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【全年齢版】異世界イチャラブ冒険譚  作者: りっち
5章 王国に潜む悪意3 世界を呪う者
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357 開国のススメ

「終わった、ね……」



 リーチェが独り言のように呟く声が聞こえた。



 ノーリッテが消え去って、クレーターの中心にはもう何も残っていない。


 スペルド王国の建国と共に誕生したレガリアという呪いは、ノーリッテと共に消失していった。



 この世界に初めて降り立った時のフレイムロードの襲撃。


 あれがノーリッテによって引き起こされたことだったのだから、俺とノーリッテの因縁ってのは本当に根深いものだったのかもしれない。



 ニーナの呪いにはノーリッテは関与していなかったのだろうけれど、ずっと追いかけてきたシルヴァの事件とリーチェの呪いの両方に深く関わっていた、ノーリッテとレガリア。


 バロール族と呼び水の鏡を巡ってヴァルゴとも因縁があったし、俺達仕合わせの暴君とノーリッテがぶつかり合うのは必然だったのかもしれない。



「さてと……。このままここに留まっても仕方ないな……」



 改めて自分の体調をチェックする。


 まだ万全とは言いがたいけれど平衡感覚も戻ってきて、普通に動く分には支障がなさそうだ。



 それじゃとっとと帰宅して、みんなと寝室でダラダラ過ごさないとなっ!



「あらぁ?」


「んー? どうしたのティムル」


「いえ、あの人たちも無事だったみたいだなって……。でも、あ~……。無事でもないのかしらぁ……?」



 ピンク色の未来に想いを馳せていると、ティムルが良く分からないことを呟いた。



 ピンクい妄想から現実に戻りティムルの視線の先を確認すると、なんだか見覚えのある6人がボーっとつっ立っているのが見えた。


 断魔の煌きの皆さんも無事だったんだね。でもなんで動かないわけ?



「ダン。彼らを鑑定してみるが良い。全員神判(くがたち)に囚われておるようなのじゃ」


「……は? それマジぃ?」



 フラッタの声に従って6人を鑑定すると、しっかり神判の呪いにかかった状態になっていた。



 神判やばいな。俺達だけじゃなく、その場にいる全員に例外無く効果が及ぶなんて。


 しかも使用した世界呪マグナトネリコが既に滅ぼされているのに、呪いの効果だけがそのまま残っているなんて……。



「この場に留まった以上自己責任だとは思いますが……。戦闘が終わったのに見捨てるわけにもいきませんよねぇ……。旦那様。魔力に余裕があったら彼らに浄化魔法をお願いします」



 余裕があったら……なんて、ヴァルゴも彼らの浄化にはあんまり乗り気じゃないのかな?


 今後断魔の煌きと仕合わせの暴君の関係改善はありえるんだろうか? 少なくともこっちのほうから歩み寄ることはなさそうだけど。



 ……っと、考えるより先にまずは治療を済ませないとな。



「永久の鹽花。清浄なる薫香。聖なる水と浄き土。洗い清めて禊を済ませ、受けし穢れを雪いで流せ。ピュリフィケーション」



 ぐずぐずしてると神判に飲み込まれて絶命しかねないので、さくさくっと6人全員にピュリフィケーションを使用する。


 別パーティの彼らには全体効果が適用されないのが面倒だ。



 鑑定をすると問題なく正常な状態に戻っているけれど、断魔の煌きはまだ眠ったままだ。


 ニーナたちも解呪してから目覚めるまでに、少し間が合ったからなぁ。



「ダンよ。魔力の方は大丈夫かの? 浄化魔法の魔力消費も決して軽くなかろうに」


「大丈夫だよフラッタ。ノーリッテとの会話でも回復できたし、ティムルも何も言わないでしょ?」


「お姉さん的には全快するまで安静にしてて欲しいけどねぇ……。でもダンがちゃんと回復してきてるのは間違い無いわよー」



 心配してくれるフラッタとティムルのほっぺにキスして感謝を伝える。



 さてと、この人たちが目を覚ます前に帰っちゃうとしようか。


 関係が最悪な俺達が顔を合わせると面倒事が起こる気しかしないからな。



 しかしそんな思考を正確に読み取ったニーナに、ちょっと待ってと引き止められてしまった。



「このまま帰ったら当分寝室から出られないでしょ? だから帰る前にライオネルさんに報告した方がいいと思うの」


「え~? 報告~……?」


「あの人は私たちにずっと協力的だったんだから、私達もちゃんと協力しよ? 寝室に篭る前に用事は全部済ませておくのー」



 ん……。確かにニーナの言う通り、ライオネルさんはずっと友好的だったか。


 こっちの要求全てを即呑んでくれたし、手配してくれた案内の人も誠実に対応してくれたっけ。



「そうだね。リーチェの件でエルフ族の印象は最悪だったんだけど、ライオネルさんの周りの人には悪い印象はなかったし、こちらも誠意で応えるべきか……」



 それに雑務は全て片付けておけば、寝室に篭った後も邪魔が入る心配は無いもんなっ。


 最高の時間を楽しむ為に、もうちょっとだけ我慢の時間が続くんじゃよーっ。



「ってことで悪いリーチェ。帰宅はもうちょっとだけ我慢してくれ」


「ううん。全然構わないよ。というかダンがエルフ族に悪い印象を抱いていないのが嬉しいし……」



 少し照れくさそうにもじもじしているリーチェ。


 やっぱり自分の種族を嫌われるのは嫌だよな。ごめんごめん。



 リーチェの頭をよしよしなでなでしていると、ガルシアさんの目の焦点が合い始めてきたのに気付く。


 長居は無用だね。



 ポータルを発動してライオネルさんの下に転移した。




「え、なにこれは……?」



 転移先の光景を目にして、思わず素で呟いてしまった。



 ポータルの出口には200人くらいのエルフ族が集まっていて、俺達の姿を目にした瞬間に全員が跪いてしまった。


 その中には勿論ライオネルさんも含まれている。



 ……あ~もう、魔人族の集落を思い出すからやめてよ、こういう対応はさぁ。



「この度はエルフェリアの崩壊の危機、エルフ族滅亡の危機……、そして人類存続の危機まで解決していただき、全エルフ族とこの世界に住まう全ての人間を代表して、心より感謝申し上げます……!」



 頭を下げたままで俺達に感謝の言葉を述べるライオネルさん。


 でもお礼を言うなら、相手の顔を見ながらのほうが良くないかなぁ?



「顔をあげてよ。こういう対応されるのは好きじゃないんだ。それに襲撃者をこの地まで逃がしてしまったのは俺だし、エルフ族の滅亡の危機は未だ回避できてないし、お礼を言うのは早すぎるでしょ」



 ノーリッテをスポットで仕留められていればエルフェリアに犠牲者は出なかった。


 そう考えると、エルフ族の感謝を素直に受け取る気にはどうしてもなれない。



 エルフ族を襲撃したのはノーリッテだけど、俺の責任が全く無いとは言い切れないよなぁ。



「ライオネルさん。今回の件とこれからの件で、少し話ができないかな? 出発前にも言ったけど、俺はエルフ族が滅ぶのを放置しておく気は無いんだよね」


「話……か。うん、話をしよう。私ももっともっと話をしたい」



 俺の言葉にライオネルさんは頭を上げてから応える。



「……エルフ族はもっと他者と会話をするべきだった。同胞たちと、他種族たちと、もっと本音で語り合うべきだったんだ……」


「後悔は俺が帰ったあとにしてくれる? これでもまぁまぁ忙しい身なんでね。早く会話を済ませて一刻も早く家で休みたいんだよ」


「っとと、これは申し訳無い。そういうことならこの場で話をさせてもらってもいいかな? 椅子や飲み物は運ばせよう」



 ライオネルさんの提案に頷きで返す。


 どうやらライオネルさんは、周囲のエルフ族にも俺達の会話を聞いてもらいたいそうだ。



 風を操れば外野の声が邪魔になることもないし、俺達の声を周囲に届けるのも簡単だからね。


 周囲の目さえ気にしなければ会話には一切支障がない。



 なんと現在エルフェリアで生きている全エルフがここに集まっているらしく、エルフ族の汚点である偽りの英雄が本当に救世の偉業を成し遂げてくれたことで、エルフ族の心境に少しでも前向きな変化が与えられることを期待しているらしい。


 もう滅亡を受け入れて諦めてしまっているライオネルさんだけど、やっぱり本音では滅亡なんて望んでないよな。



 しかし、この200人ちょっとしかエルフが残ってないってのは、マジで種族滅亡秒読み段階って状況だったんだなぁ。


 まさかアウターで暮らしていた魔人族の半数にも満たないとは……。



 ここに集まっているエルフのほかに、マジックアイテム開発局に出向いているエルフが50名ほどいるらしいけれど、その人たちはエルフェリアに見切りをつけて逃げ出したエルフだそうで、エルフ族の問題解決には恐らく協力してくれないだろうという話だった。



「……ああーーっ!?」


「ど、どうしたのかな? そんなに大声を出して……?」


「ごめんっ、こっちの話だよ……! こっちの話なんだけど、マジかぁ……!」



 1つの事実に思い当たって思わず叫び声を上げてしまった。


 ライオネルさんに驚かせてしまった事を詫びつつも、胸の奥が微妙にモヤる。



 もしかして俺がゴブトゴさんに頼んでいたエルフの里への立ち入り許可……。エルフの里にまで伝わってなかったんじゃないだろうか?


 妙に時間掛かってたしさぁ……!



 ……ま、今となってはどうでもいい話になっちゃったけどぉ。




 椅子とテーブル、そして飲み物と軽食が手際良く用意される。


 その間に今回の戦いとその経緯について俺達が知っていること、体験したことをエルフ族に説明していった。



「そう、か……。我々が勝手に滅びに瀕している間も、この娘は独りで精一杯誓いを守り続けていたんだね……」



 話を聞いたライオネルさんと周囲のエルフたちは、どこか後悔を滲ませながらも感情的になる事はなかった。



 エルフェリアが襲撃された原因は俺がノーリッテを取り逃してしまったことだと伝えても、エルフ達は怒りも動揺も見せることは無かった。


 それは結果論でしょう、と。





「……これが俺達と今回の襲撃者の因縁の全てだよ」



 今回の戦いの顛末を報告し終え、用意された椅子に腰を下ろす。


 報告も終わったし、これからが会話の本番だ。さて、何から聞こうかな?



「そう言えばノーリッテが、エルフ族は基本的にプライドが高くて傲慢な種族だと言っていたんだ。ライオネルさんもその評価は認めていたようだけどさ。実際に話してみたら、始めに襲ってきたエルフ以外は俺達に尊大な態度を取る人って居なかったんだよね」


「ふふ。それは褒め言葉として受け取らせて貰うよ」


「真実を知るレガリアのトップに居たノーリッテが持つエルフ像と、実際のエルフの印象が全然違うのは何でかな? 心当たりは無い?」



 ノーリッテの年齢は50代前半だった。けれどエルフ族の人口問題で争いが起きたのはもっと前の話だ。


 ノーリッテが生まれた時には既に、エルフ族全体に厭世的な感情が蔓延していたはずだ。



 エルフが出入りしているというマジックアイテム開発局の情報も駄々漏れだったのに、実際のエルフとノーリッテたちの語るエルフ像があまりにもかけ離れているのはなんでだ?


 確かに傲慢なエルフにも遭遇したけど、今ではそっちのほうが少数派なんだろ?



「そう言えばゼノン……。私が戦った、レガリアを率いる者も言っていましたね。建国に関わった者たちはまだ生きていると」



 俺の疑問に続いて、ヴァルゴが思い出したように口を開く。



「しかしライオネルさんの話を聞く限り、ノーリッテやゼノンが生まれる前には、建国に直接関わった者たちは殆ど死んでいるように思えます。エルフの実情とレガリアの印象が、なぜか大きく乖離していますね?」


「……確かにおかしいな?」



 レガリアという組織には興味が無さそうだったノーリッテとは違って、ゼノンという槍使いはレガリアの実質的な指導者だったはず。


 そんな男なら一切の情報操作は受けていないはずなのにな?



 ふむ、と一瞬考え込んでから応えるライオネルさん。



「まず第1に、レガリアはエルフェリアでは殆ど活動していないんだ」


「あ、そうなの? っていうか分かるものなの?」


「偽りの英雄譚の元凶であるエルフ族をレガリアは蛇蝎の如く嫌っているし、存命中のエルフはスペルド王国建国前から生きているからね。ほぼ顔見知りしかいないんだよ」



 生きているエルフをスカウトした可能性は無いのかと聞いてみたところ、その可能性はかなり低いという返答が得られた。



 レガリアが発足したのはスペルド王国建国とほぼ同時期だが、その頃にはエルフ族はエルフェリア精霊国を興してこの地に引き篭ったあとだったのだ。


 そしてマジックアイテム開発局に勤めているエルフはレガリアと同調することはあっても、この地に戻ってこようとする者は1人としていなかったらしい。



「それに、迷いの森に阻まれたこの地に他種族の者が訪れることは滅多に無いからね。諜報活動もしにくかったのではないかな? それとも単純に、情報収集すらしたくないほどに嫌われていたのかもしれないが」


「……そっか」



 レガリアは偽りの英雄譚に反発して生まれた組織。その元凶であるエルフ族と手を取り合うわけがないのか。



 人間族のように同種族で意見が分かれたわけじゃなく、偽りの英雄譚はエルフ族全体の決定だったんだろうしな。


 多少の反対派がいたとしても、レガリアから見ればエルフ族はエルフ族にしか映らなかったと。



「第2に、やはりエルフ族が傲慢でプライドの高い種族というのは間違いないということなんだろうね」



 自虐的な事を言いながら自虐を感じさせない客観的な口調で、ライオネルさんは説明を続ける。



「マジックアイテム開発局に協力しているエルフは、まだ比較的活気があった半面、傲慢な者が多かったと思う。そしてプライドの高いエルフ族は、エルフの内輪揉めなど外部に喧伝する気は無かったのだろう」


「マジかよぉ……」



 それってつまり、自分はエルフェリアが嫌で逃げ出してきたのに、周囲にはその事実をひた隠しにして生活しているって事かぁ?



 あー……、逆にそういう奴らがエルフェリアに残ってないのはラッキーだったかもなぁ。


 相手したくないわぁ、そんな奴ら……。



 建国の英雄譚の真実を知っていて、レガリアという組織が誕生した経緯を思えば、エルフの実情とレガリアの認識の齟齬は不自然ではないのかぁ。


 他にも色々な要因はあったのかもしれないけれど、とりあえず納得は出来たかな?



「今度はこちらから質問させてもらおうかな。ダンさんは戦いに赴く前、エルフ族の出生率の解決に心当たりがあるような素振りだったね。差し支えなければ伺っても?」



 ライオネルさんの言葉を頭の中で反芻していると、今度はライオネルさんから質問が飛んできた。



 心当たりと言っても、存在を知っているだけでまだ現実的な話にはなってないんだけど……。


 ま、話す分には問題ないかな?



「えっと、催淫と発情っていう2つの状態異常があるんだよ。発情は肉体に作用し、催淫は精神に作用して性欲を高める状態異常なんだ」


「性的欲求を高める状態異常……。そんな物が存在するのか……」


「今のところ再現するアテは無いけどね。この2つをポーションか何かで再現できればと思ってさ」



 本当は好色家になってもらうのが手っ取り早いんだけど、そもそもの性欲が薄いエルフ族にとっては好色家を得るまでが大変だろうからね。



 ……ただなぁ。これって物凄く犯罪に使いやすいアイテムなんだよなぁ……。


 できれば開発すら避けたいし、開発したとしても一般に流出させるわけにはいかないアイテムだ。



「催淫と発情、か……。その2つもある意味強制的な処置に他ならないが……。愛し合う者同士が使う分には問題ないのだろうか……?」



 俺の話を聞いて、ぐぬぬと考え込むライオネルさん。


 愛し合う者同士だったらそもそも要らないと思いますけどねー? プリティリキッドを使ってる俺が言っても説得力無いですかねー?



「エルフ族は愛し合う者同士ですらなかなか肌を重ねない種族だからね。こういった措置も必要になってくるか……」


「……そ、そう」



 ライオネルさんの苦悩に、思わず言葉を詰まらせてしまう。



 レガリアとエルフ族の実情も乖離してたけどさぁ。我が家のエロ神のようなエルフと他のエルフ族の性欲も乖離しすぎてませんかねぇ?


 リーチェは純潔の誓約があるくせに、スポット遠征から帰ってきた俺に対して暴走してくれやがったんですけどぉ?



 まぁ状態異常をアテにするのは次善策だ。本命の方も話してしまおう。



「2つ目のアテは好色家っていう職業の存在だ。好色家の職業スキルには精力増進があるからね。この職業に転職出来れば、エルフの少子化問題は一気に解決できると思う」


「好色家。それに精力増進か……。そんな職業があるなんて夢にも思ってなかったなぁ……」



 性欲が薄いと言われる一般のエルフの価値観だと、愛の営みをサポートしてくれる職業の存在は意外に思えるのかもしれない。


 けど俺がこの世界で1番お世話になってる職業って、間違いなく好色家先生と艶福家大先生なんだよ?



「ただ職業を得る条件が、心から愛し合っている男女が複数で交わることだから……。性欲の薄いエルフ族が好色家を得るのは難しいかもしれないね」


「なるほどねぇ。薬に頼るよりよほど健全ではあるけれど、確かにダンさんの言う通りエルフ族が転職条件を満たすのは難しいかもしれないね……」



 リーチェとライオネルさんって本当に同じ種族なのかなぁ……?


 我が家のエロ神リーチェは本番前に好色家を獲得しちゃって、もう準備万端の状態になっちゃってるんですけど?



 冗談はさておき、1組でも好色家家族が誕生してくれれば、長命なエルフ族にとってはかなりの朗報だと思うんだけどねぇ。



 ……って、長命だから性欲が強すぎると人口が爆発しちゃうもんね。だからかなり性欲控えめな種族になっちゃったんだろうな。


 けれど、人口を増やそうって時にはかなり大変な縛りだよ、まったくもう。



 さて、残るは3つ目のアテなんだけど……。


 これってアテでもなんでもなく、俺が都合の良い労働力を得るだけだよな? 効果なんて俺にも分からない不確かな方法だ。



 でも今のエルフ族とエルフェリアは閉鎖的過ぎて、どうしようもない状況だと思うんだよ。



「3つ目だ。この地を管理する人数は最低限にして、エルフ族はエルフェリアの地からどんどん外に出ろ」


「え……?」



 俺の言葉が理解できずに、素で聞き返してくるライオネルさん。



 かつてのアルフェッカの繁栄を知っているはずのアンタが、なんで俺の言っている事を理解できないかねぇ?


 この世界って、他種族と交流すればするほどに繁栄できるようになってるってのに。



「エルフ族だけで引き篭もってるから心が死んでいくんだよ。どんどん外に出やがれ」


「ひ、引き……!?」


「リーチェの誓約は失われた。レガリアも壊滅した。スペルディア家には真実が伝えられていない。だからエルフ族が外に出るのに何の問題も無いんだよ」



 偽りの英雄譚やスペルディア家との盟約を理由に各種族がそれぞれ引き篭もっているのは、もう終わりにして欲しいんだよ。


 この世界では孤独になればなるほど、人も種族も衰退するように出来ているのだから。



 各種族の本拠地はそのままでもいいと思う。


 エルフェリアの地も聖域の樹海も、それぞれの種族が未来永劫大切に守っていけばいい。



「もう各種族がそれぞれバラバラに生きる時代は終わるんだよ。俺が終わらせるからな」



 だけど他種族と交流せずに生きるのはもう終わりだ。


 偽りの英雄譚も無くなって、これからはまた異種族が共に暮らす時代になってもらわないといけないんだ。かつてのアルフェッカのように。



「……ふぅぅ」



 深く息を吐いて覚悟を決める。これを口にしてしまったら、もう後戻りは出来ないぞ。



 だけど既に竜人族とも魔人族とも、そしてエルフ族とも関わってしまったんだ。


 だから残るドワーフ族にだって、思いっきり関わってやろうじゃないか。



「スペルド王国とドワーフ族の里を阻む山岳地帯グルトヴェーダ。俺はそこに物資輸送路を造ろうと思ってるんだ」


「――――えっ!?」



 ティムルが驚いた声をあげるけど、対応は後回しだ。


 ごめんねお姉さん。まずはライオネルさんに啖呵を切らないといけないからさ。



「エルフ族にはその物資輸送路の建設、維持事業に従事してもらいたいんだよ。ドワーフ族の為に、エルフ族に働いてもらいたいんだ」



 先祖代々の土地から離れる気が無いドワーフ族。水も無く魔物も発生せず、作物も育たない不毛の土地なのに、絶対に離れる気は無いらしい。


 だから逆転の発想で、そこまで物資を届ければいいじゃない作戦だ。



「な、なな……! ちょ、ちょっと待って、待ってくれ……!」


「ライオネルさんが戸惑うのも分かるけど、エルフェリアの生活を支えていたアウター、宿り木の根も消失してしまったんだ。どっちにしても外と交流しないと、エルフ族は生活すら出来ない状況なんだよ?」


「そ、それはそうだけど……! だからって……! って、えぇっ!? 宿り木の根が消滅って!?」



 グルトヴェーダはかなり険しい山岳地帯で、ドワーフ族の集落がある場所までは直線距離でも相当離れているらしい。


 だから道を作るよりも移動魔法に頼りたくなる気持ちも分かる。



 けど移動魔法による輸送だけじゃ、インベントリに収納できない生活必需品はどうしても不足してしまう。


 ドワーフ族を困窮から救うためには、陸路が絶対に必要なんだ。



「数百年単位で引き篭もってたんだ。これからエルフ族には、思い切り働いてもらうからねー?」



 戸惑い混乱しているライオネルさんに構わず、笑顔で仕事を押し付ける。


 人に無理難題を課すときには、相手の話を聞かずに笑顔でゴリ押しするのがセオリーだ。



 ここもいっちょ暴君らしく、我が道を歩むとしますかねぇ。


 エルフ族もドワーフ族も、引き篭もったままで簡単に滅びれると思うなよぉ?

※こっそり設定公開。

 最終局面で世界呪マグナトネリコが無防備を晒し続けたのは、実は断魔の煌きのメンバーが神判に巻き込まれて呪海に囚われていた為でした。

 幸か不幸かイントルーダーと対峙するには力不足だったおかげでマグナトネリコに認識されることがなく、葬槍などの効果対象に選ばれずに済んで無事に生き延びることが出来ました。

 しかし神判は世界呪マグナトネリコ本体ですら対象を指定することが出来ない無差別範囲攻撃なので、しっかり巻き込まれてしまったのでした。

 ダン達が世界呪マグナトネリコを滅ぼしたあとも暫く呪海に囚われていた彼らは、仕合わせの暴君メンバーよりも強く神判の影響を受けてしまっています。



 王国に協力しているエルフ族がエルフェリア精霊国を見限って協力しようとしない理由は、エルフ族の中でも特に選民思想の強い者たちが外に出てしまった為です。

 エルフは自分の種族に誇りを持っていますが、種族愛があるわけではなく、エルフ族である『自分を』誇りに思う種族です。なので種族全体が滅びの危機に瀕した時に一目散に逃げ出した活動的なエルフほど、傲慢で自己中心的で選民思想に染まった思考の持ち主だったりします。


 反対に、ライオネルを始めとするエルフェリアの地に留まったエルフ族は、滅亡の危機に瀕したことで選民思想が木っ端微塵に砕かれており、それまでの傲慢なエルフ族とは全く別の価値観を持つようになっています。自分達を選ばれた種族だと思い込み、その思い込みが偽りの英雄譚に繋がったと信じるライオネルたちは、他の種族と迎合することに抵抗は無くなっています。


 それでもダンたちと接触するまで何のアクションも起こさなかったのは、長きに渡る同胞との戦いと偽りの英雄譚によって心が完全に折れて、種族の滅亡を受け入れて絶望してしまっていたからなのでしょう。

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