使う気だったんだろ?」



 離れていた時間を感じさせないほど、自然に仲良く語り合う3人。


 馬車の中でもラスティさん、ターニア、ニーナの3人が固まっておしゃべりをしているので、俺は両隣に座ったリーチェとヴァルゴを抱き寄せながらフロイさんに声をかけた。



「にしてもさぁ……。まさかフロイさんとラスティさんがくっつくとは思ってなかったよ? 上手くやったねぇフロイさんってば」


「……絶対にお前にだけは言われたくないんだがなぁ? 自分はとんでもない美人の嫁さんを9人も貰いやがってるくせによぉ?」



 リーチェとヴァルゴを侍らせている俺を見ながら、呆れた様に吐き捨てるフロイさん。


 そんなこと言われたって、俺自身こんなに沢山お嫁を貰うなんて思ってなかったからね?



「ただまぁ……感謝はしてるぜダン」


「へ? なにが?」


「お前が居なかったら恐らく俺は、冒険者ギルドの職員と警備隊員以上の関係にはなれなかっただろうからなぁ……。ラスティと仲良くなれたのは間違いなくお前のおかげだ。だからありがとよ、ダン」



 そっぽを向きながら恥ずかしそうに鼻頭を掻きつつ、俺に感謝を伝えてくるフロイさん。


 なんだかんだフロイさんにはお世話になったからね。フロイさんの幸せにひと役買うことが出来たんなら嬉しいよ。



「まっ……。あいつと一緒になれるかどうかは今日にかかってんだけどな……!」



 少し緊張した様子で意気込みを語るフロイさん。



 現在フロイさんとラスティさんは婚姻を前提にお付き合いを始めたそうだが、まだグラフィム家への挨拶は済んでいないらしい。


 なので今回俺達に便乗して、交際の報告をしたいと申し出てきたのだ。



 俺だけではなく、フロイさんもまた今日が嫁実家への初訪問なのだ。緊張しないわけがないよね……。


 子沢山のグラフィム家では家族の婚姻には割りと寛容で、ステイルーク警備隊の出世頭であるフロイさんとの交際が認められないことは、まず考えられないらしいけど。



「父に報告を終えたら正式に婚姻を結ぶ予定なんですよっ。ねーフロイさんっ」


「お、おう……! お前と婚姻を結ぶ為にも、親父さんにはちゃんと認めてもらわねぇとな……!」



 明るい未来を嬉しそうに語るラスティさんと、これから貴族家である嫁の実家に挨拶にいく事実にガチガチに緊張しているフロイさん。


 ニーナとターニアを参考にして考えると、グラフィム家の女性ってめっちゃ積極的じゃない?



 しっかし、リラックスした様子のラスティさんと比べると、フロイさんはちょっと気負いすぎだね。


 このままだとポカしそうな勢いだし、何かで気を紛らわせてあげたいところだな……。



「あ、そうだ。ねぇねぇフロイさん」


「……あ? なんだニーナ? なんか言ったか?」


「フロイさんに聞きたいことがあったのを思い出したのー。ステイルークを出る前に聞きそびれちゃった、私と会う前のダンの話、聞かせてくれないかなー?」



 フロイさんの緊張を解す方法に悩んでいると、ニーナが自分と出会う前の俺の話をフロイさんに尋ねてくれた。


 ニーナの問いに、フロイさんは首を傾げながら返答する。



「ニーナに会う前のダンって言われてもなぁ……。開拓村で救助されたダンを、他の難民と一緒に護衛しながらステイルークに連れて来たっただけだぜ?」


「変わった事が無いならそれでもいいの。私はずっとダンと一緒だったから、私と会う前のダンってどうだったのかなーって知りたくって」


「それ、ぼくも興味あるなっ。聞かせてよフロイさんっ」


「ニーナに会う前の旦那様、ですかぁ……。確かに想像できませんね?」



 それで構わないと催促するニーナに、リーチェとヴァルゴも便乗する。


 目を輝かせて催促する3人に、分かった分かったと、いつもの面倒臭そうな調子を取り戻してくれたフロイさん。



「さぁて、こいつはどんな奴だったかねぇ……。ま、ダンはお喋りだったから、他の難民よりはよく話したがよぉ……」



 緊張を忘れて、当時の記憶を掘り起こすフロイさん。



 フロイさんはこの世界で俺が1番最初にお世話になった恩人であり、俺に戦い方を教えてくれた初めての先生でもある。


 そんなフロイさんが、当時の俺の事をどう語ってくれるんだろう。俺も興味出てきたな?




 フロイさんが語るの俺の話に、リーチェとヴァルゴが目を輝かせて耳を傾けている。



「へぇ~っ。ダンにも何にもできない頃があったんだねぇ? フロイさんっ! ニーナと出会う前のダンの話、もっと聞かせてくれるかなっ?」


「ナイフで切り傷をつけられただけで泣き叫ぶ旦那様など、今では想像もつきませんねぇ……。うんうんっ、大変興味深いですっ」



 当のフロイさんも、自分とラスティさんのことを聞かれるよりよほど答えやすいのか、左腕の切り傷で泣きそうになっている話や、ヒールポーションを飲んで吐きそうになっている話などを面白おかしく語ってくれた。


 って、俺にナイフで傷を付けたのはアンタじゃないだろっ! 脚色してんじゃないよっ!



 ……まぁ大筋で間違ってないので、反論のしようもないんですけどぉ?



「お嬢様。間もなく到着致します」


「あ、ハーイ分かりましたー。皆さん、降りる支度をお願いしますねーっ」



 予想外にフロイさんの話が盛り上がってくれたおかげで、馬車での移動はあっとういう間に終わり、御者さんからグラフィム家に到着したことを告げられた。


 馬車が止まると、たたたーっと1番にラスティさんが降車する。



「皆さんっ! 獣爵家にようこそーっ! 今日は寛いでいってくださいねーっ」



 両手を広げて、笑顔で俺達の来訪を歓迎してくれるラスティさん。


 そして直ぐにニーナとターニアの手を取って、屋敷に向かって駆け出した。



「さぁいきましょう姉さんっ、ニーナさんっ」


「ラスティさん、案内宜しくなのーっ」


「んもー。ラスティったら少し落ち着きなさいっ。姉さんは逃げも隠れもしないったらーっ」



 フロイさんの恋人であるラスティさんに俺の妻2人が連れて行かれてしまって、その場には出遅れた間抜けな男2人が残される。



「……なんかラスティの奴、俺といるよりよっぽど嬉しそうなんだが……?」



 というフロイさんの呟きは聞かなかった事にして、ラスティさんの背中を追って獣爵家邸に足を踏み入れた。






「「お帰りなさいませっ! ターニアお嬢様!」」


「……うわぁ。こういうの勘弁して欲しいの」



 ルーナ竜爵家と比べてひと回り以上大きく見える屋敷の扉を開けると、ズラリと整列した使用人らしき人達がターニアの帰還を盛大に祝ってくれた。


 当のターニアはウンザリしてるようだけど。



「ごめんね姉さん。姉さんの話をしたら、みんな出迎えるって聞かなくって……」


「う~……。今回に関しては私が全面的に悪いから、あまり強くも出れないのぉ……」



 若い使用人たちは真面目な表情のままだけど、中年、壮年の使用人たちは涙を流して喜んでいる者も多く、ウンザリしつつも邪険には扱えなくて困った様子のターニア。


 そして、そんなターニアを珍しそうに眺めるニーナ。



 いつもニコニコしているターニアさんが露骨に顔を顰めているのは新鮮だもんなぁ。



「それじゃ父さんの準備が出来るまで応接室で待ちましょ。ナナイ。お茶の用意をお願いしますねー」


「畏まりましたラスティお嬢様。それでは当主レオデックに皆様の到着を伝えて参りますので、皆様はごゆるりとお寛ぎくださいませ」



 執事らしい壮年の男性にお茶の用意を頼み、そのまま歩き出すラスティさん。


 俺達も遅れない様に後を追う。



 しかし、使用人達が俺とフロイさんを見る目に敵意みたいなものは感じないな?


 年配の使用人にいたっては俺に頭を下げてくれる人もいる。男性陣のことも歓迎してくれてると思っていいんだろうか?





「姉さんもニーナさんも、勿論他の奥さん達もすっごく綺麗で憧れちゃったよぉっ」



 案内された応接室に腰を下ろし、しばし歓談する。


 ラスティさんは先日マグエルで開催した、俺達の結婚披露宴に興味津々のご様子だ。



「あそこまで大々的にお披露目するのは無理だとしても、姉さん達が着てたみたいなドレスは着てみたいなって」



 うっとりした様子で披露宴のことを語るラスティさん。


 女性が綺麗なドレスに憧れるのはこの世界でも同じなのか。



「でも、ラスティさんって貴族の娘じゃん? 同じような服装くらいしたことあるんじゃないの?」


「ああダンさん。獣爵家は子供が多いから、貴族教育とか振る舞いとか、割と自由にさせてもらえるの。私だってガレルと一緒とは言え、普通に魔物狩りを許されてたでしょ?」


「ああ、獣爵家って50人以上子供が居るんだっけか……」



 以前、獣爵家は10人以上の奥さんと、50人を超える子供が居ると聞いた覚えがある。


 なかなか人口が伸びないこの世界じゃ、子供50人に貴族の席を用意するのも簡単じゃないかぁ。



「流石に後継者候補の兄弟は忙しかったみたいだけどね。私やラスティは貴族令嬢としての教育とか全然受けてないの」


「勿論本人が希望すれば教育をしてくれるんですけどね。私は活発な姉さんの背中ばかり追いかけてて、貴族生活にはあまり興味を持てなかったんです」



 貴族令嬢らしからぬターニアの明るい振る舞いは、ガレルさんやラスティさんなど、多くの人の目を惹きつけたみたいだなぁ。


 勿論俺もとっくにメロメロにされちゃってるしーっ。



 披露宴でみんなが着た衣装に憧れ、自分の時も同じような衣装が着たいと呟くラスティさん。


 テメェなんてモノを見せ付けてくれたんだと、ラスティさんに聞こえないよう小声憤るフロイさん。


 そのフロイさんにドレスの値段を告げて見事撃退に成功する俺。唖然とするフロイさん。



 そんなこんなで楽しく話していると、応接間の扉がノックされて、当主レオデックの到着が告げられた。



「待たせたね。早速入らせて貰うよ」



 ひと声かけてから応接室に入ってきたのは、思ったよりも細身で、長身の男性だった。


 獣爵家当主って言うくらいだから筋骨隆々のゴリラみたいな人が出てくるのかと思えば、線が細くて優男風の外見だった。当主というか執事に見えるよ。



 当主の入室に席を立とうとする俺を、そのままで構わないと静かな声で制止しながら、ゆっくりと部屋の奥までやってくる獣爵家の当主。



「皆よく来てくれたね。私が獣爵家当主のレオデック・マニュータ・グラフィムだ。獣爵家当主として、皆の来訪を心から歓迎するよ」



 柔らかい雰囲気のまま自己紹介をしたレオデックさんは、一緒に入室した使用人のナナイさんに自分の分のお茶を頼みながら席についた。



 レオデックさんに続いて挨拶しようとしたところ、客人のことは既に聞いているので挨拶は必要ないと断られてしまった。


 怒ってるわけじゃなさそうだけど、無駄なことは嫌いな性格なのかな?



「ダンさんには申し訳ないけど、ターニアやニーナの話は少し長くなりそうだからね。先にラスティの話を済ませたいと思ってるんだ。ラスティ。フロイさん。話してくれるかい?」


「「は、はいっ……!」」



 当主の要望に、弾ける様に立ち上がるフロイさんとラスティさん。俺達の話は後回しか。


 ま、下手すると20年近く積もった話をすることになるかもしれないからね。妥当な判断かもしれない。



 でも、ラスティさんだって実の娘だろうに。娘の婚姻の報告よりも俺の話の方が重要なのか?


 ……って、そうじゃないか。フロイさんの用件が娘の婚約の話なら、俺の話は娘と孫娘の婚姻報告になるんだった。そりゃ後回しにするわな……。



「父さん。改めて紹介させてもらうね。こちらが私がお付き合いさせていただいているフロイさんです」


「お久しぶりです領主様。ステイルーク警備隊所属、フロイと言います……!」



 ラスティさんがレオデックさんに、フロイさんとの交際を報告する。


 どうやらステイルーク警備隊と獣爵家はよく合同訓練なども行なっているようで、親しくはなくともレオデックさんとフロイさんは顔見知りらしい。



 婚姻を結び、ラスティさんは冒険者ギルドの職員として、フロイさんはステイルーク警備隊の1人として、共にステイルークのために力を尽くしていきたいと語る2人。


 そんな2人の話を、小さくうんうんと頷きながら、穏やかな雰囲気のままで聞き続けるレオデックさん。



 婚姻を結んだらラスティさんは家を出て、フロイさんと共に2人で新居を構えたいみたいだ。


 ちなみに新居は既に建設中とのこと。婚姻さえ許されれば今日にも引越ししたいようだね。



「領主様。貴方の娘のラスティにとって、俺は不釣合いな男だと思います。ですがステイルークを想う気持ちは誰にも負けていない自信があるっ!」


「…………」


「俺は生涯、この人とステイルークの為に働きたいと思っています。どうか娘さんとの婚姻、認めていただけませんかっ!」



 ステイルークの領主であるレオデックさんを正面から見据えて、ハッキリと婚姻を告げるフロイさん。


 そんなフロイさんの姿をうっとりとした表情で見詰めるラスティさん。



 ……あれ? フロイさんのほうから交際を申し込んだって聞いてたけど、なんかラスティさんの方がメロメロになってませんかね?



「ふむ。フロイさんのお話は充分に理解したよ」



 フロイさんの真剣な想いを、柔らかい雰囲気のままで受け止めるレオデックさん。


 リアクションが小さい分、感情が読みにくいなぁこの人。



「フロイさん。こちらこそ、娘のことをよろしく頼むよ」


「え……。それっ、て……!」


「私はフロイさんに何の不満も無いからね。ラスティのこと、幸せにしてやってくれ」



 終始柔らかい雰囲気のままで、フロイさんとラスティさんの交際を認めるレオデックさん。


 なぁんだ。この人、柔らかい雰囲気を作り出しているんじゃなくて、元々根っから穏やかな人なんじゃないかぁ。



「あっ、ありがとうございますっ! 必ずっ、必ず2人で幸せになりますっ!」


「やったぁっ! 父さんありがとうっ! フロイさんっ、今日からずっと一緒ですよーっ」



 飛び上がってレオデックさんに頭を下げるフロイさんと、そのフロイさんに笑顔で抱きつくラスティさん。


 この2人には随分とお世話になったからか、2人の幸せが自分のことのように嬉しく感じられるなぁ。



「はは。フロイさんの事は軽く調べさせたけど、街の住人からの信頼も厚く、同僚の警備隊員からも頼りにされている。そしてその歳で騎士への転職を成功させた努力家だ。安心してラスティを任せられるよ」



 ほ~う? レオデックさんもお目が高い。フロイさんは優良物件ですよ。オススメです。


 って、たった今契約完了したのにお勧めも何もないけど?



 しかしいくら当主とは言え、娘の相手を父親だけで決めちゃっていいのかね?


 ラスティさんの母親はフロイさんと顔を合わせなくていいのかな?



 疑問に感じているのは俺だけっぽいので、素直に口に出して聞いてみた。



「ああ、獣爵家は子供も妻も多いことで有名だろう? だから家族全員に貴族籍を与えているわけじゃないのさ」



 応接室でさらっと触れた獣爵家の貴族籍の話を、レオデックさん自ら補完してくれる。



 グラフィム家はなかなか不思議な貴族家らしく、ラスティさんの母親は間違いなくレオデックさんと婚姻を結んでいるというのに、平民としてステイルークで普通に働いているんだそうだ。


 今日はどうしても仕事を抜けられなかったために欠席しているけれど、フロイさんとは既に顔合わせを終えているらしい。



「かつて本人の意志を無視して貴族籍を与えた娘が、家を捨てて出ていってしまったからね、私も反省したんだよ。望まぬ者に身分を与えても、それは負担にしかならないのだな、と……」



 穏やかな口調の中に後悔を滲ませながら、説明を終えるレオデックさん。


 レオデックさんが言っているのは、やっぱりターニアの話なのかな。



 しかし、ルーナ竜爵家では貴族籍の取得に拘っていたイメージがあるんだけど、獣爵家では正反対の反応で戸惑うよ。


 っていうか、貴族家に生まれたら無条件で貴族籍を得るってわけじゃないのか? スペルド王国って。



 そんな俺の疑問に答えてくれたのはリーチェだった。



「竜人族は短命で出生率も低いでしょ。だから生まれた子供には直ぐに貴族登録を申請しているんだと思う。更に今の竜人族はフトーク家だっけ? フラッタの元婚約者の家も取り潰されているからね、貴族の数が足りないんじゃないかな」


「ルーナ竜爵家と比較すれば、我が獣爵家はかなり自由な家風に見えるかもしれないね。だけど我が家くらいの大家族になると、あまり規律で縛っても上手くいかないものなのさ……」



 リーチェの解説で、俺がグラフィム家とソクトルーナ家を比較しているのに気付いたらしいレオデックさんが、少しおどけながら補足してくれた。


 しかし直ぐに姿勢を正したレオデックさんは、真剣な表情で俺たちを見詰めてくる。



「ダンさん。ターニア。……そしてニーナ。君達の話を聞かせて欲しい」



 未だ後悔の混じる声色で俺達の名を呼びながら、俺達の話が聞きたいと語るレオデックさん。



「ターニアがこの家を出てからのこと、ニーナが生まれてから今までのこと、そして2人がダンさんと出会ってからのこと……。私に教えてくれないかな……」


「……なんだかお父様にも迷惑をいっぱいかけちゃったみたい。ごめんなさい。今更謝って済むことじゃないと思うけど、それでもごめんなさい……」



 長い時を経て再会したレオデックさんとターニア。両者の間に、どんな葛藤があったのかは分からない。


 けれど再会したレオデックさんの様子に何かを感じ取ったターニアは、レオデックさんに対して深々と頭を下げながら、何度も謝罪の言葉を口にした。



 そんな彼女の肩を抱いて、少し強引に頭を上げさせる。



「……ダンさん?」


「ターニア、頭を上げてくれ。レオデックさんだってきっと謝罪なんて望んでないよ」



 きっとレオデックさんは後悔してるんだ。


 当時、ターニアの話をちゃんと聞いてあげられなかった事を。



 ターニアを受け入れてあげられなかったこと、ニーナを見捨ててしまったこと……。


 過去にしてしまった自分の過ちを悔いて、今度こそターニアの話を聞きたいって言ってるんだよ。



「レオデックさんは話を聞かせて欲しいって言ってくれただろ? だから話そうターニア。せっかく生きて再会できたんだから、お互い納得いくまで話をすべきだよ」



 ずっと昔に袂を分かって、もう離れ離れになってからの方が長い年月になってしまったレオデックさんとターニア。


 当時の自分の行動に後悔があるなら、今話し合えばいいんだよ。



 こんな穏やかな雰囲気のレオデックさんが、それでもターニアの呪いを受け入れられなかった理由。


 ターニアの夫として、俺も聞いておきたいしね。

※こっそり設定公開。

 グラフィム獣爵家はレオデックの代になる前から、家族の貴族籍の取得には拘っていませんでした。

 しかしターニアの母親が貴族家出身であった事と、娘のターニアが獣爵家の中でも特に美しく育つと判断した当時のレオデックは、家の者たちの薦めもあってターニアを貴族登録しました。


 残念ながらターニアは貴族令嬢としての生活よりも、獣爵家に嫁ぎながらも活き活きと平民として暮らす血の繋がらない母親たちの姿に憧れ、レオデックの望む生き方はしてくれなかったのでした。

 それでもガレルと出会うまでは、レオデックに逆らってまで自由に生きようとは思っていなかったはずですが。

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