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【全年齢版】異世界イチャラブ冒険譚  作者: りっち
1章 巡り会い1 スポットでの出会い
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037 フラッタの素性

「お主、貴族令嬢と問題を起こすのは嫌だとか言っておきながら、何の躊躇いもなく手刀を落としおってからに……! 男ならこのくらいの冗談、笑って流さぬか……!」


 

 頭を抱えながら抗議してくるフラッタ。


 お前みたいな美少女が言っていい冗談じゃないんだよなぁ。



「ベッドの中での男女の冗談は問題になる事もあるんでね。文字通り切って捨てるに越した事はないよ」


「ぬうぅ。どこまでもつれない男よの。これでも妾は容姿には自信があるのじゃぞ? ここまで袖にされたことなぞ記憶に無いのじゃ」



 チョップを食らってフラッタが苦悶しているうちに、俺とニーナはさっさとベッドに横になる。


 俺とフラッタの間の緩衝地帯として、ニーナを真ん中に配置させてもらった。



「俺だってニーナ以外の女と同衾するのは初めてなんでね。お前こそ光栄に思っとけバーカ」


「私もご主人様以外の人と、以下同文です。光栄に思いなさいフラッタ」


「ここまで雑に扱われたのも初めてじゃのう。ほんに仕方のない奴らなのじゃ」



 仕方ないのはお前だ、このポンコツ令嬢め。



 フラッタはブツブツと文句を言いながらも横になり、そのままニーナに抱きついてきたようだ。


 ……あげないよ? ニーナは俺のだから。



「ダン。ニーナ。改めて礼を言わせて欲しいのじゃ」



 ニーナの背中に顔を埋めたフラッタが、俺達に表情を見せないまま静かに口を開いた。



「2人が来なければ妾はあのまま殺されていた可能性が高い。仮にあの場を切り抜けても、スポットから生還するのは絶望的であったじゃろう。心から感謝するのじゃ」



 淡々とした口調で俺達に礼を告げるフラッタ。その静かな語り口から、フラッタがあの時本当に死を覚悟していたことが伝わってくる。


 フラッタのしおらしい反応に思うところがあったのか、ニーナがフラッタに向き直ってその頭を抱きしめる。そして放置される所有者の俺。


 まぁ止めないけどね、ニーナが抱きしめたいと思ったのなら。 



 ニーナの胸に収まって大人しく撫でられ続けるフラッタ。


 なかなか続きを話さないな? このまま寝やがったらもう1発チョップしよう。



「改めて名乗らせてもらうのじゃ。妾の名はフラッタ。フラッタ・ム・ソクトルーナ。ルーナ竜爵家の長女である」



 るーなりゅうしゃくけ? 竜爵っていうのはこの世界の爵位のことなのか?


 フラッタから語られた言葉に戸惑っていると、ニーナもまた戸惑ったように呟きを零す。



「……フラッタが貴族なのは分かっておりましたが、まさか竜爵家のご令嬢だとは思いませんでした。スポットで見たフラッタの実力を思えば納得もいきますが」


「うむ。竜爵家の人間として恥ずかしくないよう腕を磨いてきたゆえ、妾は竜人族の中でも腕が立つ方だと思うのじゃ」



 ちょっぴり自慢げに語るフラッタ。


 俺と同レベルの世間知らずのはずのニーナも、竜爵家のことは知っているらしい。そして竜爵家っていうのは武門の家柄なのかな? 強くて当たり前っぽいことを言ってるけど。



「妾は既に竜化も体得しておる。じゃが竜化は消耗が激しくてのぅ。あの時は竜化する余力もなかったのじゃ」



 ルーナ竜爵家、竜人族、竜化。情報が多いなぁ。


 正直言えばそのどれもピンと来てないんだけど、イメージだけで戦闘力が高そうだなぁと思ってしまうね。だって竜だし。だいたい竜化ってなによ? ロマンしかないじゃんそんなの。



「では妾について1つ1つ説明していくのじゃ」



 おっと、竜化についての掘り下げは無しかぁ。恐らく一般教養レベルの知識なんだろうな。ニーナかティムルにでも聞いてみようか。



「まずこの同衾が問題ないと言った理由なのじゃが、それはルーナ竜爵家の存続が危ぶまれているから……。はっきり言えば近々爵位を剥奪され、お取り潰しの憂き目に遭う可能性が高いからなのじゃ」



 語っている内容に反して、これまた淡々とした口調のフラッタ。



 ……う~ん、思った以上に重い話だなぁ。俺が聞いて意味がある話なんだろうか?


 でもなフラッタ。この同衾は身分や爵位に関係なく問題あるからね?



「妾がスポットにいたのも同じ理由からなのじゃ。最早取り潰しは免れぬが、当家の尻拭いを他者に委ねるわけにはいかぬと思ってのう。今思えば勇み足であったがな……」


「戦闘力は申し分ないのですから、せめて案内役を1人同行させるべきでしたね」


「うむ。反省しておるのじゃ。こう見えて魔物との戦闘には慣れておるからの。どうとでもなると甘く見た結果がこれじゃ」



 ニーナの言葉に素直に頷くフラッタ。どうやら本当に反省しているらしい。



 こう見えてって、どう見てもフラッタは強者だけどね? 強者だけどポンコツなだけで。


 強者だからこそ、あまりポンコツを自覚する機会がなかったのかなぁ?



 恐らく普段は1人でアウターに入ったりはしてないんだろう。


 日常的にソロ狩りを行う貴族令嬢とか怖すぎるし?



「とは言え今は家の者の大半が出払っておってな。妾に同行できる者がおらなんだ。大変なのは皆も一緒じゃからの。無理も言えんかったのじゃ」


「んー、取り潰しの危機に瀕してる状況じゃ仕方ないのか? でも貴族令嬢を1人で送り出すなんて、ありえるのかぁ?」



 うーん。フラッタを見てると武闘派貴族っぽいし、実力も確かではあるけど……。いくら腕が立つとは言え、こんな少女を1人でスポットに送り出すなんて……。



「無論皆の目を盗んで飛び出してきたのじゃ。見つかったら止められよう?」


「明日俺の家に居るのは見られて大丈夫なんだろうなぁ!?」



 ざっけんな! ほぼ家出じゃねぇかこのアホフラッタ!


 取り潰しの危機に瀕している時に令嬢が行方不明とか、ルーナ竜爵家の人々の心労が偲ばれるわぁ……。



「大丈夫なのじゃ。書き置きはしてきたし、家の者が出払っているのも、結局は妾と同じ目的なのじゃからの。それに戦闘力は信用されておるはずなのじゃ」



 自信満々のフラッタには申し訳ないんだけど、戦闘力だけなら俺達も信用してるんだよなぁ。


 出会ったばかりの俺達でさえ感じたフラッタのポンコツっぷりが家の人にバレてないとは思えない。絶対めちゃくちゃ心配されてるだろ。



「フラッタもお家の方も、どんな理由でスポットに入っていたのですか? 比較的小規模のアウターであるスポットに貴族の方が出入りするような理由があるとは……」


「うむ。順を追って説明するのじゃ」



 ニーナの言い分だと、スポットに貴族のような有力者が出入りすることはあまり無いらしいね?


 ニーナってなんか知識が偏ってる気がする。ご両親が魔物狩りだったんだっけ? だから魔物狩り関係の知識には明るいのかねぇ?



「ルーナ竜爵家が没落することとなった要因。それは妾の兄にしてルーナ竜爵家の次期当主でもある、シルヴァ・ム・ソクトルーナの凶行によるものなのじゃ」



 淡々とした口調で、サラッととんでもないことを言い放つフラッタ。


 ……フラッタの抱えている事情が重過ぎて困るんだけどぉ。



「兄上は未だ逃走中でその行方は分かってなくての。他の者に討たれる前に、せめて我が手で終止符を打ちたかったのじゃがなぁ」


「……凶行っていうと、人を殺めたのか? それも、スポットの内部で?」


「……どうやら心当たりがあるようじゃな。スポットで活動している者なら当然か」



 俺の言葉の裏を察したフラッタが1人で勝手に納得している。


 スポット内での凶行……。なんか似た様な話を最近聞いたばかりなんですけどぉ?



「先日行われた商隊壊滅事件は……、恐らく兄上の手によって行われたものじゃ。まだ容疑者の段階を出ていないが、恐らくは確定じゃろう」



 ティムルに聞いたあの襲撃事件が、単独犯による犯行だったとかマジかよ?

 商隊の規模は分からないけど、少なくともマグエルを牛耳っているシュパイン商会と同等以上の規模の商会だったはずだろ?


 フラッタの実力は疑いようもない。俺自身、1人で野盗を壊滅できるんじゃ? と思ったくらいだしな。フラッタの兄なら、フラッタと同等以上の戦闘力があるのかもしれない。更に竜化とかいう切り札まである。



 そう考えれば、たった1人で大規模商隊を皆殺しにする犯行が可能でもおかしくは……、ないのか?



「……確定、なのか? なにか確信が?」


「1つは戦闘力。兄上の実力であれば、あの程度の犯行、造作も無かろう」



 商隊を壊滅させた犯行を、造作もない、と……。


 うん、絶対会いたくない相手だわ。



「2つ目に、現場には兄上が竜化した痕跡があったとの報告を受けておる。だからこそ我が家に真っ先に報告が来たのじゃからな」



 へぇ? 竜化すると痕跡が残るのか。そしてその痕跡は個人を特定できるようなものであると?



「そして3つ目に、兄上はあの事件以来行方不明で、兄上にはあの商隊を襲う動機もあるのじゃ。むしろ兄上が犯人ではないと考える方が難しいのじゃよ」



 俺にはいまいちピンと来ない部分もあるけど、フラッタには何か確信があるみたいだ。


 しかし、大量殺人を犯すほどの動機ってなんだよ?



「動機、ですか? 1つの商隊を壊滅させてしまうほどの動機って、いったいなんなのでしょう」



 動機に疑問を持ったのはニーナも同じだったらしく、俺が聞く前にニーナが尋ねてくれた。


 問われたフラッタは、今までの淡々とした口調とは打って変わって、苦々しく口を開いた。



「……壊滅した商隊を率いておった商会、マルドック商会というのじゃがな。どうやらこの商会は秘密裏に竜人族を監禁して繁殖させ、産まれた子を奴隷にして売りさばいておったらしい」


「「……はぁっ!?」」



 俺とニーナの驚く声が重なる。


 繁殖させて売り捌くって……、それって人身売買どころか、もはや家畜じゃないかっ……!



「……いやいや待ってくれ。そもそもそんなことが可能なのか?」



 教会の子供達の話では、確か15歳になるまでは奴隷落ちは禁止されているんじゃなかったか? この世界にはステータスプレートがあるから年齢を偽るのは難しいはずだし。


 ってことは子供を売りさばくためには、最短でも15年は秘密裏に監禁して育てなきゃいけないことになる。流石にそんなことが出来るとは思えないんだけど……。



「奴隷として売り払ってる以上、情報を隠すのには限界があるだろ。それに採算が取れるとも思えない。いくらなんでも荒唐無稽な話過ぎないか?」


「妾も荒唐無稽じゃと、思ったんじゃがなぁ……。調べたら人身売買の証拠が山のように出てくるのじゃよ」



 フラッタの声はどこか投げやりな感じを受ける。


 俺が思ったことは、既にフラッタも考えたってことか。



「一般客には販売せず、相当な財力のある相手だけと取引。竜人族の奴隷は元々かなり高額なところを、裏取引なので更に値段を吊り上げる。地方の領主に金銭を渡す事で大規模な土地を確保など……」



 恐らく調査によって判明した人身売買の証拠を、投げやりな口調で羅列していくフラッタ。


 ……フラッタの言っていることが本当なら、相当大規模に、それもかなり長期に渡って犯行に及んでいたってことになるんだけど。



 同族が家畜扱いされているのを目の当たりにしてしまったら、確かに大量殺人の動機にも、なりうる……、のか? 正義感が強ければなおさらだろう。



「じゃあ逆になんで今回発覚したんだ? 相当上手くやってたんだろ?」


「商会内部からの告発があったそうじゃ。恐らく商会長を引き摺り下ろしたい誰かがリークしたんじゃろうな。甘い汁が足りなかったのであろうよ」



 発端は内部告発なのかよ。


 甘い汁が足りなかった……、ね。確かに商会長は常に爆弾を抱え続けていたようなもんだ。その爆弾こそが利益の源泉だったとしても、ちょっとでもイレギュラーが起これば簡単に身を滅ぼすことになる。


 まさに今回のように。



「……待ってください。ステータスプレートはごまかしが出来ない物だと聞いています。多少強引な方法を取ったところで本人たちが拒めば、奴隷契約は拒否できるはずでは?」



 ニーナの言葉に、ゴールさんから受けた説明を思い出す。


 確か奴隷側から奴隷契約を無効化できる最終防衛ラインがあったはずだよな? なのになんで大人しく奴隷として扱われているんだ?



 俺とニーナの疑問に、諦めの混じった声色で答えるフラッタ。



「ニーナよ。ステータスプレートがごまかせないのは己の心なのじゃ。15年間も監禁され、外部からの接触を絶たれ、奴隷商人たちに教育された子供たちが、妾たちと同じ価値観に育つわけがなかろう?」


「そ、んな……。つまり、自分たちが奴隷扱いされるのが当たり前だと心から信じていれば、どれ程理不尽な要求でも拒絶することは、出来ないと……?」



 フラッタの説明にニーナが絶句する。


 教育の賜物って奴か。実際地球の歴史でも……、いや日本の歴史だけ見たって、都合の良い思想を植え込まれて誰かのいいように扱われる人間の例は枚挙に暇がない。



 ステータスプレートは魂の端末。上辺だけの誤魔化しが出来ないのなら魂の底から塗り替える、か。


 奴隷として扱われることが常識であるかのように魂から刷り込まされるなんて、本当に性質が悪い……。


 

「えっと、マルドック商会だったか。話を聞く限りは因果応報って感じだけど、そいつらを壊滅させたことでルーナ竜爵家がお取り潰しなるのは少しおかしくない?」



 確かにフラッタの兄が行ったことは凶行だ。だけど事情を知れば情状酌量の余地は充分にありそうに思える。


 下手をしたら種族間の抗争に発展しかねないほどの大犯罪を犯していた商会。悪いけど、そんな奴らは殺されて当然なんじゃないかと思ってしまうけど。



「多くの死者も出たんだろうけどさ、元々は商会のほうが犯罪者だったわけだろ? そのあたりは考慮されないのかな?」


「……実は兄上の罪はそれだけではないのじゃ。兄上はマルドック商会が管理していたと思われる監禁されていた竜人奴隷たちも……、皆殺しにしてしまったのじゃよ」


「はぁっ!? それはほんとになんでだよ!? 同族を救う為の襲撃だったんじゃないのっ!?」



 フラッタから告げられた衝撃の事実に、思わずベッドから身を起こして大声をあげてしまった。


 同胞を救う為だったなら大量殺人に手を染めても……、まだ理解はできる。

 だけどその同胞まで皆殺しにしてしまったら、それはもう狂人じゃないのか……!?



「……それは妾にも、いや兄上以外には分からぬのじゃろう」



 フラッタはただ悲しげに、兄の凶行が理解できないと口にする。



「竜人族であることに誇りを持っていた兄上が、どういう想いで同族をその手にかけたのか……」



 震え始めるフラッタの声。


 フラッタを抱きしめるニーナの体に力が篭ったのがわかる。



「奴隷として人間族に飼い殺しにされている同族を許せなかったのか。生かしていても苦痛しかないと、この世から解放したつもりなのか。妾にはなにも、分からぬのじゃ……」



 消え入りそうなフラッタの声。フラッタこそが兄の凶行を現実として受け入れられていないのだろう。


 ごめんフラッタ。お前に聞いたって分かる訳ないよな……。お前のほうこそ知りたいんだよな……。



 竜人族を幽閉し、違法奴隷取引に手を染めた商人達。


 たとえ相手が大犯罪者であっても、大量殺人なんてしたら情状酌量の余地があるか分からないのに、被害者でしかないはずの竜人族まで皆殺しにしてしまったのでは、家が取り潰されても仕方ない、のか……。


 この1件でいったいどれ程の人間の命が……、って。



「……ちょっと待て。商隊壊滅の話は聞いたけど、そんな大量虐殺があったなんて話は聞いてないぞ?」



 小さな野盗団の出現ですら周知、拡散されるこの世界で、そんな凶悪な事件が耳に入ってこないわけがない。現にマルドック商会壊滅事件はどこかのギルドを通じて周知されたみたいだし。


 こんな凶悪な事件をティムルが伝え忘れるとも思えない。いったいどういうことなんだ?



「フラッタがスポットに入ったタイミングは、俺たちより少し早いんだよな? 商隊が壊滅した話も最近……、ティムルが出発する直前に聞いた話だぞ?」



 考えれば考えるほど混乱する。

 竜人族皆殺しの件を今初めて聞いたために、フラッタの話の時系列がよく分からなくなってしまった。


 俺とニーナはギルドを利用していないから情報に気付かなかったとしても、そんな大量殺人があったなら教会には通達がありそうなものだけど。



 俺の質問が応えやすいものだったのか、フラッタが先ほどよりも落ち着いた声色で回答してくれる。



「うむ、順序はこうじゃな。始めに、マルドック商会が竜人族を飼育して売り捌いているという情報が我が竜爵家に齎される。そしてその情報を元に調査すると、情報が間違っていなかった事が判明する」



 そこまでが事の発端となった、内部告発って奴ね。


 当たり前だけど、まずは犯行の動機になった情報がフラッタの家に齎されたと。



「そのタイミングで兄上の行方が分からなくなり、兄上の捜索をしていると、竜人族の飼育小屋が何者かに……、まぁ十中八九兄上なのじゃが、何者かに襲撃されて皆殺しになる」



 独自調査によって情報が正確だと判明した時点でフラッタのお兄さんは失踪したのか。


 あれ? フラッタの話が事実なら、マルドック商会の壊滅より先に、竜人族虐殺事件があったのか? だとしたらなおさら、ネプトゥコに出発する前のティムルの耳に入ってないとおかしくないか?



「この事件で恐らくマルドック商会の者は、竜人族の次は自分たちが襲撃されると思ったんじゃろうな。大量の護衛を雇い、大規模な商隊を組んで街を離れることにしたのじゃろうよ。そこを兄上に襲われ皆殺しにされたと。こういう順番じゃな」



 竜人族が皆殺しにされたことがきっかけで、マルドック商会の壊滅に繋がったわけか。



 事の順番を成立すると、まず竜人族を飼育していた商会があって、その竜人族が皆殺しにされる事件が起きて、それに危機感を抱いた商会がネプトゥコから逃げ出して、スポットで襲われた、と。つまりマルドック商会壊滅が1番最後になるわけだ。


 しっかし危機感を覚えたのなら、ポータルを使って遠くへ逃げれば良かっただろうに……。財産を諦め切れなかったのか?



「竜人族が皆殺しにされた件が公になっていないのは、街の領主も関わっていた可能性があることと、他の竜人族への配慮の為なのかもしれぬな」



 権力者が関わっていたから情報の公開が躊躇われている? 無用な混乱を防ぐ為にか?


 だけど他の竜人族への配慮の為に事件が隠蔽されているのはなんでだ? 確かに痛ましい事件ではあるけど……。



 まさかさっきフラッタが言ったように、人間族に飼い殺しにされている竜人族などあってはならない、なんて理由じゃないだろうな……?



「それに殺された者たちは、みな『居ないはずの竜人』じゃからのぅ。事を公にするとかなりの大事になろう。ゆえに闇に葬られるのやもしれぬ」



 あ、頭がくらくらする……。あまりの悪意に寒気すら覚える。



 竜人を、飼育? していた商人たち。


 大量の竜人が殺されたのに、面倒だから、と事を公にしない国の判断。


 皆殺しにされた、被害者と加害者。


 そして今なお逃走を続けるフラッタの兄、シルヴァ・ム・ソクトルーナ。



 もう誰が悪くて、誰が被害者で、誰が加害者なのか。


 こんな悪意の坩堝のような状況に、こんなに小さな少女が巻き込まれているのか……。



「あの優しかった兄上が、どうしてこんな事をしてしまったのか、どうしても聞いてみたくてのぅ。出来れば誰よりも、妾が1番に兄上を見つけたいと、馬鹿な事をしてしまったのじゃ」



 フラッタはまだお兄さんのことを諦めていない、のか?


 十中八九犯人に違いないと言いながらも、心のどこかでお兄さんを信じる気持ちを捨てきれていない、そんな風に見える。



「じゃが戦うことしか能のない妾に、兄上を見つけることなど出来ようはずがないのじゃ……。妾はなんと愚かで、無力なのじゃろう……」



 ニーナの胸に抱きしめられたままで、声を殺して肩を震わせているフラッタ。


 ……フラッタには申し訳ないけど、やっぱ聞かなきゃ良かったこんな話。どう考えても俺の手には負えそうもないよ。首を突っ込みたくないんだってばぁ。


 

 それにしても、商隊の襲撃より先んじて竜人族が皆殺しにされていたというのが気になる。


 そこでシルヴァは、いったいなにを見てしまったんだろうか……。



 商人スキルの目利きって、本当に累積していいスキルなのかな……。


 今聞いたような悪意を目にしてしまったら、俺って正気を保てるんだろうか……。

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