353 マグナトネリコ③ 呪言
この世界の全てを呪う魔物と化した、世界呪マグナトネリコ。
世界を蝕む呪いの大樹を祓うため、武器を構えて走り出す!
「みんな散らばって! リーチェは会話の補助をお願いっ!」
一斉に駆け出しながら指示を出して、そして全員がポータルを発動して一定の距離を取ってばらけた。
俺、フラッタ、ヴァルゴが最前線。ニーナとリーチェが遠距離攻撃担当。
そしてティムルが全体の状況把握だ。
「出し惜しみ無しで行くのっ! 重連撃起動っ! からの、絶影ーーっ!」
絶影で無限射程斬撃を放てるニーナが1番槍を担当する。
雨のように絶え間なく斬撃を降らしながら獣化も発動し、魔法攻撃力を底上げしたインパクトノヴァも重ねていく。
「こうなってくると弓に魔力吸収が乗らないのは辛いねっ、外待天弓!」
威力の高い牙竜点星ではなく、コストパフォーマンスを優先して外待天弓を放つリーチェ。
矢が当たった場所には更に無数の魔力矢が突き刺さっているけど、巨大なマグナトネリコ相手には効果が薄いかもしれない。
「出し惜しみ無し、ですね。であれば私も披露しましょう。ダークブリンガー!」
黒い魔力を鎧のように身に纏い、魔迅の上に更に身体能力まで強化する、ヴァルゴの新技ダークブリンガー。
漆黒の尾を引きながら消えるような速さでマグナトネリコに接近する姿は、正に黒い流星だ。
「悪魔の槍よ。どんどん魔力を奪い取ってくださいなっ」
魔力消費も激しいはずのその能力を、それ以上の速度で魔力を吸収することで持続しようと、嵐のような勢いでマグナトネリコを貫くヴァルゴ。
絶えず魔力吸収をしていれば、実質ノーコストで無限にダークブリンガーを維持できるってわけだなっ。
「良かろう! 妾も出し惜しみ無しじゃーーっ!」
フラッタが竜化しながら斬りかかり、体に纏う魔力を一気に収斂させ、開幕からブレスをぶっ放す。
1度放ったら魔力が枯渇するはずのブレスを上手く制御し、ブレスを中断した。
ブレスを放ったのに魔力枯渇を起こさず、竜化も維持して見せたフラッタ。器用だなっ!?
「ふははははーっ! まだまだ終わりではないのじゃーーーっ!」
フレイムドラゴンブレードで魔力を一気に回収して豪快に笑うフラッタの喉の奥から、再度青い閃光が放たれる。
……って、またブレスぅ!?
なんか絶対味わいたくないローテーション入ってるぅぅ……!
なんて見蕩れてる場合じゃない。俺も負けてられないよっ!
「古き友人。同胞よ。魂の悲鳴、憎悪の嘆き。悪意に魂象られ、殺意に飲まれし哀れな友よ。皆は汝を赦し給う。今は眠れ安らかに。友愛と許容。懺悔と断罪。悠久の彼方で見えし時、汝に贈るは微笑と抱擁。天還る導。天恵、ディバインウェェェェブ!!」
フラッタに続いて、俺も焦天劫火を放ちながら多重ディバインウェーブを展開。
そして双剣を使って巨木に斬撃を叩き込んでいく。
しかし大木のような見た目をした世界呪は攻撃に対して何の反応も見せないので、ちゃんと攻撃が通じているのか分かり辛いな……!
「マグナトネリコの内側から、常に大量の魔力が流れ込んできてるみたいっ。攻撃が効いてないわけじゃないと思うけど、恐らく常時体力を回復されてるっぽいわーっ!」
ティムルが熱視で得た情報を、リーチェの精霊魔法で共有してくる。
自動回復能力のせいで、実際のHPよりもタフに感じるタイプの相手か。
HPを削り切った後でも、油断してると瞬く間に全快されてしまいそうだな……。
……しかしリーチェの精霊魔法凄すぎない?
転移魔法にまで対応してくるとか、万能だろもう。
とにかく、攻撃が無効化されてるわけじゃないなら問題ない。
このまま全力で攻撃続行だーーっ!
「みんなっ! 相手の回復速度を超えるつもりで畳み掛けるぞっ!」
「これは……!? 何か来るわよ、気をつけてーっ!」
攻撃の勢いを増す俺達に対して、今まで無反応だったマグナトネリコが動き出す。
直ぐに異変に気付いたティムルお姉さんのおかげで、不意を突かれる心配が無くてありがたいぜっ。
「これは雨……いや、霧ですか?」
黒い魔力を纏ったヴァルゴが、世界呪に起きた変化に首を傾げている。
幹に張り付いている人面が流す、見るからにやばい色の涙のような液体を、風に乗せるように周囲に撒き散らし始めるマグナトネリコ。
それはさながら霧雨のように薄く広く展開されて、とても回避できるようなものじゃなさそうだ。
「これを全部回避するのは難しいかもだけど、なるべく喰らわないようにねーっ!?」
自分たちの頭上に魔法障壁を展開し、撒き散らされる涙に対する傘にするけど、やはり完全には防ぎ切れない。
毒の雨が触れた体には痛みが走り、呼吸をする度に体力が削られる。
こういう回避し辛い攻撃って、ほんっと大嫌いだよっ!
幸いにも状態異常効果は確認できないので、ヒールライトプラスを発動して痛みを誤魔化しながら攻撃を続ける。
世界呪マグナトネリコとの戦いは、我慢比べになるのかねぇ?
そんな暢気なことを考えていた俺の耳に、ティムルからの警告の叫びが届けられる。
「相手の魔力が収斂してる……。なにか来るわよっ! みんな気をつけてっ!」
ちっ、全員で魔法妨害を仕掛けているのにっ……!
既存の攻撃魔法の構築を妨害できる魔法妨害は、有用なスキルに違いないんだけど……。
魔物固有の能力みたいなものを妨害できないんじゃ、ユニークスキルを持つ強敵相手には役に立たないなぁっ!
警戒しながら攻撃を続ける俺達を無視して、収斂した魔力が波動のように広範囲に向かって放たれる。
「……なんだ? 何も起きてない?」
魔力が広がった事は五感で感じられたのに、ダメージも状態異常効果も無いな?
ならいったいこれは……。
「(抗うな。安らかなる滅びを受け入れよ。安寧)」
マグナトネリコから、複数の人間の声が交じり合った不快な声が周囲に轟く。
その声は先ほどまで聞いていたノーリッテのものではなく、性別も年齢も分からないような掠れて不気味な声だった。
そしてその声を聞いた瞬間、俺達の体に異変が起こる。
「痛って……!? って、なにっ!?」
周囲を霧のように漂う毒の雨に触れた箇所が、突如火傷のように爛れ始める。
反射的に無詠唱でキュアライトプラスを発動し、焼けた部分を治療する。
しかし常に展開された毒の霧は治療した体を直ぐに蝕み、正直言ってキリがない。
「く、うぅぅ……! 我慢出来なくもないが、かなり痛むのじゃ……!」
「なん……だ、これ!?」
今まで毒霧の影響下にはあったものの、攻撃らしい攻撃は受けた覚えがない。
なのにまるでHPを全て剥ぎ取られたかのような……。
って、そういうことか!?
「ヒールライトプラス! ヒールライトプラス! ヒールライトプラスーー!」
「あっ……!? 腫れが引いたのっ!」
同時詠唱スキルでキュアライトプラスを発動しながら、詠唱短縮スキルでヒールライトプラスを連射する。
すると肌の炎症が止まり、体全体に走るダメージの感覚が戻ってきた。
「みんなっ! 今の攻撃を喰らうと体力を剥ぎ取られるぞっ! 即時回復魔法を使って対処して!」
自身を鑑定してステータス異常にはかかっていない事を確認し、更に回復魔法を連射する。
リーチェの精霊魔法が声を届けてくれていると信じて声を張り上げる。
「安寧を喰らった直後は完全に無防備の状態だ! 絶対に追撃を喰らっちゃダメだからねーっ!?」
くっそ、瀕死魔法って奴かよっ!?
常時スリップダメージ効果のある毒霧との相性抜群じゃねぇか!
でも、追撃さえ喰らわなきゃ回復は容易だ! これ単体ならそこまで怖くは……。
「(逆らうな。自らの罪を受け入れよ。呪戒)」
「――――っ!?」
再度轟く呪いの声。
その声を耳にした瞬間、状態異常耐性が発動した感覚が体を襲う。
しかし耐性を貫通されたのか、体がズシリを重くなり、そしてなにより声が出せなくされてしまう。
これ、状態異常なのか……!? 鑑定っ!
ダン
男 26歳 人間族 勇者LV222 魔王LV222 神殺しLV71
装備 神鉄のロングソード 神鉄のショートソード ドラゴンサークレット
神速の風鎧 ドラゴングローブ フラッシュブーツ 封神のアミュレット
状態異常 呪い(失声)(移動阻害)(重量倍化)(回復・治療無効)
「…………!!?」
なんだ、これっ!? 私の呪い、多すぎ……!? って茶化してる場合か!
くさい息じゃねーんだからっ! 一瞬でどれだけ盛ってくる気だよ!
しかも、地味に失声が混ざってるのがヤバ過ぎる。
声が出せなくなると、魔法の構築が一切出来なくなってしまうわけだからな……!
なんて、魔王が浸透してる俺には関係ないけどねーっ!? ピュリフィケーションプラスーっ!
「――――っはぁ! 声、出せる……! みんな無事か!? 鑑定して状態異常を確認してくれ!」
「だ、大丈夫なのっ! ありがとうダン!」
俺の声に真っ先にリアクションしてくれるニーナを皮切りに、みんなから大丈夫との報告が届く。
回復、治療無効なんてアホみたいな呪いがあったからちょっと不安だったけど、浄化魔法は無効化出来なかったみたいだな。
しっかし厄介だ……! 厄介すぎるぜマグナトネリコ……!
魔法妨害スキルで妨害できない魔法攻撃。
呪いの言霊を操る、呪言魔法とでも呼ぶべき攻撃方法……!
死ぬ間際に、なんつー厄介なものを生み出してくれやがったんだ、ノーリッテは……!
「リーチェの精霊魔法で音を遮断すれば、奴の魔法を無効化できたりせんかのうっ!?」
「くっ……、難しいね! 今はただでさえ離れたみんなの声を繋いでいるから、音を遮断したらこの会話も出来なくなっちゃうよ……!」
フラッタの提案に難色を示すリーチェ。
呪言魔法を防ぐ為に会話を諦めるか、意思疎通を優先して呪言魔法には逐一対処していくか……!
「……残念だけど、音を防いでも無効化するのは難しいと思うわ。あいつが声をあげる度に、膨大な魔力が空間を駆け巡るのが見えるの。多分だけど……、耳を塞いでも意味は無いわ……!」
迷う俺にティムルがあっさりと結論を下す。現実は非情である。
防ぐ手立てが無いのなら、1つ1つ確実に対応しながら押し切ってしまうしかない!
「呪言魔法を防ぐ手立てがないなら押し切るぞ! 回復は俺が担当するから全員で……」
「(諦めよ。痛苦に悶え意識を閉ざせ。惨禍)」
俺の言葉を遮って呪言魔法が発動する。
すると警戒する俺達の体に黒い茨のようなものが現れ、やがて物質化したその茨は俺達に絡み、刺さり、食い込んでくる。
「ぐあああああっ!?」
茨の棘が刺さった場所から凄まじい激痛が流れ込んでくる。
HPが切れていないので実際には刺さっていないんだけど、そのあまりの痛みに意識が遠くなる……!
「くっそおお!! ヒールライトプラスヒールライトプラス、ヒールライトプラスーーー!」
がむしゃらに回復魔法を連射して、惨禍から送られてくる激痛を緩和する。
くっそ、呪言魔法厄介すぎる!
発動を妨害することも出来ないのに、発動したら回避も出来ないなんて理不尽過ぎるだろーーー!?
「ぐぅぅ……! がぁぁっ……!」
茨が絡まったままで双剣を振るう度に、回復魔法で軽減しても意識が飛びそうなほどの激痛が駆け巡る。
だけど斬り続けないと、いずれ魔力が尽きてしまう。
だから痛みを我慢してでも攻撃を続けないとどうしようもないんだよなぁ!
「くっ……そぉぉぉぉぁぁぁっ!」
回復魔法で強引に痛みを紛らわせ、激痛に苛まれる永遠のような数秒間が過ぎて行く。
すると魔法効果が終わったのか、体に食い込んでいた全ての茨が一瞬で消え失せた。
どうやら惨禍の黒い茨は、約10秒ほどで消失してくれたようだ。
痛みを感じずに動けるって、ホンット素晴らしいなぁっ!
しかしさっきから呪言魔法は1つずつしか使ってこないな? それに物理攻撃が毒霧くらいしか行われていない。
呪言魔法は強力すぎて、連続で使用することは不可能なのか?
「(息絶えよ。降り注げ断罪の槍。葬槍)」
またしても世界に轟く呪いの言葉。
その言葉に呼応して、マグナトネリコの無尽の魔力が形を成していく。
「あれは……! もしや槍、ですかっ!?」
空を隠すほどに広がった世界呪の樹冠部分に魔力が集まり、そして1本1本がヴァルゴの持つ災厄のデーモンスピアの3倍くらいはありそうな巨大な槍が雨のように降り注ぐ。
ヴァルゴの驚愕の叫びは、槍の飴の風切り音によってかき消されてしまった。
けど、今までの絶対命中系の呪言に比べりゃまだヌルい!
こちとら魔人族が投げてきた石礫を全部躱した実績もあるんだよっ!
「こんなもの、当たるかーーっ!!」
降り注ぐ槍の雨を、目で見て避ける気合避けで対応する。
俺達の職業浸透数なら、全員問題無く回避できるはずだ。
本来なら必殺であろう葬槍の雨の中を縫うように回避しながら、ティムルと情報交換をする。
「ティムル! こいつの呪言魔法って、1度に1種類ずつしか発動できないと思うかっ!?」
「ちょちょっ!? この忙しい時にちょっとま、待って! 多分1度に1種類よ! 発動前に膨大な魔力が圧縮されて、そしてその全てを使って魔法が放たれてるのが確認出来てるからぁっ、ああもうっ!」
槍の回避に梃子摺ってる様子のティムルから、呪言魔法の同時使用の可能性が低いことが告げられる。
1度に1種類しか発動できないなら、全体回復・全体治療・全体浄化魔法の使える俺なら対応できるはずだ!
「全員全力で攻撃開始! ティムルも攻撃を優先していい!」
「攻撃するのは良いけど、相手の攻撃はどうするのさ!? コイツの魔法は避けれるタイプじゃ……」
「呪言魔法は俺が全部対処するから、みんなは攻撃に集中してくれ! 押し切るぞ!」
リーチェの疑問の声に被せるように攻撃指示を出す。
俺が居れば呪言魔法には対応できる。
だから俺が対応できない呪言魔法を放たれる前に、即行でケリをつけてしまうべきだぁっ!
「了解っ、なのじゃあああ!」
「お任せくださいっ!」
返事を返しながら、その身に纏う魔力を濃くするフラッタとヴァルゴ。
俺から出された単純明快な指示に、待ってましたとばかりに我が家の武力担当の2人が奮起する。
「吼えよ猛き竜の刃よっ! 竜火葬炎っ!」
「私に対してこんな雑な槍を放ったこと、後悔させてやりましょう! ドラゴンズネスト!」
フラッタが火竜の猛焔を放ち、続いてヴァルゴがドラゴンズネストを発動する。
武器による直接攻撃に加えて、設置型の攻撃を追加して瞬間火力を高める狙いかなっ!
「ヴァルゴの槍のほうがよっぽど速いのっ! 私たちにこの程度の攻撃が通用すると思わないでっ!」
「ぼくも一旦前に出るよ! 魔力吸収しながら畳み掛けるねっ!」
獣化したニーナが無詠唱のインパクトノヴァと絶影の斬撃を叩き込む。
それと同時にリ-チェが翠緑のエストックに持ち替えて、ドラゴンズネストを設置しながらマグナトネリコを切り刻んでいる。
「(動くな。その生命に意味な……)」
「させないわっ! 止まりなさい、叫喚静刻っ!」
ティムルがダガーを掲げて呪言魔法を遮る。
イントルーダーにすら効果を発揮する行動阻害は世界呪を一瞬止めて、呪言魔法の発動を妨害した。
さっすがティムルお姉さん! いざって時に頼りになりすぎぃ!
「ここで決めるぞ! 漲れ決戦昂揚!」
職業スキルを奮い立たせながら焦天劫火とドラゴンズネストを設置。
魔力が枯渇しないように気をつけながら、魔力を奪って絶空を放つ。
1度呪言魔法の発動に失敗したマグナトネリコは、未だに新たな魔法の発動準備が整っていない。
畳みかけろぉっ!
「「「うおおおおおおおあああああっ!!」」」
全員の声が重なり、意志が重なる。
目の前の魔物を滅ぼすこと、ただそれだけに集中してみんなの心が1つになる。
それぞれが出し惜しみをせず最大火力を放ち続け、マグナトネリコの呪言魔法を魔力視で察するティムルが妨害する。
「ぶったぎれぇ……!」
「両断しろ……!」
「「絶空ーっ!!」」
偶然完璧にタイミングが重なったリーチェと、2方向から全力の絶空がマグナトネリコに向かって放たれる。
俺とリーチェのダブル絶空を受けたマグナトネリコの巨大な幹に、とうとう神鉄のロングソードが食い込んだ。
「「通った……!!」」
俺とリーチェの歓喜の声がまたしても重なった。
タフな相手だったが、ようやくHPを削り切ったようだ。
「さぁみんな! ここから一気に……」
「(沈め。過去にたゆたい裁きを受けよ。神判)」
「あっ……!?」
その瞬間、また新たな呪言魔法の発動を許してしまう。
悔しそうな表情のティムル。
HPを削り切った瞬間、今までの呪言魔法とは異なるタイミングで発動された神判に、ティムルのウェポンスキルはまだ発動出来なかったようだ。
「俺が対応してみせるから、みんなは落ち着いて対処してっ!」
神判が発動して数秒経つのに、未だ何の効果も現れていない。
いったいどんな効果の呪言魔法なんだ……?
「――――なにっ!?」
いつでも回復魔法を発動できるよう身構える俺の足元が、まるで水のように突然沈む。
意表を突かれた俺は対応が間に合わず、なすすべなく地面へと沈んでしまった。
「(……落ち着け! 痛みも無い! 呼吸も出来る! みんなの反応だって健在だ)」
黒い魔力の湖に沈められた俺は、まずは呼吸できる事を確認し、続いて鑑定で正常な状態である事を確認する。
この状況が神判という呪言魔法によって引き起こされたものなのは間違い無いけど、今度こそちゃんと対応してみせる!
足場は無いけど体を動かすことも出来るし、なんらかの攻撃が行われても問題なく対処できるはず……。
警戒しながら数秒沈んだ後に、水底に着いたのか、足が地面に触れた。
呼吸も出来るし足場もしっかりしている。
夜の海を思わせる真っ暗な水底のような場所なのに何故か視界だけは良好で、戦闘するには何の支障もなさそうな空間だ
神判が発狂モードで解禁された魔法だとするなら、ここから更に何か起こるに違いない。
そんな風に警戒をする俺の目の前に、1人の人物が浮かび上がってくる。
「よぉ。直接引導を渡しに来てやったぞ? このクソ野郎が……!」
「…………はは。ここでこう来るかぁ~……」
敵意を顕わにする相手に、思わず渇いた笑いが零れる。
俺に世界の誰よりも激しい憎悪と殺意を抱いて現れたのは……俺だった。
困惑する俺の前には、心底軽蔑したような冷たい視線を向けながら双剣を構える、俺自身が立っていた。
※こっそり設定公開
世界呪マグナトネリコの呪言魔法ですが、その本質はユーサーパーシモンの命令魔法と同じく神権魔法の一種です。
呪言魔法使用直前に広範囲に魔力を拡散し、魔力が拡散された範囲全てを効果対象にした神権魔法で、命令魔法よりも魔法効果を限定的にした分、威力と範囲を極限にまで高めています。
世界呪マグナトネリコの基本性能。
パッシブスキル『世界呪』
禍々しい世界呪の姿は見る者に恐怖を与え、一定以上の職業浸透が進んでいない者に見るだけで恐慌、萎縮、戦慄のバッドステータスを与える。
パッシブスキル『慟哭の呪液』
表面に浮かび上がっている人面から流されている涙は強い毒性を孕んでおり、触れた者の体力を容赦なく奪っていく。毒のバッドステータス扱いにはならないので、解毒治療では対処出来ない。
アクティブスキル『安寧』
職業システムに干渉し、相手が纏っている職業補正を引き剥がす。支援魔法やスキル効果も除去してしまうが、その効果は一瞬のみで持続しない。
ニーナの獣化やフラッタの竜化、ヴァルゴのダークブリンガーは職業システムとは関係の無い能力なので、ここでは引き剥がすことは出来なかった。
アクティブスキル『呪戒』
呪いの効果を一気にばら撒く凶悪なスキルで、浄化魔法が無いと対応する術が無い。付与される呪いの効果はランダムだが、魔法防御力が低いと全種の呪い効果を付与される可能性も。本編ではダンの魔法防御力と異常耐性大効果がクッションとなってなお、4つの呪い効果が同時付与された。
アクティブスキル『惨禍』
五感補正に干渉し、対象の五感を上乗せしつつ痛みを与えるスキル。肉体的なダメージは殆どないので、どちらかと言うと精神攻撃の意味合いが強い。肉体ダメージがない分魔法防御が機能せず回避する方法が無い。効果は約10秒ほどと短いが、その間に与えられる苦痛は想像を絶する。
アクティブスキル『葬槍』
物理攻撃特化の呪言魔法。膨大な魔力を樹冠部分に集約して無数の槍を形成し、その槍を雨のように降らせる。その槍1本1本がアウターレア武器と同等の性能を持つ。広範囲にランダムにばら撒くことも、狙った場所に槍を集中させることも可能で、世界呪マグナトネリコの魔力が尽きるまで発動することが可能。
ティムルに止められた、本編未使用呪言魔法『止界』
効果範囲内全ての相手に、即時移動阻害の呪いを付与する。単体だとさほど脅威ではない能力だが、葬槍発動中に移動阻害を付与する事が可能な極悪な能力。仮に本編で使用されても浄化魔法で即時回復された可能性は高いが、除去されるまでのその一瞬で事故が起こっていた可能性はあるかもしれない。
アクティブスキル『神判』
HPが全て無くなった瞬間に使用される発狂スキル。効果範囲内の全ての生命体を対象とし、対象を呪海と呼ばれる亜空間に沈め、そして自身の奥底にある最も触れたくない部分と強制的に向き合わされる。回避不可。
現れる相手は対象の魂と繋がった分身なので、対象と同じ性能を有しているだけではなく、分身への攻撃は全て自身にも跳ね返り、自身の記憶も全て共有されている。
神判を破る為には、自身の最も見たくない部分と魂で向き合わなければいけない。