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【全年齢版】異世界イチャラブ冒険譚  作者: りっち
5章 王国に潜む悪意4 戦いの後
372/637

372 ※閑話 フラグ成立

※閑話。前半と後半でそれぞれ別の人物の視点に切り替わります。

 前半、後半共に新しい登場人物の視点です。

 時系列は本編とほぼ同時期、世界呪を滅ぼした直後~数日後です。

「お、おい見ろっ! なぜか知らんが、突然大量の魔力が流れ込んできているぞっ!?」


「お、おいおい……! なんだこの量は……!? 普段の数百……いや、数万倍もの魔力が大気に充満している……!?」



 ……煩いなぁ?


 いつもはぼやけてよく聞き取れない外の声が、なんだか今日はやけにハッキリ聞こえてくるよぉ……。



 今日は随分騒がしい。何人もの人がなんだかんだと叫びながら、バタバタと走りまわってるみたい?


 外の人たちが走り回っているところなんて、今まで1度も見たことないかも?



「どういうことだ!? 必要量の魔力が充填されるのはまだ100年近く先の話だったはずだろう!? こ、この勢いでいけば今年中に……、いや間もなく目覚めるかもしれないぞっ……!?」


「げっ、原因は分からんが、大気中に含まれる魔力の濃度が一気に上がったようだな……。どこかで魔物の大量討伐でも行われたか? いや、それにしたってこの量は異常だが……」



 いつもはぼんやりとして、輪郭しか見えない外の人たち。


 それがなんだか今日は、その姿がハッキリ見ることが出来た。



 騒いでいるのは清潔そうな服に身を包んだ、黒い肌をした人たちだった。


 へぇ~。この人たちってこんな顔をしてたんだなぁ。



「お、おい……。ちょっと待ってくれ……」



 バタバタと走り回っているの人のうち、1人が突然足を止めて私の方を見詰めてくる。


 あ、目が合っちゃった?



「なぁ……。ア、アウラの目……。開いて、ないか……?」


「ば、馬鹿言うんじゃない……。この魔力量で彼女が目を覚ますはずが無い、だろ……」



 バタバタと騒がしく走り回っていた外の人たちみんなが、足を止めて私のほうに目を向けてくる。


 ……アウラ? それが私の名前なんだっけ?



「ど……、どう見ても目が開いているぞ……!? しかも俺達のことを認識しているようにすら……!」


「不味いっ! 目覚めるにはまだアウラの肉体が耐えられないっ……! ナーチュアクレイドルに誘眠ポーションを投与っ! 絶対に目覚めさせるなぁっ!!」


「ば、培養槽の中に不純物を入れて大丈夫なのですかっ……!? そ、それに量だって、いったいどの程度投与すべきなのか……!」


「馬鹿野郎っ!! 今アウラが目覚めたら、400年を越える研究全てが水の泡になるんだぞ!? 迷ってる場合かぁっ!!」



 ……煩いなぁ~。一旦静かになったと思ったのに、突然喧嘩し始めちゃった……。



 外の様子なんてどうでもいいけど、せっかく目が覚めたのにまた眠らされるなんて絶対にイヤだよ~っ。


 話の流れを聞いた感じだと、私が目を開けているから面倒なことになるのかな?



 ……仕方ない。1度目を閉じてあげるから、もうちょっと静かにしてよねー。



「……あっ!? 見てください! アウラが瞳を閉じました! ねっ、眠りについたのでは!?」


「……眠ってくれた、のか? いやしかし、またいつ目を開けるかも分からない。監視の数を倍にして、誘眠ポーションはいつでも投与できる状態にしておいてくれっ!」



 ……あれ? あんまり静かにならないなぁ。


 けど、変なお薬を飲ませられずに済んだみたい。良かった良かった。



 また目を開けてしまうと面倒臭そうだから、いつもより凄くはっきり聞こえる外の音に集中しよう。



「……焦ったな。1度に大量の魔力が注ぎ込まれたことによる反射反応だったのか? 何はともあれまた眠ってくれて助かったよ。こんなところで彼女を死なせるわけにはいかないからな」


「アウラの肉体は今が1番不安定な状態だ。今培養槽から出たら瞬く間に腐り落ちてしまうだろう。だが大量の魔力が流れ込んで来てくれたおかげで、肉体の精練も一気に進みそうだな……!」



 んー…。よく分からないけど、今私はお外に出ることは出来なくて……。


 でも、少し我慢すればすぐにお外に出られるようになるってことかな?



 それじゃ仕方ない。大人しく待つしかないかぁ~。



「まさか我々の代でアウラの目覚めに立ち会うことが出来るかもしれないなんてな……。ここから出たら礼拝でもしたい気分だよ……!」


「はっ! 神に祈っても意味は無いと始められた計画だっていうのに、確かに神に祈りたい気分だ……! まさか100年近くアウラの目覚めが早まるなんて……、本当に奇跡としか言い様がない……!」



 感極まったような声が、そこかしこから聞こえてくる。



 ……って、私まだまだ起きれないところだったの?


 なのにまた眠らされるところだったよ。危ない危ない……。



 私が起きてること、絶対にバレるわけにはいかないねっ。



「しかし今更だが、膨大な魔力が流入した原因はなんなのだろうな? 例の組織がまた何かやらかしたのか?」


「おいおい。大事なスポンサー様に滅多な口を聞くもんじゃないぞ。だが連絡役の話だと、かの組織とは連絡がつかなくなっているらしい。今も何人か外に出て状況の確認に奔走しているようだ」


「連絡がつかない? となると本当にあいつらが何かしたんじゃないのか? なんらかのマジックアイテムでも試用したとか」


「さぁな。あいつらは協力者ではあるが同志ではない。援助してくれるのはありがたいが何を考えているのかもわからん奴らだからな。アウラの目覚めが目前に迫った今こそ、奴らとは縁を切るべきかもしれんぞ。援助を理由にアウラの所有権でも主張されたら面倒だ」



 ん~。外の人たちのお話はつまんないなぁ。



 でも目を開けちゃうと変なお薬を飲まされちゃうから、今は我慢しなくちゃね。


 せっかく目覚めたのにまた眠らされちゃうなんて、絶対にイヤだもんっ!



 でもぉ……。身動きも出来ないし目も開けられないから、何にも出来ることがないよぅ。



 私が目を開けさえしなければ、外の人はいつも通り口数少なく静かに過ごしてくれるみたい。


 さっきまでと違って静かなのは良いんだけど……、暇だぁ~……。


 

 あっ、そうだ! もうすぐここから出ることも出来るって言ってたし、ここを出てから何をするか考えようっ!



 そうだなぁ、まずはリーチェお姉ちゃんに会いに行こうっ。


 外の人の話だと私は結構長い間眠っちゃっているみたいだけど……。エルフのお姉ちゃんなら大丈夫でしょっ。



 っていうかそもそも私って、なんでこんなところで眠ってるのかな?



 うん。なんだか時間もあるみたいだし、覚えている事を1つ1つ確認するのもいいかもねっ。



 いつも通りコポコポと水の音だけが響く中、私の意識は自分の記憶の中にゆっくりと沈んでいくのだった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「…………」



 無駄に広い城の中に、自分の足音だけが響いている。



 ここは城の中でもかなり限られた者しか入れないエリアだからか、目に見える場所には警備の者すら立っていないようだ。


 ま、私程度に気配を気取られるような者がこのエリアの警備をしているわけはないか。



「……雇い主なのは分かってるけどさぁ。少しはこっちの都合も考えて欲しいよ」



 忙しい仲無理矢理呼び出されて、思わず悪態が口に出てしまう。



 大気中の魔力濃度が爆発的に上昇した現象を調査するのに忙しいっていうのに、なんで私自らこんな場所に足を運ばないといけないんだ、まったく。


 まぁ確かに途中報告も必要かもしれないし、なにより彼女直々の呼び出しを断るわけにもいかないか。雇われ者の辛いところだねぇ。



「呼び出すにしても、せめて別の場所が良かったんですけどねぇ、陛下……!」



 なかなか目的地に辿り着けず、苛々が募る。



 無人の廊下を独り歩く。既に何度も通った場所なので迷う心配もない。


 けれど道中では何度も何度もステータスプレートの認証をしなくてはならないので、ただでさえ面倒な移動に拍車をかけている。



 安全性や機密保持の必要性については論じるまでもないけれどさぁ。いくらなんでもやりすぎじゃないかい?



 ようやく辿り着いた最奥の部屋の扉にステータスプレートを差し込み、入室の許可など待つことなく部屋に踏み入った。



「確かに急な呼び出しだったが……、入室の許可くらいは確認しないか。行儀が悪いぞキュール」


「私は貴族じゃなくて学者ですから、礼節には疎いんですよ。それでも構わないと私を迎えてくれたのは陛下でしょうに」



 部屋の中には私を呼び出した相手、ヴェルモート帝国新皇帝であるカレン・ラインフェルド陛下が足を組んで座っていた。



 彼女とも既に数年の付き合いで、お互い軽口を言い合う程度には打ち解けている。


 つまり、行儀云々の話は彼女の冗談だ。



「それで陛下? この忙しい時に私を強制的に呼び出したご用件を伺っても? ここ数日まともに寝ていないので、詰まらない用事だったらちょっとだけ顔に出るかもしれませんよ?」


「はは、既に思い切り顔に出ているぞ? だが済まないな。どうしてもお前の耳に入れておくべき案件だと思ったのだよ」



 早く帰りたいので立ったまま声をかけた私に、笑顔で着席を促す皇帝陛下。


 ……つまり用件は長くなるということかい? 嫌になるねぇ。



「……失礼します」



 かと言って雇い主である彼女に逆らう気などないし、逆らっても何の得も無い。


 渋々陛下の対面に腰を下ろす。



 宜しい、と満足げに頷いてから、陛下は用件を口にした。



「本日キュールを呼んだ理由は、お前が最近調査していた魔力の大爆発について話があるからだ」


「……あーっと。誠に申し上げ難いんですがね、報告はもうちょっと待ってもらえると……」



 仕事の遅れを言い逃れようとする私の言葉を、右手を翳して制止する陛下。


 私を直接呼びつけておきながら、別に調査報告が聞きたいわけじゃないらしい。



「どうやら爆発的に魔力が増大した日、エルフェリア精霊国で大きな戦いがあったらしいのだがなぁ……。その戦いの結果、彼の地にあったアウター宿り木の根が消失したそうだ」


「……アウターが消失ですってぇ? 戦いの結果でそんなことが起こるなんてちょっと信じられ……。陛下。情報元を教えてもらえますか?」


「情報元は我が帝国に協力的なエルフの1人だ。その者はエルフェリア精霊国にずっと住んでいるからな。情報の信憑性は高いと思うぞ」


「……ふむ。そうですか」



 どうやら陛下は、情報の確度に自信がおありのようだ。


 そのエルフが嘘をついていないと仮定するなら、魔力爆発が起こった日にエルフェリアで大きな戦いがあった事、そしてその戦いのあとにアウターが消失してしまったのは本当なのだろうね。



 ……両者にどのような因果関係があるかは、まだなんとも言えないけど。



 ここに来るのは本当に面倒だったけど、どうやら足を運んだ甲斐はありそうだ。



「エルフの情報を鵜呑みにするなら、消失したアウターから膨大な魔力が大気に乗って、世界中に拡散したというわけですか。魔物を殺したくらいではちょっとありえない量の魔力拡散でしたけど……、アウターが消失したとするならあるいは……?」



 アウターが消失するなんて聞いたこともないから想像以上のことは出来ないけれど、アウターとは無限に魔物を生み出す異界の扉だ。内包される魔力の量は、我々の常識など遥かに超えているだろう。


 それが消失したとなれば、確かに爆発のように急激な魔力の拡散が起こったとしても頷けると言えば頷ける。



 始まりの黒のように、何らかの要因によって新たに誕生するアウターだってあるんだ。


 なら逆に、何らかの原因でアウターが消失したっておかしくはないのかもしれない。



 なんにしても、原因が特定できたのはありがたいな。


 再現性もあまり無さそうだし、更なる魔力爆発についてはあまり警戒しなくて良さそうだ。



 研究の終わりも見えて、もう少しでまともに寝られそうだと安堵した私だったけれど、真剣な表情のままの陛下の顔に気付く。


 残念だけど、話はまだ終わりじゃなさそうだねぇ?



「厄介なのはここからなんだよキュール。実は今回のアウター消失は、1つのパーティによって引き起こされたことなんだ」


「それは……、確かに非常に厄介な案件ですね。方法は分かりませんが、アウターを自由に消し去ってしまえるパーティですか」



 アウターとは人類の敵対者である魔物を生み出す世界の脅威であると共に、ドロップアイテムを齎し人々の生活を支える神の恵みでもある。


 もしもアウターが無くなったら、この世界の人々の生活は成り立たないのだ。



 アウターを消失させた理由も方法も分からないけど……。


 下手をすると、全人類の存亡に関わってくるような案件じゃないの? なんて面倒な……。



「……違うんだよキュール。そのパーティは好きでアウターを消失させたわけじゃないんだ」



 だけど陛下から齎された現実は、私の想像なんか軽々と飛び越えてくれていたようだ。



「アウターを消失させるのが目的ではなくだな。エルフェリア精霊国でアウターが消失するほどの戦いが起こった、というのが真相なのだよキュール」


「……済みません陛下。仰っている意味がよく……」


「レガリアだよキュール。レガリアの連中が、マジックアイテムで宿り木の根と同化したらしくてね。そこで生み出された魔物を滅ぼした結果、アウターごと消し飛んでしまったというわけらしい」


「レガリア……」



 陛下の言葉への理解が追いつかない私の頭は、レガリアという単語を聞いて数年前のことを思い出していた。


 世界の真相に迫る為に自ら望んで所属した組織だったけれど、レガリアは世界の真相になんてこれっぽっちも興味はなくて、段々私は孤立していった。



 組織に残された資料を読み尽くした後は、なるべく距離を取っていたかつての古巣だ。


 ガルクーザやイントルーダー、アウターに関する研究ばかりを押し付けられて、堪ったものじゃなかったね。



「……って、アウターと同化した魔物を滅ぼしたパーティが居るんですかっ!?」


「ああ、出現したのは間違いなくイントルーダーだろうなぁ……。世界を滅ぼすほどの存在感を放つ巨木を、見事祓ってみせたそうだよ。……たった6人でな」


「信じられません、ね……」



 ガルクーザ以降に出現した記録は残っていないけれど、イントルーダーとは人類に終焉を齎す存在と言われている。


 そんな存在を、本当にたった6人で滅ぼしてしまうことが出来るんだろうか……。



「その戦いでレガリアはほぼ壊滅状態だ。恐らくもう再起の目は無いだろうな。まぁ過去の亡霊どもの行く末など最早どうでもいい。重要なのはここからだぞキュール」


「なんだか続きを聞くのが怖いんですけど……」



 陛下の纏う雰囲気が更に真剣みを帯びていく。


 今まで語られた話だってとんでもないのに、これからの話のほうが重要なんて頭が痛くなってくるね……。



「そんな話を聞かされても、戦えもしない私に出来ることは無さそうですが……?」


「まぁ聞け。その戦いで勝利したパーティを仕合わせの暴君というのだがな? 驚いた事にそのパーティリーダーを務めるダンという人間族の男性が、2つも持っているらしいのだよ。神器レガリアをな」


「そんな馬鹿なっ!? 神器を2つも所有している人間がいるなんて、そんな……!?」



 立場も忘れて、私は思わず陛下に食って掛かってしまう。



 『神器レガリア』。


 天地開闢と共に存在すると言われる、神の如き性能を発揮する3種のレリックアイテム。



 あらゆる脅威を滅ぼすとされる『始界の王笏』。


 この世界の根幹たる魔力を無限に齎す『呼び水の鏡』。


 そして望む者にあらゆる知識を授けると言われる『識の水晶』。



 かつてのアルフェッカでさえも6種族が共同で管理していたほどの神の力を、個人で2つも……!?



「……陛下。そもそも始界の王笏と呼び水の鏡の所在は不明だったはずでは……。その情報は確実なものなのですか?」


「絶対だ。なぜなら神に聞いたのだからな」


「神に……。つまり陛下はあれを使用したと言うのですね……」


「元々は失われた神器の行方を追うために調整していたのだがな。問うた結果がこれだったというわけだ」



 陛下の口から語られた事実に、背筋に冷たい汗が流れる。



 失われた神器の所在が判明するなんて、何が起きているんだ……?


 これから先、この世界にいったい何が起こるっていうんだい……。



「始界の王笏は長らくレガリアの亡霊どもが隠し持っていたらしい。そして呼び水の鏡も1度はレガリアの手に渡り、しかし新たにダンという男の手に渡ったのだそうだ」


「……なんと。まさかレガリアが神器を2つも所持していたなんて……」



 神器レガリアは王威の証明であるとも言われる、神より託されたこの世界の至宝だ。


 神器は持ち主を選ぶと言われ、全ての神器を揃えた者は神に選ばれた絶対の王者であると言われている。



「どうやらレガリアに神器を持つに相応しい者がいたようだ。だが2つの神器の片方が別の者に渡り、そして両者は対決し、神器の所有者に相応しい者が2つの神器を手にしたということだ」


「神器レガリアとその所有者ですか……。確かに私の関わるべき案件かもしれません」



 これでも歴史学者を名乗り、この世界の真実を探求している身なんだ。


 2つの神器に選ばれた人物との接触なんて避けて通るわけにはいかないねぇ……!



「会話の余地がある相手だといいのですが……。この世界の深遠に辿り着く為に、どうしても接触を試みなければならない相手だと思います」


「今相手のことを調査させているところだが、出来れば敵には回したくないところだ……。しかし私は神器を諦めるわけにはいかぬ。たとえ異界の扉を力ずくで閉じてしまうような相手からでも、神器を奪わねばならぬのだっ……!」



 協力者からの報告を受けて、相手が自分よりも強大であると感じているのだろう。


 悔しそうに歯を食い縛りながら、それでも神器を諦められないと吼えるカレン陛下。



 神器は神より託された王位の証明。王威の象徴。


 皇帝として君臨する彼女が神器を求めるのも自然な流れなのかもしれない。



 ……だけど、そんなの私には関係ないんだがね?


 神器に選ばれるような相手と敵対しかねないような、そんな危険な橋を渡らされるのはごめんだよ?



「……恐れながら申し上げます。その相手に接触するのは私からもお願いしたい所ですが、神器の奪取を命じたりはしないでくださいよ? 私は全く戦えないのですから」 


「勿論だ。私としても敵対したくないのは本当だからな。だが神器を素直に譲ってくれる人間などいるはずもない。最終的には奪わねばならぬだろう。そしてそれを行うのは私自身でなければ、きっと神器は私を認めてはくれぬだろうよ」



 野心に燃える陛下の姿に、私は言いようもない不安に襲われる。



 陛下、識の水晶だけでは満足できないのですか……?


 いや、既に神器を所有している陛下だからこそ、真の王として君臨しようという欲と覚悟があるのかもしれない。



 まぁ陛下のことなど私には関係がない。好き勝手に研究をさせてくれる良い雇い主ではあるけれど、神器レガリアの所有者候補が現れたことのほうがずっと重要だ。


 その男を通して、私もまたこの世界の深遠に触れることが出来るかもしれない。



 識の水晶さえ使えれば苦労は無いのだけれど……。流石にアレを自分で使うのは無しだねぇ。


 いくら真理を得ようとも、手にした真理の価値が失われてしまっては意味が無いのだから。

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