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【全年齢版】異世界イチャラブ冒険譚  作者: りっち
5章 王国に潜む悪意3 世界を呪う者
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354 マグナトネリコ④ 断罪

※本編内で何度も視点が変わります。

 さほど分かりにくくはなっていないと思いますがご注意ください。

「…………はは。ここでこう来るかぁ~……」



 目の前に双剣を構える俺自身が立っている。



 自分自身との対決とかって定番だよね。これが神判(くがたち)の効果なのかな?


 しっかし、改めて見るとムカつく顔してんなぁコイツ。



「……なんでお前はまだ生きてるんだ」



 ムカつく面した目の前の相手は、俺に呪詛の言葉を吐き始める。


 その搾り出すような言葉には、これまで感じたことが無いほどの強い憎悪が込められている。



「お前のせいでどれだけの命が失われたと思っている……! だというのにお前は更に多くの命をその手にかけながら、いつまでも生き汚く生き延びやがってぇぇっ!!」



 意味不明な事を叫びながら、俺に向かって切りかかってくる俺。ややこしいな?



 流石に職業浸透数が多いだけあって、今までの誰よりも早く振るわれる剣を受け止めながら、相手の動きを観察する。


 速さも動きも俺自身に他ならないなぁ。



「……さて、どうしたもんかなぁ」



 俺を殺せる機会に恵まれるなんて最高に幸運なんだけど、コイツってこのまま殺しちゃっていいのかな?


 呪言魔法で現れた相手だし、攻撃したダメージが自分に跳ね返ってくるとかありそう。



「どうしたぁ!? 何か言い返してみろよぉ!」



 俺が口も手も返して来ないのが不満なのか、煽るように叫びながら双剣を叩き付けてくる俺。


 言い返すも何も、(お前)に興味なんて無いんだよ?



「お前がこの世界に来たせいで失われた数百の人間を忘れて、お前は好き勝手に女を抱く日々を過ごしやがって……! そんな理不尽が許されて良いわけ、ねぇだろうがよぉっ!」



 憎悪に満ちた言葉を吐きながら双剣を振るってくる相手。



 んー。そう言えば、最近はあの日の事を思い出す回数が減っている気はするな?


 以前は寝ても覚めても頭の中にこびり付いてた気がするんだけど。

 


 でもなー。あの日の出来事を忘れない事と、俺自身が幸せになることは、別に矛盾しないんだよなぁ。



「呪われたニーナを助ける? お前が? 笑わせるなぁっ!! 呪われているのはニーナじゃなくてお前だろうがっ! その呪いで何人の人を殺めたんだ、この人殺しがぁっ!」


「人殺し……、かぁ」



 この世界に来たばかりの頃、まだマグエルに到着する前にかなり悩んだことがあったっけ。



 今だって出来るだけ他人を手にかけたくはないと思ってるけど、以前ほど悩むことは無くなった。


 日本人としての倫理観を持ったままだったら、きっと俺は死んでいたから。



「好みの女を絶望させ、そこから手を差し出して自分に依存させて好き勝手に弄ぶ……。反吐が出るぜっ! 女たちから選択肢を奪っておいて、よくも愛だのなんだのと口に出来るもんだっ!」


「いやぁ? みんなが絶望してたのは俺とは関係ないからね?」



 仮に俺が彼女達を絶望させ、そして自分に依存させてしまっていたとしてももう気にしないけどさ。


 依存していようがいまいが、彼女達が幸せならそれでいいんだから。



 きっかけなんか関係ない。


 今俺達が想い合っている事だけを忘れなければいいんだ。



「私財を投げ打って慈善活動とは恐れ入るぜっ! 会った事もない相手を助けて英雄気取りかっ!? お前が殺した相手の命が返ってくるわけでもねぇってのになぁ!?」



 う~ん。これを言われると反論出来ないかもな。慈善家も篤志家も浸透してるし?



 でも別に贖罪のつもりでやったわけじゃない。


 あんなことで俺が許されていいはずがないんだから。



 だけどもう俺の目の前で、新しく不幸に落ちる人を出したくないだけだ。



「お前はこんな人間じゃなかっただろうが! 夢も目標も無く、ただなんとなく毎日を生きていただけだった。生きていたのは死ぬ理由が無かったからだろ!?」


「……まぁ否定はしないよ」



 どうやらコイツは俺が別の世界から来たことを知っているようだ。


 その時の俺のことも知っているような口振りだし、コイツは本当に俺自身なのかもしれない。



「そんな無気力で無価値なお前がこの世界では随分張り切ってるよなぁ!? 異世界デビューってか!? 笑わせるなぁっ!!」



 相手の言葉で思い出す。この世界に来る前、日本で過ごしていた日々の事を。



 俺はこれと言って特徴の無い人間だったと思う。


 他者と衝突することを嫌い、ぶつかりそうになったら自分が下がるタイプの人間だった。


 趣味と言えるようなものはゲームや漫画に触れることで、それだって誰かと語り合えるほどの熱量なんて持ってない。



 ……今思えば、まるで死ぬまでの暇潰しをしているような人生だったなぁ。



 互いの双剣がぶつかり合う音が響く。


 日本では聞いたことがなかった音。けれどすっかり耳慣れてしまった。



 まさか俺がこんなにも剣に打ち込む事になるなんてねぇ。



「裁かれろ! 断罪されろ! 破滅しろ! それがお前の本質、お前の本当の願いだろうがっ! なにをいつまでも安穏と過ごしてやがるんだお前は! お前は自分が殺した人々に詫びながら、さっさとその命を絶てばいいんだよぉっ!!」



 叫びながら双剣を振るう俺の顔をした相手。



 日本にいた頃まで知っている以上、コイツが俺だってことは間違いないんだろう。


 俺の望みが断罪されることだってことも否定はしない。



 ――――けど。



「やなこった。死ぬならお前だけ勝手に死んでろバーカ」


「なぁっ!?」



 相手の双剣を力ずくで押し返す。


 弾かれたように後方に飛び、俺から距離を取って睨みつけてくる相手。



 剣も記憶も俺そのもの。お前は確かに俺なのかもしれない。


 ……だけどさぁ。



「お前が俺だって言うならさ。ちゃんと最後まで俺の心を代弁しろよ。分かってんだろ? 俺の考えが。なのにそこまで語らないのはなんでだ? ビビってんの?」


「うるせぇ! お前の望みは自らの破滅だ! それ以外のなにものでもねぇ! お前自身に斬られて死ねぇっ!」



 明らかに動揺し、剣筋が乱れる相手。こんな剣、打ち合う価値もない。



 動揺しているということは自覚があるってことだ。


 なのにそれを口にしないのは、それを口にするのは相手にとって都合が悪いから。



「悪いけど、俺が不幸になって破滅するのを俺の家族は許してくれないんだ。みんなの願いを無視してまで自分の我が侭を通す気なんて毛頭ないよ」


「それは結局自分の罪から目を逸らしているだけだろっ! みんなを言い訳に罪と向き合うのを恐れてるんだろうがっ!」


「必死に否定してくるって事は、お前ももう分かってるんだろう? 俺が生きている理由を。俺が死を選ばない理由を。お前が口にできないって言うなら、代わりに俺が言ってやるよ」


「黙れええええええ!! とっとと死ねええええ!!」



 まるで俺から告げられる言葉を恐れるかのように、嵐のような斬撃が浴びせられる。


 けれどその動きは精彩を欠き、息は乱れ剣筋はぶれている。



 ……やめろ。俺の顔と体でそんな無様を剣を振るうんじゃない。



 こんな無様な剣など掠りもしない。


 体捌きだけで剣撃を縫って、相手が黙っていた俺の想いの続きを口にする。



「誰よりも自分が嫌いで、自分の破滅を心から願っている俺にとって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と思ってるから……。だから今もこうして生きてるんだよ」


「ふっざけるなああああああ!!」



 俺の言葉を聞いて、その言葉を必死に否定しようとする俺自身。


 乱れきったその剣を怒りに任せてがむしゃらに振り回してくる。



「詭弁だ!! 言い訳だ!! 誤魔化しだ!! 結局自分が幸せになりたいだけだろうがああああああ!!」


「……確かに詭弁だし言い訳だし、誤魔化しだと思うよ」



 でも仕方ないじゃないか。


 愛するみんなが幸せになるには、俺自身が幸せにならなきゃいけないらしいんだから。



 俺のことなんてどうでもいい。


 みんなが幸せでいてくれれば何も要らない。



 俺は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだよ。



「何故だ何故だ何故だあああ!? お前は何も望んでいない! 何も欲しがっていない! お前には自分というものが無いじゃないか!! なのにどうしてお前は潰れないんだ! 空っぽのお前は、芯の無いお前は、世界に潰されなきゃおかしいだろうがあああ!!」



 目の前の相手は気が狂ったかのように暴れまわり、その動きはもはや剣術の体を成していない。



 ……こいつ、本当に俺なのか?


 俺が潰されない理由なんて、みんながいるからに決まってるのに。



「空っぽの俺の中はみんなが埋めてくれたんだよ。俺がみんなを助けたんじゃない。俺がみんなに救われてるんだ」 



 俺達はどっちがどっちを助けたなんて単純な関係じゃないんだよ。


 お互いがお互いを必要としていて、相手を失ったら生きていけないくらいに歪な関係なんだ。



「こんなことも分からないなんて、どうかしてるぜ?」



 そんな分かりきったことすら理解できない……、コイツはきっと俺じゃない。


 そしてコイツが俺じゃないなら、コイツの正体は1つだけだ。



「……なぁ、ノーリッテ?」



 その名を口にした瞬間、目の前が光に包まれたような気がした。









「……ん、どうやら生きてるみたいだね」



 気付くと目の前には世界呪マグナトネリコの姿があった。


 どうやら無事に元の場所に戻ってこれたらしい。



 マグナトネリコにも動きは無いけど、こっちのみんなの反応も全く動いていないみたいだ。


 みんなが神判に沈むような事は無いと思うけど、今のうちに様子を見に行くべきかな。



 ニーナの反応がある場所に転移する。



「ニーナ。ニーナ。……やっぱ意識は無さそうかぁ」



 ポータルで合流したニーナは、虚ろな目をしてその場に立ち尽くしていた。


 地面に沈められたような感覚だったけど、肉体はそのままこの場に留まっていたのか。




 ニーナ

 女 17歳 獣人族 獣化解放 獣戦士LV123

 装備 呪物の短剣 アサシンダガー 神護の髪飾り 神速の風鎧  

    ドラゴングローブ フラッシュブーツ 魔除けのネックレス

 状態異常 呪い(神判)


 


 鑑定をしてみると、呪いの状態異常にかかっている事が分かった。


 結界みたいな魔法に思えたけど、神判って呪い扱いなのか。



 ともかく、状態異常だったら問題ない。



「永久の鹽花。清浄なる薫香。聖なる水と浄き土。洗い清めて禊を済ませ、受けし穢れを雪いで流せ。波紋になりて濯ぎて落せ。ピュリフィケーションプラス」



 ピュリフィケーションプラスを発動し、全員を浄化する。


 神判なんて呪いを解呪できるか不安だったけど、浄化魔法で問題なく消え去ってくれた。



 さぁみんな戻っておいで。俺は現実(こっち)で待ってるからさ。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「私の存在がダンを苦しめているのっ! あの人のためを思うなら今すぐ彼を解放すべきなのっ!」


「あ~……、ごめん。そのくだり、この前父さんとやったばかりなの……」



 突然私は自分自身に襲われ、凄い勢いで罵倒されてしまったけど……。


 この前父さんと戦ったときの焼き増しなの?



 ……むしろ、改めて突きつけられた私のナイフ捌きに凹みそうなの。


 普段はヴァルゴやフラッタと手合わせしてるから、自分の大雑把さが滅茶苦茶目立っちゃうの……。



「ダンは自分が苦しむよりも、私が独りで死ぬことを許せなかった人なの。私が私を責め続ける事を許さずに、どこまでも幸せで満たしてくれる人なんだよ?」



 叫ぶ相手に笑顔を返す。


 その途端相手は消え去り、代わりに温かい何かがこの場に降り注ぐ。



 ああ、これはダンの魔力だ。またダンに助けてもらっちゃったの。



 ふふ。本当に仕方ない人。


 私を責める相手がたとえ私自身であっても、ダンは絶対に許さないんだねっ。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「何人の男と寝たかも覚えていないような体でダンと肌を重ねることが恥ずかしいと思わないのっ!? 汚れきった私はダンには相応しくないのよっ! 消えなさい!!」


「あはーっ。残念でしたっ。汚れきった私の事を丸ごと受け入れてくれたダンの下を去るなんて、そんなの出来る訳ないでしょ?」



 4本のオリハルコンダガーがぶつかり合う中、醜く歪んだ顔をしてる私に、あっかんべーっと舌を出しておどけて見せる。



 コイツが私の内面なら、私は今でも男に弄ばれた日を後悔しているのかもしれないわね。


 だけど過去の後悔のせいで今の幸せを捨てるなんて、そんな馬鹿馬鹿しいことをするわけにはいかないわ。



「たとえ何度生まれ変わろうと、私は綺麗なままで生きていくよりも、汚れ抜いてでもダンと出会う道を選ぶわよ? ま、好きで弄ばれたわけじゃないんだけどねー」



 まるで私の言葉に応えるかのようにダンの魔力が降り注ぎ、私の後悔を消し去ってくれた。


 まったく、貴方はいつも私を丸ごと受け入れて、私の後悔すらも良かったと思わせてくれちゃうんだからっ。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「自分だけが想いをぶつけて、相手の都合などお構いなし! まっことお子様じゃのう! 妾のせいでダンがどれだけ苦しみ、そして辛い道を歩んできたのか分からないわけでもなかろうがっ!」


「相手の都合を考えるばかりでは進めぬこともあるのじゃ! 時には自分の気持ちだけで踏み込むことも必要であろう! まさにダンのようにのう!」



 妾の体より大きいドラゴンイーター同士の衝突。


 その空間を震わせるような衝撃の中、目の前の妾と言葉でもぶつかり合う。



 あの日妾と出会わなければ、ダンとニーナは竜爵家と関わりを持たず、メナスと対峙することは無かったのかもしれぬ。


 妾との出会いがダンをどれ程苦しめてしまったのか……。妾には想像することも出来ないのじゃ……。



 ……じゃがっ!



「どれだけ苦しもうとも妾の気持ちを嬉しいと言ってくれたダンに、妾が気持ちを伝えなくてどうするのじゃっ! 素直に想いを伝えることが幼いということなら、妾は子供のままでダンに大好きだと伝え続けるのじゃー!」



 妾の叫びで下らぬ雑念はかき消され、代わりにダンの魔力が感じられる。



 ほれ見ろ。やはり気持ちを伝えねば始まらぬのじゃ。


 伝えた結果相手が苦しもうとも悩もうとも、それでも伝えなければ届かないのじゃ……。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「どこまでも一途に想ってくれるダンを欺き続けた気分はどうかなっ!? あんなに尽くしてくれた彼に、リーチェでもリュートでもない僕はどうやって応えたらいいんだろうねぇっ!?」


「ぼくが誰かなんてもうどうでもいいんだ。ダンはぼくがリーチェでもリュートでも、……きっと別の誰かであっても愛してくれるはずだからね」



 最早弓よりもずっと扱い慣れてしまった翠緑のエストックを振るいながら、相手の言葉に改めて自分の幸せを噛み締める。



 454年も続いたエルフの狂気、偽りの英雄譚。


 たった独りで長い旅を続けた先に手に入れたのは、ぼくが誰であろうと構わず愛してくれる、偽りのないダンの愛情だった。



「リーチェでもリュートでも無い? 逆だよ。ぼくはリーチェでもありリュートでもあるんだ。英雄譚は偽りでも、ぼくが過ごしてきた日々は紛れもない真実なんだからっ」



 ぼくの記憶の中の姉さんになることは出来なかったけれど、ぼくが生きて作り上げたリーチェは間違いなく存在するんだよ。



 姉さん。ぼくはこれからも姉さんの名前を背負って生きたいと思うんだ。


 だからリーチェもリュートも一緒に、ダンに幸せにしてもらおうね……。



 気付くと敵だった自分は消えていて、ぼくは姉さんの名前と一緒に、暖かなダンの魔力に包まれていった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「最強の槍使いが聞いて呆れますよ、旦那様に手も足も出ないくせに! それとも惚れた相手は例外なんですか? 随分と安っぽい最強ですねっ!」


「……耳が痛いお言葉ですよ、まったく」



 デーモンスピアを振るう目の前の自分から発せられた叫びが、私の胸にグサリと突き刺さる。


 流石は槍使い……。痛いところを突いてきますね、我ながらっ!



「というか旦那様が異常すぎるんですよぉ。あの人、剣を習って1年かそこらなんですよ? 槍に至っては私に会ってから磨き始めたようなものですのにぃ!」



 なにより、あの人は別に最強を目指しているわけでもないというのに。


 フラッタを助けるため、リーチェを解放する為に、望みもしない最強の座を手にしてしまった旦那様。



「私がこの世界で最強の使い手になれば、旦那様がこれ以上腕を磨かなくて済むようになります。私は最強になる事で旦那様を甘やかしてあげられるんですよっ」



 私が己を貫くより早く、目の前の私をかき消してしまう旦那様の魔力。


 ……はぁ~、今回も旦那様に甘えてしまいましたよぉ。



 いつか必ず最強になって、旦那様に剣を手放させて見せます。


 そして空いた両手で、思い切り抱きしめてもらいたいものですねぇ……。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「ん、どうやらちゃんと回復してくれそうだ」



 浄化魔法で呪いを除去したニーナの目の焦点が、時間経過と共に少しずつ合わさってくる。


 どうやら神判は無事に解除できたようだ。



「……あは。ダンったらいっつも私の隣に居てくれるのぉ……」



 我に帰って俺の顔を見たニーナは、安心したように柔らかく微笑んでくれた。


 戦闘中じゃなかったらぎゅーってしてあげられるんだけどなぁ。



「お帰りニーナ。まさか2度も君の呪いを解く事になるとは思ってなかったな」


「呪い? 今のって呪いだったの?」


「そうみたいだね。ニーナの呪いを解こうって思わなかったら、神判を治療することもできなかったんだ。ニーナの呪われた日々は、最後の最後まで俺達を導いてくれたみたいだよ」



 ニーナの呪いに始まった俺の、いや俺達の異世界生活。


 ニーナが居てくれなかったらここまで辿り着くこともできなかったのに、辿り着いたこの場所でも導いてくれるんだからなぁ。



「あはっ」



 ニーナに心から感謝していると、ニーナはなんだかとても愉快そうに笑みを溢した。


 そのまま笑顔を浮かべたままで、少し呆れたように言葉を続けるニーナ。



「私を導いてくれたのは、始めからずーっと貴方なのっ。ダンはぜーったいに自分を認めないから、貴方がしてくれた事ををぜーんぶ私の呪いのせいにしてるだけなのーっ」


「え、ええ……? 俺がしてきたことなんて何も……」


「ダーン! ニーナちゃーん!」



 俺とニーナが一緒に居るのを知って、他のみんなも俺達の場所に集まってきた。


 反応があったから心配は要らないとは思ってたけど、全員無事に合流出来て良かった。



 1人1人ぎゅーってしてちゅーってして、押し倒して怪我が無いか隅々まで確認したいところだけど。



 みんなに背を向け、世界呪マグナトネリコに向き直る。



「さぁみんな。決着をつけよう。この呪いを終わらせるんだ」


「「「…………」」」



 みんなからの返事の声はない。


 けれど背中越しにみんなの覚悟が伝わってくる。



 頼りにしてるよみんな。


 それじゃ俺達の全身全霊を始めようか。

※こっそり設定公開。

 自身の内面と向き合わなければならない神判ですが、1度自己が崩壊しているダンとは非常に相性の悪い能力だったりします。ダンは誰よりも自分を嫌っている反面、誰よりも自分に興味を持たないので、向き合うべき自己も既に存在していないのだと思います。

 自身の幸せなんてどうでもいいという自己犠牲ではなく、自身の破滅や不幸さえもどうでもいいくらいにダンは自身に興味がありません。本来であれば必殺の能力である神判ですが、自身への興味を持たない相手というのは想定されていなかったのでした。


 ニーナはガレルとの戦闘で自身を鑑みたばかりで、ティムルも自身を弄んだ相手と決別したばかり。おかげで2人は神判に惑わされることはありませんでした。

 フラッタは出会ったことから常に迷い続けながらも好意を伝え続けてきて、それをダンにもニーナにも受け入れてもらったことで自身の好意に揺るぎない自信を獲得しています。

 リーチェは自分自身を全肯定されたばかりなので、今のリーチェを惑わす事はダンにすら出来ないくらい頭と心の中がダン一色になっています。

 ヴァルゴは普段から槍を通して自身と向き合い続けているので、神判に沈んでも普段と変わりませんでした。ですが自分自身を乗り越えようと普通に槍を振るっていたので、浄化魔法による治療が遅れていれば、自身の槍で自身を貫き絶命していた可能性が最も高いです。

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